オフケ(御深井)星座マグカップ2021/11/01 20:58

 愛知県瀬戸市の瀬戸川沿いに鐘忠陶器店があります。この「街はずれの陶器屋さん」で売っているのが【鈴木克弥作】オフケ星座マグカップです。オフケは御深井(おふけい)とも言うみたいです。名古屋城の北西角にあった御深井丸で焼かれた灰釉系のやき物のことで、長石に木灰を混ぜてつくった釉薬を使っているそうです(美濃焼伝統産業会館のウェブサイトによる)。

 

星座マグカップ

写真 【鈴木克弥作】オフケ星座マグカップと丸皿

 左が外側に獅子座が描かれたマグカップです。中から見ると星が光っています。非常に印象的なカップで、長く使いたいと思います。右の丸皿は緑がかった色をしています。



本の紹介:憲法改正とは何だろうか2021/11/09 15:04


憲法改正とは

高見勝利、憲法改正とは何だろうか。岩波新書、20172月。

 

 202110月に行われた衆議院の総選挙で、自民党は261議席を獲得しました。

 それぞれ論点は違いますが、公明党、日本維新の会、国民民主党などが憲法改正の提言を行っています。自民党を含めた四党の議席は345議席となり、衆議院議員の三分の二の310議席を大きく上回ります。

 参議院では同じ四党の議席は169議席で、これも総議員245の三分の二、164議席を上回っています。

 

<本書の主な内容>

 

 この本は、第一章 憲法を変えるとはどういうことか、から始まって、第二章 憲法改正規定はどのようにして作られたか、第三章 憲法改正手続き法はどのように作られたか、第四章 憲法改正手続き法の何が問題か、第五章 憲法改正にどう向き合うか、となっています。

 

 「憲法は、普段に変化する政治や社会の現実に対応しながらも、それらの変化を貫いて、永続すべきことを志向する」のです。

 憲法が安定しているということは、国民に安心感を抱かせ、憲法を守ることで憲法の実際の働きを改善する経験の積み重ねが可能になります。日本国憲法は、このような「硬い」憲法です。

 一方、憲法の改正が困難である場合、正規の手続きによる改正をあきらめざるを得なくなることがあります。そうすると市民戦争の形を取ることもあり得ます。その一つの例が、アメリカの奴隷制度をめぐる南北戦争です。

 

 日本国憲法が成立する直接の契機は、1945814日のポツダム宣言の受諾です。日本は独立国としての主権を失い、連合国最高司令官、ダグラス・マッカーサーの制約の下に置かれることになりました。

 このような中で、日本国憲法の改正規定がどのような経過で決定されたかが第二章で詳しく述べられています。様々な意見が出されていたことが分かります。

 

 事態が急変したのは、194621日に毎日新聞が、憲法問題調査委員会(松本委員会)が作成した改正案をスクープしたことでした。この改正案があまりにも保守的であったため、総司令部が原案を作成し日本政府に提示することを23日に決定します。

 総司令部の最初の案(第一次試案)では、憲法制定後10年間は憲法改正を禁止し、その後も10年ごとに見直すとしていましたが、理論と実際の両面から検討され第二次試案では削除されました。そして、ほぼ現在の第96条と同じ案が最終草案(マッカーサー草案)として決定されます。

 「憲法改正案は国会が発議し、国民に提案して、その承認を経なければならない」というのは、国会の立法権とは違って憲法改正権は国民が持っている権力であるという考えに基づくものです。

 

 安倍元首相の「立憲主義」からは、「人権保障と並ぶ立憲主義憲法の持つもう一つの支柱である「権力分立制」がすっぽりと抜け落ちている」のです。

 安倍元首相が憲法改正を必要とする理由は、1)「現行憲法の制定過程に問題があった」こと、2)「制定から半世紀以上経過」して「時代にそぐわない条文」や「新しい価値観が生まれている中で見直していかなければならない条文」が出てきたこと、3)「新しい世紀を迎えて「我々の手で新しい憲法を作っていこう」という精神こそが新しい時代を切り開いていくこと」の三つです(「 」は本書のもの)。

 そして、「憲法は国民の未来、理想の姿を語るもの」であることが強調されます。新しい憲法を書こうとする精神が大事で、占領軍がつくった憲法を変えることが憲法改正の前提だと言います。この「精神」の内実は、首相を辞めた後も自主憲法制定に意欲を示した岸信介の「日本精神」です。

 安倍元首相の改憲「精神論」は、改憲を自己目的としたものです。安倍元首相は、改正内容、改正がもたらす「結果」を何ら考慮しない危険極まりない改憲論者です。

 

