日本応用地質学会北海道支部 研究発表会2017/06/23 14:52

2017年6月16日(金)に物理探査学会との共催で,表記発表会が開かれました。興味のあった発表について述べます。


伊東佳彦氏

     開会の挨拶をする伊東佳彦氏(日本応用地質学会北海道支部 支部長)


岡崎賢治・倉橋稔幸・山崎秀策:トンネル施工時の速度検層と岩石試験よる弾性波速度に関する一考察


北海道では,トンネル施工時に切羽から水平(先進)ボーリングを行って切羽前方地質を確認し,速度検層や岩石試験の結果を含めて地山分類を見直しています。

火山岩を地山とするトンネルで得られたデータを使って,速度検層の弾性波速度と岩石試験による弾性波速度(超音波伝播速度)について検討しました。

なお,水平ボーリングの坑内速度検層による弾性波速度をVph,ボーリングコアによる弾性波速度をVpcと表示しています。


結果の概要は次のとおりです。

1)VpcとVphの関係は,Vpc=1.08Vphでした。

 2)Vph>Vpc,つまり,速度検層の弾性波速度(地山弾性波速度)がコアの弾性波速度よりも速い試料が,380試料中134試料(36%)ありました。

3)コアの弾性波速度は,有効間隙率の増加とともに低下します。

 4)有効間隙率が20%以上のコアでは,ボーリング掘削から測定までに時間をおくと,明らかにコアの弾性波速度が低下します。


 *凝灰岩のように空隙の多い地山のコア試験は,ボーリング後の資料の保存方法に工夫が必要です。また,できるだけ早く試験することが望ましいです。


鈴木浩一・田中和弘・徳安真吾・浅野慶治:新第三紀堆積軟岩地点における電磁探査法による泥火山調査


新潟県・十日町と台湾・烏山頂(Wushanding)の泥火山で深度約1kmまでの比抵抗構造が把握できる電磁探査を行い,泥溜まり(マッドチャンバー)の存在と流体の経路を推定しました。

十日町の泥火山は北越急行ほくほく線・鍋立山(なべたちやま)トンネルの難工事区間の上に位置しています。ここでは,地下300m~800m付近にマッドチャンバーと泥火山の通路となったと思われる低比抵抗部が検出されました。

烏山頂でも同じように深度300m~500mに低比抵抗帯があり,また周囲に推定されていた断層部分でも低比抵抗帯が検出されました。

これらの結果から,十日町のように背斜軸にある泥火山では,地下に泥溜まりが形成されその後陥没が発生してその周辺に泥火山ができると考えられます。一方,断層沿いでは断層に沿って流体が上昇してそのまま噴出する,あるいは褶曲軸に沿って移動し泥溜まりを作って噴出するといった二つのパターンが考えられます。


*鍋立山の難工事区間では,膨潤圧のほかにガス圧が作用したと言われています。その正体がこの地下構造にあったのだと納得いきました。


草茅太郎・鈴木敬一・森島邦博・成田浩司:原子核乾板とシンチレータ方式による宇宙線ミュー粒子探査の比較


ミュー粒子探査は,1955年頃から始められました。割合歴史は古いです。

この発表で比較した測定方法は,次の二つです。

 1)原子核乾板を用いる方法:荷電粒子の通過によって乾板にできた潜像核による飛跡を処理することによって観測対象の内部構造を求めます。

 2)シンチレータを用いる方法は,荷電粒子が通過すると微弱に発光をするプラスチックの微弱光を高感度センサで検出します。


    表-1 原子乾板とシンチレータ方式の比較(当日資料から)


原子核乾板

シンチレータ方式

電源

不要

必要

空間分解能

高い

低い

大きさ・重さ

薄い・軽い(葉書程度)

大きい・重い(約2m)

取り扱い

易しい

難しい(光電子倍増管)

時間分解能

無し

有り

データ読み出し

遅い

早い

温度耐性

低い(約30℃)

高い(約70℃)

 

比較実験は大谷石の採掘跡のさらに下の坑道で行い,上の採掘坑道がうまく捉えられるか試験しました。

結果は次のとおりです。

 1)原子乾板方式は角度分解能が高いため,空洞の影響をより明瞭に捉えることができました。

 2)シンチレータ方式は時間分解能が高いため,同一機器で複数の方向を観測できました。


 地質の話から物理探査の話まで,豊富な内容の発表会でした。




日本応用地質学会北海道支部 2017個人・招待講演会2017/06/24 14:39

 前日の日本応用地質学会北海道支部に続いて,日本地質学会北海道支部の個人・招待講演会が2017年6月17日(土)に開かれました。場所は,北大理学部5号館の大講堂でした。個人講演は8件でした。


