令和5年度 北海道応用地質研究会 特別講演会および特別報告会 ― 2023/04/26 15:23
表記行事が2023年4月21日(金)午後2時50分から同4時50分まで、北海道大学・学術交流会館とオンラインで開かれました。
特別講演会:坂中伸也氏(秋田大学大学院 国際資源学研究科):電気探査による地下構造解釈と適用例
特別報告会:小俣雅志氏(株式会社パスコ 防災技術部):SAR衛星を利用した自然災害の判読
<坂中氏の講演>
物理探査には、地震探査(地震波速度)、重力探査(密度)、地中レーダー探査(誘電率)、磁気探査(磁化率)、電気探査(比抵抗)、電磁探査(比抵抗)などがあります。物理探査の長所は、非破壊であること、大深度の地下構造を把握できることです。短所は、解像度が低いこと、一意的に地下構造を決定できないことです。したがって、地質学的手法と物理探査を組み合わせて地下構造を決定する必要があります。
電気探査では比抵抗法が一般的です。現在は、電気抵抗トモグラフィ(ERT:Electrical Resistance Tomography)と呼ばれることが多いです。
この方法は、それぞれ対の電流電極(C:current)と電位電極(P:potential)を地面に差し、電流(I)を流して電位差(V)を測定し、大地の比抵抗(ρ)を計算します。
電極の間隔が大きくなると深いところまでの地質が反映されます。
岩石種によって比抵抗値は異なりますが、火成岩類では、ほとんど同じ範囲の値となり区別は難しいです。海水の比抵抗は0.25-0.30 Ω・mで一定しています。比抵抗値に最も影響するのは地盤の水分率*です。
*水分率:体積含水率のことと思われます。体積含水率は物質の全体の体積に対する含まれる水の体積の百分率です。
電気探査は、地質構造、活断層、活火山、地熱、資源、地すべり、塩淡境界、廃棄物浸潤、地盤汚染、堤防などの地盤安定度、遺跡などに利用されています。
電極の配置方法によってウェンナー法、シュランベルジャー法、ダイポール・ダイポール法があり、ダイポール・ダイポール法が主流の方法となっています。
現場で得られるのは、比抵抗が単一で一様と仮定したときの値で、見かけ比抵抗と呼ばれます。
電気探査の実施例が話されました。
<二ツ井鉱山跡の原油兆候地>
縄文時代からの油兆地で、原油は800~900万年前の下部七座層(かぶ・ななくらそう)から滲出しています。見かけ比抵抗測定値から疑似断面図を作成し、見かけ比抵抗の計算値から得られた断面図と比較して、どの程度正確に地下構造を表しているか検討します。
ここでは、ほぼ水平な低比抵抗層の上に高比抵抗層が載っている構造が出ました。低比抵抗層が水の層で、その上の高比抵抗層が油だと判断しました。
<秋田市仙翁台の地すべり>
頭部滑落崖に相当する個所に比抵抗値の落ち込みがはっきりと表れました。開口亀裂が形成されていると想像されます。この電気探査結果は、地すべり頭部および中段付近の2か所の開口亀裂を検出しています。また、すべり面の位置も、ほぼ的確にとらえています。
*この付近の地質は、女川層(おんながわそう:約1,100万年前)の硬質頁岩で、流れ盤構造となっています。付近にはドレライトの貫入岩があります。
<大仙市土川杉沢のデイサイト貫入岩>
秋田県大仙市の土川杉沢(つちかわすぎさわ)の採石場はデイサイトを採掘していました。採石場跡で電気探査を実施したところ、デイサイトの比抵抗は200 Ω・mで周囲は低比抵抗を示しました。幾つか測線を設けデイサイトの形を出したところ、デイサイトは下から鉛直に貫入してきたのではなく採石場跡の方向から低角で貫入していることが分かりました。
*このデイサイトは、中期中新世の八割層(男鹿半島の西黒沢層相当)で約1,200万年前に活動したものです(細井ほか、2019)。この地域は、下位にデイサイト質火砕岩類があり、その上にデイサイト溶岩あるいはデイサイトの貫入岩が分布しています。
<男鹿半島の申川(さるかわ)断層の撓曲崖(とうきょくがい)>
申川断層は男鹿半島の付け根付近に分布する南北性の推定断層で、直線的な撓曲崖が形成されています。電気探査の結果、低角の断層と思われる構造が出てきました。しかし、この低角断層を狙って行ったボーリングでは断層を捕まえられませんでした。かなり高角の断層を考えなければならないようです。
電気探査だけからでは地下構造モデルを一意的に決定できない例です。
電気探査では初期モデルの正確性が重要です。
<小俣氏の講演>
SAR(合成開口レーダー: Synthetic Aperture Radar)画像は、衛星から斜めに照射したマイクロ波を使って画像を得ています。利点は、昼夜の別や天候に左右されずに画像を得ることができる点です。開口レーダーで得られた画像を合成したものが合成開口レーダー画像です。使用しているマイクロ波は、「だいち」(ALOS:日本)のLバンド、「センティネル」(Sentinel:欧州宇宙機関)のCバンド、「テラサーエックス」(TerraSAR-X:ドイツ)のXバンドです。Lバンドの波長は150-300mm、Cバンドは37.5-75.0mm、Xバンドの波長は24.0-37.5mmです。
マイクロ波は、水面では鏡面反射して衛星まで戻ってきません。木や草は乱反射するので区別することができます。
干渉SAR画像は位相の半波長分で色分けしています。不動点から見ていくと良く理解できます。2方向のSAR画像を合成して2.5次元解析を行います。
2018年の北海道胆振東部地震で被害が出た札幌市の清田地区では余効変動が観測されました。
LC-InSAR図という解析方法があります。熊本地震では地形的には活断層が見えないところで地表面のズレ(活断層)を発見しました。過去の活断層も発見しました。1-2cmの変位量があれば、何か変動があることは分かります。
<感 想>
二つの講演とも非常に面白い内容でした。
電気探査については、原理が非常に良く分かりました。探査結果の解釈では、地質の知識が必須であることを強調していたのも印象的でした。
衛星で得られる様々なデータが応用地質に利用できることは知っていましたが、これほどまで精密で地表変動を捉えられるというのは驚きでした。
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