令和5年度 日本応用地質学会北海道支部・北海道応用地質研究会 研究発表会 ― 2023/11/14 13:27
2023年11月10日(金)13:40から17:00まで、表記研究発表会が開かれました。物理探査学会の共催です。寒地土木研究所の会場とオンラインでした。私は、オンラインで視聴しました。
一般発表が4件、現場報告発表が5件でした。興味深かった発表の概要を記します。
池田光良氏(中央開発株式会社):支笏湖からの地下水の漏水について
支笏湖からの地下水の漏水を最初に議論したのは、山口ほか(1963)です。千歳川の支流、ナイベツ川(地理院地図では内別川)は多くの湧水があり、千歳市の水源となっています。しかし、この湧水の年代は20年程度です。湧水の起源が支笏湖だとすると60年はかかる計算になります。ですから、ナイベツ川の湧水群は支笏湖からの漏水とは考えられません。
広域的に支笏湖に由来する地下水について検討しました。支笏湖から美々川までの水理地質断面図を作成しました。
ボーリングの温度検層結果からママチ川の支流・イケジリママチ川上流、勇払川支流の植苗川上流付近にある90m台地の支笏湖側で上昇流が認められます。この90m台地は地下水の分水界となっていると考えられます。
水素と酸素の安定同位体比から、支笏湖からの地下水が混合している河川は、北の千歳川、ママチ川から南の苫小牧川までの範囲であることが分かりました。千歳川に北から流れ込んでいるナイベツ川や紋別川では支笏湖からの地下水が混合している割合は0%です。
山口が予想したイケジリママチ川上流付近を通る旧河道が、古石狩川なのか古夕張川なのかについては解決していません。
宇佐見星弥氏・石丸 聡氏・川上源太郎氏(エネルギー・環境・地質研究所):国土地理院が公開した時系SAR干渉画像による北海道の活動的地すべり分布の可視化とその分布特性
時系列SARでは雑音を除去できる、波長24㎝を使うと植生の影響を除去できるという利点があります。ただし、水蒸気による遅延は生じます。
北海道地すべり地形分布図をもとに、時系列SARを使って活動的地すべりを抽出したところ345箇所になりました。活動的地すべりが多いのは、新第三紀の堆積岩類・火山岩類、空知―蝦夷帯の分布域です。空知層群は分布域の標高が高いので位置エネルギーが高く移動しやすいと考えられます。
暑寒別岳周辺は、活動的地すべりがほとんどありません。この原因としては、中新世から鮮新世の火山岩類に覆われている下位の地層の性質が影響しているのかもしれません。SARのコヒーレンス(波動の位相の安定性)が低下する場合には、地すべりの活動性は検出できません。地すべりの動きが大きすぎるとコヒーレンスが悪くなります。
深田愛里氏(寒地土木研究所)・奈良町千之氏(新潟大学):北アルプス北部,白馬連山における周氷河砂礫斜面での礫の移動
南北に延びる白馬連山は非対称山稜です。西側斜面は凍結融解作用により土砂が生産されるのに対し、東側斜面は雪崩などによる削剥作用が強いためです。
凍結融解作用には、年周期のソリフラクション、日周期のソリフラクション、ジェリフラクションがあります。ジェリフラクションというのは融雪水により土砂が移動するものです。
礫の移動の観測には、ペンキライン法が用いられてきました。この方法で水平方向の20~50㎝の礫の移動、30~50㎝の深さ方向の移動が分かっています。
今回の調査では、積雪の少ない南の杓子岳、白馬岳、北の三国境の3箇所で観測を行いました。いずれの地点も平均傾斜30度程度です。観測項目は、地温と土壌水分で、タイムラプスカメラで礫の動きを見ました。礫が上下に変動する様子が捉えられました。特に秋に変動が顕著で、積雪により変動は抑制されます。
安元和己氏(株式会社ドーコン):高品質ボーリングコアの品質を考慮した取り扱いについての報告
高品質ボーリングの技術が進歩し、固結の弱い砂礫やシルトが原位置の状態で採取されるようになりました。全地連の「ボーリング柱状図作成及びボーリングコア取扱い・保管要領(案)同解説」(2015)で、ボーリングのコアの取り扱いは詳しく述べられています。
ここで述べるのは、ボーリングコアの洗浄方法、特にボーリングコアの周りにへばりついているマッドケーキの洗浄方法です。
コアをビニールに包まれたままの状態でコア箱から取り出して、半割の塩ビパイプに移します。この半割塩ビパイプに乗せた状態でコアからビニールを取り除き洗浄します。マッドケーキの除去は霧吹きや刷毛で行い、マッドケーキが厚い場合は歯ブラシが有効です。切断された端面も洗ってコアの表面と比較することで、洗浄がうまくいったか確認できます。
