ブックレット:「高レベル放射性廃棄物」はふやさない、埋めない 同:福島第一原発の汚染水発生量を抜本的に減らす対策2024/12/09 17:35

 地学団体研究会のブックレットです。

( 地学団体研究会:https://www.chidanken.jp/index.html>地団研ブックレット )から申し込めます。

 

地団研ブックレット13&18

 左:地団研ブックレットシリーズ13 「高レベル放射性廃棄物」はふやさない、埋めない−「科学的特性マップ」の問題点−

 右:地団研ブックレットシリーズ18 福島第一原発の汚染水発生量を抜本的に減らす対策−海洋放出開始後の実態を踏まえて−

 

 経済産業省資源エネルギー庁が2017年に公表した「科学的特性マップ」でいう「好ましくない地域」の選定基準が適切か?が問題です。

 「ブックレット13」では、地震、活断層、火山について検討しています。そして一番の問題は、地下水についての扱いです。

 地下水の扱いは原子力発電所の建設に関わった技術者の弱点です。それが最もよく現れているのが、福島第一原子力発電所の汚染水を未だに止められないとう事態です。

 

 汚染水を止めるには、まず原発周辺を含めた水文地質的な最新の知見を得て、地下水の専門知識を駆使して対策を立てる必要があります。

 「ブックレット18」で提案されているのは、原子力発電建屋の山側に集水井群を設け、さらにその外側に広域遮水壁を設けるというものです。破壊された原子炉建屋周辺に地下水が流入することを止めるという発想です。集水井も広域遮水壁も多くの実施例がある確立された工法です。「ブックレット18」では地下水流動シミュレーションによって、上に述べた対策工の効果を予測しています。

 

 東京電力は、20238月から「汚染水」(処理水)を海に放出していますが、汚染水を海水で薄めて流しています。これは、公害問題の原点とも言える足尾鉱毒事件で、大雨で川の水が増えた時にカドミウムなどを含んだ鉱毒水を放流したのと同じ発想です。総量規制の考えがありません。

 

 202411月にNUMO(原子力発電環境整備機構)は、北海道寿都町と神恵内村の処分地選定のための文献調査の報告書を公表しました。

この中で、寿都町については、ほぼ町全体が次の段階である概要調査地区の候補となっていて、さらに大陸棚外縁までの海底下も候補となっています。

 神恵内村については、積丹岳が第四紀火山と判定されているため、村の南端付近と大陸棚外縁までの海底下が概要調査地区の候補となっています。

 この大陸棚外縁までの15kmというのは、「科学的特性マップ」にはない要素で、2016(平成28)年に4回開かれた「沿岸海底下等における地層処分の技術的課題に関する研究会」で検討されたものです。

 

大陸棚15km

 図1 沿岸部における地下施設設置のイメージ(沿岸海底下等における地層処分の技術的課題に関する研究会 とりまとめ、平成,288月)

 

 二つのブックレットは、放射性廃棄物の処分方法、福島第一原発の汚染水の抜本的解決について、明確な処方箋を示しています。



2024年度 土砂災害予測に関する研究集会2024/12/16 17:57

 防災科学技術研究所が主催した表記の集会がありました。

 2024129日の午前10時から昼休みを挟んで午後5時半までで、テーマは「能登半島地震による土砂災害の実態と特徴新潟県中越地震 20 年を迎え過去の災害を振り返りつつ」でした。

 zoomで視聴しました。

 

 柳井清治氏の基調講演は聞き逃してしまいましたが、興味深い発表を紹介します。

 

 今回の能登半島地震は、11日に発生しましたが、その被災の復興途中で921日から23日にかけて豪雨災害に見舞われました。地震で発生した斜面崩壊が豪雨でどのような影響を受けたかも、今回の集会の話題の一つでした。

 

大丸裕武氏(石川県立大学):2024年の能登半島地震による斜面変動が地震後の降雨による崩壊・地すべりに与えた影響

 

