北海道応用地質研究会 令和5年度技術講習会2024/02/11 10:30

 202429日(金)1350分から1700分まで、令和5年度技術講習会・技術研修会「周氷河斜面の特徴と調査について」が、札幌市の「かでる27」で開かれました。主催は、(一社)日本応用地質学会北海道支部、北海道応用地質研究会、(一社)北海道地質調査業協会でした。zoomで視聴しました。

 

 石丸 聡氏(エネルギー・環境・地質研究所):周氷河斜面の特徴と調査について

 倉橋稔幸(としゆき)氏(寒地土木研究所):道路土工における周氷河斜面


礼文島東海岸
  礼文島東海岸の段丘面と背後の緩斜面(2015527日撮影)

 海岸に面した急崖とその背後の緩やかな斜面とさらに背後の傾斜20度程度の平滑な斜面がセットになっています。急崖の途中から崩壊しました。

 

 講演の概要を記します。


<石丸氏>

 エネルギー・環境・地質研究所では「周氷河斜面調査マニュアル」を発行する準備をしています。2024(令和6)年度には発行したいと考えています。

 

1.   周氷河斜面とは

 まず、周氷河斜面とは何かですが、一般的には氷河の周辺に分布する凍結破砕作用が卓越する地域に分布している斜面です。尾根は凍結融解作用によって丸みを帯び、斜面の形態は傾斜が20°〜30°の平滑な斜面です。この斜面では、面的な凍結破砕作用によって生産された土砂が緩慢に斜面を移動します。つまり、面的に土砂が生産されて移動するのが特徴です。

  この土砂は角礫混じり細粒土で、粒径が不均質ですが弱い層理構造を持つ部分があります。多様な堆積物からなり明確な基準はありません。

 

 現在、北海道ではトムラウシ山や大雪山に周氷河環境でできる構造土があります。8万年前から1万年前頃は、北海道全域が周氷河環境でした。

 最終氷期(海洋酸素ステージ2)は約1万年前で、寒冷・乾燥気候でした。夏は豪雨が少なく河川による下刻作用が小さかったです。冬は水分の供給が少なく積雪は少ないという環境でした。日高山脈や礼文島にはこれらの時代の地形が残っています。

 

 10年確率日降水量は、オホーツク沿岸では100mm以下です。2010年以降、雨の降り方が変わってきています。2014824日には礼文島で豪雨が発生し斜面が崩壊して2人が犠牲になりました。

 2016817日〜23日には台風7号、11号、9号が、29日〜30日にかけて台風10号が北海道中部から東部を襲いました。国道274号の日勝峠で崩壊が発生し、羅臼町海岸町でも規模の大きな崩壊が発生しました。

 

 海岸町の崩壊は、後氷期開析前線の上方に周氷河斜面があり厚い周氷河堆積物が載っています。高い所から崩れて遠くまで土砂が移動しました。

 

2. 周氷河斜面の特徴

 周氷河斜面は、傾斜量図を作るとはっきりします。傾斜30度前後の平滑な斜面で、後氷期開析前線の上方に広がっています。

 尾根付近は凸型縦断面を示し、岩屑生産域で土砂の厚さは1m以下です。その下は直線縦断面の岩屑移動域で土砂の厚さは3-4mです。末端は岩屑堆積域で段丘面上に堆積している場合、厚さは10-20mになります。

 

3. 堆積物の特徴

 佐幌川支流のペケレベツ川の河岸で「周氷河性」堆積物を見ることができます。

 層相は、角礫混じり褐色シルトで粒度が不均質、礫が覆瓦構造をとることがある、融雪期の流水によって局所的に層構造を取るといった特徴があります。段丘堆積物の上にこの堆積物が載っている場合があります。


 これまでのボーリングの記載では、シルト質火山灰などと一括して記載されていますが、層相区分をする必要があります。

大きく分けると、1)角礫層、2)シルト質砂層、3)シルト層に分けられます。

 斜面の上部と下部で特徴が異なり、クリープ変形をするため斜面下部で細粒になります。

 

 日勝峠の札幌側9合目付近では9千年前の樽前dテフラの下に周氷河性堆積物が分布しています。

 斜面方向に地中レーダー探査と簡易貫入試験を行った結果、堆積物の厚さは3m程度で斜面下部では6mほどの厚さになります。


 その北の串内牧場の露頭では、シルト主体で砂が混じる層相で下位に砂、上位にシルトとなり、上位の層は粒度の山が二山(バイモーダル)になります。

 

4. 周氷河斜面の崩壊

 周氷河斜面の崩壊には、1)浅層タイプ、2)渓岸タイプ、3)深層タイプ、4)ガリータイプがあります。


 深層タイプの例です。

 日勝峠9合目の崩壊は、侵食前線(後氷期開析前線)の上下を含めて深層タイプの崩壊が発生しています。侵食前線の上方で浅層タイプの崩壊が発生しています。


 20148月の礼文島・高山の斜面崩壊は、海洋酸素ステージ5eの段丘堆積物の上に20mほどの厚さの斜面堆積物があり、その下部が崩壊しました。難透水層の直上が崩壊面でした。


 2016年に発生した羅臼町・海岸町の崩壊は、斜面の下に5eの堆積物があり、その上に厚さ10m以上の斜面堆積物が載っていました。下から基盤岩である安山岩溶岩、段丘堆積物、細粒土、斜面堆積物の順に堆積しています。