富岡 敬氏(株式会社ジオテック):地理院地図陰影起伏図で見つけた興味深い地形
地理院地図には陰影起伏図が表示できます。これを見ていて興味深い地形に気づきました。
一つは、十勝連峰南端の下ホロカメットク山の南の十勝川最上流の河川群の地形です。風紋のような地形が見えます。
もう一つは、豊平川支流・簾舞川上流の尾根に見られる山向き小崖で、山体重力変形地形と判断できます。
<感 想>
紹介した発表は、いずれも大変興味深い内容でした。
特に時系列SAR干渉画像によって、植生の影響を除いた地すべりの活動度が分かるというのは重要と思います。
3,000m近い山稜での土砂移動の観測は、かなりの労力が必要と思います。礫の上下動が画像で記録されましたが、斜面方向への礫移動の画像が得られれば面白いと思いました。スピッツベルゲン島での礫移動の超々スロー動画を見たことがありますが、礫層が斜面をローブをつくって移動していました。
国土地理院の陰影起伏図は、確かにこれまで見えなかった地形が見えます。広域的な地形・地質を見るのに活用出来ると思います。
インフラ分野におけるDX-現在地を探る2023- ― 2023/11/23 11:00
2023年11月15日(水)13時から17時10分まで、災害科学研究所の主催で表記講演会がオンラインで開かれました。
始めに災害科学研究所の松井 保理事長が「DX時代の課題と対応」と題して講演しました。国交省近畿地方整備局の小島 優氏が国交省における取組について講演し、測量分野、地質調査分野、設計分野、施工現場の講演がありました。
プログラムは以下のとおりです。
松井 保氏(災害科学研究所 理事長):はじめに—DX時代の課題と対応—
小島 優氏(国土交通省 近畿地方整備局企画部長):国土交通省におけるインフラDXの取り組みと今後の普及推進について
佐藤 渉氏(国際航業(株) LBSセンシング事業部モニタリング部長):測量分野におけるDXの課題と現状−3次元データによるモデリングとモニタリング−
尾高潤一郎(基礎地盤コンサルタンツ(株) 技術本部技術副本部長):地質調査分野におけるDXの課題と現状」
中上宗之氏((株)建設技術研究所 大阪本社上席技師長):設計分野における DX の現状と課題
元村亜紀氏((株)大林組 本社土木本部先端技術推進室技術開発部長):施工現場におけるDX推進の現状と課題
坂上敏彦氏(災害科学研究所 研究員):おわりに −今後の展望 −
<松井 保氏>
2017年、AI(Artificial Intelligence:人工知能 )が囲碁のトップ棋士に勝ちました。その2017年に災害科学研究所では「AIの土木分野への応用」という講演会を行いました。2019年にはテキストを用いたAIの講習会を行いました。2021年にはDX(Digital Transformation:デジタル・トランスフォーメーション)推進についての講演会を行いました。
DXによって情報の横のつながりを強めることができ、生産性・安全性の向上ができ、脱炭素も可能になります。
建設業界では、2020年の就業者数は492万人ですが、2030年には100万人規模の離職者が出ると予想されています。しかし、生産性は上がっておらず、製造業の半分程度です。脱炭素化を目指すGX(グリーン・トランスフォーメーション)の日本政府の基本方針は、原子力の最大活用、カーボン・プライシング(Carbon Pricing:炭素に価格をつける仕組み)の本格導入、脱炭素投資です。国交省も各分野でGXに取り組んでいます。
DXに関連してデジタル技術の導入が進んでいます。また、AIの適用事例が増えています。AIは、ほんとのブラックボックスで利用するには技術的判断が必要な場合が発生します。DXは、社会を「ごろっと」変えるものです。
世界での日本の立ち位置は、1995年〜2015年の失われた20年でGDPが中国に抜かれて世界3位になったように後退しています。最新の統計では、ドイツに抜かれて4位になっています。日本のデジタル競争力は、低下の一途です。1992年までは4年連続1位でしたが、2023年には34位となっています。
DXを進めるには経営層の意識改革が必要です。ボトムアップが最初と考えます。30才代までの人たちがデジタルリテラシーを向上させ、対応する必要があります。
