第62回 試錐研究会2024/02/22 11:56

 2024219日(月)午後1時から5時半まで、札幌サンプラザの会場とzoomで表記の講演会が開かれました。

 全体の進行役は資源エネルギー部の田村 慎氏、講演会の座長は資源エネルギー部の鈴木隆広氏でした。


 講演資料集は、エネルギー・環境・地質研究所のウェブサイトからダウンロードできます。

 

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プログラム

【開会の挨拶】

 ☆北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所所長 大津 直氏

 

【特別講演】

 ☆点群による地形画像とコアスキャナ技術が拓く地形・地質情報のDX化 東北大学災害科学国際研究所 特任教授 原口 強氏

 

【一般講演】

 ☆高品質ボーリングコアを用いた周氷河堆積物の観察および解析 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所 研究主任 小安浩理氏

 ☆高品質・定方位ボーリングについて 有限会社ACE試錐工業 取締役技術部長 福間 哲氏

 ☆地下水熱(オープンループ方式)利用の現状と課題 株式会社アクアジオテクノ技術部 資源開発グループ 課長 岩佐 大氏、地盤環境グループ 課長 若狭靖之氏

 ☆道民の暮らしと産業振興を支えてきた掘削の歴史とその技術 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所 専門研究員 高橋徹哉氏

 

【閉会の挨拶】北海道地質調査業協会 理事長 千葉新次氏

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<原口氏>

 はじめに能登半島地震の概要を話しました。

 

 本題は、まず地形画像診断です。

 2003年の三陸地震で地上レーザ測量を行いました。地震によって陥没した地形が検出できました。

 2004年の層雲峡、天城岩の崩落壁面をレーザ測量で三次元計測しました。岩盤の引張り強度を越えた力が働き崩壊が発生したと推定しました。

 カンボジアのアンコールワット遺跡、マヤの古代遺跡などのレーザ測量で成果を上げました。

 

 地形判読から発展させて地形画像解析を行っています。

 航空レーザ測量による点群を取得し画像化します。最近はUAVを使ったレーザ測量により数時間で地形データを得ることができます。この地形図を持って現地調査を行い、地形のつながりを確認し、ボーリング位置の選定などを行います。

 

 耶馬溪の斜面崩壊では樹木と地表線の断面図を作成しました。樹木が山側に倒れていることがわかり、崩壊の動きを捉えることができました。

 

 グリーンレーザを使うことにより河川や湖の底の地形の点群データを取得できます。点群と段彩図を併用して河川の網状流路を捉えました。

 

 202173日に発生した熱海市の土石流現場では、2009年の国交省の点群データ、2019年の静岡県のデータ、崩壊発生後の2021年のドローンによるデータを使い、崩壊前後の地形変化がわかりました。崩壊地の判読だけでなく、赤外線映像を使って水が地表をどう流れているかを掴むことができました。

 

 画像解析は、データの重ね合わせができること、現場の担当者に理解しやすいこと、事実を表すデータ(ファクトデータ)であること、が特徴です。

 

 ボーリングコアの画像解析は、肉眼でのコア観察に比べて個人差が出にくい、過去のコアの再判定が可能でコアの劣化過程を見ることができるといった利点があります。また、膨大な量のコアの保管場所を必要としません。

 

 ワゴン車に積めるほどのスキャナ装置を作成しました。

最初はコア1mごとにスキャンしていましたが、コア箱ごと撮影できるようにしました。スキャンにより礫などの内部の含有物がわかりX線解析では見えない構造が見えてきます。同時にラインカメラで画像を得ることにより歪のないコア写真が撮れるほか、七つの画像を取得できます。

 

<小安氏>

 高品質コアによって周氷河堆積物中の粒子の三次元解析などコア解析を行いました。

 礼文島の東海岸には平滑な周氷河斜面があります。以前は災害が少なかったのですが、最近、豪雨による土砂災害が発生しています。

 

 周氷河堆積物はシルトと砂礫の縞模様がある角礫主体の淘汰の悪い堆積物です。これまで、ボーリングではうまくコアを採取できませんでした。高品質ボーリングで良好な試料が得られるようになり、肉眼観察+XCT画像+樹脂固化薄片による顕微鏡観察が行えます。

