第7回 道総研オープンフォーラム2024/03/05 08:02

 2024年3月1日(金)午後2時から5時まで表記フィーラムが、かでる2・7アスビックホールとzoomで開催されました。テーマは「地域に応じたゼロカーボン技術を北海道のすみずみに」です。

 私はzoomで視聴しました。

 

 北大工学部の石井一英(かずえい)教授の基調講演「ゼロカーボン北海道に貢献できる再エネ等の地域資源の活用」、道総研の成果発表、総合討論、ポスターセッションと展示が行われました。

 

 プログラムと講演資料(pdf)は、3月8日(金)まで道総研のウェブサイトで公開されています。

 

 以下、概要を記します。

 

石井一英氏:ゼロカーボン北海道に貢献できる再エネ等の地域資源の活用

 石井氏は土壌地下水汚染、廃棄物や生ごみを資源として活用する研究を行っていました。ものとエネルギーの循環について研究しています。

 

 世界の人口は、2050年には100億人に達すると予測されています。アフリカの人口増加が大きいです。食料需要が増大し肥料としての窒素が必要になります。畜産物の生産が追い付かなければタンパク質クライシスが発生します。海洋養殖が増大します。

 

 二酸化炭素を絶対量として何トン削減できるかが問題です。

 最終エネルギー消費は、暖房・給湯などの熱が約50%、運輸関係が約30%、発電は約20%で熱と運輸が問題です。

 温室効果ガスの排出量測定と見える化、エネルギー診断と省エネルギー対策、設備更新時の効率的な機器の選択、重油から天然ガスへの転換など、実証実験を行いながら少しずつ進めていくことが大事です。身近なところでは、車はコンパクトカーやハイブリッドカーに、住居の構造強化による断熱効果の増大などがあります。

 

 再生可能エネルギー源としては、風力、太陽光、木質バイオマスがあります。今後、洋上風力発電が有力です。

 水素については、鹿追町でバイオマスのガスから水素を抽出する試みが行われています。室蘭や苫小牧でも水素利用が検討されています。

 木質バイオマスは国内林からの供給が平取町で行われています。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、農業残渣を燃やすバイオマスバーナーを開発しています。

 

 2021年度の実績で温室効果ガスに対する廃棄物の割合は約3%で、そのうち温室効果ガス削減に貢献できるのは1/3です。

 

 今後は食料生産が鍵になります。そのためには地産地消、地域の連携、エネルギー・食・価値の循環を多くの人を巻き込んで行うことが大事で、ビジョンつくりが重要です。「やりたいこと」だけでなく「やらなければならないこと」にも取り組む必要があります。

 

 歴史的には、自然的循環の中で生活していたのが人為的循環を作り出して生活するようになりました。再びエネルギーを自然から取り出す時代になっています。

 北海道の179自治体の地域ニーズに見合ったエネルギーの生産が必要です。

 さらに、自然を回復させるネイチャーポジティブの視点を持ってゼロカーボンを実現し、循環型経済(サーキュラーエコノミー)を実現ことです。

 

北口敏弘氏(エネルギー・環境・地質研究所):地域特性に応じたエネルギー地産地消モデル構築~戦略研究の成果の概要~

 北海道立総合研究機構(道総研)は、農業、水産、森林、エネルギー・環境・地質、建築の研究所などが集合した組織です。道総研の戦略研究の一つが省エネルギー(省エネ)で、地中熱のような再生可能エネルギーの利用、温泉熱やメタンガスなどの未利用資源の活用を目指しています。

 省エネルギー対応としては、津別町や鷹栖町で街区内の省エネを支援しています。再生可能エネルギーの利用としては当別町の木質バイオマスや地中熱の利用、足寄町での温泉熱などの利用があります。

 

堤 拓哉氏(建築研究本部):脱炭素のまちづくり~公共施設の省エネとエネルギー融通の効果~

 津別町は約6万ヘクタールの森林があります。この森林資源を木質バイオマスとして利用することにしました。

 中心市街地にある公共施設の更新時に省エネ対策を施し、熱資源の運用改善と街区内の熱融通を行いました。運用時のエネルギーを減らすなど役場庁舎の運用改善、エネルギー消費の実態調査、木質バイオマス・ボイラーの使用比率の増大などを行い、木質:灯油の比率を82としました。温水循環ポンプの電力削減、ボイラーの運転時間の削減で41%の電力消費量削減などを実現しました。