技術革新(イノベーション)の目標達成の対応法としては、PDCAなどの方法がありますが、目標は変えずに2者択一で進んでいくデバッグ(debug)が有効です。
<小島 優氏>
建設投資は、1992(平成4)年度が84兆円でピークを示し、2009(平成21)年度は43兆円となっています。建設業就業者数は、1997(平成9)年度の685万人がピークで、2022(令和4)年度は479万人となっています。
建設業の課題は、人手不足、災害対応、インフラストラクチャの補修です。一品生産でICT化が難しいことも問題です。
2016年、未来投資会議でi-Constructionが唱えられ。現場の生産性向上、利用サービスの向上、多分野との共同が掲げられました。
インフラDXでは自動化、人流・物流の改善、くらし街づくり、海洋開発、建設現場の改善、サイバー空間の利用などが掲げられました。
2023年に出された「DXアクションプラン2」では、分野網羅的・組織横断的対応、インフラの造り方の変革、生産性・安全性の向上、インフラの使い方の変革、各種申請のオンライン化、データの生かし方の変革、プラットフォームの構築が提唱されています。
近畿インフラDX推進センターでは、体験、育成、広報といった活動を行っています。
<尾高潤一郎氏>
地質調査でDXが必要になる理由は、1)人手不足、2)災害の頻発とインフラ施設の老朽化、3)地質・地盤リスクの頻発が挙げられます。このうち、地質・地盤リスクが注目されるきっかけとなったのは、2016年11月に発生した博多駅前陥没事故です。2014年〜2019年の6年間で国交省の事業費の増加額は5兆円で、そのうちの2兆円(4割)が地質・地盤リスクに関するものでした。
全国地質調査業協会連合会が発行している雑誌「地質と調査」の2022年11月号(160号)は、DX小特集を組んでいます。地質調査分野でのDXの取り組みは、各種センサの開発・データのデジタル化・クラウドの活用、地盤データのデジタル化、LPデータ・衛星データの活用、地盤の3次元解析手法の開発、探査+AI+画像解析の活用などです。
探査+AI+画像解析では、深層学習で地形判読の精度を上げ、岩の評価・土砂の粒径計測、地中レーダなどの物理探査の解釈や地下水解析を行っています。
さらに、ホログラムによる3D解析・シミュレーション、コアの三次元表示などを行っています。
落石危険区域を特定する方法としてドライブレコーダの画像解析を行っています。時速10kmほどで走行しながら画像を得て位置を特定し4段階の判定を行います。これを繰り返すことにより時系列で危険箇所を判定します。
今後の課題としては、手順が決まっているルーチンワークをロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)で自動化、データ取得と同時に解析を行うリアルタイム化、3次元でのデータの可視化などがあります。
<中上宗之氏>
国交省は2016年からi-Constructionを本格化させました。2019年には新型コロナウイルス感染症対策として、人が接触しないで事業を進めることが重要になりました。BIM/SIMの普及が急がれています。
2000年頃までに2次元CADが普及し、2016年頃には3次元CADが導入され、i-ConstructionとBIM/SIMによって建設DXが進められています。 建設分野ではデータの3次元化、情報収集の多様化、設計時間の短縮による品質の向上などが取り組まれています。
BIM/SIMモデルではドローンなどによる広域地形の把握と点群データによる狭域地形の把握を組み合わせ、BIM/SIMモデルを作成します。これにより細部の3次元化が可能となりミスが減ります。建設時だけでなく維持管理モデルに活用することができます。深層学習したAIにより誤登録が指摘されるようになります。
今後は、測量・地質調査・設計・施工の相互チェックが行えるようになります。AIで人為ミスをチェックできるようになります。
<元村亜紀氏>
建設就労者の数が減り、高齢化しています。この課題を克服するためにDXが必要です。まず、データをデジタル化(デジタイゼーション)し、プロセスを自動化します。複数のアプリケーションやICT建設機械の間でのデータ連携を行い、データ主導の建設現場を実現(デジタライゼーション)します。そして、建設業のビジネスモデルの抜本的変革(建設DX)を実現します。
