セミナー「土砂災害と地下水 ―土砂災害への備えは万全ですか?―」2022/03/15 22:07

2022312日(土)、午後1時から5時まで、標記セミナーがオンラインで開かれました。

 

プログラムは、下のとおりです。

 

檜垣大助氏(弘前大学名誉教授):大規模地すべり地での地下水挙動と地すべりの動き、効果的な対策の事例

中里裕臣氏(農業・食品産業技術総合研究機構):山形県鶴岡市七五三掛地区で発生した地すべり災害と調査

安田 進氏(東京電機大学):熱海などで発生した泥流・土石流被害への備え

釜井 俊孝氏(京都大学):宅地崩壊と地下水

 

以下、講演の概要を記します。

 

檜垣大助氏:大規模地すべり地での地下水挙動と地すべりの動き、効果的な対策の事例

青森県の岩手川支流にある大川右岸地すべりは、2005年に頭部に亀裂が発生し2006年に大規模地すべりに発展しました。その後、2009年から2014年の9年間に8m移動したことが確認されています。地すべりでは、すべり面に過剰間隙水圧が作用し抵抗力が減少し滑動を始めます。

山形県の寒河江川支流・大越川と石跳川(いしとび・がわ)の合流点付近に分布する志津地すべりは、融雪期に地すべりが活動します。この付近は、積雪深が最大4mに達し、雪が溶けると地すべりが動くということを繰り返しています。地下水排除工を主要な対策として、横ボーリング工、井戸を掘って横ボーリングで地下水を集める集水井工を行ったほか、排水トンネルを掘って上向きに集水ボーリングを行いました。

高知県の長者地すべりは、仁淀川上流部に位置している長さ900m、幅200mの地すべりで、末端は長者川の対岸に及んでいます。江戸時代から活動しています。集水井のほかに、地すべりの中段付近に2本の排水トンネルを掘り地下水を排除しました。

高知県の谷の内(たにのうち)地すべりは、長さ1,000m以上、幅800m、すべり面の深さ160mの規模で、地すべり地内に集落があります。全体は南東に動いていますが、南側のブロックは東に動いています。地質は付加体堆積物の砂岩・泥岩互層でチャートブロックを含みます。ここでは、深度別の間隙水圧を測定しました。すべり面の直上に高い間隙水圧を示す箇所があることが分かりました。深度ごとに水頭は異なりますが、降水に対する反応は同じです。地下水の変動様式は、1)亀裂の多いチャートブロックでは急上昇急降下、2)地すべりブロック中央部では緩やかな上昇下降、3)季節変動、の三つのタイプに分けられます。

青森県八甲田蔦川地すべりは、標高約1,295mの赤倉岳(40360.67 1405428.12)東斜面で発生した巨大地すべりの東南東末端に位置しています。この巨大地すべりは長さ7kmあり、広大な集水域を持っています。地下水排除工と末端盛土を行いました。地下水の水質分析から浅層地下水と深層地下水に区分できることが分かりました。この地域は、十和田八幡平国立公園で地すべり地内には多くの沼があり、これらの沼に影響を与えないよう深層地下水をねらった地下水排除を行いました。深層地下水の区間は有孔管、それ以外は無孔管としました。

 

<質疑応答の内容>

巨大地すべりでは末端付近と頭部付近では融雪時期がずれるので、地すべり移動の収束時期にずれが生じます。地すべり対策施設は、施工中は変動量、排水量を観測しますが、概成後は点検が一般的で継続観測は難しいです。大豪雨などがあった場合に集水ボーリングの増し打ちをする場合があります。

 

中里裕臣氏:山形県鶴岡市七五三掛地区で発生した地すべり災害と調査

山形県鶴岡市の七五三掛(しめかけ)地すべりは、月山ダムの下流約1.5kmで右岸から合流する小網川の支流、猫谷川と苅谷川に挟まれた地すべりです。大規模なDブロックの西側にあるBブロックで2009年に災害が発生しました。ほぼ北から南に移動しているB-1ブロックとその末端付近で苅谷川に沿うように北西から南東に移動しているB-2ブロックがあります。

ここでは、1971年頃に道路法面の崩壊が発生し、1991年に地すべり防止区域に指定されました。20092月に地すべりの兆候が現れ、4月に住民は避難しました。地すべり範囲を確認し、5月に応急対策を行い、7月には動きが沈静化しました。その後、農水省で地すべり恒久対策、農地復旧を実施し20193月に直轄事業を完了しました。