 街区の二酸化炭素削減では医療施設のゼロエミッション化(ZEB化)、住宅更新時に50%をZEB化するなど、様々な方法を組み合わせて削減対策を行いました。

 また、既存の木質ボイラーからの熱の融通や施設の省エネルギー化を進めています。

 

白土博康氏(エネルギー・環境・地質研究所):地域特性に応じたエネルギー地産地消モデルの構築~当別町における木質バイオマス・地下水熱利用の取り組み~

 当別町の人口は1.5万人です。融雪システムを設置しています。

 エネルギービジョンの中で太陽光発電と木質ペレット・ボイラーによる再生可能エネルギーの利用を進めています。木質ペレットは森林資源の地産地消になります。地中熱利用は太美地区の地下水の温度が高いことを利用すれば、ボーリング費用を低減できると考えました。

 木質ペレットの生産のため衛星画像を用いてAIで樹種の分類を行った結果、98%正しく認識できることが分かりました。これをもとに試算すると7,000立方メートルの樹木伐採で均衡が取れるとの結果となりました。

 伐り出した丸太は空気の通りが良くなるように井桁に組み、雨にあたらないようにブルーシートをかけることで、3カ月で水分を50%から25%することができました。この木材で木チップを生産し、木チップボイラーでお湯をつくり蓄熱槽にためパネルヒーターで暖房しました。重油ボイラーと併用しています。

 地下水熱は土壌熱と地下水熱の両方を利用するヒートクラスター方式を採用しました。JR札沼線(学園都市線)のロイズタウン駅近くで電気探査を行い試験井戸で確認したところ、深度40m100mのところに水温40℃の地下水があることが分かりました。

 効率良くエネルギーの地産地消が実現できました。

 

鈴木隆広氏(エネルギー・環境・地質研究所):温泉熱と温泉付随ガスのハイブリッド利用モデルの提案~足寄町イチゴ栽培ハウスでの事例~

 足寄町は8割が森林あるいは丘陵で、主要産業は酪農です。

 足寄町の国道241号沿いに「ケアハウス銀河の里あしょろ」と「足寄ぬくもり農園」があります。ケアハウスには銀河の湯の泉源があり、ぬくもり農園には新町1号井があります。ぬくもり農園では温室15棟で通年のイチゴ栽培を行っています。

 ケアハウスの泉源は常時自噴し付随するガスで発電して、ぬくもり農園の断熱効果の良い新棟に送っています。しかし、発電の定格運転ができない、熱交換器は利用していなくてお湯を捨てているといった問題がありました。

 ぬくもり農園の泉源は未利用温泉水がタンクから溢水している、温室の断熱性能が悪く灯油ボイラーで補填しているといった問題がありました。

 そこで、ガス発電機の定格運転ができるガスの確保、温泉熱の確保、温室の断熱性能の把握を行うことにしました。

 ガス発電についてはケアハウスの泉源とぬくもり農園の泉源のガスを混合することで定格運転ができる見通しが立ちました。

 温室の床暖房に温泉水を毎分10リットル追加することで灯油使用料が約100リットル削減できました。

 利用しないで大気中に放散していた温室効果ガスで発電することによって年間約530トンの温室効果ガスを削減できると推定されました。

 

 この後、総合討論が行われ、津別町、当別町、足寄町の方がそれぞれ発言しました。

 

<感 想>

 派手さはないですが、それぞれの自治体で身の丈に合った再生可能エネルギーの利用が進んでいることがよくわかりました。

 基調講演をした石井氏が指摘するように、今の時代は技術の進歩によって循環している自然エネルギーを効率よく利用する時代に入ったとおもいます。石炭・石油の時代は終わり、夢の原子力の時代も終わりを迎えようとしています。

 地球上で人類が生存し続けるためには、自然エネルギーを効率よく使う技術、エネルギーを無駄にしない技術をさらに開発することが重要です。文明の転換点に差し掛かっているように感じます。


