2024年度 北海度応用地質研究会 研究発表会 ― 2024/07/12 12:51
令和 6 年度(2024 年度) 日本応用地質学会北海道支部・北海道応用地質研究会(共催:物理探査学会) 研究発表会が、2024年7月5日(金)午後2時半から午後5時まで寒地土木研究所の会場とzoomで開催されました。
私はzoomで視聴しました。
プログラムは以下のとおりです。
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1. 日本応用地質学会 能登半島地震災害調査団 参加報告
○大津滉介、千田敬二、金山健太郎、田近淳
2. 降下テフラの風化によるハロイサイトバンドの形成と斜面防災への応用
○福井宏和、松四雄騎
3. 安平町早来の露頭に見られる地層の変形について
○松井 昭、清水龍来
4. 沖積錐に着目した機械学習による土石流危険流域の抽出手法の構築
○川上源太郎、輿水健一、石丸 聡、今泉文寿
5. 防災カルテ点検で着目される落石に対する点群計測機器適用性に関する分析
○川又 基人、坂本 尚弘、日外勝仁、倉橋 稔幸
6. ダム基礎掘削面の観察手法事例 -オルソ画像を用いた岩盤スケッチとスケッチのとりま とめ手法の紹介-
○田子義章
7. ハンドヘルド型蛍光X線分析装置を用いたボーリングコア試料の重金属分析事例
○山崎秀策、倉橋稔幸
8. 音波探査による漁場環境の見える化
○丸山純也、内田康人、檜垣直幸
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幾つかの講演を紹介します。
<福井宏和氏>
ハロイサイトは軽石の風化で形成され、酸化還元フロントにハロイサイト・バンドが形成されます。水の滞留と還元環境が効いてきます。土質としては鋭敏比が大きいのが特徴です。
厚真町東和の崩壊地は傾斜20-25度の緩斜面で樽前-dテフラ(Ta-d2)と恵庭-a(En-a)テフラの間にハロイサイトの火炎状構造が形成されています。
上位から赤褐色のBPゾーン(アロフェンと水酸化鉄が形成されている)、WPバンド(ハロイサイトが形成:火炎構造を取る)、GPソーン、BFゾーンに分けられます。
元素の溶脱量はSi>Al>Feの順で、夏にはテフラ層中の二酸化炭素量が増加します。WPバンドでは鉄分は粘土鉱物に入り込んでしまうため灰白色を呈しています。
火炎構造は地表からの酸化現象によって形成されることが分かりました。
<川上源太郎氏>
土石流危険流域は、1)渓流の出口に沖積錐が形成されている場合、2)沖積錐が形成されたが、削剥されている場合があります。北海道には約5,000箇所の土石流危険流域があります。
今回、土石流危険流域の抽出を試みたのは、新第三系と付加体堆積物が分布する流域です。渓流の出口に沖積錐が分布する沢を対象とし、後背流域の地形特性として集水面積、流域長、起伏、傾斜、起伏比、河川勾配を考慮しました。
2003年日高豪雨の災害箇所と決定木分析により抽出した沖積錐の分布を比較すると、土石流が発生する危険性の高い流域を抽出できる可能性が示されました。また、危険流域の可視化の可能性が示されました。
参考文献
< https://nhess.copernicus.org/articles/24/1287/2024/ >
<川又 基氏>
北海道の道路防災点検箇所は、約4,200箇所あります。しかし、点検対象外の箇所で災害が発生しています。効率的な点検を行うためにデータ付きカルテの記録が重要です。
道路防災点検のうち、落石の点検では地形要素、落石の大きななどのデータを機器による計測で取得するのが効率的です。要素としては、変状の規模、斜面の比高・傾斜・延長、擁壁にあるなし、オーバーハングのあるなし、植生状況などが考慮されます。
効率的に精度の高い点検を定期的に行う方法としては、LiDAR(Light Detection And Ranging あるいは Laser Imaging Detection and Ranging)技術などの点群計測が有効です。データの取得方法としては、ドローンと地上レーザー計測が有効です。
<田子義章氏>
ドローンで撮影した画像を使ってダム基礎岩盤のスケッチを効率的に行う方法を検討しました。
標識を設置した基礎岩盤をドローンで撮影し、オルソ画像に変換します。この画像に、ペン入力が可能なタブレットを用いて現場で亀裂、地質、岩級、湧水、走向・傾斜などを記入していきます。最終的にはCADで扱えるファイルとして保存します。
<山崎秀策氏>
ハンドヘルド型蛍光X線分析装置を用いてトンネル坑口で実施した水平ボーリングの有害金属分析を行いました。
ヒ素の含有量は、ハンドヘルド型の結果と溶出試験の結果とが良く一致しています。この装置でヒ素の高溶出区間を迅速に測定し、スクリーニングすることが可能です。硫黄、鉄、マンガンなども迅速に測定できます。
<感想>
2013年の北海道胆振東部地震では、テフラが変質して形成された粘土鉱物のハロイサイトが注目されました。露頭スケールから粘土鉱物のアルミノケイ酸塩シートスケールまでの現象が説明できるようになりました。露頭スケールでは酸化フロントとハロイサイトを含むテフラの火炎状構造が重要な目安になります。
ダムの堤体掘削では詳細な岩盤スケッチを行います。現場に張り付きでスケッチを行うのは、結構つらいものです。ドローンとタブレットを用いて作業時間を短縮できるというのは精度と作業効率の向上に大きく貢献できます。タブレットを持って亀裂を描いていくので、肉眼観察も行うことになり、精度が格段に向上すると思います。
土石流危険渓流の抽出を地形・地質要素から行えるようになると、現地踏査の的を絞りやすくなり全体の作業が効率化できます。精度がいまいちのようなので、実用化できるよう研究を進めてほしいです。
いろいろな分野の発表があり、面白く聞くことができました。
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