本の紹介:「高レベル放射性廃棄物」は ふやさない、埋めない2019/07/19 18:22

高レベル放射性廃棄物

「科学的特性マップ」を考える会,「高レベル放射性廃棄物」は ふやさない、埋めない-「科学的特性マップ」の問題点-.地学団体研究会,2019年7月.


44ページの冊子で,説明の図はオールカラーです.地団研ブックレットシリーズの No.13です.


『「科学的特性マップ」と地層処分についてその問題点を整理し、「核のゴミ」の発生、地層処分、解決の道すじなどが系統的に学べる構成になっています。』(本書のはじめに より)


主な目次は次のとおりです.


はじめに

A「核のゴミ」の発生と地層処分

B「科学的特性マップ」の問題点

C「核のゴミ」の処分をどうするか


電気事業連合会によれば,全原発の使用済み核燃料の保管量は15,350tU(トンウラン) で,保管できる総量20,950tU の73%に達しています.柏崎刈羽原発,東海第二原発,浜岡原発では空き容量が20%を切っています(本書,5ページ).


最終的に地下300mより深い場所にトンネルを掘って,高レベル放射性廃棄物を埋めようというのが地層処分です.その実施体として原子力発電環境整備機構(NUMO:Nuclear Waste Management Organi-

zation of Japan;素直に約せば,核のゴミ管理機構) が2000年10月に設立されました.NUMOの理事長は,原子力工学者で元東大教授の近藤駿介氏,専務理事は経産省 OB の中村 稔氏です.


余談ですが,waste (名詞)として最初に出てくる意味は,「無益な消費[出費]」(ランダムハウス英和大辞典第2版:電子辞書)です.


「科学的特性マップ」では,「好ましい地域」2区分,「好ましくない地域」2区分で色分けされています.「好ましい地域」とは,「好ましくない地域」以外の地域です.その中で,海に面している地域が「輸送面でも好ましい」地域としています.

この区分,とても科学的とは言えないでしょう.


私が問題だと感じるのは,「科学的特性マップ」と言いながら,全く異なる基準を滑り込ませていることです.そして海岸から20km を目安に,濃い緑で区分しています.核のゴミの最終処分場の適地を出来るだけ多く見せようという意図を感じます.


さらに,『処分事業の実施主体であるNUMOは、「輸送面でも望ましい」地域(グリーン沿岸部)を中心に、重点的な対話活動に取り組みます。』(NUMO,2017年9月,06ページ)と述べているように,すでに絞り込みをしていると考えざるを得ません.


科学的特性マップ」と称して,このような図を公表すること自体が大きな問題です.


要件基準

図1 「科学的特性マップ」の作成に用いた要件・基準のポイント(NUMO,2017)


活断層,火山・地熱,隆起・侵食,鉱物資源などについて,「好ましくない範囲の要件・基準」を設けています.


活断層は,長さ10km 以上の断層の両側一定範囲(断層長×1/100),つまり,断層の長さ10km であれば,両側100mの範囲です.長さ10km 以下の活断層は無視することになります.

桑原(2008)は,地震断層が地表に現れた場合,片側150m の範囲の地盤が変位を受けると述べています.さらに,断層の延長方向に片側1.1倍の範囲が変位するとしています( http://mishi.weblike.jp/active_fault.html 参照).


火山については,火山の中心から半径15km 以内を「好ましくない範囲」としています.阿蘇山や箱根などで見ると,15km と言うのは妥当な範囲かなと言う感じですが,その根拠を示して欲しいです.

地温勾配が100m当たり15℃以上の地域,pH4.8未満の酸性地下水のあるところ,1万年前以降の火砕流堆積物が分布しているところなどが,「好ましくない範囲」とされています.


ここでも,要件の混乱が見られます.

処分場を建設し最終的に埋め戻すまで100年以上かかるとしています.つまり,処分場の建設中に起こりうることと,10万年間地下に埋めて保管する場合に起こりうることとが同じに扱われています.

軟弱地盤や火砕流は,処分場の建設・操業時の危険性です.

鉱物資源は人工改変による危険性です.意地の悪い言い方をすれば,放射性廃棄物を地下に埋めてしまえば,その後の管理はできないと言っていることになります.


「高レベル放射性廃棄物」と言うのは,普通,使用済み核燃料の再処理で出てきたガラス固化された物体です.ですから,再処理をやめること,そして何よりも原発を動かさないことが,まずやるべきことです.

それでも,使用済み核燃料の処分をどうするかの問題が残ります.


その上で,日本学術会議が2015年に出した提案にあるように

1)50年間乾式(空冷)で暫定保管する

2)その間,最初の30年間で処分場の合意形成を行い,20年間で処分場を建設する

3)発生させた事業者の責任を問う

4)原発の再稼働には高レベル放射性廃棄物の暫定保管計画を条件とする

ことが最低限必要でしょう.

( http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t212-1.pdf )


日本中の英知を集めて,どうしたらよいのか中立で開かれた第三者機関をつくって考える時です(本書,38-39ページ).本当にどうしたら良いのか,誰もはっきりとした方策を持っていないのですから.


ごくささやかな冊子ですが,高レベル放射性廃棄物の問題を考えるのに良い内容です.

まだ,地団研のホームページに載っていませんが,申し込めば、多分,分けて貰えると思います.

( https://www.chidanken.jp )


なお,吉田英一氏の「地層処分-脱原発後に残される科学的課題-」(近未来社,2012)は,地層処分を考える上で参考になる良書だと思います.地層処分以外の方法となぜ地層処分が採用されたのかについても述べています.

( http://geocivil.asablo.jp/blog/2012/11/20/ )




茨戸川周辺の花など2019/07/19 21:25

札幌市北区の茨戸川は,石狩川から切り離された旧石狩川です.

国道337号(手拍子街道)の石狩川に架かる札幌大橋左岸の堤防道路から行くことができます.


茨戸川水路

写真1 山口橋から

茨戸川本体とその上流の流路をつなぐ水路です.この風情,いつ見ても良いです.モクズガニが採れます.正面突き当たりの左に茨戸川本体があります.


クサフジ

写真2 クサフジの群落

多分,ハマエンドウでしょう.少し盛りは過ぎています.道ばたに飛び飛びに群落をつくっています.


茨戸川緑地から

写真3 茨戸川緑地の小山から

夕日を浴びる手稲山です.ちょっと違った表情を見せます.ここからだと,夕日はずっと北に沈みます.


シナガワハギ

写真4 シナガワハギ

これも多分,シナガワハギでしょう.中国から江戸時代に日本に来て,品川で目立ったことからこの名がついたとか.奥の方に白いのが見えますが,コゴメハギでしょう.


エゾノキツネアザミ

写真5 エゾノキツネアザミ

あまり花が咲いていないこの時期,貴重なきれいな花です.咲くのがちょっと早いかなという感じがします.


茨戸川

写真6 茨戸川

札幌大橋のすぐ下流の茨戸川と手稲山です.


日没

写真7 日が沈む

日が沈む方角は石狩湾です.正面左の雲のかかっているのが手稲山,中央遠くに春香山と和宇尻山(わうしり・やま)が見えます.