本の紹介:失言 ― 2022/03/02 12:16
TVOD(コメカ+パンス)、政治家 失言クロニクル。Pヴァイン、ele-king books、2021年12月。
1947年 ■かかる不逞の輩(ふていのやから)が国民中に多数あるものとは信じませぬ(吉田茂 1月1日 年頭の辞にて)
から始まって
2021年 ■女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります(森喜朗 2月3日 JOCの臨時評議会にて)
まで、時系列で失言の解説をしています。
さらに、テーマ編その1 歴史認識と軍事、テーマ編その2 核と原子力、テーマ編その3 差別についてと続きます。
この本で取り上げている失言は、『単純に「その当時メディアを騒がせた」というのが第一の基準』で、『例えばバリバリの保守派だったら「これは失言ではない」といえそうなものにも言及していますが、そこには我々の姿勢が出ていると捉えて頂ければと思います』(本書7ページ)ということです。
数多くの失言が発せられた時代状況も述べられていて、戦後史を俯瞰する内容になっています。
蛇足ですが、安倍晋三元首相が、米軍との核共有の議論が必要とテレビ番組で述べました(2020年2月27日 日曜報道 THE PRIME)。本人は、失言ではないと言うと思いますが、私は歴史に残る失言だと思います。
春の雪のなか 歩いてきた ― 2022/03/03 16:55
2022年3月3日(木)、気分的に余裕ができたので春の雪の中をモエレ沼公園で歩くスキーをしてきました。コースは整備されていなくて、スケーティングはかなり厳しい状況でした。
2周目でスキーに雪が付いて滑らなくなったので、3.8km歩いたところで止めました。
コース図
1.7km付近の一番高いところで標高28mですから、ほとんど平坦です。
写真1 ガラスのピラミッド
けっこう雪が降っています。ベタベタの雪です。
写真2 モエレ山
雪で、てっぺんは見えません。
写真3 カバとエゾマツ
コースの一番北東付近の林の中です。
写真4 ホワイトアウト状態
足下の凹凸がよく分かりません。
写真5 雪がべったり
滑り止めの部分に雪がべったりと付いてスキーが滑りません。ベースワックスをコルクで伸ばしただけなので仕方がないです。
シンポジウム:「昔と違う イマドキのフィールド教育」 ― 2022/03/09 13:39
2022年3月6日(日)午後1時半から6時まで、日本地質学会主催 第2回JABEEオンラインシンポジウム「昔と違う イマドキのフィールド教育」が開かれました。
講演者と題目は下のとおりでした。司会は佐々木和彦氏、趣旨説明と総合討論は天野一男氏が行いました。
■趣旨説明
■小荒井衛(茨城大学大学院理工学研究科 教授)・小柴理人(茨城大学大学院理工学研究科 修士1年)・橋本果歩(茨城大学大学院理工学研究科 修士1年):「茨城大学におけるフィールド教育」
■林 広樹(島根大学総合理工学部地球科学科 准教授):「島根大学におけるフィールド教育としての進級論文」
■金川久一(千葉大学理学研究院 教授)・小野誠仁(千葉大学大学院融合理工学府):「千葉大学における多様な地球科学のフィールド教育」
■豊島剛志(新潟大学理学部理学科 教授):「新潟大学理学部理学科地質科学プログラムにおけるフィールド教育と安全対策」
■大橋聖和(山口大学理学部地球圏システム科学科 准教授):「山口大学におけるフィールド教育のPDCAサイクルとシステム化」
■栃本泰浩(川崎地質株式会社 代表取締役社長):「現場を診る力 ~継続は力なり~」
■総合討論
以下、それぞれの講演の概要を質疑応答の内容を含めて記します。
趣旨説明:天野一男氏
フィールド教育は地質学の一丁目一番地です。地球科学分野でのフィールド教育において基礎能力の育成をどのように行っているかをJABEE(日本技術者教育認定機構)認定プログラムを実施している大学に紹介してもらいます。
小荒井衛氏:「茨城大学におけるフィールド教育」