 

 まず肉眼観察を行い、道総研のXCTスキャナによる撮影を行い、樹脂固化した薄片観察を行いました。

画像粒子解析によって含礫率を出し、二値画像で粒子の量比を測定し体積含水率を出しました。粒子を近似楕円で表し軸比を出してファブリックを求めました。

 

 原位置での透水試験はある区間での透水係数を求めることになりますが、高品質コアを使って室内透水試験を行う場合、層相ごとに試験を行うことができます。

 

 CUbarの三軸圧縮試験を行いました。間隙水圧により有効応力が大幅に低下することがわかりました。緩く詰めた砂に相当し、粘性土に似た挙動を示しました。

 

<福間氏>

 有限会社ACE試錐工業が考える高品質ボーリングは、送水量、水圧、ビット荷重、回転数、掘削速度の管理によって掘削し、不攪乱で採取率100%のコアを採取します。いわゆる泡掘りのように気体を使わず掘削流体を使用する工法です。

 

 2007年に定方位ボーリングを開発しました。

 このボーリングの考え方は、掘削中はビットの先の地盤とコアチューブ内のコアは繋がっているということです。掘削したら内管と外管を固定することによって定方位コアを採取します。

 (この後、内管と外管の固定方法についての実演がありました)

 

 高品質と定方位のボーリングで採取したコアで層理面、亀裂、断層、すべり面の情報を得ることができます。実績としては、忠別ダム、南富良野町、礼文島、豊平川の河川堆積物などのボーリングがあります。

 

<岩佐氏および若狭氏>

 外気温と地中温度(地下水温度)の差を利用して地中熱を取り出すのが地下水熱利用です。札幌の場合、地下水の温度は年間を通じて9℃程度ですので、夏も冬も温度差が生じます。熱を取り出す方式には、クローズドループ方式とオープンループ方式があります。

 

 ここで紹介するのは、帯水層から地下水をくみ上げて熱を取りだし、その水を帯水層に戻すオープンループ方式です。揚水井戸と還元井戸が必要で、目詰まりなどの機械設備障害を減らすには水質が大事です。

熱源の性能評価では、エアコンが程度であるのに対し、7.3という高い効率を示しています。

 地下水をくみ上げて直接熱を取り出すので、地下水障害に対する検討が必要です。帯水層の地下水低下、地盤沈下、配管の目詰まり、場所によっては地下水の塩水化などについて検討します。

 帯水層の選択には井戸データベースを活用し、地下水低下が起こらない安全揚水量を求めます。10年後の地下水低下量を予測します。

 

 アクアジオテクノの新社屋は、オープンループ方式で帯水層に蓄熱して地下水熱を利用しているほか太陽光発電も行っています。照明制御とフロアごとのヒートポンプを備えてZEB(ゼロエミッションビル)を実現しています。

 井戸管理は水位、水量、水温、水質を管理しています。

 

<高橋氏>

 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所は、地質調査と資源調査を主な目的として1950(昭和25)年に設立されました。

 

 地下資源調査所設立前の温泉調査としては、1924(大正13)年に鹿部間欠泉の調査、1926(大正元)年に奇跡の湯といわれた豊富温泉の調査が行われました。豊富温泉は石油掘削井戸から温泉が湧出し、天然ガスを利用しています。瀬戸瀬温泉や壮瞥温泉も、この頃調査を行っています。

 石狩低地では水溶性の天然ガスが開発されました。これらの調査は1960年代半ばまでです。

 

 1964年に試錐研究会が始められました。

 鹿部地区は地熱の農業利用の先駆けとなりました。層雲峡の白水地区では地熱調査が行われ、5本の井戸が掘られましたが噴気には至りませんでした。ここは、環境庁が地熱開発を許可しませんでした。

遠別のガス田、羅臼の地熱開発なども行われました。

 