研究発表会・講演会 北海道の山岳研究2024/03/09 09:02

 202432日(土)午前920,分から午後530分まで、表記行事が北海道大学・低温科学研究所(低温研)で行われました。主催は、岩花 剛(北大北極センター・アラスカ大)、白岩孝行(北大低温研)、曽根敏雄(氷河・雪氷圏環境研究舎)の三氏でした。

 今回は、降りしきる雪の中、低温研へ行って聴講しました。

 

北大低温科学研究所

北海道大学低温科学研究所

 北大構内の北東隅の第二農場に接していて、林に囲まれています。

 

 午前中は北大などの主に若手研究者の発表が8件、午後は超ベテランを含めた研究者の発表が4件ありました。

 午前中の発表は、ナキウサギ、高山植物、登山道のモニタリング、地表面変動、永久凍土、周氷河地形についてでした。午後は、生態系、昆虫、植物、崩壊と氷河地形についての講演でした。

 

 私が興味を持った幾つかの発表を紹介します.分かりにくい所が多々あります。

 

岩花 剛氏(北大・北極センター・アラスカ大):大雪山系の地表面変動

 地表面が凍結すると土壌中にアイスレンズができ凍上します。これを繰り返すことにより地表面が変動します。

 衛星InSAR(干渉合成開口レーダー)画像を使った結果では、尾根の西斜面では毎年10cmの流動が観測されました。上下方向では2-4cmの移動が観測されました。忠別岳では毎年36cmの変動が観測されました。

 地表変動は6月頃まで沈下し、その後変動はなく10月頃から上昇しはじめ、年変動量は2cmほどです。

 

大野 浩氏(北見工業大学):知床山岳域における気象観測・永久凍土探査

 知床連山の三ッ峯と硫黄山近くの風衝地(露岩地)で2019年以来、観測を行っています。

 気温は20℃から−20℃の間で変動し、年平均気温は硫黄山地点で−0.5℃、三ッ峯地点で0.0℃でした。

 地表面温度は、岩塊斜面では1.02.5℃です。サイシルイ岳の風衝地で行った電気探査結果では、深度1.5m以深で比抵抗が大きくなり、掘削によって氷が確認できました。

 

白岩孝行氏(北大・低温科学研究所):羊蹄山山頂における地温観測結果と周氷河環境

 羊蹄山に山岳永久凍土があるかどうかの調査を行いました。大雪山のパルサは消滅しています。羊蹄山の山頂火口(父釜)の北西に北山を最高点とする母釜と子釜があります。この火口の風衝地である北西向き斜面で、気温、深度9mまでの地温、積雪を測定しました。この斜面にはアースハンモックがあり、深度2.2mまで凍結していることが分かりました。この氷は雨水によって融けてしまいます。

 

曽根敏雄氏(氷河雪氷圏環境研究舎):大雪山における周氷河地形

 周氷河環境というのは、凍結作用が強く働く環境ことで、凍上と融解による隆起と沈下が繰り返し起きる場所です。このような環境では、沢を挟んで雪が積もる急な斜面と反対側のあまり雪が積もらない緩い斜面で非対称な谷ができます。

白雲岳の斜面では岩塊ローブが年2cmほど移動しています。北海岳と白雲岳の間の稜線には、凍結割れ目多角形土が分布しています。

 

石川 守氏(北大・環境院):大雪山永久凍土帯における淘汰構造土

 構造土というのは、凍結融解作用によって形成される幾何学的な形をした地表面の模様や微地形です。多角形土、円形土、条線土などがあります。

 これらの構造土の形成は、自己組織化モデルが適用できるという研究があります。

 大雪山系の白雲岳では、冬は1520/secの西風が吹き、深度1,5m以下に永久凍土があります。傾斜4°ほどの斜面に多角形土や条線土が形成されています。

 

高橋伸幸氏(北海学園大学):大雪山の崩壊地形と氷河地形

 氷河地形は北大雪、表大雪、十勝岳に分布しています。

 忠別岳の北に大規模な崩壊でできた岩塊流があります。全長約1,300m、幅約450mです。この岩塊流の上には1739年のTa-aテフラと1694年のKo-c2テフラが載っています。この頃には、この岩塊流が形成されたことになります。この大規模崩壊の原因は、地震ではないかと考えています。考えられるのは、500600年前とされる旭岳の噴火時の地震です。

