亀岡美友氏の講演「山岳トンネルの調査,設計,施工と施工結果」2010/02/27 21:35

 2010年2月26日(金)に北大学術交流会館で(社)日本器械化協会施工技術総合研究所技師長の亀岡美友氏の講演があった.北海道土木技術会トンネル研究委員会技術発表会の特別講演である.


質問に答える亀岡美友氏


 まず,トンネル構造物(私案)に必要な要件として「トンネルの支保構造は,各支保部材を地山の挙動に合わせて,最も効果的な安定効果が得られるように組み合わせ,施工順序や施工時期も含めて総合的に地山条件に適合したものとすることが必要である.」と言う.
 構造物としてのトンネルの主要な材料は地山であると言う点が他の構造物と異なるところで,荷重条件や支持能力に不確定な要素が多いのが特徴である.地山と支保構造の相互作用でトンネルは構造的に安定する.
 したがって,施工順序や施工時期,例えば,吹付けコンクリート硬化の時間依存性をどう設計に取り込むかといったことが重要となる.

 山岳トンネル工法(私案)というのは「地山を掘削した後に,吹き付けコンクリート・ロックボルト・鋼アーチ支保工・インバート・覆工等により,地山を早期に閉合することによってトンネルを建設する工法をいう.」
 つまり,地山の支保効果を発揮させるにはトンネル断面を閉合することが必須であるという考えである.

 このことから,施工方法(私案)として「トンネルは早期閉合を原則とする.掘削工法は,補助ベンチ付き全断面掘削工法を用い,支保工(吹き付けコンクリート,ロックボルト,鋼アーチ支保工)と鋼製ストラット(吹き付けインバートも含む)によるインバートを用いて掘削断面を早期に閉合するのが基本である.」と提案する.
 地山状態が良くて変位が大きくならず,後荷もかからない場合にはインバートを抜いても良いというのが基本原則となる.
 長尺鏡補強工を併用して切羽とインバートを4mにまで縮めた例がある.

 現在支保構造の決定は地山等級に対応した標準支保構造が決まっていてこれを適用する(経験知)標準支保構造方式,同じような地山条件の事例を参考にして決定する(経験知)類似事例参考方式,そして一般には二次元解析を行う数値解析方式がある.しかし,二次元解析では変位を合わせると応力が合わないということが生じる.これは,吹付けコンクリートの弱材齢時の強度や時間硬化が不明なためであろう.また,応力開放率を40%と見込むということを行っているが,これも実態は不明である.
 関越自動車道では山はねが発生したが,このような場合,切羽に予想以上の応力が集中していることが分かっている.
 早期閉合を考えると数値解析は切羽近傍の三次元応力状態を考慮する必要がある.この時問題となるのは,1)切羽の進行に伴う応力・変形状態の変化,2)吹付けコンクリートに代表される時間・硬化曲線の取り込み,3)長尺先受け工法や長尺鏡補強工法などの補助工法を含めた支保部材のモデル化である.
 さらに,地山の強度・変形特性を三軸圧縮試験で求めること,低強度地山の場合は最高耐圧点以降の強度・変形特性を求めること,地質踏査や近傍類似地山瀬の好結果を合わせて改暦領域周辺の地山状況をモデル化すること,などが必要となる.

 一般にトンネル工事費は当初見込みを上回ることが多い.工期・工費の算定精度を向上させる必要がある.そのためには施工結果をデータベース化し公表する必要がある.地質構造・地質層序,地山等級,補助工法などの施工実績があれば,それを参照して精度の良い工期・工費の算定が可能である.特に,工期・工費に大きく影響してくるのは補助工法の有無である.事前調査・設計で補助工法が必要な地山かどうかの判定を行っておくことが必要である.

 最近の施工法では超近接メガネトンネルがある.沖縄南部は住宅が密集していることや米軍基地があることから用地確保が難しくメガネトンネルの施工事例が多い.メガネトンネルの場合二つのトンネルの間に導坑を掘って支保の一部とするが,最近は無導坑で全断面掘削を行いインバートを設置するという方法で掘削した例がある.

 AGF 工法のような長尺先受け工は,挿入した鋼管自体で切羽前方を押さえているのか,注入により押さえているのかといった原理がはっきりしていない.打設角度が大きくなると挿入管の下側の岩盤が崩落する可能性が高くなり,フォアポーリングを併用したりしているが,天端の拡幅を最小にしてどれだけ低角で打設できるかで工費が違ってくる.
 また,鏡補強工で使用する部材は FRP(Fiber Reinforced Plastics)や GRP(Glass Reinforced Plastics)などであるが,掘削でズリに混ざるので産業廃棄物として処理しなければならない.これを生物分解性の材料で造れば処理費は不要となる.

 情報化施工とは「情報化技術(ICT)を建設生産システムに適用して施工に関する情報の効率的利用を図ることにより,施工の効率性・安全性・品質の向上・省力化・環境保全問うに関する施工の合理化を行う生産システムである」.
 *ICT は(Information and Communication Technology)のことで,一般的には情報通信技術と訳されている.この言葉には情報の共有化ということが含まれている.

 トンネルの品質とは何か.設計・施工は性能規定が主流となっているがトンネルでは性能規定は無理であろう.
 安全性はトンネル建設時の切羽作業の安全性が主要なものである.この点では,発破掘削の際の火薬の機械装填の進展が著しい.これにより切羽に接近した作業の時間が短縮される.また,経済性の点からは4m くらいの長孔発破を行うことが考えられる.

 現在採用されている支保工の軽減方法は,ロックボルトの長さや打設範囲,鋼製支保工の規格などであるが,支保工間隔を広げることが可能な地山では,これが工期・工費短縮に効果的である.

 質疑応答の中で亀岡氏は次のように述べた.
1)切羽近傍の三次元解析では,支保構造・支保部材のモデル化,地山のモデル化という二つの問題がある.室内試験で地山物性値を設定し順解析で変位・応力を予測するのが妥当である.この場合,残留強度を求めておく必要がある.
2)二次元解析では応力開放率を導入しているために解析精度が落ちている.室内試験で物性値を求め,いくつかのケースを想定し順解析を行う方が良い.また,鏡補強工などの補助工法の効果を解析に適切に取り込めているかという問題がある.

 以上が亀岡氏の講演のあらましである.

 亀岡氏は1978(昭和53)年に京都大学大学院工学研究科資源工学専攻の博士課程を修了し,日本建設器械化協会機械化研究所へ入所したと講演会の司会者から紹介された.
 講演の中で亀岡氏は岡 行俊氏(当時京都大学工学部資源工学科助教授)の「薄肉理論」に触れられた.岡氏は当時,“鉄腕ナトム”と言われていた人で, 新オーストリア工法(NATM工法)の紹介を精力的に行っていた.しかし,岡氏は1979年9月18日に脳卒中で53才の若さで亡くなられた.この時の研究室の教授は平松良雄氏で2009年1月16日に93才で亡くなられている.


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