 以上が本書の主な内容です。

 

<感 想>

 今、自民党は四項目の改憲案を示しています。自衛隊を憲法に明記し第九条の効力を無くし、アメリカと海外で戦争できるようにすることがその眼目です。

 「安保法制」、「秘密保護法」、「共謀罪法」、「重要土地利用規制法」は、いろいろとカムフラージュしていますが、その底に流れているのはアメリカの戦争に自衛隊を参加させることが主要目的と考えます。

 朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争と、アメリカは戦後ずっとよその国に出て行って戦争を行ってきました。今、台湾をめぐって戦争の危険が生じています。これもアメリカの外での戦争です。日本は、南西諸島の自衛隊の基地を強化しています。軍事に対して軍事で対抗するのは、戦争が起きる可能性を高めるだけです。

 

 戦争を放棄し軍備や交戦権を認めない憲法を持つ日本に求められるのは、話し合いによる解決に努力することです。

 

 日本国憲法は「押し付け憲法」と言われますが、この本を読んで感じたのは、むしろアメリカと日本の合作によって完成した先進的な憲法というのが正解ということです。第一次世界大戦後の1928年に調印された不戦条約の系譜の憲法なのですから。

 大日本国憲法の発想から脱却し、新しい理念に基づく憲法制定に努力した先達の努力を正当に評価する必要があります。

 

 蛇足ですが、明治憲法では憲法改正は、勅命で議案を帝国議会に出し、衆議院と貴族院それぞれの3分の2の議員の出席の下で、出席議員の3分の2の多数で議決することとなっていました。45%の議員が賛成すれば憲法改正はできたのです。



京都大学の地球科学分野での研究不正問題について2021/11/09 21:12

 日本地質学会News,vol.24,No10,October,20218ページに、磯﨑行雄日本地質学会会長の表記の記事が載っています。インターネットで調べれば、研究不正を行った会員が誰なのか、研究現場がどこなのか分かります。

 

 この記事の中で磯﨑会長は「今回の不正論文では、当該者が地質調査業者に外注したデータについて改ざんがなされ、中には現場調査に関わった業者の方々の同意なしに共著者に加えられていたケースもあったようです。したがって、研究にご協力頂く地質調査業の会員の皆様にも、このような不名誉な事件に巻き込まれないよう注意を喚起したいと思います」と述べています。

 

 研究のためのボーリング調査は、専門の業者が協力して欠損のない良質なコアを採取する必要があります。業務として決して割の良い仕事ではありませんが、特に若い地質技術者にとっては、やりがいを感じる仕事です。産学が正常な関係で社会に貢献できるよう、心して業務に当たることが大事だと感じました。

 

なお、「日本地質学会News,vol.24,No10,October,2021」は、2021119日時点では閲覧できませんが、日本地質学会ホームページ>学術活動>出版物>News誌 で閲覧できるようになります。

 

 



本の紹介:日本人のための日本語文法入門2021/11/12 19:46


日本語文法入門

原沢伊都夫、日本人のための日本語文法入門。講談社現代新書、20129月。

 

 日本語には、日本人のための国語文法(学校文法)と日本語文法があり、この本では外国人に教えるための日本語文法について解説しています。

 

 日本語文の中心は述語です。この述語には動詞と形容詞と名詞の三つがあります。この述語の前に主語を始めとする成分が色々とくっついて日本語文が成り立っています。そして、各成分と述語との関係は、格助詞で示されます。

 

 目次は次のとおりです。

1章 学校で教えられない「日本語文法」

2章 「主題と解説」という構造

3章 「自動詞」と「他動詞」の文化論

4章 日本人の心を表す「ボイス」

5章 動詞の表現を豊かにする「アスペクト」

6章 過去・現在・未来の意識「テンス」

7章 文章を完結する「ムード」の役割

8章 より高度な分へ、「複文」

と続きます。

 

感想です。

 日本語文法入門として、かなり盛りだくさんです。

 著者は、自然中心の自動詞が多いのが日本語の特徴だと言います。長い歴史の中で育まれてきた文化に由来するのでしょう。例えば、JRの駅名には人の名前に由来するのは一つも無いそうです。北海道のアイヌ語に由来する地名も、その付近の自然の状態を表しているものがほとんどです。

 ボイス、アスペクト、テンス、ムードなど、習得しなければならない知識が一杯です。

 

 

 


