研究発表会・講演会 北海道の山岳研究 ― 2024/03/09 09:02
2024年3月2日(土)午前9時20,分から午後5時30分まで、表記行事が北海道大学・低温科学研究所(低温研)で行われました。主催は、岩花 剛(北大北極センター・アラスカ大)、白岩孝行(北大低温研)、曽根敏雄(氷河・雪氷圏環境研究舎)の三氏でした。
今回は、降りしきる雪の中、低温研へ行って聴講しました。
北海道大学低温科学研究所
北大構内の北東隅の第二農場に接していて、林に囲まれています。
午前中は北大などの主に若手研究者の発表が8件、午後は超ベテランを含めた研究者の発表が4件ありました。
午前中の発表は、ナキウサギ、高山植物、登山道のモニタリング、地表面変動、永久凍土、周氷河地形についてでした。午後は、生態系、昆虫、植物、崩壊と氷河地形についての講演でした。
私が興味を持った幾つかの発表を紹介します.分かりにくい所が多々あります。
岩花 剛氏(北大・北極センター・アラスカ大):大雪山系の地表面変動
地表面が凍結すると土壌中にアイスレンズができ凍上します。これを繰り返すことにより地表面が変動します。
衛星InSAR(干渉合成開口レーダー)画像を使った結果では、尾根の西斜面では毎年10cmの流動が観測されました。上下方向では2-4cmの移動が観測されました。忠別岳では毎年3〜6cmの変動が観測されました。
地表変動は6月頃まで沈下し、その後変動はなく10月頃から上昇しはじめ、年変動量は2cmほどです。
大野 浩氏(北見工業大学):知床山岳域における気象観測・永久凍土探査
知床連山の三ッ峯と硫黄山近くの風衝地(露岩地)で2019年以来、観測を行っています。
気温は20℃から−20℃の間で変動し、年平均気温は硫黄山地点で−0.5℃、三ッ峯地点で0.0℃でした。
地表面温度は、岩塊斜面では1.0〜2.5℃です。サイシルイ岳の風衝地で行った電気探査結果では、深度1.5m以深で比抵抗が大きくなり、掘削によって氷が確認できました。
白岩孝行氏(北大・低温科学研究所):羊蹄山山頂における地温観測結果と周氷河環境
羊蹄山に山岳永久凍土があるかどうかの調査を行いました。大雪山のパルサは消滅しています。羊蹄山の山頂火口(父釜)の北西に北山を最高点とする母釜と子釜があります。この火口の風衝地である北西向き斜面で、気温、深度9mまでの地温、積雪を測定しました。この斜面にはアースハンモックがあり、深度2.2mまで凍結していることが分かりました。この氷は雨水によって融けてしまいます。
曽根敏雄氏(氷河雪氷圏環境研究舎):大雪山における周氷河地形
周氷河環境というのは、凍結作用が強く働く環境ことで、凍上と融解による隆起と沈下が繰り返し起きる場所です。このような環境では、沢を挟んで雪が積もる急な斜面と反対側のあまり雪が積もらない緩い斜面で非対称な谷ができます。
白雲岳の斜面では岩塊ローブが年2cmほど移動しています。北海岳と白雲岳の間の稜線には、凍結割れ目多角形土が分布しています。
石川 守氏(北大・環境院):大雪山永久凍土帯における淘汰構造土
構造土というのは、凍結融解作用によって形成される幾何学的な形をした地表面の模様や微地形です。多角形土、円形土、条線土などがあります。
これらの構造土の形成は、自己組織化モデルが適用できるという研究があります。
大雪山系の白雲岳では、冬は15〜20m/secの西風が吹き、深度1,5m以下に永久凍土があります。傾斜4°ほどの斜面に多角形土や条線土が形成されています。
高橋伸幸氏(北海学園大学):大雪山の崩壊地形と氷河地形
氷河地形は北大雪、表大雪、十勝岳に分布しています。
忠別岳の北に大規模な崩壊でできた岩塊流があります。全長約1,300m、幅約450mです。この岩塊流の上には1739年のTa-aテフラと1694年のKo-c2テフラが載っています。この頃には、この岩塊流が形成されたことになります。この大規模崩壊の原因は、地震ではないかと考えています。考えられるのは、500〜600年前とされる旭岳の噴火時の地震です。
平ヶ岳から南北に延びる尾根の東側に巨大地すべりがあります。この地すべり堆積物の上には、1739年のTa-aテフラ、1694年のKo-c2テフラ、西暦947年以前のB-Tmテフラが載っています。
平ヶ岳から白雲岳に向かう登山道の1860m付近から1875mにかけて二つの岩塊原が広がっています。このうちの上方の岩塊原はモレーンではないかと考えられます。
石狩岳の南の尾根を源流とする石狩沢上流(地理院地図ではペテトク沢)に四期の氷河跡が認められます。堆積物中の木片の炭素年代は4.7万年前で、含まれる礫には擦痕があります。また、氷縞粘土や氷河底面に堆積するロッジメントティルもあります。氷河があった時代の雪線高度は標高約1,050mで、この辺りは一面、雪に覆われていたと推定されます。花粉分析の結果からは5,000年前までは冷涼、2,000年前まで温暖、そして再び冷涼になったと推定されています。氷成堆積物や氷河が残した氷の塊の跡であるケトルホールもあります。
そのほか、銀泉台の径4mほどの巨礫やトムラウシにも氷河の痕跡があります。
<感 想>
北海道の山岳地域の植物、昆虫、周氷河地形、崩壊など様々な分野の話を聞くことができ、興味深い講演会でした。
北海道自然保護協会の会長をつとめた佐藤 謙さんが、20代の頃に踏査した日高の植物の写真をたくさん見せてくれたのは感激しました。50年経って日高の植生が変化したことを検討する貴重な資料だと思いました。
高橋氏の講演は私にとっては、かなり刺激的でした。爆裂火口の跡と考えられてきた斜面がカールではないかという話でした。石狩川源流部の氷河堆積物の存在や白雲岳の南斜面の岩塊原はモレーンの可能性があるというのも非常に興味深かったです。この岩塊原の場所は、北緯43度39分、東経142度54分40秒 付近の、なだらかな尾根だと思います。グーグルアースで見ると岩塊原が広がっているのが分かります。
周氷河環境で形成された斜面堆積物が災害を起こしています。それとは別に、気候変動に敏感に反応する高山地域での研究も重要だと感じました。