本の紹介:日本海 その深層で起こっていること2016/06/23 09:38


日本海
蒲生俊敬(がもう・としたか),日本海 その深層で起こっていること.2016年2月,講談社ブルーバックス.

 日本海は,独特の海水の層構造と循環構造を持っていて,世界の大洋で起こるであろう変化を先取りした動きをするそうです.
 具体的なデータが示されているので,非常に説得力があります.同時に,内容は多岐にわたっていて,文化海洋学の本と言った趣もあります.

 「日本海固有水」と言うのがあります.日本海では水深200〜300mで水温が1℃以下になり,水深1,000mでほぼ0℃になります.水深200m以下をしめている均質な水塊が「日本海固有水」です.水深1,000mより深いところの海水温度を精度良く測ると,水深2,200mより深いところでは水温は全く均質になります.これが「日本海低層水」です.

 この低層水は100〜200年で循環しています.ウラジオストク付近で沈み込んだ温度が低く密度の大きい水塊が,日本海を循環している様子(熱塩循環)が分かってきたのです.

 日本海の地形的特徴の一つは,対馬海峡,津軽海峡,宗谷海峡,間宮海峡によって太平洋やオホーツク海・東シナ海と区切られていることです.今から約2万年前の最終氷期には海面が120mほど低下しました.この時,対馬海峡と津軽海峡は,狭い水路で辛うじて太平洋(東シナ海)とつながっていましたが,宗谷海峡と間宮海峡は陸になっていたと考えられます.このため,深層水の循環は止まり,低層水は生物の生きることのできない還元環境になりました.

 現在,日本海の熱塩循環は規模を縮小していることが分かっています.表面海水が沈み込むウラジオストクの冬の気温は100年で3〜4℃上昇しています.このことは,表面の海水が低温・高密度になり沈み込むのを難しくします.その証拠の一つとして,低層水の酸素濃度が30年間で10%減少していることが挙げられます.つまり,熱塩循環が低層水まで届いていないのです.何年かごとに低層水が新しく形成されることが分かっていますが,その規模は弱まっています.
 大気中の二酸化炭素濃度が上昇していることは,はっきりしています.これは大気から海洋に溶け込む二酸化炭素の量を増やすことになり,炭酸がつくられ海水のpHが低下します.海洋の酸性化です.日本海が酸性化しているデータも得られています.
 冬の北西季節風が弱まっていて,その結果,日本海側の積雪量が減少する可能性があります.また,気温が上昇すると雪でなく雨として降る量が多くなり,地表の水が短時間の内に流れ去ってしまう結果になります.

 日本海の環境変化は日本列島に大きな影響を与えると同時に,地球全体で起こっていることの先駆けとなります.


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