第112代土木学会会長に佐々木 葉氏 ― 2024/07/06 21:04
土木学会に女性の会長が誕生しました。建築と景観を研究してきた早稲田大学・景観デザイン研究室の佐々木 葉教授です。
会長就任挨拶のタイトルは「土木学会の新しい風景をともに描こう!」です。
会長候補としての所信で次のように述べています。
「土木学会会員としての経験の中でも、土木学会誌編集委員長、D&I委員会委員長としての活動は、土木学会が専門性のみならず人間として実に多様な力をもった人々によって構成されており、その多様性を発揮することが土木学会の強みになることを教えてくれた。初の女性会長が誕生するということは、依然としてマイノリティーである女性技術者や女子学生の希望に、そして土木学会が多様性を重んじているという社会的メッセージとなる。それゆえD&Iの実践に取り組んでいこう。しかしそれは単に女性や外国人といった属性の多様性を重視することではなく、会員一人一人の人としての多様性を尊重することである。また元来土木はそれが形となる地域それぞれの固有性を大切にしてきた。このことを景観デザインの観点から向き合ってきた風土と文化を尊重した土木の仕事を通して広く社会に伝えていこう」
(土木學會誌、109巻、7号、2頁より引用:
https://www.jsce.or.jp/president/2024/index.html)
この中で、私が印象的に感じ、近年特に重要と感じる言葉は「風土と文化を尊重した土木」です。
土木学会会長の任期は2年ですが、これからの土木学会の方向を定める事業を立ち上げることに期待します。
本の紹介:変動帯の文化地質学 ― 2024/07/07 16:35

鈴木寿志(編集代表)・伊藤 孝・高橋直樹・川村教一・田口公則(編集)、変動帯の文化地質学。京都大学学術出版会、2024年2月。
鈴木氏が文化地質学(Kulturgeologie)という言葉に出会ったのは、2003年8月にオーストリーのグムンデン(陶器の町)で開かれた地球科学学術大会でのことでした。この大会では純粋な地球科学に関する講演は初日だけで、以後3日間は人や社会に関わる地質学に重点が置かれていました。「応用地質学」「大衆地質学」「文化地質学」などです。
帰国後、花こう岩研究などを通じて岡山県立児童会館公園(現太陽の丘公園)にジオトレイルを設置することができました。地質と文化の関係を意識するようになりました。
2011年の東北地方太平洋沖地震では、被害状況調査を行いました。ガイガーカウンターで放射線量を測定しながらの調査でした。悲惨な被害状況を見て、多くの人に自分たちの住む大地のことを知ってほしいと思うようになりました。
2014年の日本地質学会 第121年学術大会・鹿児島大会で文化地質学のトピックセッションを開催しました。
2014年と2015年の2回の日本地質学会学術大会での文化地質学のトピックセッションの発表の中から、18の講演を論文化して「号外地球 文化地質学」(2016年8月)が発行されました。以後、トピックセッションとして「文化地質学」は毎年開催されています。
2017年に開かれた地学団体研究会の旭川総会では、「北海道の文化地質学」と題してシンポジウムが開かれ、9件の発表が行われました。この発表は、論文として「地球科学」の73巻(2019年)に2回にわたって掲載されました。
この本は、総ページ数557頁と大部で、執筆者は編集委員を含めて29名です。一つ一つの論文を紹介できませんので、各部のタイトルだけ紹介しておきます。
序論 文化地質学の提唱と発展
第I部 石材利用の歴史と文化
第II部 信仰と地質学
第III部 文学と地質・災害
第IV部 地域の地形・地質を楽しむ
第V部 地学教育の新展開
総論 変動帯の文化地質学
2024年度 北海度応用地質研究会 研究発表会 ― 2024/07/12 12:51
令和 6 年度(2024 年度) 日本応用地質学会北海道支部・北海道応用地質研究会(共催:物理探査学会) 研究発表会が、2024年7月5日(金)午後2時半から午後5時まで寒地土木研究所の会場とzoomで開催されました。
私はzoomで視聴しました。
プログラムは以下のとおりです。
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1. 日本応用地質学会 能登半島地震災害調査団 参加報告
○大津滉介、千田敬二、金山健太郎、田近淳
2. 降下テフラの風化によるハロイサイトバンドの形成と斜面防災への応用
○福井宏和、松四雄騎
3. 安平町早来の露頭に見られる地層の変形について
○松井 昭、清水龍来
4. 沖積錐に着目した機械学習による土石流危険流域の抽出手法の構築
○川上源太郎、輿水健一、石丸 聡、今泉文寿
5. 防災カルテ点検で着目される落石に対する点群計測機器適用性に関する分析
○川又 基人、坂本 尚弘、日外勝仁、倉橋 稔幸
6. ダム基礎掘削面の観察手法事例 -オルソ画像を用いた岩盤スケッチとスケッチのとりま とめ手法の紹介-
○田子義章
7. ハンドヘルド型蛍光X線分析装置を用いたボーリングコア試料の重金属分析事例
○山崎秀策、倉橋稔幸
8. 音波探査による漁場環境の見える化
○丸山純也、内田康人、檜垣直幸