茨城大学では1年生で2回の巡検、2年生で地質調査基礎演習として宿泊しての地質調査を行っています。この地質調査では、化石の観察・ルートマップ作成・空中写真判読・堆積物などの粒度分析・火山灰観察などを行います。
3年生では5人1組の班をつくり地質図の作成を行います。4年生では4泊5日の巡検を行います。
指導は、安藤、岡田、小荒井、長谷川が担当します。フィールドで指導する教員が不足していますが、質の低下は避けたいと考えています。
小柴理人氏:地質・岩石鉱物分野です。堆積学、火山地質、第四紀地質などを学びました。ルートマップを作成し地質図を作成しました。巡検の費用は年間8万円くらいかかり、その他に4年生の時のフィールド調査費用がかかります。
橋本果歩氏:地球物理の地震系の研究室に所属しています。高校で地学を学んでいません。鬼怒川・小貝川の水害史の研究をしたり、気象観測をしたりしました。正断層の震源過程の解析を行い現地調査も行いました。修士に入ってから技術士補の登録を行いました。フィールドの費用は、ほぼ親の負担です。
林 広樹氏:「島根大学におけるフィールド教育としての進級論文」
野外実習は1年次から実施しています。災害現場、ゼオライト鉱山、カルデラ、ヒマラヤ巡検などを行っています。大学の近くに島根半島・宍道湖ジオパークがあり、大学周辺に地質調査に適した露頭があります。
2年次の野外実習では島根半島の海岸ルートと川沿いルートのルートマップをつくり、地質図の作成まで行います。その他に、地域社会への貢献、デザイン能力、コミュニケーション能力などを重視しています。
3年次には5名一組で6日間の野外調査と室内作業を行い、グループごとに成果を発表します。その後、一人一人が論文を作成します。これらを卒業研究につなげます。
巡検では大学のバスを主に使いますが、ジャンボタクシーを使ったこともあります。安全教育も大事です。
進級論文の調査場所は、毎年同じ場所で行います。図幅などの既存文献は見ないようにと言ってありますが、見ているようです。
グループの中で個人差が出ます。それぞれの個人の状況にあった指導をすることが大事です。
金川久一氏:「千葉大学における多様な地球科学のフィールド教育」
千葉大学の地球科学分野には1学年39人の学生がいます。地球内部科学領域と地球表層科学領域に分かれます。鴨川巡検、嶺岡オフィオライト巡検、城ヶ島巡検を行います。南房総市の白間津(しらまづ)海岸、筑波山、鋸山の海岸などの巡検を行います。東大演習林の清澄山(きよすみやま)での5泊6日の野外調査では河川沿いのルートマップを取り地質図を作成します。
その他、伊豆大島や八丈島の火山地形やテフラ、屈折法地震探査や磁気探査の実習、糸魚川静岡構造線の見学、立山・室堂平での雪氷学実験、地球化学分野の海洋実習などを行います。
フィールド教育には全教員が係わっています。かつては水文学の教官がいて地下水環境関係の実習も行っていましたが、退職したため行っていません。近々5名ほどの退職者がでますがフィールド教育は重視していきたいと考えています。
城ヶ島で行う複数回の巡検では堆積構造、断層、隆起地形など色々なテーマで行っています。巡検は、現地集合、現地解散で行っていて2泊3日で1.7万円ほどかかりますが、学生に抵抗感はないようです。
小野誠仁氏:1-2年次に3つの実験、2-3年次に3つの実習を行いました。近くに実習に適したフィールドがあるのが良いです。立山の雪氷学実験では山崎(やまさき)カールを観察したり積雪のアルベドを調べたりしました。雪の表面を藻類が覆っているのを見たのは印象的でした。
豊島剛志氏:「新潟大学理学部理学科地質科学プログラムにおけるフィールド教育と安全対策」
新潟大学は、地質学鉱物学科から地質科学プログラムへと変更しました。地質エンジニアリングコースと地質学専修コースがあります。
フィールド教育は、学生の自主活動、団体研究、自主ゼミ、研究グループでの活動などによって露頭観察から地質図作成までを行ってきました。地層・古生物分野、構造地質学分野、災害環境地質学分野、鉱物岩石分野の授業を行っています。15名の教員が係わって1-3年次で通算30日の野外実習を行っています。