 最初に,宮坂ほかによって,翌18日に日行われた『2017年春巡検 「札幌の失われた川を歩く」の紹介』が行われました。

 二つほど紹介します。


 林 圭一・川上源太郎・廣瀬 亘・渡辺真人,北海道東部能取湖周辺の新第三系層序と渦鞭毛藻シスト化石-渦鞭毛藻シスト群集に基づく堆積場の古環境変遷-


 網走地域の能取湖周辺の新第三紀層は,常呂層,網走層,能取(のとろ)層,呼人(よびと)層です。能取湖東岸では珪藻化石による年代が明らかにされていますが,西岸では詳細な地質年代は不明でした。渦鞭毛藻シストと年代測定によって,この地域の層序と年代対比の再編を行いました。時代の新しいものから要点を記します。

1)能取湖西岸の上部呼人層は東岸の能取層~呼人層に対比されます。

2)西岸の下部呼人層は中期中新世~後期中新世前期に対比されます。泥岩主体であることから網走層の同時位相の鱒浦層に対比されます。

3)東岸の能取層は中期中新世(16Ma-12Ma)です。

4)西岸の能取層は漸新世~中期中新世前期以前に対比されます。ジルコンの放射年代は20Ma(2千万年前),フィッショントラック年代は15.5Maです。このことから,前期中新世に対比されます。常呂層の一部として再定義しました。

5)常呂層上部の砂岩部層上部層・泥質砂岩部層は放射年代,フィッショントラック年代とも21Maです。

6)常呂層下部の礫岩部層・砂岩部層は後期漸新世(28Ma~23Ma)に対比されます。


 渦鞭毛藻シスト化石群集から当時の堆積場を推定すると,網走層上部から呼人層下部,つまり中期中新世から後期中新世にかけて(16Ma~5.3Ma)堆積場が急激に深海化しました。


*渦鞭毛藻というのは,泳ぐ推進力を生み出す2本の鞭毛を持った単細胞藻類です。主に海に棲んでいますが淡水にも棲んでいて,休眠状態では厚くて強い膜に包まれたシスト(cyst:休眠体)になります。これが化石として残りやすいのです。

**放散虫による層序年代によって、日本の地質についての解釈が大きく変わったことを思い出してしまいました。


栗原憲一氏

                講演する栗原憲一氏


招待講演:栗原憲一,地質学会が選定する北海道の化石「アンモナイト」について


 日本地質学会は,2016年5月10日の「地質の日」に「県の石」などを発表しました。北海道は、石として「かんらん岩」,鉱物に「砂白金」,化石に「アンモナイト」が選ばれました。


 北海道のアンモナイトについては,松浦武四郎が「カボチャ石」としてスケッチを描いている(東蝦夷日誌 五編。1870(明治3)年)ほか,ライマンも記述しています(北海道地質總論,1878(明治11)年)。

 アンモナイトはオーム貝やイカの仲間なので,アンモナイトの内部構造を調べることとあわせて,ある程度どのような生活をしていたかを推定できます。

 卵からふ化した直後の殻の直径は0.5~2mm程度で,大きくても10mmです。ふ化直後は比重が海水より小さく浮遊性であったと考えられます。海水を噴出する「ろう斗状」の器官があり,移動能力があったため生息場が広かったと考えられます。

 アンモナイトが死ぬと殻の中に海水が入り,海底に沈んでいくと考えられます。

 アンモナイトの中には,こんがらかったような巻き方をしているものがありますが,この巻き方も規則性があることが分かっています。

 この異常巻きのアンモナイトの一種が浦幌町の茂川流布川(もかわるっぷ・がわ) で見つかりました。産出した層準は,K-Pg境界の直下で6,680万年前です。北太平洋最後のアンモナイトとされています。

 博物館学芸員として,学術,教育,技術(保存など)の三つを総合的に進めていきたいと考えています。


*栗原さんのアンモナイトの話を聞くのは二度目ですが,いつも,その面白さに引きつけられます。

**私が学生の頃は,九州大学の故松本達郎氏がアンモナイト研究で大きな業績を上げていました。1980(昭和55)年に,松本氏が昭和天皇にご進講した際のアンモナイト化石標本が,九州大学総合研究博物館に残っているそうです。


 なお,この講演会の要旨は下のサイトからダウンロードできます。

( http://www.geosociety.jp/outline/content0023.html の「北海道支部平成29年度例会(個人講演会)」