初秋のモエレ沼公園 ― 2023/09/27 15:51
本の紹介:言語の本質 ― 2023/09/28 09:18
今井むつみ・秋田喜美、言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか。中公新書、2023年5月初版、2023年6月3版。
いくつかのキーワードがあります。
まず、記号接地です。赤ちゃんが憶える「少なくとも最初のことばの一群は、身体に「接地」していなければならない」ということです。人間のあらゆる感覚を通してことばが何を意味しているかをつかむことが必要だということだと思います。
次に、言語の本質を考える鍵となるのは、「オノマトペ」(onomatopee:フランス語)です。「げらげら」とか「もぐもぐ」とかという、ことばです。辞書では擬声語および擬態語と説明されていますが、ことばの発達の上では実はもっと重要な働きをしています。
さらに、アブダクション推論です。観察データを説明するための仮説を形成する推論のことです。アブダクション推論では間違いが起きます。この本で例として挙げられている一つは「イチゴのしょうゆ」(練乳のこと)です。
すでに得た知識をもとに推論をして知識を更新するサイクルをブートストラッピング・サイクルと言います。「自らの力で、自身をよりよくする」という比喩から言語習得分野の学術用語になりました。このサイクルでは「すべての単語、すべての概念が直接に身体に接地していなくても、最初の端緒となる知識が接地されていれば、その知識を雪だるま式に増やしていくことができる」のです。
この本の著者は二人ですが、各章を分担して執筆するのではなく、全編を一緒に執筆しています。分かりやすい内容になっている一因だと思います。
新書ですが、非常に深い内容を含んだ本です。ことばに関心を持つ多くの人に読んで欲しいです。
アブダクションについては、YouTubeで< ゆる言語学ラジオ 今井むつみ >と検索すると、この本の著者の一人である今井むつみ氏の話を聞くことができます。