星 博幸氏講演会:「日本海拡大時の日本列島の変動―地質と古地磁気の研究からどこまでわかっているか―」 ― 2023/05/16 15:22
5月10日は地質の日です。明治時代初めに来日したB.S.ライマンが指導して作成した「日本蝦夷地質要略之図」が1876(明治9)年5月10日に出版されました。また、1878(明治11)年5月10日に内務省地理局地質課(現在の(独)産業技術総合研究所・地質調査総合センター)が発足しました。
表記講演会は、第40回地球科学講演会・「地質の日」協賛行事として開かれたもので、大阪市立自然史博物館主催、地学団体研究会大阪支部および日本地質学会近畿支部共催です。
2023年5月14日(日)午後2時から4時まで、自然史博物館の会場とYouTubeでの配信のハイブリッド開催でした。
5月13日(土)には、日本地質学会主催の「地質の日」オンライン普及講演会「日本列島の地質探訪―古生代から新生代まで」がYouTubeライブで開かれました。
以下、星氏の講演の概要を紹介します。
星 博幸氏:日本海拡大時の日本列島の変動―地質と古地磁気の研究からどこまでわかっているか―
日本列島は、1,900万年前まではアジア大陸の一部でした。1,700万年前頃に大陸から分離しはじめ、1,450万年前に現在の日本列島の姿になりました。これまで、1,500万年前頃に急激に日本海が拡大したと言われてきましたが、それよりも早く拡大は終了していたと考えられます。
地質学の考え方について説明します。
この写真で示している露頭は、下に花崗岩類があり、その上に礫岩が載っています。花崗岩は年代測定から1.2憶年前にできたことが分かっています。一般的に、花崗岩は地下10数㎞にあったマグマ溜りが冷えて固まってできます。この冷えたマグマが地殻変動によって上昇し、さらに侵食を受けて地表に現れます。
礫岩は花崗岩の礫を含み、アンモナイトの化石を含んでいます。礫岩の礫は丸みを帯びていて、大きさは人の頭ほどです。このような礫は、海の礫浜や河原で見ることができます。
古地磁気は、地層ができた時の地磁気の方向が記録されたものです。日本列島が誕生した頃の古地磁気を測ってみると東北日本では地磁気の北が北西を向いているのに対し、西南日本は北東向きです。このことから、日本列島は1,500万年頃に急速に回転したと考えられてきました。
しかし、日本海の海底で得られたデータと合わないのです。回転した時期は、もっと早いのではないかと考えました。
大阪府と奈良県の境にある二上山をフィールドとして研究を始めました。
二上山は領家花崗岩類や領家変成岩類の基盤岩類の上に二上層群のドンズルボー層、原川層、定ヶ城層が載っています。この付近には、火砕流である玉手山凝灰岩、石仏凝灰岩、室生・名張の火砕流などがあり、これらは回転していません。つまり、1,600万年前より若い地層は回転していません。
東北日本では2,000万年前から1,600万年前は伸長応力場にあって正断層が発達しグラーベン(地溝)やホルスト(地塁)が形成されました。その断層崖の下には淘汰の悪い角礫からなる崖錐堆積物が堆積します。新潟や山形の内陸堆積盆地がこれに相当します。
300万年前に日本列島付近の引張応力場が圧縮応力場に反転します。このために地磁気方位がバラバラになってしまいました。
愛知県の知多半島の師崎層群は、1,000m以上の厚さがあり深海堆積物で構成されています。これは、海底が急速に沈んでいるためで、正断層によって沈んでいると推定されます。
日本海が拡大した直後の特異なマグマ活動があります。潮岬の枕状溶岩、ドンズルボー層のザクロ石を含む流紋岩や火砕岩、室生火砕流堆積物、熊野酸性岩、大峯・大台コールドロン、熊野カルデラなどで、時代はいずれも1,500万年前です。
石仏凝灰岩や室生火砕流堆積物の供給源は、アパタイトの化学分析の結果から大台カルデラと結論が出ました。
日本海が拡大し日本列島が回転をしていた頃(18~16Ma)、太平洋側で何が起きていたか。三つの仮説がありますが、鍵になるのは熊野酸性岩や巨大カルデラの形成などの大規模な火成岩類の活動年代と地球化学的性質、および伊豆衝突帯の地質と古地磁気方位だと考えています。
<感 想>
大変面白い話でした。
日本海の拡大が終了した頃、太平洋側ではどのようにプレートが配置していて、どのプレートが西南日本に沈み込んだのかを明らかにすることが大きな課題となっています。
日本海が拡大しているのと同時期に、伊豆小笠原弧が衝突を始めています。この時代、いったい何が起きていたのか、非常に興味があります。
日本列島が大陸から離れる原動力は何なのかも興味深い問題だと思います。
最後の質問の時間には、いろいろな疑問が出されました。小学生が古地磁気について質問していたのには感心すると同時に、なんか希望を持つことができました。
地質学会のYouTubeチャネルには、いろいろな動画が載っています。
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