第5回JABEEオンラインシンポジウム ― 2025/03/16 09:02
2025年3月2日(日)午後1時半から5時20分まで、「高等学校での地学教育と大学での専門教育との連携~地球科学の中等教育から高等教育にどのように繋げるか~」と題して標記シンポジウムが開かれました。日本地質学会地質技術者教育委員会の主催です。
JABEE(ジャビー)というのは、日本技術者教育認定機構(Japan Accreditation Board for Engineering Education)のことで、「高い専門知識と応用能力を駆使して主体的に行動し、社会に対する責任を果たしながら新しい価値を創造できる技術者」を養成できる能力がある教育組織か、を認定する組織です。
( https://www.mse.ibaraki.ac.jp/jabee/about_jabee.html による)
印象的だった講演について述べます。メモをもとに書いているので、間違っているところがあるかもしれません。
今井康浩氏(高知県立室戸高等学校 校長):ジオパークを軸とした探究的な自然科学・防災リテラシー教育
室戸市は人口11,117人で全市が世界ジオパークになっています。
ジオパークと協力して教育に当たっています。課題解決能力を養うために、知る、気づく、探求する、発表するというサイクルを実践しています。ジオパーク学では、講演を聴く、実物を観察する、課題研究に取り組み発表することを行っています。
グローカルプレイヤーとなるため、オーストラリアのポートリンカーン高や韓国のヨチョン高校と交流しています。また、ベトナムで開かれた世界ジオパーク大会に出席したり、インドネシアのジオパークを訪問したりしています。これらの交流は高知大学の協力を得て行っています。インドネシアと室戸の気候が似ているのは、なぜなのかと言ったことを考えたりします。
防災リテラシーの向上にも努めています。災害避難の支援をしたり、数学I で災害データを活用したり、被災者の炊き出し訓練を行ったりしています。
世界的な地質遺産を持つ自治体としてボトムアップでジオパーク活動を支援し持続的な活動を行っています。
堀 利栄氏(愛媛大学教授):高等教育におけるいわゆる『高大接続』の実態~大学入試における地学受験制度と地学教育 促進への取組み~」
日本学術会議は地球惑星科学についての提言を行っています。
2020年6月に地球教育の重要性についての提言、同じく8月に地理教育の充実についての提言を行っています。
2014年には地球惑星科学分野の大学教育の参照基準を発表しています。そこでは、地学は基礎的素養として重視すべきとされ、身につけるべき素養と実地教育、地学と地理学の共同が述べられています。
大学受験に地学受験コースがあれば受験したい生徒はいます。それによって、高校の地学教育が変化する可能性があります。
愛媛大学では,理学部理学科で地学受験コースを設けていて、前期(共通テスト)8名、学校推薦12名の定員となっています。入学者の半分は大学院に進学しています。地学受験コースの定員を設けているのが重要で、ゲームチェンジャーになり得ると考えています。
ただし、大学教員が高校地学は不要と考えています。高校地学に興味を持つことが大事で、地学を学ぶ意義を考えると同時にキャリアパスの多様性も生まれます。
向吉(むこうよし)秀樹氏(島根大学准教授):島根大学における高大連携の試み
島根県には46の高校があります。そのうち地学基礎を開講しているのは8校、地学を開講している高校はありません。島根大学の地球科学科は1学年50名で、県内からは5名程度が入学してきています。
高校と大学の連携として、高校の生徒や教員に対する地学の講義や野外実習を行っています。2024年度は高校生の大学訪問、科学の甲子園などを行いました。
県立松江南高校ではジオパークを生かした授業、同松江東高校では日本海拡大と海底火山をテーマに巡検を行いました。
科学技術振興機構(JST)のグローバルサイエンスとして南極の地質調査について室内での研究と発表を行いました。
県内の測量設計業協会や地質調査業協会と連携して現地実習を行っています。松江北高校のPTA研修会で向吉が「山陰地方の地震活動」と題して講演しました。35名の参加がありました。
向山 栄氏( 国際航業株式会社):いわゆる『高大接続』における地学教育への産業界からの期待
地質学は「インフラのインフラ」です。岩石と水を含む地圏環境の成り立ちを明らかにし、地域づくりに貢献してきました。
地質学は土木工事などに必要ですが、工学系の技術者が後から地質学を学ぶのは非常に難しいです。地質技術者の数は5万人に及ばないと言われていて、土木技術者や測量技術者の10万人に比べて少ないです。
高校教育で社会インフラストラクチャに関わる教科は地理総合があります。そこでは、国際協力や発展途上国の生活圏の調査が紹介されています。
国会会議録で地質学という用語を調べてみると、理科に関連して出てくる箇所数は第4位です。学校教育の第1期として1870年から1910年を考えると、ここでは物理、化学、動物学、工学が科目としてあります。1945年からの第3期は数学、物理学、生物学、地学の4科目が教科となりました。
地学は社会インフラを支える知識体系・技術体系です。地学の専門技術者として特有の論理・思考方法があります。それは、長期にわたる形状・物性の変化を把握することです。
企業としては、インフラ整備の実例を示すことや地域づくりへの参加などを通しての職業紹介が必要です。
<総合討論>
総合討論ではいろいろな問題が出されました。列挙します。
・教室での授業と実験・実習、巡検が必要です。教育現場で使える地学教育の教材が必要ですが、地学を教える専門の教員が高校にいません。
・地学教育に関しての地域差が大きいです。自治体の総合教育センターに地学関連の主事がいません。
・地学関連学会の連携が必要で、地学教育をやってみたいという教員を増やす必要があります。
・地学の開講数や教員を増やすには、理科の他分野の教員への働きかけが必要です。
・いろいろな分野から地学にアプローチする探求活動が必要です。ジオパーク協議会との連携は一つの方法です。
・高校教員は手一杯で十分対応できていません。学会の役割については期待が大きいです。
<感 想>
地震・津波による大災害、豪雨による洪水と土砂災害、火山災害など、地学教育の重要性は非常に高まっています。それに比べて、「インフラのインフラ」である地学教育が不十分です。
高校での地理総合が高い評価を受けています。そこでは、地形と生活の関係、気候の変化と暮らし、地球の環境と持続可能な社会、エネルギー・食料・人口問題、都市の問題、自然災害と防災などが取り上げられています。地質学と重なる部分があり、資源問題のように触れられていない問題もあります。共同で対応できる問題があると思います。
地質コンサルタント業に従事していた立場からは、大学での地質学では地質踏査を行って地質図をまとめ、地質の成り立ちを考慮して地質分布を三次元的に把握する能力を身に付けてほしいと思ってきました。しかし、大学教員からは「今はそんなことは無理だ」と言われました。
戦後すぐに発足した地学団体研究会(地団研)は、団体研究法で地域の地質を明らかにしてきました。このような場で鍛えられた学生は、地質調査業に従事した場合、大きな力を発揮します。さらに、地団研は発足当初から普及活動を重視してきました。今、どの学会も行っているアウトリーチ活動です。市民の中に地学を広めることを地道に行うことで、地学の魅力、重要性を知ってもらうことが今、強く求められていると感じます。
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