防災・減災に向けた産総研の地震・津波・火山研究2021/11/19 14:10

 産業技術総合研究所の第34回地質調査総合研究センターシンポジウム「防災・減災に向けた産総研の地震・津波・火山研究−東日本大震災から10年の成果と今後−」が、20211112日(金)午前10時から昼休みを挟んで午後3時半まで、オンラインで開かれました。

 

 講演の題目と講演者は下のとおりです。このほかにポスター発表が9件あり、簡単な口頭説明がありました。

 

1      我妻 崇:活断層の古地震調査の進展と活断層データベースの高精度化

2      近藤久雄:長大活断層の連動性評価の研究−地殻応力場と断層変位計算−

3      加瀬祐子:長大活断層の連動性評価の研究−地殻応力場と数値シミュレーション−

4      宍倉正典:地形・地質・資料に基づく海溝型巨大地震の評価

5      松本則夫:南海トラフ地震の短期予測研究の現状と産総研の役割

6      ポスター・ショートトーク

7      古川竜太:火山地質図の整備と国土強靱化のための新たな取り組み

8      下司信夫:大規模噴火はどのようにはじまり進行するか:地質学的事例研究から見る噴火推移パターンの多様性

9      加藤孝志(気象庁):地震・火山防災対策におけるGSJへの期待

10   児玉博史(鹿児島市):桜島の火山防災対策と大量軽石火山灰対応に必要な研究・対策

 

 幾つか紹介します。

 

我妻 崇:活断層の古地震調査の進展と活断層データベースの高精度化

 活断層による古地震調査は、1995年の兵庫県南部地震までは西日本を京都大学の防災研究所、東日本を東京大学の地震研究所が行っていました。当時の地質調査所は阿寺断層、丹那断層(1930年北伊豆地震)、郷村断層(1927年北丹後地震)などの調査を行っていました。兵庫県南部地震を契機に地震調査研究推進本部(地震本部あるいは推本)が設立され、さらに全国地震動予測地図の作成、地域評価のための活断層調査が進められました。地震本部では主要活断層の長期評価、海溝型地震の長期評価を発表しています。

 長期評価を行ってから初めて既存の活断層が活動したのが、2016年の熊本地震です。

 課題としては、平均活動間隔(R)をどれだけ正確に求めるか、お互いに5km離れているセグメントは別セグメントとしているがそれで良いのか、活動履歴が異なるセグメントをどう評価するかなどがあります。

活動確率の計算方法は、平均活動間隔と最新活動時期から求めるBPTBrownian Passage Time)分布モデルと平均変位速度から求めるポアソン過程モデルがあります。

 地震の揺れによる構造物の被害のほかに、活断層が構造物直下に現れた場合の構造物のずれの問題もあります。

 活断層データベースの地形図を現在の20万分の1から5万分の1にすることなどが課題です。

 

近藤久雄:長大活断層の連動性評価の研究−地殻応力場と断層変位計算−

 1891(明治二十四)年の濃尾地震から2016(平成二十八)年まで28個の内陸地震が起きていて、そのうち8割が活断層を震源としています。平均56年間隔で内陸地震が発生しています。

 糸魚川-静岡構造線活断層帯は、発生確率30%とされています。松本市東部の牛伏寺(ごふくじ)断層などの断層群と諏訪湖周辺の南部の断層が連動するかどうかが問題です。

 2014年の長野県北部地震では、小谷(おたり)から白馬(はくば)までの神城(かみしろ)断層が活動しました。この断層は、1714年、841年あるいは762年に東側上昇の低角断層として活動しています。1.2万年前以降7回の地震が発生しています。神城断層は、北の小谷村から南の大町市までとされていますが、今回の地震で活動したのは北半分でした。

 

加瀬祐子:長大活断層の連動性評価の研究−地殻応力場と数値シミュレーション−

 長大活断層の連動性を評価するために、動的破壊シミュレーションを用いました。

 2014年長野県北部地震などで断層形状、応力場、地震時の変位量、活動履歴・活動間隔をもとにシミュレーションを行いました。

 微小地震や余震の解析により応力場の推定を行いました。長野県北部は北西-南東方向に圧縮軸を持つ応力場にあると推定されます。糸魚川-静岡構造線断層帯は、中北部の地震の応力場は北北東-南南西方向で直線的です。

 セグメントの連動性の検討では、糸魚川-静岡構造線断層帯は、中北部区間から中南部区間への連動が起こり得るという結果が得られました。北部区間も含めた連動を考慮する必要があります。

 