3年生の進級論文では、研究とのつながりが弱いこと、高校で地学を履修していない学生が多いことなどが問題としてありました。進級論文は、12日間で計画立案から初めて、評価まで行い卒業論文へとつなげています。6月は土曜、日曜で実習を行い、学校のバスで往復します。教員は送迎し現地で待機します。夏休みは自力で調査を行い最低2日は教員が指導に行きます。
フィールドでの安全対策として救急セットを全員に購入してもらっています。
自然の成り立ちを理解できる人材を育てることが目標です。
大橋聖和氏:「山口大学におけるフィールド教育のPDCAサイクルとシステム化」
山口大学は、1学年30人で教員は11人です。地球環境科学コースと環境物質科学コースがあり、前者は6-7割がJABEEコースとなっています。
1年次はハイキング程度の巡検で、露頭の観察(点的な観察・記載)をします。2年次は巡検を効果的に行い、線あるいは面的な観察・記載を行います。3年次は自分でデータを取ってそれに考察を加えます。時間軸を加えた四次元的な観察・記載・考察を行います。4年次は卒業論文になります。
大学のバスは、県内・日帰りが条件です。四国の三波川帯や中央構造線の巡検も行います。
野外調査習得項目リストというのをつくっています。これで自己点検を行うと同時に総合点を算出して達成度をチェックします。一種の星取り表ですが、ウェブを利用して評価を行い共有しています。基本的に年2回チェックを行っています。ルートマップの作成、ルート柱状図・岩相分布図・総合柱状図の作成まで行います。4名構成の班で14日間踏査を行います。岩石などの肉眼鑑定・地形判読・地質構造の記載などを行います。傾向としては、肉眼鑑定が苦手なようです。学習前と後で総合点が下がる生徒がいますが、これは、自分の未熟さに気が付いて、自分に対する評価を厳しくした結果ではないかと思います。
栃本泰浩氏:「現場を診る力 ~継続は力なり~」
地質コンサルタントは、地質に関わる問題を解決する仕事で技術サービス業に分類されます。その特徴は、対象が地下にあって直接目に見えない、一品生産である、専門性が高いといったことです。基礎知識を身につけていること、フィールドワークができることが必要です。
会社に入る前に仕事の内容を理解して欲しいと思っているので、インターンシップは必要と考えています。継続教育では仕事を通してPDCAを回していくことが大事です。
総合討論
総合討論では、大学での教員・予算の不足、高校理科で実験・実習が縮小されていることが問題として出されました。フィールドでの事故への対応では、緊急連絡網を整備すること、地元の協力を得ること、個人で災害・傷害保険に加入しておくことなどが必要とされました。どの大学も卒業研究は一人で踏査しています。それまでに、自分の身は自分で守る知識と技術を身につけることが必要ということです。
<感 想>
地質コンサルタント会社で新入社員の教育に苦労した者としては、ここで語られたような教育が行われているのは非常に心強いです。
ルートマップをつくり、柱状図にまとめ、成因を考慮した三次元の地質図を作成できる能力は地質コンサルタントにとって必要です。
私の時代には、巡検以外は進級論文も卒業論文も一人で歩いてまとめるのが普通でした。しかし、グループで同じ地域を調査し、お互いに議論して地質図を作成するという過程は、地質コンサルタントの業務で非常に役に立つと思います。
栃本氏が語っているように、業務をこなしながらPDCAサイクルを意識して自分を高めていくことは非常に大事です。そして、重要と思う業務については、発注者に提出する報告書とは別に、計画から成果をだすまでの過程を自分なりに整理しておくことが後々役に立ちます。並行して関連する分野の文献調査を行い、知識を蓄えておくことが必要です。同時に、常に地球科学に関連した最新知識に目を光らせ業務で利用することも重要です。例えば、最近では衛星写真が実用化できる精度で提供されるようになっています。
なお、文献調査についてどのような教育を行っているか知りませんが、文献の収集方法、そこから課題を引き出す訓練は必須と思います。