 平ヶ岳から南北に延びる尾根の東側に巨大地すべりがあります。この地すべり堆積物の上には、1739年のTa-aテフラ、1694年のKo-c2テフラ、西暦947年以前のB-Tmテフラが載っています。

 平ヶ岳から白雲岳に向かう登山道の1860m付近から1875mにかけて二つの岩塊原が広がっています。このうちの上方の岩塊原はモレーンではないかと考えられます。

 石狩岳の南の尾根を源流とする石狩沢上流(地理院地図ではペテトク沢)に四期の氷河跡が認められます。堆積物中の木片の炭素年代は4.7万年前で、含まれる礫には擦痕があります。また、氷縞粘土や氷河底面に堆積するロッジメントティルもあります。氷河があった時代の雪線高度は標高約1,050mで、この辺りは一面、雪に覆われていたと推定されます。花粉分析の結果からは5,000年前までは冷涼、2,000年前まで温暖、そして再び冷涼になったと推定されています。氷成堆積物や氷河が残した氷の塊の跡であるケトルホールもあります。

 そのほか、銀泉台の径4mほどの巨礫やトムラウシにも氷河の痕跡があります。

 

<感 想>

 北海道の山岳地域の植物、昆虫、周氷河地形、崩壊など様々な分野の話を聞くことができ、興味深い講演会でした。

 北海道自然保護協会の会長をつとめた佐藤 謙さんが、20代の頃に踏査した日高の植物の写真をたくさん見せてくれたのは感激しました。50年経って日高の植生が変化したことを検討する貴重な資料だと思いました。

 高橋氏の講演は私にとっては、かなり刺激的でした。爆裂火口の跡と考えられてきた斜面がカールではないかという話でした。石狩川源流部の氷河堆積物の存在や白雲岳の南斜面の岩塊原はモレーンの可能性があるというのも非常に興味深かったです。この岩塊原の場所は、北緯4339分、東経1425440秒 付近の、なだらかな尾根だと思います。グーグルアースで見ると岩塊原が広がっているのが分かります。


 周氷河環境で形成された斜面堆積物が災害を起こしています。それとは別に、気候変動に敏感に反応する高山地域での研究も重要だと感じました。



令和6年 能登半島地震により発生した土砂災害の緊急調査報告会2024/03/12 13:01

令和6年 能登半島地震により発生した土砂災害の緊急調査報告会

(令和5年度 日本地すべり学会能登半島地震緊急調査報告会)

 

 202437日(木)16時から18時まで、表記報告会が行われました。日本地すべり学会と砂防学会の共催でした。

 Zoomで視聴しました。

 

 プログラムは下のとおりです。

1.緊急調査の総括
  砂防学会会長(調査団長) 大野宏之氏
2.先遣隊の緊急調査報告
  信州大学教授 堤 大三氏
  富山県立大学教授 古谷 元
3.地震による土砂災害の減災のための調査
  北海道大学教授 山田 孝氏
4.能登半島地震の崩壊に関する地形解析(速報)
  新潟大学教授 権田 豊氏

 

 今回の報告会は、個々の地すべり、崩壊の紹介でした。箇条書きで概要を紹介します。

 

・地すべり移動土砂によって河川が閉塞されて湛水池ができた個所が結構あります。ただし、土砂ダムが決壊する危険性はあまりないようです。

・地すべり土砂が長距離を移動しています。土砂の流動性が大きいようです。

・地震発生時に積雪が多少あり、実効雨量は少しだけ大きくなっています。

・地すべりの全体ブロックが把握できない地すべりがあります。

・既存の法枠工が移動して破壊している箇所があります。

・崩壊が集中しているのは、新第三紀のデイサイト質火砕岩類の分布域で、次に多いのは泥岩分布域、次が砂岩・礫岩互層分布域です。デイサイト質火砕岩分布域での崩壊は、規模が大きい傾向にあります。

・崩壊が多い斜面の傾斜は、50°~55°です。

・活断層からの距離が15㎞付近まで崩壊が発生しています。一般的に言われている範囲より広いです。

・崩壊面積率は、活断層から34㎞と1112㎞付近で大きくなる二つの山があります。

・崩壊に影響する因子としては、地質、傾斜、傾斜方向、活断層からの距離が効いているようです。

・今後、土砂の移動範囲、流動化の程度、生産土砂量、土砂移動距離などを明らかにする必要があります。

 