この付近の地質は、中新世の堆積岩類、火成岩類です。地すべり移動土塊は、玄武岩類で下位の泥岩との境界がすべり面になっています。地すべりの規模は、長さ700m、幅400mです。移動量は最大15cm/日で、末端では40日で4m移動しました。

対策工は、水路整備や河川転流工で地表水の浸透を減少させ、地下水排除工を実施しました。集水井を11基設置し水田浸透防止工を行いました。緊急対策として効果的であったのは、径200450mmのディープウエルによる地下水排除でした。また、被圧地下水を排除するために斜めボーリングを行いました。これは、即時的効果はありましたが、効果は持続しません。

 

<質疑応答の内容>

地下水排除工による水田の減水深は起きておらず営農は続いています。ただ、地すべり頭部では畑に転換しているところがあります。地下水排除工としてディープウェルは効果的です。集水井の配置はどこに排水するかをまず考えて計画しました。

 

安田 進氏:熱海などで発生した泥流・土石流被害への備え

20217月に熱海市で発生した土石流について公表されている資料をもとに述べたあと、いろいろな土石流の事例を紹介します。

熱海市の土石流を見た第一印象は、土石流の幅が狭いということ、新幹線のカルバートを通過しているということでした。静岡県のドローンの写真をまず見て、2週間後に現場に行きました。この付近の斜面は、平均傾斜は11°の均一な斜面です。直前に時間40mmの降水がありました。

崩壊した盛土は、2006年に工事が開始され2010年に完了しています。県の見解は、末端で湧水が発生し、それを引き金に崩壊が上部に波及したとしています。その後、ボーリング掘削、雨量計設置、沢の流量計測、熱赤外線による湧水点調査などを行っています。崩壊地には湧水点が多数存在しています。これらの湧水は、右岸は表流水がそのまま湧き出しているのに対し、左岸は深い地下水が湧き出していることが分かりました。

202231日に盛土規制法案が閣議決定されました。幾つかの崩壊事例を紹介します。

1978年伊豆大島近海地震で鉱滓集積場(持越鉱さいダム)が崩壊しました。地震で液状化が発生したためです。

2011年の東北地方太平洋沖地震では福島県須賀川市の農業用ダム、藤沼ダムが決壊しました。150万トンの水が流出しました。

2014年と2018年の広島豪雨災害では砂防堰堤の建設と下流の流路整備が進みました。

呉市は、200年〜300年間隔で大きな土石流が発生しています。砂防堰堤の建設場所の検討が必要です。

その他、三宅島の土石流や御岳崩れなどがあります。

2008614日の岩手・宮城内陸地震では栗駒山で土石流が発生しました。残雪があったために土石流の威力は増しました。

 

釜井 俊孝氏:宅地崩壊と地下水

宅地造成盛土は基準に従って造られています。しかし、2011年の東北地方太平洋沖地震では地すべりが発生しています。主な原因は、地下水が排除されていないことです。宅地として造成された土地には「緑ヶ丘」といったようなキラキラネームが付いています。全国に51,000カ所の造成された宅地がありますが、耐震の事前対策が行われているのは2カ所のみです。

東京は、基本的に多摩川の扇状地に位置しています。谷を埋めると地下水が貯まります。広域の地下水系を考慮して対策を立てる必要があるのですが、対策の対象となっていません。排水施設の経年劣化の問題もあります。盛土では地震による液状化によって噴泥が発生し崩壊します。地下で水による浸食が起きるためです。

大津市の例では盛土の底面にソイルパイプ(空隙)が形成されていました。盛土内の排水管が障害を起こしている例もあります。排水管の断面の7割が土砂で埋まっています。これは排水管(暗きょ)に設けられている中央縦排水から施工中に土砂が流入するためです。

宅地の排水管理は難しいです。盛土の完了検査は出来形のみで性能検査はしませんから、ザルのようなものです。

仙台市の緑ヶ丘4丁目では、2011年の東北地方太平洋沖地震で盛土が崩壊しました。1978年にも盛土崩壊を起こしています。ボーリングを行い動的震度計、間隙水圧計を設置しました。ここでは、地震後に地下水が自噴し始めました。地震波は、すべり層で振幅が吸収されるなど微少な地質構造が影響していることが分かりました。すべり層付近では地震による破壊域と液状化域が繋がっています。S波が来ると谷埋め盛土は、谷横断方向に振動します。盛土の剛性よりも側部の摩擦抵抗が重要だと分かりました。

2011年の東北地方太平洋沖地震では、福島第一原子力発電所で送電線の鉄塔が倒壊し停電しました。この現象を側方抵抗モデルで解析したところ、崩壊した箇所の安全率は0.8、それ以外は1.1以上でした。