札幌の大雪の後遺症 ― 2022/03/11 17:40
札幌では2022年2月、3月に、かなりの雪が降りました。その後遺症が3月11日の時点でも続いています。
2月6日の大雪
除雪車が雪を道路脇にどけていった後に降った雪は、人力では処理できないので道路に溜まったままです。車が通るのはもちろん、人が歩くのもやっとです。
3月10日の状態
この日の朝はマイナス7度まで気温が下がったので、前日の轍がそのまま残っています。日中は気温が上がるので、これがグチャグチャになります。車で広い道路まで出るのには勇気がいります。
大雪が降った後、除雪車が一度入りました。雪を道路脇にどけていくだけなので、玄関への通路や駐車場の出入り口には高さ50cm以上の雪のリッジができました。これをどけるのが一苦労で、多くの家では道路や庭に積み上げています。道路に雪を積み上げれば、それだけ道路は狭くなり深い轍ができます。
市民生活に大きな影響が出ていて、車で外出するには大きな勇気がいります。どこで車が動けなくなるか分からないからです。
このように市民生活に支障が出ていますが、市の排雪は遅々として進んでいません。パートナーシップ制度という住民負担の排雪事業がありますが、この大雪で人手も機械もないのですから一向に進みません。
12月から3月まで、雪を運んでもらう(排雪)作業を一季節5万円ほどで頼んでいる家がありますが、これだけの雪と道路の状況ではおそらく契約通りに進んでいないでしょう。
一番困っているのは、郵便を始めとする配達関係の人たちです。札幌コープでは「ドトック」という食品や雑貨、洋服などの配達サービスをしていますが、車で住宅街の道路に入って動けなくなるので、ソリで廻って配達しているということです。
こんな生活を強いられているのに、2030年の冬季オリンピックを招致しようと札幌市は活発に動いています。
オリンピックを目指して、大赤字となることが目に見えている北海道新幹線の札幌延伸工事が真っ盛りです。都心に高速道路が通じていない大都市は札幌だけだという子供じみた理由で、札幌の北を東西に走る札幌新道からテレビ塔まで、地下の自動車専用道路(都心アクセス道路)を新設しようとしています。事業費のうち札幌市が負担する分は、新幹線が350億円、アクセス道路が240億円と言われています。
今まさに、ウクライナで戦争を行っている状況で「平和の祭典」の一部であるパラリンピック冬季大会が北京で開かれています。
2021年の東京オリンピックは、中止して欲しいという多くの声を無視して、まさにコロナ感染が日本で拡大している時期に行われました。
「オリンピズムの根本原則 2. オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである」(オリンピック憲章、日本オリンピック委員会、2021年8月8日から有効:https://www.joc.or.jp/olympism/charter/2021/book/index.html#page=1)
上に示した根本原則と今行われているオリンピック大会の乖離をどうするのか。オリンピックを招致するのであれば、まず、このことを真剣に検討することが避けられないと思います。
セミナー「土砂災害と地下水 ―土砂災害への備えは万全ですか?―」 ― 2022/03/15 22:07
2022年3月12日(土)、午後1時から5時まで、標記セミナーがオンラインで開かれました。
プログラムは、下のとおりです。
檜垣大助氏(弘前大学名誉教授):大規模地すべり地での地下水挙動と地すべりの動き、効果的な対策の事例
中里裕臣氏(農業・食品産業技術総合研究機構):山形県鶴岡市七五三掛地区で発生した地すべり災害と調査
安田 進氏(東京電機大学):熱海などで発生した泥流・土石流被害への備え
釜井 俊孝氏(京都大学):宅地崩壊と地下水
以下、講演の概要を記します。
檜垣大助氏:大規模地すべり地での地下水挙動と地すべりの動き、効果的な対策の事例