防災・減災に向けた産総研の地震・津波・火山研究2021/11/19 14:10

 産業技術総合研究所の第34回地質調査総合研究センターシンポジウム「防災・減災に向けた産総研の地震・津波・火山研究−東日本大震災から10年の成果と今後−」が、20211112日(金)午前10時から昼休みを挟んで午後3時半まで、オンラインで開かれました。

 

 講演の題目と講演者は下のとおりです。このほかにポスター発表が9件あり、簡単な口頭説明がありました。

 

1      我妻 崇:活断層の古地震調査の進展と活断層データベースの高精度化

2      近藤久雄:長大活断層の連動性評価の研究−地殻応力場と断層変位計算−

3      加瀬祐子:長大活断層の連動性評価の研究−地殻応力場と数値シミュレーション−

4      宍倉正典:地形・地質・資料に基づく海溝型巨大地震の評価

5      松本則夫:南海トラフ地震の短期予測研究の現状と産総研の役割

6      ポスター・ショートトーク

7      古川竜太:火山地質図の整備と国土強靱化のための新たな取り組み

8      下司信夫:大規模噴火はどのようにはじまり進行するか:地質学的事例研究から見る噴火推移パターンの多様性

9      加藤孝志(気象庁):地震・火山防災対策におけるGSJへの期待

10   児玉博史(鹿児島市):桜島の火山防災対策と大量軽石火山灰対応に必要な研究・対策

 

 幾つか紹介します。

 

我妻 崇:活断層の古地震調査の進展と活断層データベースの高精度化

 活断層による古地震調査は、1995年の兵庫県南部地震までは西日本を京都大学の防災研究所、東日本を東京大学の地震研究所が行っていました。当時の地質調査所は阿寺断層、丹那断層(1930年北伊豆地震)、郷村断層(1927年北丹後地震)などの調査を行っていました。兵庫県南部地震を契機に地震調査研究推進本部(地震本部あるいは推本)が設立され、さらに全国地震動予測地図の作成、地域評価のための活断層調査が進められました。地震本部では主要活断層の長期評価、海溝型地震の長期評価を発表しています。

 長期評価を行ってから初めて既存の活断層が活動したのが、2016年の熊本地震です。

 課題としては、平均活動間隔(R)をどれだけ正確に求めるか、お互いに5km離れているセグメントは別セグメントとしているがそれで良いのか、活動履歴が異なるセグメントをどう評価するかなどがあります。

活動確率の計算方法は、平均活動間隔と最新活動時期から求めるBPTBrownian Passage Time)分布モデルと平均変位速度から求めるポアソン過程モデルがあります。

 地震の揺れによる構造物の被害のほかに、活断層が構造物直下に現れた場合の構造物のずれの問題もあります。

 活断層データベースの地形図を現在の20万分の1から5万分の1にすることなどが課題です。

 

近藤久雄:長大活断層の連動性評価の研究−地殻応力場と断層変位計算−

 1891(明治二十四)年の濃尾地震から2016(平成二十八)年まで28個の内陸地震が起きていて、そのうち8割が活断層を震源としています。平均56年間隔で内陸地震が発生しています。

 糸魚川-静岡構造線活断層帯は、発生確率30%とされています。松本市東部の牛伏寺(ごふくじ)断層などの断層群と諏訪湖周辺の南部の断層が連動するかどうかが問題です。

 2014年の長野県北部地震では、小谷(おたり)から白馬(はくば)までの神城(かみしろ)断層が活動しました。この断層は、1714年、841年あるいは762年に東側上昇の低角断層として活動しています。1.2万年前以降7回の地震が発生しています。神城断層は、北の小谷村から南の大町市までとされていますが、今回の地震で活動したのは北半分でした。

 

加瀬祐子:長大活断層の連動性評価の研究−地殻応力場と数値シミュレーション−

 長大活断層の連動性を評価するために、動的破壊シミュレーションを用いました。

 2014年長野県北部地震などで断層形状、応力場、地震時の変位量、活動履歴・活動間隔をもとにシミュレーションを行いました。

 微小地震や余震の解析により応力場の推定を行いました。長野県北部は北西-南東方向に圧縮軸を持つ応力場にあると推定されます。糸魚川-静岡構造線断層帯は、中北部の地震の応力場は北北東-南南西方向で直線的です。

 セグメントの連動性の検討では、糸魚川-静岡構造線断層帯は、中北部区間から中南部区間への連動が起こり得るという結果が得られました。北部区間も含めた連動を考慮する必要があります。

 

