令和8年度 (公社)日本地すべり学会北海道支部・北海道地すべり学会 特別講演・研究発表会2026/04/29 08:36

 表記行事が2026424日(金)午後1時から午後440分まで、札幌市の「かでる27」の会場とオンラインで開催されました。Zoomで視聴しました。

 

 森林総合研究所の岡本隆氏の特別講演と若手部門(4件)と一般部門(3件)の研究発表がありました。

 

 プログラムは以下のとおりです。

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■ 特 別 講 演(一般公開)

・『 雪がもたらす斜面安定のパラドックス-近年の観測に基づく積雪期地すべりの実態- 』
 ☆国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 岡本 隆氏

■ 
研 究 発 表 会 【 若 手 部 門 】
・ 現地踏査から得られた知見と今後の展望
  髙木 優真斗/鈴木 朝陽/大塲 悠希
・ 地すべり観測・解析業務の事例紹介と実効雨量法適用の検討
  佃 芽衣/秋山 道生
・ 積雪・融雪状況の再現計算に基づく2012  3  7 日 新潟県上越市国川地区での地すべりの発生要因の検討
  矢野 樹生/桂 真也
・ 深層学習を用いた地すべり抽出における地質条件と教師データの違いが検出精度に及ぼす影響
  佐藤 弓響/渡邊 達也/古木 宏和


■ 
研 究 発 表 会 【 一 般 部 門 】
・ 最高度続成帯地すべりにおけるすべり面粘土の鉱物学的特性
  -四国東部四万十帯宝蔵山地すべりおよび釣の口地すべりの例-
  前田 寛之/河野 勝宣/進藤 治美
・ 斜面災害リスクに及ぼす気候変動の影響評価手法の提案
  石川 達也/山田 遙/熊田 大晃/岡地 寛季
・ 地すべり地形活動度評価における評価者・評価項目間の評価傾向
  日本地すべり学会北海道支部令和7年度技術講習会を例に
  宇佐見 星弥/石丸 聡/石田 博英/本間 宏樹/中鶴 真也/永井 啓資
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<岡本 隆氏>

 岡本氏は東京農業大学の林学科を卒業して森林総合研究所に入りました。

 雪と地すべり、地震と地すべりなどの研究、治山技術の適用手法と開発、大規模林野火災後の土砂災害・リスク評価といった研究を行ってきました。

 

 まず、雪と地すべりの話です。

融雪時に地下水位が上昇して地すべりが発生しやすくなることは知られていました。しかし、雪の荷重などが地すべりにどう作用するかは、はっきりしていませんでした。

 20144月に北海道苫前町で幅200m、奥行き200mの地すべりが発生しました。

 1997510日には秋田県鹿角市の澄川で地すべりが発生し、土砂が川に流れ込んで泥流となりました。地すべりの規模は、幅400m、奥行き700mで、土砂は500m3でした。澄川地すべりでは、下流に温泉宿があったのですが、宿の人が沢水の濁りと音に気づいて宿泊客を避難させ犠牲者は出ませんでした。

 202134日には新潟県糸魚川市の来海沢(くるみ・さわ)で地すべりが発生しました。融雪水を誘因とするキャップロック型地すべりでした。

 新潟県の伏野(ぶすの)地すべりでは、地すべり移動体は緩い傾斜の窪地となっていて、積雪期には地すべりの外形は、はっきりしません。

 山形県の銅山川地すべりでは、道路に亀裂が発生し積雪層にも亀裂が連続していましたが、雪が融けるまで全体像は把握できませんでした。

 

 地すべり観測技術は、1960年代は人力で、アナログレコーダーを使って連続データを取っていました。1980年になるとデジタルレコーダーになり、さらに太陽電池を使っての観測機器を動かし無線でデータを転送するようになりました。これによって地すべりが、いつ動き出したのかが分かるようになりました。


 それによると、融雪期の34月に動き出している地すべりは少なく、多くが1112月に動き出していることが分かりました。地すべりの動きが見えた時期と実際に動き出した時期が異なっていたのです。

 佐藤ほか(2014)は、積雪期の地すべり変動パターンを5つに分類しました。

  1)積雪期速度一定型(45%)、2) 積雪期加速型(32%)、3)積雪初期活動型(12%)、4)融雪期活動型(6%)、5)積雪期2段階活動型(5%)です。

 

 この結果から、地すべり活動の直接の原因(誘因)が何なのかを考え直さなければならなくなりました。考えられたのが、雪の荷重の作用と雪のせん断抵抗の役割です。

 雪の荷重は、比重を0.5とすると積雪深が4mであれば2,000kgf/m220kN/m2)になります。

 新潟県の伏野地すべりに試験地を設けて研究を行いました。この地すべりは、谷堆積物が移動しています。移動体の長さは235m、幅は3050m、すべり面深度は37mです。移動量は最大2m/年程度です。

 釣り合っている地すべり土塊に雪荷重が加わると、すべり面の応力も強度も増加します。また、すべり面勾配が小さいほど積雪荷重は斜面を安定させ、すべり面の内部摩擦角が大きいほど雪荷重は斜面を安定させます。

 

 地すべり土層が積雪によって鉛直圧縮を受けることを実証するため、高精度鉛直変位計を開発しました。

 伸縮性の小さいカーボンロッドを孔内に挿入し底を固定しました。すべり面深度は3.62mで、深度3.5mまでボーリング掘削しロッドを固定しました。

 観測の結果、2030mm、歪みにして0.60.8沈み込むことが分かりました。変位はもとに戻りません。

 

 間隙水圧の上昇で活動する例について話します。

 ノルウェーにクイッククレイがあります。この粘土は水を含むと流動しますが、水は通しません。融雪期には間隙水圧が低下し、積雪が多いときに間隙水圧が上昇します。雪の重さと間隙水圧が比例します。

 

 地すべり活動に対する積雪の影響についてです。

 積雪期に地すべりが動くと積雪層の側部の抵抗力が効いて地すべりが安定化します。雪のせん断抵抗力を原位置せん断試験で測定しました。シアーフレームを使った方法では、7.9kN/m2という結果でしたが、円筒型せん断試験器で測定したところ11.1kN/m2という値が得られました。

 

 長さ120m、幅40m、厚さ5m、積雪深3.1mの数値モデルを作って実験しました。積雪がない場合の安全率1.0とすると、このモデルでは安全率は1.135となりました。地すべりの面積が大きくなるにつれて安全率は低下し、4倍モデルで1.00となりました。

 

 気候変動が地すべりにどのような影響を与えるかについてです。

 「日本の気候変動2025」(気象庁)によれば、日本海側の年最深積雪は減少傾向にあり、大雪は減っていますが極端な大雪は継続して起きています。

 気候変動が地すべりに与える影響は、融雪期の地すべりは減少しますが、厳冬期の異常高温で大量の融雪水が発生したり、積雪の上に雨が降ったりすることなどが考えられます。

 

<感 想>

 融雪期の地すべりが少ないというのは、かなりショッキングな内容でした。

 ボーリング孔を使っての歪みや地下水の観測では、測定器を現場に持っていって手で測っていた頃に比べて精度が上がったことはもちろん、労力も格段に減っているようです。

 

 予稿集が充実しているので、若手と一般の研究発表は、そちらを読んでください。


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