松木武彦著,進化考古学の大冒険2010/02/18 18:28

 何か,久しぶりの頭が興奮を覚える本に出会った.

 ものごとの変化には化学的・物理的変化と遺伝的変化がある.生物の遺伝的変化では,親から子へと複製を繰り返す過程で環境に適応したものが生き残っていく.同じように,考古学で取り扱う人工物は何度も作り続けられる過程で,その時々の社会的な環境に適応したものへと変化していく.このような視点で組み立てられた考古学が,進化考古学である.
 人工物の変化が起こる仕組みは,それを作る人の心の中で起こっていることを知ることが欠かすことができない.人の心の動きから過去の人工物を解釈するのが認知考古学で,進化考古学の重要な方法論の一つである.

 例えば,約250万年前の人類最古の石器である礫石器は自然石を打ち欠いて刃のようなものを作り出したものである.これは,獣の骨を打ち割ったり砕いたりするのに使われたものだろうと考えられている.しかし,80万年前以降の石器では実用上要求される以上の形へのこだわりが表れ,左右対称の握斧が見られるようになる.さらに,20万年前くらいからは剥片石器が現れ,獣の解体のための石器となる.このような石器の変化はボーン・ハンティングからアニマル・ハンティングへの移行があったと推定される.
 80万年前の握斧は今みても美しい.ここには,「握斧とはこうあるべき」という概念が,作る人の頭の中にはっきりと存在していたことを示している.人の心の進化が道具に反映されているのである.

 と言うような話が時代を追って述べられている.縄文土器の模様が縄文晩期に大きく変化し弥生土器との連続性を見せること,前方後円墳が衰退していく理由など興味のある話が一杯詰まっている.
 フォーム・スタイル・モードの関係と土器などの変化のメカニズムについての話も説得力がある.

 人間とは何かを考える上でも参考になる本である.

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新潮選書.1,200円(税別)