糸静線

1 糸魚川-静岡構造線断層帯の区間分け

(地震調査研究推進本部 地震調査委員会、2015

 神城断層は、北の小谷村から大町市までの区間です。2014年の長野県北部地震では小谷村から白馬村の区間が活動しました。

 小谷村から明科までが北部区間、明科から諏訪湖の南西を通って茅野市までが中北部区間、諏訪湖の北東の下諏訪町から富士見町と北杜市の境界付近までが中南部区間、その南は富士川西岸の早川町までが南部区間です。南部区間の南は、身延町から富士川河口断層帯になります。

 

宍倉正典:地形・地質・資料に基づく海溝型巨大地震の評価

 海溝型巨大地震の長期予測は、海岸地形に残っている地殻変動(段丘)、津波堆積物、古文書を調査し、再来間隔、規模を推定します。そのデータに合うような震源のモデル化を行います。

 日本海溝南部は、2011年の東北地方太平洋沖地震ではプレート間のすべりが発生しなかった地域で、かつ太平洋プレート、フィリピン海プレート、北米プレートが重なっています。

 津波堆積物調査では、九十九里浜でこれまで見つかっていなかった千年前の津波堆積物を発見しました。

 千島海溝は、巨大地震の発生がかなり切迫しています。最近の研究で海岸線の変動を考慮に入れた研究が行われ浸水範囲の修正が行われました。

 相模トラフの地震については、房総半島先端付近の海岸段丘の研究から津波の履歴が明らかにされています。

 南海トラフについては断層固着域やすべりの時空間推移が明らかにされつつあります。数百年〜千年程度の津波堆積物や古文書の記録があり、1946年の昭和南海地震・1944年の昭和東南海地震、1854年の安政南海地震・安政東海地震、1707年の宝永地震というサイクルで大地震が起こる可能性があります。

 

南海トラフ地震2

2 南海トラフで過去に起きた大地震の震源域の時空間分布(石橋,2002をもとに編集

・白鳳(天武)地震(684 )以降の地震を示している。 

・図中イタリック体で表した数字は、地震の発生間隔()を示す。 

・震源域は地形の境界(都井岬、足摺岬、室戸岬、潮岬、大王崎、御前崎、富士川)で東西方向に区切っている。 

・黒の縦棒は、南海と東海の地震が時間差(数年以内)をおいて発生したことを示す。 

(地震調査研究推進本部 地震調査委員会、2013、南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)の2

 


松本則夫:南海トラフ地震の短期予測研究の現状と産総研の役割

 南海トラフ地震は90年〜150年間隔で発生しています。プレート間の固着域で破壊が発生すると巨大地震が発生します。それとは別に「ゆっくりすべり」が発生しています。「ゆっくりすべり」では微小地震が発生しますが、ノイズとの区別が難しいです。

 「ゆっくりすべり」の新規観測点を17点設けました。1観測点に600m、200m、30mの深さの井戸を掘って歪計、傾斜計、地震計、水温計、水位計などを設置しています。既存の井戸に新たに開発した小口径歪計を設置しています。既存井戸にパッカーを設置して特定深度の地下水位変化を観測しています。

 

南海トラフ地震

南海トラフ補足

3 南海トラフの「長期的ゆっくりすべり」・「短期的ゆっくりすべり」・「深部低周波地震(微動)」(気象庁、20211119日閲覧)

 

<感 想>

 地質コンサルタントに勤めていた頃、津波堆積物調査や活断層調査を幾つか行いました。

 神城断層のトレンチで見事な低角逆断層が出たときは本当にびっくりしました。伊那谷でも幾つかの活断層トレンチを行いました。

 糸魚川-静岡構造線断層帯では中北部の牛伏寺断層がどんな活動をするかが気になる所です。というのは、諏訪湖北岸にある国道142号の湖北トンネルが糸静線の中南部区間の派生断層を横断している可能性があります。連動して動いた場合、トンネルがダメージを受ける可能性を否定しきれないのです。

 津波堆積物調査は、北海道東部の太平洋岸の調査を行いました。いくつも見事な津波堆積物をトレンチで見ました。厚岸町の国泰寺の前で行ったトレンチあるいは根室市のガッカラ浜の海岸の小さな崖に出ている津波堆積物などが印象的です。社会生活への影響という点では、南海トラフ地震による津波が重要ですが、北海道東部も巨大地震と津波の発生が切迫しています。釧路から根室に向かう道東自動車道は巨大津波を考慮して路線を選定しています。

 

 地震・津波・火山の活動による災害、気候変動による豪雨災害や土砂災害など様々な問題が同時に発生しています。構造物によるだけでなく総合的な視点からの対策が求められる時代になっていることを痛感します。