 11日の能登半島地震では輪島での地震による斜面崩壊は少なかったのですが、9月の豪雨による崩壊は多かったです。

 輪島市の北東にある天笠山(てんがいやま:標高234.9m)周辺では、地震によって移動した土砂の末端が洗掘され、9月の豪雨によって流動して被害が発生しました。斜面を構成する地質は、風化珪質泥岩で、その上に成因不明の角礫層が載っていました。地震による崩壊地に隣接した崩壊していない斜面が、豪雨によって崩壊しました。あるいは、地震で斜面上に残った板状のブロックが豪雨で移動しました。赤褐色の風化皮膜が崩壊土砂の下底となっています。

 現地踏査をすると、航空レーザ測量では捉えられていないクラックが崩壊地の隣に見られました。

 

高見智之氏(国際航業):2024年能登半島地震で生じた低角並進地すべり

 

 2024年能登半島地震で発生した地すべりは、低角並進地すべりと呼べるものです。

 航空レーザ測量の地形図を地震発生前後で比較、現地調査、空中写真判読を行いました。

 斜面崩壊は半島北部の褶曲帯に集中しています。

 輪島市・町野町の真喜野地区は向斜の軸部にあります。地すべりの変位ベクトル断面図を描くと長さ800m59m移動していて、地すべり先端部で移動量が大きくなっています。

 真喜野地区の南地域の地質は、珪質シルト岩で暗灰色泥岩が挟在しています。層理面のほかに亀裂が発達していて、グラーベン(地塁)が形成されています。地すべりは褶曲軸の軸方向の凹み(デプレッション)に向かって移動しています。

 輪島市と珠洲市の境界にある八太郎峠(はったろう・とうげ)の斜面崩壊は、向斜軸に位置していて地下水が集中しやすい地質構造となっています。

 珠洲市にある国道249号の大谷ループ道路地区では、すぐ東を流れている烏川の両岸で川に向かって崩壊が発生しています。低角の並進地すべりです。

 輪島市蛇喰(じゃばみ)地区で発生した地すべりは流れ盤構造で、頭部陥没帯は5m沈下し末端は5m隆起しました。

 同じような地すべりは、1914年の秋田県仙北地震、2008年の岩手・宮城内陸地震、20018年の北海道胆振東部地震などでも起きています。低角並進地すべりが発生する条件は、新第三紀の褶曲帯、すでに重力変形による微地形が形成されている斜面、古い地すべり地形とその周辺、古い地すべりの末端が河川侵食を受け小規模な崩壊が発生している場合などがあります。

 

佐藤 浩氏(日本大学):令和6年能登半島地震の PALSAR 2 データピクセルオフセットによる地すべりの把握

 

 ピクセルオフセット法は、2枚のSAR強度画像の精密な位置合わせによって地表変位を計測する技術です。今回はSAR画像の後方散乱強度画像を用いました。

 ALOS-2が進行する軌道方向(アジマス方向)の電波成分とそれに直交する電波照射方向(レンジ方向)の電波成分を使って画像を得ます。精度は低くて10cm程度で、空間分解能は数100m〜1km程度です。

 地形の3次元成分の推定には、ALOS-2の北行きと南行きのデータを使いますので、4成分のデータを使うことになります。この中から地殻変動の成分を除去して地すべり移動域あるいは斜面崩壊堆積物の分布域を抽出しました。

 珠洲市・若山町の出田(すった)から輪島市・町野町栗蔵(あわぐら)へ抜ける白米坂断層付近の変動は、起震断層ではなくノンテクトニック断層と考えられます。その北をほぼ並行に通る若山川向斜付近に地すべりが集中していることも確認できました。

 

井口 隆氏(防災科学技術研究所):防災科研の地すべり地形分布図との比較による地震地すべりの再活動性―新潟県中越地震の事例も踏まえて―

 

