シンポジウム 北海道の地震火山現象2024/03/19 16:49

 2024316日(土)午後1時から4時まで、北大学術交流会館の会場とYouTubeで行われました。YouTubeで視聴しました。

 

 プログラムは以下のとおりです。

 

 開会挨拶

高橋浩晃氏:十勝根室沖のひずみ蓄積状況と超巨大地震

青山 裕氏:十勝岳の観測研究から見えてきた活動変化と内部構造

ポスター展示による研究紹介(休憩時間)

橋本武志氏:北海道の地下構造〜電磁気で見る地震・火山噴火の発生場

西村裕一氏:地質痕跡に基づく北海道における長期地震活動の特徴

質疑応答・閉会の挨拶

 

高橋浩晃氏

 北海道は海に囲まれています。

 

 日本海沿岸では1940年に積丹半島沖地震、1964年に新潟地震、1983年に日本海中部地震、1993年に北海道南西沖地震、2007年に新潟県中越沖地震、そして2024年の能登半島沖地震などが起きています。

 

 千島海溝では、2004年の釧路沖地震以来、大きな地震は起きていず、現在も静穏期が継続中です。たまたまです。

 古文書の記録としては厚岸町国泰寺に保存されている日観記に1843年の十勝沖地震の記録があり、1939(大正14)年以降は地震記録がそろっています。

 

 古文書に残っていない、より古い記録は、津波堆積物の調査で明らかにされています。浜中町の調査では6,000年前からの津波堆積物が確認されています。

 

 地震の発生確率は、簡単に言えば地震の起こりやすさです。

 政府の地震調査研究推進本部(地震本部)では根室沖でマグニチュード7.88.5程度の巨大地震が起きる確率は80%程度としています。千島海溝南部ではマグニチュード8.8の超巨大地震が起きる確率は740%で、同じ方法で計算すると南海トラフ地震の発生確率は20%となります。

 

 道東の太平洋側では津波被害が甚大になります。津波浸水想定では釧路川を津波が10㎞遡るとされています。

 

 千島海溝でどんなプレート境界地震が起きるかを明らかにするために海底の動きを観測しています。海底地殻変動観測です。

 まず、海底⾯に基準点となる標識を設置します。船などで基準点の直上まで行って船と基準点の距離を測定します。船の位置は衛星測位技術で計測します。これによって、ある時間でどの程度海底面が動いたかが分かります。現在、三つの基準点を設置して観測をしています。

 

 プレート間巨大地震では、2011年東北地方太平洋沖地震のように浅いところで広い範囲にわたってひずみがたまって超巨大津波を起こすタイプと2003年十勝沖地震のようにやや深いところにひずみがたまっていて巨大津波を起こさないタイプがあります。

 今までに得られたデータでは十勝根室沖では2011年タイプのひずみの溜まり方をしていると考えられます。十勝根室沖では全域が固着していて、地震が起きた場合の最大モーメントマグニチュードは9.3と想定しています。

 

<青山 氏>

 十勝岳は大雪山国立公園の一部であり、史跡名勝天然記念物であり、十勝岳ジオパークです。

 

 十勝岳で現在盛んに噴気を上げているのは前十勝の東にある62II火口です。

 十勝岳の近年の噴火は、1926年のマグマ水蒸気噴火と中央火口丘の崩壊による土石流の流下、1962年の準プリニー式噴火、1988年~1989年にかけての噴火です。この3回の噴火の間隔は36年と26年で、現在すでに最後の噴火から35年経過しています。

 

 十勝岳の火山活動はマグマ噴火の先行現象があります。昔は大正火口付近で硫黄の採掘を行っていました。噴火活動が活発になる前に熱活動が活発になる、硫黄が出る、体感地震がある、地表に亀裂ができるといった現象がありました。

 

 地表面の変動については1964年から気象庁がデータをそろえています。62-II火口では噴気が連続的になり一時衰退した後、2018年から再び活発になっています。


 望岳台と前十勝の距離を測定しています。それによると12年間で50㎝長くなっています。地下の浅いところで膨張していることを示しています。

 

 北大では2014m年から精密観測を行っています。その結果によると、20155月~7月にかけて山体の膨張が加速し山が盛り上がって割れ目が形成されました。

 2005年までは安定した活動で2006年から2018年は静穏になり2018年以後活発になっています。地磁気、温度、圧力を観測し解析を行いました。

 201911月には前十勝観測点で1ラジアンの地殻変動が観測されました。この変動の場所が移動しました。モデル計算をしたところ前十勝の地下500mで円盤状物質が収縮しているという結果となりました。

 

 2020914日には深いところの情報を得ることができました。海面下1㎞の深いところに変動源があると考えられます。

 富良野川の深さ2030㎞の位置で深部低周波が観測されています。

 