<感 想>

崩壊性地すべりというのは、概ね30 度未満の緩斜面で、降雨または地震によって突発的に発生し、土塊の大半が地すべり地から抜け出したものを言います。

層境界ですべり面が形成され地すべりとなる場合と地下水により流動化して土石流になり長距離移動する場合があります。この地すべりは三つの類型に分類されます。

1)            降下火砕堆積物/流れ盤(マントルベッディング)

2)            溶岩・火砕岩・大規模火砕流/流れ盤

3)            海成堆積岩/流れ盤

(以上、杉本ほか、2023による) 

崩壊性地すべりの類型

図 崩壊性地すべりの類型と推定される発生プロセスの一つ

(杉本宏之ほか、2023、文献調査に基づく崩壊性地すべりの類型化。令和5年度 砂防学会研究発表会概要集、187-188。)

 

 今回の能登半島での斜面崩壊は、崩壊性地すべりに似た挙動を示しているようです。上の三つの類型の「火砕岩/流れ盤」に相当する場所で崩壊が多発しているようです。宝立山(ほうりゅうざん)付近には半島方向の背斜があり、その北の若山川に背斜があります。このような地質構造が崩壊の素因として大きく影響していると考えられます。

 

 深層崩壊、周氷河斜面堆積物の崩壊、そして崩壊性地すべり、と集中的な降雨による土砂災害が増えています。地震による斜面崩壊も様々な形態があり、日本列島全体で斜面崩壊が活発になる時期になっているように感じます。



本の紹介:戦争語彙集2024/03/13 15:07

戦争語彙集

 オスタップ・スリヴィンスキー 作、ロバート・キャンベル 訳著、戦争語彙集。岩浪書店、202312月。

 

 一風変わった題名のこの本は、20222月にロシアがウクライナに全面侵攻した後に語られたウクライナの人びとの言葉をスリヴィンスキーが書き留めたものです。

 

 「『戦争語彙集』に集う声の持ち主は、家を追われ、未知なる世界へ踏み出さざるを得なかった人びとであり、ボランティアや医師、軍人、社会活動家やアーティストなど実にさまざまですが、それぞれの人生において戦争に見舞われた彼らは、共通の経験と一つの衝動によって結ばれた人びとなのです。」(本書 3ページ)

 

 そして、後半は20236月にウクライナのリビウを訪れ、ウクライナ各地で人びとと語り合ったキャンベルの文章となっています。

 

 戦争が人びとの日常生活に何をもたらし、どのように精神的な苦痛を与えているかがよく分かります。

 ただ、ウクライナの人たちが明るくユーモアがあり、決してくじけない精神を持っていることも、よく分かります。

 

 スベトラーナ・アレクシェービッチの「チェルノブイリの祈り」、関 礼子編の「福島からの手紙」、加藤直樹の「九月、東京の路上で」と同じように、普通に暮らしている人びとの声をすくい上げ記録した貴重な内容です。

 

 

 



シンポジウム 北海道の地震火山現象2024/03/19 16:49

 2024316日(土)午後1時から4時まで、北大学術交流会館の会場とYouTubeで行われました。YouTubeで視聴しました。

 

 プログラムは以下のとおりです。

 

 開会挨拶

高橋浩晃氏:十勝根室沖のひずみ蓄積状況と超巨大地震

青山 裕氏:十勝岳の観測研究から見えてきた活動変化と内部構造

ポスター展示による研究紹介(休憩時間)

橋本武志氏:北海道の地下構造〜電磁気で見る地震・火山噴火の発生場

西村裕一氏:地質痕跡に基づく北海道における長期地震活動の特徴

質疑応答・閉会の挨拶

 

高橋浩晃氏

 北海道は海に囲まれています。

 

 日本海沿岸では1940年に積丹半島沖地震、1964年に新潟地震、1983年に日本海中部地震、1993年に北海道南西沖地震、2007年に新潟県中越沖地震、そして2024年の能登半島沖地震などが起きています。

 

 千島海溝では、2004年の釧路沖地震以来、大きな地震は起きていず、現在も静穏期が継続中です。たまたまです。

 古文書の記録としては厚岸町国泰寺に保存されている日観記に1843年の十勝沖地震の記録があり、1939(大正14)年以降は地震記録がそろっています。

 