糸静線

1 糸魚川-静岡構造線断層帯の区間分け

(地震調査研究推進本部 地震調査委員会、2015

 神城断層は、北の小谷村から大町市までの区間です。2014年の長野県北部地震では小谷村から白馬村の区間が活動しました。

 小谷村から明科までが北部区間、明科から諏訪湖の南西を通って茅野市までが中北部区間、諏訪湖の北東の下諏訪町から富士見町と北杜市の境界付近までが中南部区間、その南は富士川西岸の早川町までが南部区間です。南部区間の南は、身延町から富士川河口断層帯になります。

 

宍倉正典:地形・地質・資料に基づく海溝型巨大地震の評価

 海溝型巨大地震の長期予測は、海岸地形に残っている地殻変動(段丘)、津波堆積物、古文書を調査し、再来間隔、規模を推定します。そのデータに合うような震源のモデル化を行います。

 日本海溝南部は、2011年の東北地方太平洋沖地震ではプレート間のすべりが発生しなかった地域で、かつ太平洋プレート、フィリピン海プレート、北米プレートが重なっています。

 津波堆積物調査では、九十九里浜でこれまで見つかっていなかった千年前の津波堆積物を発見しました。

 千島海溝は、巨大地震の発生がかなり切迫しています。最近の研究で海岸線の変動を考慮に入れた研究が行われ浸水範囲の修正が行われました。

 相模トラフの地震については、房総半島先端付近の海岸段丘の研究から津波の履歴が明らかにされています。

 南海トラフについては断層固着域やすべりの時空間推移が明らかにされつつあります。数百年〜千年程度の津波堆積物や古文書の記録があり、1946年の昭和南海地震・1944年の昭和東南海地震、1854年の安政南海地震・安政東海地震、1707年の宝永地震というサイクルで大地震が起こる可能性があります。

 

南海トラフ地震2

2 南海トラフで過去に起きた大地震の震源域の時空間分布(石橋,2002をもとに編集

・白鳳(天武)地震(684 )以降の地震を示している。 

・図中イタリック体で表した数字は、地震の発生間隔()を示す。 

・震源域は地形の境界(都井岬、足摺岬、室戸岬、潮岬、大王崎、御前崎、富士川)で東西方向に区切っている。 

・黒の縦棒は、南海と東海の地震が時間差(数年以内)をおいて発生したことを示す。 

(地震調査研究推進本部 地震調査委員会、2013、南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)の2

 


松本則夫:南海トラフ地震の短期予測研究の現状と産総研の役割

 南海トラフ地震は90年〜150年間隔で発生しています。プレート間の固着域で破壊が発生すると巨大地震が発生します。それとは別に「ゆっくりすべり」が発生しています。「ゆっくりすべり」では微小地震が発生しますが、ノイズとの区別が難しいです。

 「ゆっくりすべり」の新規観測点を17点設けました。1観測点に600m、200m、30mの深さの井戸を掘って歪計、傾斜計、地震計、水温計、水位計などを設置しています。既存の井戸に新たに開発した小口径歪計を設置しています。既存井戸にパッカーを設置して特定深度の地下水位変化を観測しています。

 

南海トラフ地震

南海トラフ補足

3 南海トラフの「長期的ゆっくりすべり」・「短期的ゆっくりすべり」・「深部低周波地震(微動)」(気象庁、20211119日閲覧)

 

<感 想>

 地質コンサルタントに勤めていた頃、津波堆積物調査や活断層調査を幾つか行いました。

 神城断層のトレンチで見事な低角逆断層が出たときは本当にびっくりしました。伊那谷でも幾つかの活断層トレンチを行いました。

 糸魚川-静岡構造線断層帯では中北部の牛伏寺断層がどんな活動をするかが気になる所です。というのは、諏訪湖北岸にある国道142号の湖北トンネルが糸静線の中南部区間の派生断層を横断している可能性があります。連動して動いた場合、トンネルがダメージを受ける可能性を否定しきれないのです。

 津波堆積物調査は、北海道東部の太平洋岸の調査を行いました。いくつも見事な津波堆積物をトレンチで見ました。厚岸町の国泰寺の前で行ったトレンチあるいは根室市のガッカラ浜の海岸の小さな崖に出ている津波堆積物などが印象的です。社会生活への影響という点では、南海トラフ地震による津波が重要ですが、北海道東部も巨大地震と津波の発生が切迫しています。釧路から根室に向かう道東自動車道は巨大津波を考慮して路線を選定しています。

 

 地震・津波・火山の活動による災害、気候変動による豪雨災害や土砂災害など様々な問題が同時に発生しています。構造物によるだけでなく総合的な視点からの対策が求められる時代になっていることを痛感します。