 斜面堆積物は透水性が中途半端で、悪くて良いといった状態です。斜面上方からの地下水による内部侵食が崩壊の原因です。

 地下水位が限界を超えると斜面堆積物の性質が粘性土的な状態から砂質土の状態に変化し、急激な崩壊を引き起こしたと考えられます。


 南富良野町の串内牧場の崩壊は、厚さ4mほどの斜面堆積物が下から上に向かって順次崩壊したと考えられます。

 

 浅層タイプは、浅い谷型の崩壊でササやハイマツごと崩壊しています。上位の土層が水を含んで崩壊していて、樽前dテフラと黒土が崩れました。


 ガリータイプは表土直下の地下で侵食が起きトンネルが形成され落ち込んでいます。上部谷壁斜面で発生しています。

 

5. 調査・分析手順

 調査は次のような手順になります。

 地形判読地形地質踏査簡易貫入試験などの試験地中レーダー探査(電気探査)高品質ボーリング


 地形判読では地形区分を行い、周氷河斜面を抽出します。開析前線、傾斜量、斜面の平滑性、縦断面による斜面区分、微地形抽出を行います。DEMやレーザー測量図などを利用します。

 注目点は、平滑性の固有値比が4以上の斜面、傾斜30度以上の斜面、微地形、谷頭凹地などです。


 現地踏査では過去の崩壊・斜面変動の痕跡、パイピングホールの層準、黒土より下の地層の層厚、層序、層相、落ち残りの斜面などに注意します。

 地質については層厚、色調、粒度、堆積構造、礫径、礫の円摩度、礫種、風化程度、礫の配列・基質との関係などのほかに、湧水やパイピングホールの跡などにも注目します。


 簡易貫入試験は傾斜変換点に注意して位置を決めます。

地中レーダーは平滑斜面では土砂の厚さが割合よく出ますが、斜面下部では反射波が増えて複雑になります。

高品質ボーリングのコアは層相の細分化に有効です。場合によってはCTスキャナーにより構造を把握します。検鏡により層相の細分化を行います。

 注意することはコアの洗浄です。


 室内試験では、粒度分布、間隙比、飽和度などを求めます。簡易貫入試験からφを推定します。必要に応じて三軸圧縮試験(CUbar)を行います。

 

<倉橋氏>

 道路土工指針には周氷河堆積物についての記述はありません。

 2016828日から31日に日勝峠で土石流を含む盛土・切土の崩壊が発生しました。ほぼ20カ所に上ります。

 

 崩壊した切土のり面の勾配は、30-40度で11.5から10.8ののり勾配の所で崩れていて、18カ所が浅い崩壊でした。排水溝からのオーバーフローと のり面からの湧水が誘因でした。

 

 切土のり面の崩壊は、伊東ほか(2017)が5つに分類しました。日勝峠での崩壊は、類型3と類型5に相当します。

 類型3は、のり面小段排水溝からの溢水による崩壊で地表水の集中によるものです。

 類型5は、斜面に堆積した土砂の含水比が上昇して崩壊するものです。この場合、のり面の途中から崩れ、のり面上方にガリー地形が形成されています。規模は小さいですが多数の崩壊が発生しました。

 背後に周氷河性斜面があるので長大のり面を抱えた状態と言えます。 切土勾配は11.5より急勾配で、沢地形が斜面堆積物で隠されているので集水範囲の決定が難しいです。


 対応方法としては、類型3の場合は、のり面の排水系統のレイアウトを変える、設計流量を見直すなどが考えられます。

 類型5の場合は、地質の特性に応じたのり面勾配を検討する、暗きょ排水を検討するなどが考えられます。日勝峠の崩壊事例では、かご工の部分が崩壊していないので有効です。


 のり面勾配の検討、層相変化を詳細に記載して堆積物の基質の固さを考慮することが大事です。道路土工指針の分類でいえば、「岩塊混じり砂質土の密実でない」に相当すると考えられ、11.011.5の勾配が適用されますが標準化は難しいです。特に、湧水している場合は注意が必要です。

 

 海外での周氷河堆積物は、礫主体の堆積物で砂・シルトの基質に角礫・亜円礫が含まれていて基質支持です。覆瓦構造を取る箇所があったり、粒径変化が大きかったりします。透水性は高く、せん断強度は低いです。弾性波速度は1.0-1.5km/secです。

 

 礼文島の周氷河斜面堆積物の地山弾性波速度は、乾燥している部分は0.5-0.9km/sec、含水している部分では1.45km/secとなっています。

 粘土が主要な堆積物で再堆積の粘土デブリが含まれています。斜面上方では岩に近い礫から構成されていて粘土の せん断面が認められます。

 

 今後どう対応するかですが、斜面堆積物の記載を詳細に行うこと、適切な切土勾配の採用と水の処理を合わせて行うこと、堆積物中の含水比を上げない工夫をすることなどが考えられます。

 

<感 想>

 2014年の礼文島での悲惨な崩壊からすでに10年が経過しようとしています。崖錐堆積物や段丘堆積物の崩壊とも違い、水を含んだ土砂が高速で流れ下るのが、周氷河斜面堆積物が崩壊した場合の特徴です。その典型が羅臼町・海岸町での崩壊で、町の職員が撮影した貴重な映像が残っています。

 < https://video.mainichi.jp/detail/video/5712505304001 

 

 北海道の場合、ほぼどこでも火山があるので、火山灰が斜面堆積物中に挟まっているとすべり面になる可能性があります。

 高品質ボーリングのコアを詳細に観察して水を通しやすそうな層や逆に不透水層を見分けることが重要です。



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