 古文書に残っていない、より古い記録は、津波堆積物の調査で明らかにされています。浜中町の調査では6,000年前からの津波堆積物が確認されています。

 

 地震の発生確率は、簡単に言えば地震の起こりやすさです。

 政府の地震調査研究推進本部(地震本部)では根室沖でマグニチュード7.88.5程度の巨大地震が起きる確率は80%程度としています。千島海溝南部ではマグニチュード8.8の超巨大地震が起きる確率は740%で、同じ方法で計算すると南海トラフ地震の発生確率は20%となります。

 

 道東の太平洋側では津波被害が甚大になります。津波浸水想定では釧路川を津波が10㎞遡るとされています。

 

 千島海溝でどんなプレート境界地震が起きるかを明らかにするために海底の動きを観測しています。海底地殻変動観測です。

 まず、海底⾯に基準点となる標識を設置します。船などで基準点の直上まで行って船と基準点の距離を測定します。船の位置は衛星測位技術で計測します。これによって、ある時間でどの程度海底面が動いたかが分かります。現在、三つの基準点を設置して観測をしています。

 

 プレート間巨大地震では、2011年東北地方太平洋沖地震のように浅いところで広い範囲にわたってひずみがたまって超巨大津波を起こすタイプと2003年十勝沖地震のようにやや深いところにひずみがたまっていて巨大津波を起こさないタイプがあります。

 今までに得られたデータでは十勝根室沖では2011年タイプのひずみの溜まり方をしていると考えられます。十勝根室沖では全域が固着していて、地震が起きた場合の最大モーメントマグニチュードは9.3と想定しています。

 

<青山 氏>

 十勝岳は大雪山国立公園の一部であり、史跡名勝天然記念物であり、十勝岳ジオパークです。

 

 十勝岳で現在盛んに噴気を上げているのは前十勝の東にある62II火口です。

 十勝岳の近年の噴火は、1926年のマグマ水蒸気噴火と中央火口丘の崩壊による土石流の流下、1962年の準プリニー式噴火、1988年~1989年にかけての噴火です。この3回の噴火の間隔は36年と26年で、現在すでに最後の噴火から35年経過しています。

 

 十勝岳の火山活動はマグマ噴火の先行現象があります。昔は大正火口付近で硫黄の採掘を行っていました。噴火活動が活発になる前に熱活動が活発になる、硫黄が出る、体感地震がある、地表に亀裂ができるといった現象がありました。

 

 地表面の変動については1964年から気象庁がデータをそろえています。62-II火口では噴気が連続的になり一時衰退した後、2018年から再び活発になっています。


 望岳台と前十勝の距離を測定しています。それによると12年間で50㎝長くなっています。地下の浅いところで膨張していることを示しています。

 

 北大では2014m年から精密観測を行っています。その結果によると、20155月~7月にかけて山体の膨張が加速し山が盛り上がって割れ目が形成されました。

 2005年までは安定した活動で2006年から2018年は静穏になり2018年以後活発になっています。地磁気、温度、圧力を観測し解析を行いました。

 201911月には前十勝観測点で1ラジアンの地殻変動が観測されました。この変動の場所が移動しました。モデル計算をしたところ前十勝の地下500mで円盤状物質が収縮しているという結果となりました。

 

 2020914日には深いところの情報を得ることができました。海面下1㎞の深いところに変動源があると考えられます。

 富良野川の深さ2030㎞の位置で深部低周波が観測されています。

 

 マグマ噴火は切迫していません。火山ガスを衛星画像で観測した結果、1日数百トンの火山ガスが出ていることが分かりました。

 20227月には地温が80℃になりました。山体は安定していますが、変質作用が進行して山体を保持する強度が弱くなっている可能性があります。

 

<橋本武志氏>

 電磁気を利用した地下構造探査を行い地震発生・火山噴火の発生場を探っています。

 

 北海道の地質は約1500万年前に三つの地質体が合体して出来上がりました。現在は太平洋プレートが年8㎝の速度で移動し北海道を圧縮しています。活断層の走向は南北で、活火山は千島海溝、日本海溝に並行に分布しています。

 