 マグマ噴火は切迫していません。火山ガスを衛星画像で観測した結果、1日数百トンの火山ガスが出ていることが分かりました。

 20227月には地温が80℃になりました。山体は安定していますが、変質作用が進行して山体を保持する強度が弱くなっている可能性があります。

 

<橋本武志氏>

 電磁気を利用した地下構造探査を行い地震発生・火山噴火の発生場を探っています。

 

 北海道の地質は約1500万年前に三つの地質体が合体して出来上がりました。現在は太平洋プレートが年8㎝の速度で移動し北海道を圧縮しています。活断層の走向は南北で、活火山は千島海溝、日本海溝に並行に分布しています。

 

 地下構造探査では地下の伝導度を測る電磁気探査を用います。マグマは電気を通しやすく、震源分布は電気の通りにくい、やや硬いところに集中しています。

 電磁探査の方法はマグネトテルリク法(MT法)で、磁場センサと電場センサを用いて自然の地磁気と地電流を観測します。測定器を設置して数週間、観測を続けます。

 

 北海道を東西に横切る測線で観測を行いました。

 

 支笏湖から日高山脈を横断して十勝川河口に至る測線では、地下50kmまで探査できました。結果は次のようでした。

・日高山脈の下は硬くてガチガチの状態です。

・日高山脈の西側に地震帯があります。

・石狩平野、十勝平野は厚い堆積層です。

・支笏カルデラの地下には電気の通りやすい塊があり、マグマがあると推定されます。

 

 増毛山地から富良野盆地を通り、十勝岳から中標津に抜ける測線で探査を行いました。結果は次のようでした。

・富良野盆地の下に柔らかい物質があります。

・富良野盆地では、深度2040kmに電気の通りやすい領域があります。この領域の周囲で深部低周波地震が起きています。

・十勝岳から大雪山にかけて巨大な低比抵抗物体があります。マグマの供給系だと推定されます。

・この物体の周りで深部低周波地震が発生していて、真上に大雪山系と十勝連峰があります。これはマグマ溜まりの元になるマグマレザーバで、粥状のマグマがあると考えられます。

 

<西村裕一氏>

 最初に、能登半島地震の津波痕跡調査に行ってきたので、その話をします。

 砂浜の海岸には浮遊物の帯ができています。これが津波の遡上した位置を示しています。遡上限界は5m以下でした。

 珠洲市の永橋漁港では地盤が2,2m隆起していました。サンゴ藻(サンゴモ)が付着している位置が地震前の海面です。

 気象庁の津波観測装置は津波で破壊されて観測不能になっていました。

 

 津波の履歴調査は自然現象と社会環境とに目配りが必要です。古文書や伝承は人の住んでいるところのデータです。北海道では1611年の津波の記録が最も古く、300年少し前までしか分かりません。そこで、津波堆積物の調査が役に立ちます。

 

 2011年の東北地方太平洋沖地震の津波堆積物調査を行いました。海の砂が仙台平野一面を埋め尽くしていました。この砂を掘ると1611年の津波堆積物、915年の十和田火山灰、869年の津波堆積物が確認できました。

 

 北海道・浦幌町の海岸から500mほど内陸で津波堆積物の調査をしました。ここは、人が住んだ痕跡がなく川の流路もありません。歴史時代の津波堆積物は、ここまで達していません。数千年間には海岸線の位置も変わりますし、砂丘の発達具合によっては津波が遮られます。

 ここでは、3,000年間に8回の巨大津波がありました。平均間隔は350400年です。2007年には500年間隔地震津波が想定されるようになりました。

 

 このような長期評価は決定論的評価で超大規模地震津波を想定しハザードマップを作り避難タワーなどを設置します。

 これに対して、確率論的評価ではさまざまなケースを考えて津波の全体像を明らかにし、小さな津波も評価します。これは保険料率の設定に利用されます。

 

 日本海沿岸は古い津波の記録がなく情報不足で確率論的評価になります。

 オホーツク海沿岸は津波被害の記録がなく、津波堆積物も確認されていません。

 

 注意が必要なのは根室海峡沿岸です。ここでは津波堆積物が見つかっています。


 千島海溝沿岸では、花咲に20m以上の津波が2,500年で7回襲っています。別海では2,500年で2回、国後島の泊で2,500年に3回の津波、色丹島で6回の津波がありました。

 

 襟裳岬から西では17世紀に巨大津波があり、高さ10mの段丘の上を500m浸入しました。1610年の慶長奥州津波の可能性があります。

 

<感 想>

 電磁気探査による地下深部の構造解明は非常に興味深いものでした。支笏カルデラのマグマ溜まり、大雪連峰・十勝連峰へのマグマ供給源と考えられる巨大な低比抵抗物質など、いつ爆発的噴火が起きるか分かりませんが、人類が記憶していない巨大な噴火が起きる可能性を否定できないデータのように思います。

 

 北大地震火山観測研究センターの一連の講演会は、非常に興味深い内容です。



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