青森県の岩手川支流にある大川右岸地すべりは、2005年に頭部に亀裂が発生し2006年に大規模地すべりに発展しました。その後、2009年から2014年の9年間に8m移動したことが確認されています。地すべりでは、すべり面に過剰間隙水圧が作用し抵抗力が減少し滑動を始めます。
山形県の寒河江川支流・大越川と石跳川(いしとび・がわ)の合流点付近に分布する志津地すべりは、融雪期に地すべりが活動します。この付近は、積雪深が最大4mに達し、雪が溶けると地すべりが動くということを繰り返しています。地下水排除工を主要な対策として、横ボーリング工、井戸を掘って横ボーリングで地下水を集める集水井工を行ったほか、排水トンネルを掘って上向きに集水ボーリングを行いました。
高知県の長者地すべりは、仁淀川上流部に位置している長さ900m、幅200mの地すべりで、末端は長者川の対岸に及んでいます。江戸時代から活動しています。集水井のほかに、地すべりの中段付近に2本の排水トンネルを掘り地下水を排除しました。
高知県の谷の内(たにのうち)地すべりは、長さ1,000m以上、幅800m、すべり面の深さ160mの規模で、地すべり地内に集落があります。全体は南東に動いていますが、南側のブロックは東に動いています。地質は付加体堆積物の砂岩・泥岩互層でチャートブロックを含みます。ここでは、深度別の間隙水圧を測定しました。すべり面の直上に高い間隙水圧を示す箇所があることが分かりました。深度ごとに水頭は異なりますが、降水に対する反応は同じです。地下水の変動様式は、1)亀裂の多いチャートブロックでは急上昇急降下、2)地すべりブロック中央部では緩やかな上昇下降、3)季節変動、の三つのタイプに分けられます。
青森県八甲田蔦川地すべりは、標高約1,295mの赤倉岳(40度36分0.67秒 140度54分28.12秒)東斜面で発生した巨大地すべりの東南東末端に位置しています。この巨大地すべりは長さ7kmあり、広大な集水域を持っています。地下水排除工と末端盛土を行いました。地下水の水質分析から浅層地下水と深層地下水に区分できることが分かりました。この地域は、十和田八幡平国立公園で地すべり地内には多くの沼があり、これらの沼に影響を与えないよう深層地下水をねらった地下水排除を行いました。深層地下水の区間は有孔管、それ以外は無孔管としました。
<質疑応答の内容>
巨大地すべりでは末端付近と頭部付近では融雪時期がずれるので、地すべり移動の収束時期にずれが生じます。地すべり対策施設は、施工中は変動量、排水量を観測しますが、概成後は点検が一般的で継続観測は難しいです。大豪雨などがあった場合に集水ボーリングの増し打ちをする場合があります。
中里裕臣氏:山形県鶴岡市七五三掛地区で発生した地すべり災害と調査
山形県鶴岡市の七五三掛(しめかけ)地すべりは、月山ダムの下流約1.5kmで右岸から合流する小網川の支流、猫谷川と苅谷川に挟まれた地すべりです。大規模なDブロックの西側にあるBブロックで2009年に災害が発生しました。ほぼ北から南に移動しているB-1ブロックとその末端付近で苅谷川に沿うように北西から南東に移動しているB-2ブロックがあります。
ここでは、1971年頃に道路法面の崩壊が発生し、1991年に地すべり防止区域に指定されました。2009年2月に地すべりの兆候が現れ、4月に住民は避難しました。地すべり範囲を確認し、5月に応急対策を行い、7月には動きが沈静化しました。その後、農水省で地すべり恒久対策、農地復旧を実施し2019年3月に直轄事業を完了しました。
この付近の地質は、中新世の堆積岩類、火成岩類です。地すべり移動土塊は、玄武岩類で下位の泥岩との境界がすべり面になっています。地すべりの規模は、長さ700m、幅400mです。移動量は最大15cm/日で、末端では40日で4m移動しました。
対策工は、水路整備や河川転流工で地表水の浸透を減少させ、地下水排除工を実施しました。集水井を11基設置し水田浸透防止工を行いました。緊急対策として効果的であったのは、径200〜450mmのディープウエルによる地下水排除でした。また、被圧地下水を排除するために斜めボーリングを行いました。これは、即時的効果はありましたが、効果は持続しません。
