本の紹介:トンネルの地震被害と耐震設計2023/04/19 10:26

トンネルの地震被害

土木学会 トンネル工学委員会 技術小委員会 トンネルの耐震性に関する技術検討部会 部会長 朝倉俊弘、トンネルライブラリー33 トンネルの地震被害と耐震設計―山岳・シールド・開削トンネル―。土木学会、20233月。

 

 タイトルにあるように、この本では、山岳トンネル、シールドトンネル、開削トンネルのそれぞれについて述べています。


 地震によるトンネルの被害には、ごく大雑把に言って次のような特徴があります。

・断層破砕帯・脆弱層・湧水の多い箇所で地震による変状が発生しやすい。

・施工が困難であった箇所で地震の被害が発生しやすい。

・シールドトンネルは、地震には比較的強く被災事例が少ない。

 

 トンネルに被害をもたらした地震には次のものがあります。

 この中には、外国のトンネルの被災が載っています。メキシコ地震ではシールドトンネルのリング継ぎ手が切断されました。台湾の集集地震では山岳トンネルにズレが生じました。

 巻末の参考資料には、このほかの地震によるトンネル被害が載っています。

 

1923年 関東地震

1930年 北伊豆地震

1948年 福井地震

1952年 十勝沖地震

1964年 新潟地震

            伊豆大島近海地震

1978年 宮城県沖地震

1985年 メキシコ地震

1987年 千葉県東方沖地震

1993年 能登半島沖地震

    北海道南西沖地震

1995年 兵庫県南部地震

1999年 台湾集集地震

2000年 伊豆諸島北部地震

    鳥取県西部地震

2004年 新潟県中越地震

2007年 新潟県中越沖地震

2008年 岩手・宮城内陸地震

    岩手沿岸北部地震

2011年 東北地方太平洋沖地震

2016年 熊本地震

 

 山岳トンネルの主な被害状況は次のとおりです。

 

1923年 関東地震:中央線・与瀬トンネル;覆工が崩壊 地表陥没

    外房線・土気とけトンネル;覆工アーチ部のコンクリートと土砂が    落下

1995年 兵庫県南部地震:山陽新幹線・六甲トンネル;断層破砕帯12箇所で圧ざ・ひび割れ開口・側壁コンクリートのはく落

     西宮北道路・盤滝トンネル:アーチから側壁にかけて覆工コンクリート崩落 舗装版隆起

2004年 新潟県中越地震:上越新幹線・魚沼トンネル;アーチ部の覆工    コンクリートの崩落 

国道17和南津わなずトンネル;天端の覆工コンクリート崩落 アーチ部と側壁の打ち継ぎ目で圧壊 覆工コンクリートにひび割れ

2011年 東北地方太平洋沖地震:東北新幹線・福島トンネル;中央通路    部の損傷 りょう盤(梁盤)コンクリート構造区間で軌道隆起

*りょう盤コンクリート:線路が直接載るスラブコンクリートの下に路盤コンクリートがあり、その下に打設されるコンクリートの。トンネルでは、りょう盤コンクリートを打設している区間にはインバートを設置していない。

2016年 熊本地震:熊本県道28号熊本高森線・俵山トンネル;覆工の半  断面が崩落 鋼製支保工座屈 インバートひび割れと路盤の隆  起

 

 この本では山岳トンネル、シールドトンネル、開削トンネルの順で述べられていて、各トンネルが同じ章立てとなっています。山岳トンネルを例に取ると次のようになっています。

 

3.山岳トンネル

3.1地震被害事例

3.2主な研究事例

3.3耐震対策の考え方

3.4耐震対策の事例

3.5山岳トンネルのまとめ

 

 そして、「6.トンネル耐震性検討のための試計算」となっていて、開削、シールド、山岳の各トンネルについて同規模のトンネル構造を想定し、土かぶりや地盤条件などの設計条件を統一して耐震計算を行っています。地盤の応答解析は「応答変位法」を用い、「レベル2地震動」を対象に行い、「耐震性能2」を目標として実施しています。

 

 巻末の「参考資料」(304-415ページ)も非常に充実しています。

 

 断層破砕帯のように地盤条件が急激に変化する箇所、大量の湧水があって地山が劣化しやすい箇所などを地質調査で可能な限り正確に把握し、設計・施工段階で手当を行うことでトンネルの寿命を長くする努力が必要です。

 また、維持管理においても変状原因を特定できるような地質調査を立案することが大事です。そのための第一歩として非常に重要な文献だと感じます。

 

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://geocivil.asablo.jp/blog/2023/04/19/9578353/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。