 地下水調査、地盤沈下調査、水資源やセラミック資源の調査、鉱床調査、温泉資源調査などが行われました。1982(昭和57)年に熊石、1984(昭和59)年に浜益、壮瞥の温泉調査を行いました。

1984年には1500m掘削できる試錐機が導入され、1995年にはスーパーアームロボで掘削管の着脱が油圧機械でできるようになりました。デジタル検層器やボアホールカメラも使われるようになりました。

 

 地熱の農業利用では森町が先進地です。

 弟子屈では温泉暖房が行われ、モニタリングシステムが稼働しています。地熱による小規模発電も行われようとしています。

小清水町では温泉の多目的利用を行い、6源泉のモニタリングを行っています。

 洞爺湖温泉は温泉の湧出量が減少傾向にありました。特に2000年の有珠山噴火以来、深刻になっていました。1985年に四十三山での温泉開発は不発に終わりました。1987年に浅部に高温の温泉水があることがわかりました。2013年に地熱構造試錐井を掘削したところ、深度800m172℃の温泉を得ることができました。バイナリー発電を行い、その後、温泉水として配っています。

 礼文島では2006年に3カ所の温泉候補地を決め、2007年に深度1303mから50℃の温泉水を毎分200リットル湧出させることに成功しました。

 函館市の湯の川温泉では2003年から2006年にかけて泉源の集約化などを行いました。

 

 掘削技術の進歩では、苫小牧の勇払油ガス田の開発があります。ここで使われたボーリング機械は、掘削深度5,000mが可能で、深部での水平掘削もできます。

 チリのサンホセ鉱山の落盤事故では救出用の大口径ボーリングを掘削しました。

 

 トップドライブシステム、耐摩耗性・耐衝撃性に優れたPDCビット、ダウンホールモーター(DHM)を使った傾斜掘削などの技術が開発されています。

 

 二酸化炭素を地中に貯留する二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)や二酸化炭素を燃料や化学原料として有効活用する技術(CCUS)などでもボーリング技術の進歩が貢献しています。

 メタンハイドレイトの開発にもボーリング技術が必要です。

 

 今後は、掘削コストを低くすること、温泉の適正開発、メンテナンスを考えて大口径での温泉開発を行うこと、地下水の適正開発と利用、防災井戸の設置、高品質ボーリング技術の応用などがあります。

 地下熱利用を進めることや掘削技術者を育成することなどの課題があります。

 

<感 想>

 高品質ボーリングの威力は絶大です。ACE試錐工業が採用している気体を含まない掘削流体を使っての掘削は、採取試料を使っての各種室内試験、特に化学分析などに必須です。コアスキャナ技術が威力を発揮するのも高品質ボーリングの試料があってこそといえます。

 

 私が地質コンサルタント会社に入社した当時は、破砕された岩盤は礫状のコアになったり、砂礫はほとんど試料が取れなかったりでした。特に難しかったのは、上部蝦夷層群の付加体堆積物です。北海道のボーリング業者は、金属鉱山や石炭鉱山の試錐部の仕事をしていた人たちが多く、コアの品質にはあまり注意していなかったように思います。

 

 当時でも、本州には送水量と給圧を微妙に調整して綺麗なコアを採取するボーリング業者がいました。北海道の業者の人に勉強に行くよう助言して、何年か本州の会社で修行した人もいました。

 

 地中熱の利用は、今後も発展が期待できる分野です。

 同時に、熱水で直接タービンを回さないバイナリー発電は、もっと普及して良い分野です。

 2009年にアラスカへオーロラを見に行った時、チェナ温泉(Chena Hot Springs)でバイナリー発電施設などを見学したことがありました。日本から来ている職員もいて、日本でもバイナリー発電をもっと利用すれば良いのにと言っていたのが印象的でした。温泉水の温度が80℃あれば発電でき、使った温泉水は暖房や浴場で使うことができます。

 弟子屈町ではバイナリー発電を検討していますが、寒冷地であるため発電が不安定になるという課題があるようです。

 

バイナリー発電機

 アラスカ・チェナ温泉のバイナリー発電機

 

 全体として、非常に興味深い講演会でした。