応用地質学会北海道支部 研究発表会2016/06/22 15:56

 2016年6月17日(金)午後1時から5時30分まで,寒地土木研究所で表記発表会が開かれました.正式名称は,「平成28年度 日本応用地質学会北海道支部・北海道応用地質研究会(共催:物理探査学会)合同研究発表会」です.

 全部で11件の発表がありました。
 更新統〜完新統の層序が1件,トンネルに関わるものが3件,有害金属処理が1件,地すべりなどの斜面崩壊に関するものが3件,ミュー粒子探査が1件,その他が2件でした.
 二つの発表を紹介します.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 山崎 秀策・岡崎 健治・倉橋 稔幸・伊東 佳彦(寒地土木研究所):新第三紀中新世火山岩類地山におけるトンネル変状の岩石学的解析

 トンネル変状の中には,トンネル施工時において掘削に伴う変位量の変化や膨張性の判定では問題がなくても中長期的に継続して進行する変状(時間依存性変状)がある.
 延長約3km,最大土かぶり330mのトンネルで,時間依存性変状の原因を岩石学的に解析した.地山強度比は最大土かぶり部でも40以上で塑性変形が生じる条件にはない.
 時間依存性変状が発生した区間の地質は,弱変質安山岩の塊状溶岩・自破砕状溶岩である.
 変状は,トンネル掘削から2ヶ月後にインバートコンクリートに10cmの盤膨れが発生した.
 変状が発生した区間では広域的な熱水変質により,黄鉄鉱や白鉄鉱の硫化鉱物,スメクタトのような膨潤性粘土鉱物,石膏や鉄明ばん石と言った硫酸塩鉱物が検出されている.
 時間依存性変状は次のような過程で発生したと考えられる.
(1)トンネル掘削により緩み域が発生し地下水が浸透して,硫化鉱物の酸化分解と酸性水が発生する.
(2)酸性水により岩石組織を拘束していた炭酸塩鉱物が溶脱して空隙ができる.
(3)地下水による粘土鉱物の膨潤と石膏などの硫酸塩鉱物の形成による体積増加が発生する.
(4)この過程を繰り返すことにより,局部的な地山の脆弱化が起こり変状が発生する.

 伊東佳彦((国研)寒地土木研究所),岡﨑健治((国研)寒地土木研究所),大日向昭彦(北海道開発局),倉橋稔幸((国研)寒地土木研究所),丹羽廣海((株)フジタ),村山秀幸((株)フジタ),笹谷輝勝((株)フジタ):弾性波探査による供用トンネルの地山診断・評価技術の研究 

 最近,供用中のトンネルで長期にわたり変状が進行する(時間依存性変状)例が発生している.そこで,建設直後のトンネルと実際に時間依存性変状が生じたトンネルを試験地として弾性波速度による評価手法の適用性等について研究した.
 トンネル深部の新鮮岩に比べ,トンネル近傍での弾性波速度が16〜25%低下すると補修が必要になると判断された.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 掘削したばかりのボーリングコアの観察で健全に見える場合でも,1週間ほどおいて観察すると劣化している箇所があるようであれば「時間依存性変状」が発生する可能性を考える必要があるようです.
 やっかいなのは,膨潤性粘土鉱物の含有量や地山強度比など,これまで示された指標が適用できないことです.実務としては,時間を少しおいてコア観察を行い,怪しいと思ったら必要な岩石学的な試験を実施することでしょう.その場合,薄片観察とX線解析は必須です.