 200410月に新潟県中越地震が発生しました。この時、国際分類に準拠して斜面変動分布図を作成しました。

 この時発生した東竹沢地すべりは、芋川を閉塞しました。地すべり移動体は、芋川による末端侵食で再移動しました。

 泥岩地域で発生した地すべりは、規模とAHPAnalytic Hierarchy Process: 階層分析法)の得点に関連があります。

 今回の地震で珠洲市の若山川沿いに現れた段差地形は地すべり移動体の末端と考えられます。

 国道249号・大谷トンネルや中屋トンネルの地すべりなどがあります。

 

 地震地すべりと推定されている地すべりが、北海道にあります。日本海側の苫前町・古丹別から道央の士別市に抜ける国道239号の古丹別川右岸や羽幌町の築別川上流左岸の巨大地すべりです。 

 

古丹別川の地震地すべり

1 古丹別川右岸の巨大地すべり(地理院地図より)

 地質は中新世の古丹別層の礫岩・砂岩・泥岩互層で、走向は北東−南西、傾斜は西に25度ほどです。

 

千木良雅弘氏(深田地質研究所):地震前後の降雨の斜面崩壊に対する影響

 

 能登半島地震では輪島市・市ノ瀬町で崩壊性地すべりが発生しました。この地すべりの動画が公開されていますが、最初土塊が移動してきて、後から泥流状の土砂が移動してきています。地下水が噴出した痕跡がありました。

 輪島市と珠洲市の境界にある水山(標高404.5m)では、成層した軽石凝灰岩の軽石が粘土化し地すべりが発生しています。今回の地震前1ヶ月の累積降水量は400mmを越えています。2007年の能登半島地震での地震前1ヶ月の累積降水量は、200mmほどでした。

 新潟県中越地震では地すべり移動体の末端が侵食され、地震が起きて崩壊しています。また、地震によって不安定化した土砂が斜面に残っていて500mmを越える降水があると移動する可能性が高くなります。

 しかし、地震前の先行降雨が多ければ崩壊数が多くなるわけではありません。北海道胆振東部地震での崩壊は、火山灰の風化による地下水の貯留や粘土鉱物の形成が素因となっています。

 

八木浩司氏(深田地質研究所):輪島市東部八太郎峠付近で発生した地震地すべりの活動履歴

 

 八太郎峠付近には大規模な並進地すべりがあります。八太郎峠の北から北西にかけてグラーベン(地溝)があります。地質的には向斜軸(若山川向斜)となっています。この向斜軸を挟んで並進地すべりがあり、南側へはね上がって末端が押し出し、斜面崩壊が発生しています。グラーベンの閉塞凹地埋積堆積物から試料採取し、炭素同位体分析を行ったところ、BC500700という年代が得られました。これは能登半島北岸の第3海成段丘(L3)の年代に相当します。

 

村上智昭氏(株式会社復建技術コンサルタント):能登半島地震による層理面に規制された地すべり性崩壊について

 

 輪島市の名舟海岸には古い地すべり地形があります。今回の地震で、その末端の一部が崩壊しました。地質は珪質のシルト岩で、北西に50度ほどで傾斜しています。

 珠洲市の国道249号・逢坂トンネル付近の地質は中期中新世の粟倉層の流紋岩質火砕岩と珪質シルト岩です。シルト岩の層理面に沿って並進地すべりが発生しました。移動土砂の中に熱水変質粘土が含まれていましたが、その由来や地すべりとの関係は不明です。

 

杉本宏之(土木研究所):輪島市市ノ瀬地区で発生した地すべりの地形・地質的特徴

 

 輪島市・市ノ瀬町では尾根から崩壊が発生して河道閉塞し、渓流沿いに土砂が移動しました。規模は奥行き1kmほどで、地質は第三紀・漸新世〜中新世の繩又層で火山砕屑岩を含む砂岩。泥岩・礫岩の互層です。

