地震学者・石橋克彦氏の講演会2023/06/08 11:14

 2023529日(月)午後1時から午後5時まで、衆議院第一議員会館・大会議室の会場とオンラインによって地震研究者で神戸大学名誉教授の石橋克彦氏の講演会が開かれました。講演のタイトルは「日本を脆弱化し南海トラフ大震災を激甚化するリニア中央新幹線」でした。

 

 この講演会は、「立ち往生するリニア建設~ストップリニア!訴訟の勝利判決に向けて 記念講演」で、国会議員も講演会に参加していました。

 

石橋克彦氏:日本を脆弱化し南海トラフ大震災を激甚化するリニア中央新幹線

 

 20115月に交通政策審議会の中央新幹線小委員会(家田 仁委員長)が「中央新幹線の営業主体及び建設主体の指名並びに整備計画の決定について」(答申(案))を出しました。この答申(案)では地震のことを全く考えていないことに危機感を覚え、2020年頃から雑誌「科学」(岩波書店)へ論文を投稿し始めました(例えば、石橋克彦、「リニア中央新幹線は南海トラフ巨大地震と活断層地震で損壊する」、科学、202012月号)。

 日本は、約150年前に近代文明を取り入れて、戦前は富国強兵に励んできました。敗戦後は経済大国として成長してきました。この間、本格的な南海トラフ巨大地震は起きていません。しかし、南海トラフ巨大地震は、リニア新幹線の供用中に必ず起きます。リニア新幹線の建設・供用は南海トラフ巨大地震への対策の対極にあります。

 

 より根本的な問題として「科学および科学技術は人間にとって何なのか」という問題があります。資本・権力に支配された科学・科学技術は何をもたらすのか、ということです。

 リニア新幹線は生活を脅かし、国の長期的あり方を壊します。東京、名古屋、大阪の三大都市圏を短時間で移動できるようにすることによって、地方分散型国土の形成を阻害し、不均衡な国土を作り出します。

 

 リニア新幹線は86%がトンネルです。逆断層の活断層を横断します。東京から名古屋までの間に、甲府盆地南縁の曽根丘陵断層帯、糸魚川―静岡構造線断層帯南部区間、木曽山脈東縁の伊那谷断層帯主部、木曽山脈南部の清内路峠(せいないじ・とうげ)断層帯、阿寺断層帯主部の南部、名古屋市内の笠寺起震断層です。

これらの断層が動いた場合、リニア新幹線は東海道新幹線の代替にはならず、逆に新たな災害を生み出します。194412月に昭和東南海地震が起き、194612月に昭和南海地震が起きています。この南海地震は、出来損ないの南海トラフ地震です。歴史上8-9回発生している南海トラフ巨大地震があり、駿河湾から日向灘までが発生域です。

 

 地震というのは地下での岩石破壊現象です。地下で地殻が面状にずれ破壊を起こし、地震波が放出されます。ずれ破壊の速度は毎秒2-3㎞(時速 約10,000km)で、破壊された地殻が震源断層面です。

 地震の規模はマグニチュード(M)で表します。表1にマグニチュード、震源断層の大きさ、断層のずれ量、震源時間(揺れの継続時間)を示します。

 

1 地震断層の諸元(目安)

マグニチュード

震源断層の長さ×幅

km×km

断層のずれ量

m

震源時間

(秒)

7

50×15

1.5-2.0

15

8

150×50

5

50-60

9

500×150

15

150-180

 

 地震がもたらす諸現象は、次のとおりです。

1)岩盤のずれ(破断)

2)強い地震動

3)地殻変動と津波(地殻応力の変化)

4)地下の水みちの変化

5)余震と誘発大地震(100年ほど続くことがある)

 

 地震で発生する災害には次のものがあります。

1)            揺れによる建物などの被害

2)            液状化と地盤の側方流動

3)            山崩れや山体崩壊

4)            隆起・沈降などの地盤変動災害と浸水・滞水

5)            積雪地帯での雪崩発生

6)            救援隊の二次災害

7)            複合災害 高潮・火山噴火・大雪・原子力施設被災・長周期振動

 

 南海トラフ巨大地震が発生した場合、西側隆起の富士川河口断層が動く可能性があります。そうすると、その北にある身延断層を通じて糸魚川―静岡構造線断層帯が動く可能性があります。赤石山地は沈降し地下水が噴出する可能性があります。

 

 リニア新幹線の運行中に巨大地震が発生した場合、10秒以内に早期警報が発せられ70秒で車両は停止することになっています。停車する場合、車輪走行になった時点で被害が起きます。地震動は最大3分ほど続きます。情報ケーブルの破損や品川駅・名古屋駅での被害も予想されます。全列車が緊急停車した場合、地上への避難に困難が伴います。冬季に地震が発生した場合、地上に出ることができても非常口が標高1,000mを超える場所にあるトンネルもあるので、ヘリコプターでの避難が必要になる可能性があります。

 

 このように、「リニア新幹線は哲学なき科学技術が災厄をもたらす事例の一つ、原子力と似る」のです。

 

<感 想>

 リニア新幹線(中央新幹線)について、南海トラフ巨大地震が起きたらどうなるかに限って問題を指摘した講演でした。

 リニア新幹線も北海道新幹線もトンネル屋(トンネル建設担当技術者:地質調査、設計、施工)にとっては非常に魅力的な事業です。リニア新幹線は、品川-名古屋間285.6kmのうち約247km(約86%)がトンネルで、しかも土被り1,000m以上のトンネルがあります。どんな調査をし、どんな支保構造とし、どう建設するか、挑戦的な課題が満載です。


 しかし、地震について、ほとんど検討していないというのは驚きです。

 リニア新幹線は、車体が磁気で浮上しているので地震にも安全だと信じているかもしれません。しかし、大地震が発生した場合、列車は停止します。時速150km以下では車輪走向になります。今の新幹線と変わらないのです。タイヤはゴム製なので飛行機が着陸するのと同じような状況になります。

 とにかく、問題満載なのがリニア新幹線だということがよく分かります。

 

 20233月に土木学会から「トンネル地震被害と耐震設計−山岳・シールド・開削トンネル−」という力作が出たばかりです。この本では、トンネルが地震に対して安全であるとは言えない事例が色々と述べられています。今からでも地震に対する真剣な検討を進めるべきだと考えます。

 

 この講演会の様子は、YouTubeで公開されています。YouTubeで「石橋克彦」と検索すれば <講演会立ち往生するリニア建設(2023529日開催)> が出てきます。

また、石橋克彦、リニア新幹線と南海トラフ巨大地震 「超広域大地震」にどう備えるか(集英社新書、20216月)がお薦めです。



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