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幾つかの講演を紹介します。
<福井宏和氏>
ハロイサイトは軽石の風化で形成され、酸化還元フロントにハロイサイト・バンドが形成されます。水の滞留と還元環境が効いてきます。土質としては鋭敏比が大きいのが特徴です。
厚真町東和の崩壊地は傾斜20-25度の緩斜面で樽前-dテフラ(Ta-d2)と恵庭-a(En-a)テフラの間にハロイサイトの火炎状構造が形成されています。
上位から赤褐色のBPゾーン(アロフェンと水酸化鉄が形成されている)、WPバンド(ハロイサイトが形成:火炎構造を取る)、GPソーン、BFゾーンに分けられます。
元素の溶脱量はSi>Al>Feの順で、夏にはテフラ層中の二酸化炭素量が増加します。WPバンドでは鉄分は粘土鉱物に入り込んでしまうため灰白色を呈しています。
火炎構造は地表からの酸化現象によって形成されることが分かりました。
<川上源太郎氏>
土石流危険流域は、1)渓流の出口に沖積錐が形成されている場合、2)沖積錐が形成されたが、削剥されている場合があります。北海道には約5,000箇所の土石流危険流域があります。
今回、土石流危険流域の抽出を試みたのは、新第三系と付加体堆積物が分布する流域です。渓流の出口に沖積錐が分布する沢を対象とし、後背流域の地形特性として集水面積、流域長、起伏、傾斜、起伏比、河川勾配を考慮しました。
2003年日高豪雨の災害箇所と決定木分析により抽出した沖積錐の分布を比較すると、土石流が発生する危険性の高い流域を抽出できる可能性が示されました。また、危険流域の可視化の可能性が示されました。
参考文献
< https://nhess.copernicus.org/articles/24/1287/2024/ >
<川又 基氏>
北海道の道路防災点検箇所は、約4,200箇所あります。しかし、点検対象外の箇所で災害が発生しています。効率的な点検を行うためにデータ付きカルテの記録が重要です。
道路防災点検のうち、落石の点検では地形要素、落石の大きななどのデータを機器による計測で取得するのが効率的です。要素としては、変状の規模、斜面の比高・傾斜・延長、擁壁にあるなし、オーバーハングのあるなし、植生状況などが考慮されます。
効率的に精度の高い点検を定期的に行う方法としては、LiDAR(Light Detection And Ranging あるいは Laser Imaging Detection and Ranging)技術などの点群計測が有効です。データの取得方法としては、ドローンと地上レーザー計測が有効です。
<田子義章氏>
ドローンで撮影した画像を使ってダム基礎岩盤のスケッチを効率的に行う方法を検討しました。
標識を設置した基礎岩盤をドローンで撮影し、オルソ画像に変換します。この画像に、ペン入力が可能なタブレットを用いて現場で亀裂、地質、岩級、湧水、走向・傾斜などを記入していきます。最終的にはCADで扱えるファイルとして保存します。
<山崎秀策氏>
ハンドヘルド型蛍光X線分析装置を用いてトンネル坑口で実施した水平ボーリングの有害金属分析を行いました。
ヒ素の含有量は、ハンドヘルド型の結果と溶出試験の結果とが良く一致しています。この装置でヒ素の高溶出区間を迅速に測定し、スクリーニングすることが可能です。硫黄、鉄、マンガンなども迅速に測定できます。
<感想>
2013年の北海道胆振東部地震では、テフラが変質して形成された粘土鉱物のハロイサイトが注目されました。露頭スケールから粘土鉱物のアルミノケイ酸塩シートスケールまでの現象が説明できるようになりました。露頭スケールでは酸化フロントとハロイサイトを含むテフラの火炎状構造が重要な目安になります。
ダムの堤体掘削では詳細な岩盤スケッチを行います。現場に張り付きでスケッチを行うのは、結構つらいものです。ドローンとタブレットを用いて作業時間を短縮できるというのは精度と作業効率の向上に大きく貢献できます。タブレットを持って亀裂を描いていくので、肉眼観察も行うことになり、精度が格段に向上すると思います。
土石流危険渓流の抽出を地形・地質要素から行えるようになると、現地踏査の的を絞りやすくなり全体の作業が効率化できます。精度がいまいちのようなので、実用化できるよう研究を進めてほしいです。
いろいろな分野の発表があり、面白く聞くことができました。
サイクルロードレース ― 2024/07/12 14:46
3週間の長丁場のステージ・サイクルロードレースのジロ・デ・イタリアが終わり、6月12日現在、ツール・ド・フランスが2週目に入っています。
J Sportsでこれら二つのレースを実況放送しています。
200km近く走ってきて、最後は10cm以下の差で勝負が決まるレースの面白さがあります。
最後の勝負までのチームごとの駆け引き、思わぬ場所での落車事故など4時間近いレースを見ていて飽きません。
さらに、雪山や一面の麦畑など風景の美しさ、道路のり面の状況、自然の中に包まれたような町の風景、地形や地質などが楽しめます。
ジロ・デ・イタリアにしてもツール・ド・フランスにしても、沿道の応援のすごさは日本では考えられないでしょう。これは、文化の違いと言って良いと思います。