アプリケーションによるプロセスの自動化の例としては、ミキサー車からコンクリートがシューターを流れ下る画像を解析してスランプ値を推定する方法があります。精度は±2.5cmです。
3Dプリンターで複雑なコンクリート型枠を造り、スリムクリートを混ぜることによってプレキャストブロックをつくります。3Dプリンターでつくった建物で建築確認を取ることに成功しました。また、突堤先端の複雑な構造物を3Dプリンターでつくったプレキャストブロックで構築しました。
遠隔装填・結線システムでトンネル切羽での装薬を遠隔操作できるようになりました。モニターを見ながら装薬ロボットを操作します。
デジタルツインアプリを使って説明資料をつくったり、施工の事前検討を行ったり、地下埋設物の位置を推定したり、作業員の位置を把握したりできます。
ロボティクス・コンストラクションにより自律化した重機を集中管理することで大規模土工の無人化施工が行えます。
DXを実用化するまでの溝としては、開発に時間・費用・人手がかかること、従来のやり方から移行する期間は二重基準となること、新しい技能を習得する必要があること、管理基準を変更する必要があることなどが挙げられます。
そして、データ活用のためのルール作り、好事例を紹介(オープン化)することなどが重要です。
<坂上敏彦氏>
2021年はDX元年と言われていましたが、2022年はデジタル敗戦とされています。2023年にDX白書が出ました。そこで指摘されているのは、ビジネスモデルの変革ができていないので、デジタル・トランスフォーメーションになっていないことです。経営層がDXの必要性を感じている割合は、アメリカは61%に対して日本は28%です。先んじて失敗から学ぶことが必要です。
インフラストラクチャ+経済状況+政府の効率性+経営の効率性が求められ、機敏性、起業家精神、国際経験、開放的か、などが問われています。
ネットワーク型コラボレーションを進めるほか、デジタルプラットフォームの構築、BIM/SIMやデジタルツインなどを推進する必要があります。人材としては、デジタルエンジニア+データサイエンティストが必要で、共通のプラットフォームで機能と分野を横断した体制をつくることです。
リモート会議の推進、ルーチン作業の簡素化、経営指標の見える化なども必要です。
<感 想>
世界的に見ると日本の建設業のデジタル化は遅れているとされていますが、ここで紹介されている事例は非常に興味深いものです。AIを活用することによって暗黙知を形式知として継承できる形に整理することが可能だと感じます。
また、画像取得技術、処理技術の進歩は、今まで見えなかったものを見えるようにしています。ただ、やはり人間の身体的な感覚で得たものの重要性はしばらく残るのではないかと思います。
最後に、全国地質調査業協会連合会の雑誌「地質と調査」(2022年第2号、通巻160号)での大西有三氏の次の文章が印象的です。
< DX の元々の概念は,2004 年にスウェーデンのウメオ大学エリック・ストルターマン教授によって提唱された「デジタル技術の浸透によって,人々の生活のあらゆる面で起こる良い変化や影響」を指している。>
地学団体研究会 第69回理論の学習会 ― 2023/11/28 14:27
2023年11月12日(日)午前10時から午後3時30分まで、1時間半の昼休みをとって表記学習会が開かれました。Zoomで視聴しました。
講演は2題でした。
永山茂樹氏(東海大学):岸田内閣のすすめる軍事化と改憲
高田兵衛氏(福島大学):福島第一原発の事故で海洋に放出された放射性物質の動きを探る
<永山氏の講演>
戦後の軍備に関する流れについて述べます。
1946年11月3日に日本国憲法が公布されます(吉田 茂首相)。
1950年には警察予備隊が発足し、日米安全保障条約(旧安保条約)が結ばれます(吉田 茂首相)。
1954年、自衛隊が発足します(吉田 茂首相)。
1956年、政府は「敵基地攻撃を法理上は容認、実際上は不保持」と答弁しています(鳩山一郎首相)。憲法の解釈としては法理上可能であるが、政策判断として敵基地攻撃能力は持たないという見解を示しました。
1959年には「攻撃的兵器の保有は、憲法の趣旨に反する」と答弁しています(岸 信介首相)。
1972年には、敵基地攻撃は「専守防衛」に反すると田中角栄首相が答弁しています。