<質疑応答の内容>
地下水排除工による水田の減水深は起きておらず営農は続いています。ただ、地すべり頭部では畑に転換しているところがあります。地下水排除工としてディープウェルは効果的です。集水井の配置はどこに排水するかをまず考えて計画しました。
安田 進氏:熱海などで発生した泥流・土石流被害への備え
2021年7月に熱海市で発生した土石流について公表されている資料をもとに述べたあと、いろいろな土石流の事例を紹介します。
熱海市の土石流を見た第一印象は、土石流の幅が狭いということ、新幹線のカルバートを通過しているということでした。静岡県のドローンの写真をまず見て、2週間後に現場に行きました。この付近の斜面は、平均傾斜は11°の均一な斜面です。直前に時間40mmの降水がありました。
崩壊した盛土は、2006年に工事が開始され2010年に完了しています。県の見解は、末端で湧水が発生し、それを引き金に崩壊が上部に波及したとしています。その後、ボーリング掘削、雨量計設置、沢の流量計測、熱赤外線による湧水点調査などを行っています。崩壊地には湧水点が多数存在しています。これらの湧水は、右岸は表流水がそのまま湧き出しているのに対し、左岸は深い地下水が湧き出していることが分かりました。
2022年3月1日に盛土規制法案が閣議決定されました。幾つかの崩壊事例を紹介します。
1978年伊豆大島近海地震で鉱滓集積場(持越鉱さいダム)が崩壊しました。地震で液状化が発生したためです。
2011年の東北地方太平洋沖地震では福島県須賀川市の農業用ダム、藤沼ダムが決壊しました。150万トンの水が流出しました。
2014年と2018年の広島豪雨災害では砂防堰堤の建設と下流の流路整備が進みました。
呉市は、200年〜300年間隔で大きな土石流が発生しています。砂防堰堤の建設場所の検討が必要です。
その他、三宅島の土石流や御岳崩れなどがあります。
2008年6月14日の岩手・宮城内陸地震では栗駒山で土石流が発生しました。残雪があったために土石流の威力は増しました。
釜井 俊孝氏:宅地崩壊と地下水
宅地造成盛土は基準に従って造られています。しかし、2011年の東北地方太平洋沖地震では地すべりが発生しています。主な原因は、地下水が排除されていないことです。宅地として造成された土地には「緑ヶ丘」といったようなキラキラネームが付いています。全国に51,000カ所の造成された宅地がありますが、耐震の事前対策が行われているのは2カ所のみです。
東京は、基本的に多摩川の扇状地に位置しています。谷を埋めると地下水が貯まります。広域の地下水系を考慮して対策を立てる必要があるのですが、対策の対象となっていません。排水施設の経年劣化の問題もあります。盛土では地震による液状化によって噴泥が発生し崩壊します。地下で水による浸食が起きるためです。
大津市の例では盛土の底面にソイルパイプ(空隙)が形成されていました。盛土内の排水管が障害を起こしている例もあります。排水管の断面の7割が土砂で埋まっています。これは排水管(暗きょ)に設けられている中央縦排水から施工中に土砂が流入するためです。
宅地の排水管理は難しいです。盛土の完了検査は出来形のみで性能検査はしませんから、ザルのようなものです。
仙台市の緑ヶ丘4丁目では、2011年の東北地方太平洋沖地震で盛土が崩壊しました。1978年にも盛土崩壊を起こしています。ボーリングを行い動的震度計、間隙水圧計を設置しました。ここでは、地震後に地下水が自噴し始めました。地震波は、すべり層で振幅が吸収されるなど微少な地質構造が影響していることが分かりました。すべり層付近では地震による破壊域と液状化域が繋がっています。S波が来ると谷埋め盛土は、谷横断方向に振動します。盛土の剛性よりも側部の摩擦抵抗が重要だと分かりました。
2011年の東北地方太平洋沖地震では、福島第一原子力発電所で送電線の鉄塔が倒壊し停電しました。この現象を側方抵抗モデルで解析したところ、崩壊した箇所の安全率は0.8、それ以外は1.1以上でした。