 地下構造探査では地下の伝導度を測る電磁気探査を用います。マグマは電気を通しやすく、震源分布は電気の通りにくい、やや硬いところに集中しています。

 電磁探査の方法はマグネトテルリク法(MT法)で、磁場センサと電場センサを用いて自然の地磁気と地電流を観測します。測定器を設置して数週間、観測を続けます。

 

 北海道を東西に横切る測線で観測を行いました。

 

 支笏湖から日高山脈を横断して十勝川河口に至る測線では、地下50kmまで探査できました。結果は次のようでした。

・日高山脈の下は硬くてガチガチの状態です。

・日高山脈の西側に地震帯があります。

・石狩平野、十勝平野は厚い堆積層です。

・支笏カルデラの地下には電気の通りやすい塊があり、マグマがあると推定されます。

 

 増毛山地から富良野盆地を通り、十勝岳から中標津に抜ける測線で探査を行いました。結果は次のようでした。

・富良野盆地の下に柔らかい物質があります。

・富良野盆地では、深度2040kmに電気の通りやすい領域があります。この領域の周囲で深部低周波地震が起きています。

・十勝岳から大雪山にかけて巨大な低比抵抗物体があります。マグマの供給系だと推定されます。

・この物体の周りで深部低周波地震が発生していて、真上に大雪山系と十勝連峰があります。これはマグマ溜まりの元になるマグマレザーバで、粥状のマグマがあると考えられます。

 

<西村裕一氏>

 最初に、能登半島地震の津波痕跡調査に行ってきたので、その話をします。

 砂浜の海岸には浮遊物の帯ができています。これが津波の遡上した位置を示しています。遡上限界は5m以下でした。

 珠洲市の永橋漁港では地盤が2,2m隆起していました。サンゴ藻(サンゴモ)が付着している位置が地震前の海面です。

 気象庁の津波観測装置は津波で破壊されて観測不能になっていました。

 

 津波の履歴調査は自然現象と社会環境とに目配りが必要です。古文書や伝承は人の住んでいるところのデータです。北海道では1611年の津波の記録が最も古く、300年少し前までしか分かりません。そこで、津波堆積物の調査が役に立ちます。

 

 2011年の東北地方太平洋沖地震の津波堆積物調査を行いました。海の砂が仙台平野一面を埋め尽くしていました。この砂を掘ると1611年の津波堆積物、915年の十和田火山灰、869年の津波堆積物が確認できました。

 

 北海道・浦幌町の海岸から500mほど内陸で津波堆積物の調査をしました。ここは、人が住んだ痕跡がなく川の流路もありません。歴史時代の津波堆積物は、ここまで達していません。数千年間には海岸線の位置も変わりますし、砂丘の発達具合によっては津波が遮られます。

 ここでは、3,000年間に8回の巨大津波がありました。平均間隔は350400年です。2007年には500年間隔地震津波が想定されるようになりました。

 

 このような長期評価は決定論的評価で超大規模地震津波を想定しハザードマップを作り避難タワーなどを設置します。

 これに対して、確率論的評価ではさまざまなケースを考えて津波の全体像を明らかにし、小さな津波も評価します。これは保険料率の設定に利用されます。

 

 日本海沿岸は古い津波の記録がなく情報不足で確率論的評価になります。

 オホーツク海沿岸は津波被害の記録がなく、津波堆積物も確認されていません。

 

 注意が必要なのは根室海峡沿岸です。ここでは津波堆積物が見つかっています。


 千島海溝沿岸では、花咲に20m以上の津波が2,500年で7回襲っています。別海では2,500年で2回、国後島の泊で2,500年に3回の津波、色丹島で6回の津波がありました。

 

 襟裳岬から西では17世紀に巨大津波があり、高さ10mの段丘の上を500m浸入しました。1610年の慶長奥州津波の可能性があります。

 

<感 想>

 電磁気探査による地下深部の構造解明は非常に興味深いものでした。支笏カルデラのマグマ溜まり、大雪連峰・十勝連峰へのマグマ供給源と考えられる巨大な低比抵抗物質など、いつ爆発的噴火が起きるか分かりませんが、人類が記憶していない巨大な噴火が起きる可能性を否定できないデータのように思います。

 

 北大地震火山観測研究センターの一連の講演会は、非常に興味深い内容です。