1976年には、武器輸出三原則で共産圏や紛争当事国への武器輸出を禁じ、「軍事費」はGNPの1%以内という縛りを設けました(三木武夫首相)。
2017年には安倍晋三首相が「敵基地攻撃能力についてはアメリカに依存しており、敵基地攻撃を目的とした装備体系を保有する計画はない」と述べています。
2015年9月15日には安保関連法が成立します。そして、2022年12月に安保関連三文書が閣議決定されました。
安保関連三文書というのは、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画です。その内容は、敵基地攻撃能力を持つ、軍事費をGDPの2%とする、国産兵器を輸出する、というものです。
国家安全保障戦略では、軍事だけでなくエネルギーや食料の安全保障も確保するとしていますが、実際には軍事のみとなっています。防衛力整備計画は武器輸入のリストで、実践面においてこれまでの方針を大きく転換するものです。軍備を増強すれば相手の攻撃を防げるという抑止力信仰となっています。軍縮は、ほとんど考えていません。核についても核拡散防止のみです。
そして、最も重要なことは、憲法に依拠した議論や結論がほとんど欠けていて、憲法の国際協調主義、人権の尊重、自由の確保などは考慮されていません。住民や自治体の批判は押さえつけ、地方自治や民主主義に抵触する内容です。
この三文書は、「ひげの隊長」として人気のあった佐藤正久参議院議員が音頭を取って作成したものです。前例にも憲法にもこれまでの自民党の考えにも、とらわれないという姿勢でつくられました。
2022年10月12日にはアメリカの国家安全保障戦略が決定されていて、これに対応する内容となっています。「自由で開かれたインド太平洋」を集団的能力によって守るという発想です。
これらに対応して、財界は軍事需要に期待しています。情報管理を行い、兵器産業を支援し、国産兵器の購入と兵器の輸出に期待しています。
敵基地攻撃をいつ行うかは、個々の事態で対応する形となり一般的な基準は立てません。敵基地攻撃といいますが、市民の居住地域を含む周辺地域も攻撃します。当然、報復合戦になりますが、戦争をどう終わらせるかは考えていません。
2014年7月、政府は集団的自衛権行使を容認する閣議決定を行いました。集団的自衛権として敵地を攻撃できるとし、超射程ミサイル(射程2,000km程度)、トマホークの導入、国産ミサイルの生産を検討しています。自衛隊が鹿児島県から先島諸島までの防衛線で中国を軍事的に抑止します。
社会・経済の軍事化が進んでいます。2012年から微増だった防衛費は、2023年に5年間で43兆円、年平均8.6兆円としました。国民一人あたり40万円になります。
アメリカは単独では軍事的に中国などに対抗できません。NATOにGDP2%の軍事費を要求しています。
憲法改定(改憲)が議論されています。改憲には明文改憲と実質改憲があります。岸田首相は2024年10月までの自民党総裁の任期中に明文改憲を行うと表明しています。改憲には国民投票が必要ですが、改憲案が示されてから60日〜180日(2〜6ヶ月)が必要とされています。2024年11月に国民投票をするとして、2024年5月には改憲案を国会で決定しなければなりません。非常に余裕のない日程ですので、一気に進める可能性があります。
<高田兵衛氏の講演>
福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の動きを知るには、海洋の流れを知る必要があります。
1987年にW.S.ブロッカーが提唱した海洋大循環というのがあります。深度4000mほどの深層水と表層水が2000年ほどかけて世界の海洋を循環していることを突き止めました。大西洋の北部で冷やされた海水が沈んで深層を南化し、インド洋で一部が上昇し太平洋に入って北上し北太平洋で上昇して表層水として大西洋に戻るという循環です。この大循環は、氷期には止まったと考えられています。このような循環が起きていない場所として黒海があります。
北半球の太平洋では反時計回りの亜寒帯循環と時計回りの亜熱帯循環があります。日本付近では、前者が親潮、後者が黒潮です。北太平洋では、アラスカからシベリアに向かう極偏東風、中国から日本上空を通ってカリフォルニア付近に向かう偏西風、赤道付近を東から西に向かう貿易風があります。
このような風によって海水が運ばれる現象をエクマン輸送(風成循環)といいます。地球上では地衡力が働くので、北半球では風の方向に直角に近い力が働いて右へ逸れていきます。亜寒帯循環では中心部の海面が低く、亜熱帯循環では逆に中心部の海面は2mほど高くなっています。