 斜面は、尾根型斜面で下部が急傾斜となっています。側方には谷が入っていて解放されているので、地震によって揺れやすい地形条件となっています。層理面は流れ盤で、節理や小断層が発達していて引っ張りの力に弱い状態です。今回崩壊した頭部には線状凹地があり、もともと重力変形が起きていたと考えられます。

 輪島市・町野町の鈴屋川沿いの崩壊も同じ地質条件にあります。

 崩壊対策を行っていた斜面の隣接斜面で新たな崩壊が起こっています。既存地すべりの周辺の点検が重要です。

 

稲垣秀輝(株式会社環境地質):土砂災害の法的指定ハザードマップの適用性と地震・豪雨への対応

 

 今回の地震で多くの人が亡くなった穴水町・由比が丘ではハザードマップの指定地域でないところで崩壊が起きました。

 由比ヶ丘は、傾斜50度の崖の上に傾斜20度の崖があり、地形傾斜とほぼ同じ傾斜の流れ盤となっています。泥岩の上に火砕岩が載っていて、その境で湧水があり崩壊が起きました。

 地形だけでなく地質構造を考慮する必要があります。また、隣接斜面の崩壊状況を見ることも重要です。

 今回起きたのは地震豪雨複合災害です。20249月には7日間で540mmという100年に1回の降雨があり、1時間最大雨量は121mmでした。この地域には大量の降雨に対する免疫がありません。

 輪島市曽々木では直径8mの転石が運ばれてきました。稲船町の運動公園の奥で崩壊が発生しました。中屋トンネル坑口では豪雨によって0次谷で崩壊が発生しました。

 豪雨によって崩壊が奥に広がると同時に地震で緩んだ土砂が崩壊しました。崩壊跡のデータベース化が必要で、その場合0次谷を評価要素に加える必要があります。

 

総合討論

 

 この後、総合討論が行われました。列挙します。

2007年能登半島地震で崩壊したのと同じような場所で崩壊している。

・安山岩溶岩の分布域では震度が大きくても崩壊は少ない。

・斜面の傾斜35度以上で崩壊が発生しやすい。

・斜面の向きによる崩壊のしやすさは、傾向が見られない。

・流れ盤という地質構造が崩壊に効いている。

・並進地すべりは弱層がすべり面となっている。

・道路に併走している褶曲軸で地すべりが規制されている。

・航空レーダ測量などによって地形データは高精度になっているが地質データの精度が不足している。

・風化などの要素を考慮した地質図が必要である。

・地すべり移動体を地質図の地質区分に加える必要がある。

・地質情報は、せいぜい50mメッシュであるが、大縮尺の地質図・地質構造図が必要である。

・水山付近の軽石凝灰岩は水を吸いやすいので注意が必要である。

・半島の西部に豪雨による崩壊地が密集している点に注意が必要である。

・崩壊地の地質は水中火砕岩であることが多い。堆積構造に支配されて地形が形成されている。

・変質を受けていて粘土鉱物が多い。

・赤色風化の面で崩壊を起こしている。

0次谷の崩壊が発生している。

・木造家屋が破壊される外力はある。

・付加体堆積物では深層崩壊が起きるため威力が大きくなる。

・地震が発生したあと、線状降水帯による豪雨が起きること考えて対策する必要がある。

2022年度から地理総合が必修科目となったが、複合災害を扱っている教科書は1社のみである。

・航空レーザ測量で斜面に残存している土砂を捉えて評価する必要がある。

・流域単位での危険度認識が必要である。

・先行降雨があって地震が発生した場合の土砂災害をどう評価するかが問題である。

・過去の事例が最大かどうかに注意が必要である。

・土砂災害危険区域などは地形で指定しているだけなので、表現されていないハザードがある。どう表現するかが問題である。

・建築基準法で規制するのが良いであろう。

・建築物の耐力に対する外力の予測が必要である。

・砂防施設は効果を発揮している。0次谷の崩壊で土砂量は決まる。