本の紹介:まちがえる脳 ― 2024/02/14 19:06
櫻井芳雄、まちがえる脳。岩波新書、2023年4月。
2024年1月2日、羽田空港で日航機と海上保安庁の飛行機が衝突する事故が起きました。この事故にもヒューマンエラーが絡んでいる可能性があります。
著者は「これまでにわかっていることは、人に働きかけ、人の集中力や行動を変えようとする方法には限界があるということである。(中略)最も効果的な方法は、工学的な対策、つまり装置や道具の工夫であるという。」と述べています。
以下、本書の概要の概要です。
脳のニューロンはシナプスを介して信号を受け取り、それが伝わっていきます。しかし、この信号伝達は30回に1回しか成功しないという頼りないものです。脳は、この伝達の低確率をニューロン集団の同期発火で補っています。つまり、脳は絶え間なく自発的発火を繰り返していて、リズムを持った揺らぎとして現れます。このような状態にある脳は、まちがえることは避けられません。
記憶がどうやって形成されるのか、ニューロンとグリア細胞が連なった神経回路の隙間にある間質液を通して情報が伝わっているらしいこと、などが説明されます。
脳は精密機械ではなく、神経回路の動作をデジタル信号の伝達だけに例えるのは不十分です。
なんといっても、心が脳の活動を制御できることが分かってきました。脳を制御する心が同じ脳から生じているにもかかわらず、制御される側の脳からは独立して働きうるのです。ニューロンの発火を自ら増減させることができるのです。
麻酔などによって特殊な状況に置かれた脳ではなく、生きている脳の活動について具体的で本質的な疑問が幾つもあります。例えば、
・脳が自発的に活動できる理由
・脳のなかの情報はどのように存在しているのか
・脳の情報伝達に基づく情報処理とは、どのような活動で行われているのか
といったことです。
<感 想>
脳の活動を電気信号の伝達としてだけ捉えることの間違いが強調されています。特に、脳では自らを制御する心が独立に働くというのは、人間を理解する上で非常に重要なことだと思います。
AIと人間の脳との違い、左脳と右脳の役割分担はどうなっているか、女性の脳と男性の脳の違いはあるのか、脳には使われていない部分がたくさんあるのか、などについて具体的に述べられています。
このような優れた機能を持つ脳がどうして生まれたのか、畏怖の念さえ持つようになる内容です。
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