福島第一原発の事故が起きた3月は亜寒帯循環の影響が強く出ます。
海の成分を調べるために深度ごとに採水して分析しました。Na、Caは深度方向での変化はありません。Feは深度700mで極大を示します。Kは400~420mg/Lで、放射性物質である40Kは0.012mg/Lほどです。海水には核実験の名残でプルトニウムが含まれています。137Csは福島第一原発由来です。
宇宙線生成核種というのがあります。40K、87Rb、3H、7Be、14C、129Iです。
海洋の物質循環のトレーサーとなるのは、ウラン系列とトリウム系列です。
14Cを用いて深度3,000mの海水の年齢を調べると、北太平洋の海水が1,500年ほどで一番古いことが分かっています。
福島第一原発からの放射性物質の海への移行経路は、1)原発から直接流入、2)大気経由で拡散、3)陸域に沈着したセシウムが河川経由で海へ移行、の三つがあります。海に直接流入したセシウム137は1年後に日付変更線付近で濃度が高く、3年後にはアメリカ西海岸付近に達しました。その後、北上して西に向かい、2020年にはベーリング海から北極海へと入っています。亜寒帯循環(親潮)に乗って日本に戻ってくるかどうか注目しています。
全国の海水中のセシウム137の濃度を見ると、1984年以降減少していたのが福島第一原発の事故後、東日本の太平洋側のほか日本海側、西日本でも増加しています。
陸域に沈着した放射性物質は、2019年10月の台風19号による洪水で土砂に付着して海に流れ出しています。このセシウムは海水中で溶脱し海水中の濃度を上昇させていると推定されます。阿武隈川河口付近で採水した水のセシウム137の濃度は、台風前は10Bq/m3であったものが台風後は1,700Bq/m3に急増しています。
<感 想>
永山氏の講演について
2023年11月28日の北海道新聞朝刊で東京工業大学の中島岳志氏が岸田文雄氏について、2019年に「ブレることだけはブレない」と評していたと書いています。まさに、恐ろしい時代になったと感じます。
2022年の年末に徹子の部屋でタモリが「来年はどんな年になりますかね?」と尋ねられ、「誰も予測できないですよね。これはね。でもなんて言うかな。新しい戦前になるんじゃないですかね」(ウィキペディア、2023年11月28日閲覧)と答えて話題になりました。
岸田政権によって戦前の体制は整ったと言えるでしょう。
高田氏の講演について
福島第一原発の「処理水」の放出が行われた後の2023年8月末に福島を訪れた西村産業経済相は、ヒラメとホッキ貝の刺身を食べて、地元水産物のおいしさや安全性をアピールしたと報道されました。ほとんど科学的な裏付けのない態度と言わざるを得ないと感じます。30年の長期にわたって融解した原発燃料デブリに触れた{処理水}を流し続けてどんな事態になるのか、科学的には予想出来ないでしょう。
高田氏らの調査・研究によれば、表層の海流の動きでは説明できない放射性物質の動きがあり、九州の西方や北陸・東北・北海道の日本海側でも福島第一原発由来のセシウム137 (137Cs) が検出されています。
息の長い観測を続ける体制と金を確保するのが経産大臣の役割でしょう。
お寺シネマ「はじめてのおもてなし」 ― 2023/11/28 17:16

お寺シネマ「はじめてのおもてなし」のチラシ
2023年11月26日(日)、札幌にある映画の自主上映グループ<キノマド>が札幌市北区の麻生 覚王子で開いた映画会に行ってきました。
上映された映画「はじめてのおもてなし」は、ナイジェリアからの難民を自宅に引き取ったミュンヘンのハートマン家のお話です。
上映後に覚王寺の内平住職の法話がありました。
映画は、笑わせながらも、かなり深刻な内容を含んだもので面白かったです。
住職の法話は、上映された映画に沿って仏教ではどう考えるかについて話をされました。私は、親族の葬式で色々法話を聴きましたが、今回の法話は一番納得できる内容でした。
なかなか楽しい日曜日の夕方でした。
なお、キノマドのホームペジは< https://kinomado.com >です。
覚王寺のホームページは< https://www.kakuouji.com >です。「お知らせ」のページに覚王寺住職ブログがあって、今回の映画会の案内も載っていました。