紀伊半島西岸の山地崩壊2006/07/27 22:39

紀伊半島西岸の山地 06年7月27日

 和歌山県はその多くが四万十帯で形成されている.これらの四万十帯は,典型的な付加帯堆積物で泥質岩の中に海洋地殻である緑色岩(玄武岩)やチャート,石灰岩のブロックが含まれている.しかし,四万十帯の中の牟婁層群は砂岩を主体とした地層で礫岩や砂岩泥岩互層を伴う.この地層は,海洋地殻や遠洋性堆積物を含まないことから,前弧海盆堆積物とされている.
 この牟婁層群の砂岩は,.塊状無層理で亀裂が少ない.この砂岩主体層の山を歩くと至る所で古い斜面崩壊の跡があり,斜面途中や斜面下部に砂岩や礫岩の転石が転がっている.崩壊地には特に水が湧き出しているわけではないので,水の作用によって崩壊が発生したようには見えない.
 ただし,いくつかの沢では突然ある場所から大量の地下水が湧出しており,近くの集落ではこの湧水を利用している.この湧水量は流域面積から考えると予想外の量で,水温は比較的低く量も大きく変化しないようである.これも不思議な現象であるが,ここでは触れない.
 1993年の北海道南西沖地震では,奥尻島で地震による岩石崩壊が多発した.その特徴は大きな岩塊が斜面上に堆積しその間をせいぜい砂程度の粒度の土砂が埋めていて,細粒分がほとんど無いことである.このような崩壊土砂では水は礫の間を通って流下するので,雨が降ってもそれほど斜面が不安定化することはない.
 紀伊半島は南海トラフに面していて巨大地震が繰り返し発生している.砂岩が崩壊した転石群はこの地震による崩壊堆積物とそっくりである.そうだとすると,南海トラフ沿いの地震が発生した場合,砂岩主体層が分布する地域は山地の至る所で岩石崩壊が発生し,これらが沢にたまった場合,豪雨により土石流が発生することが考えられる.
 富士山の宝永の噴火では,降り積もった火山灰で酒匂川が噴火後70年以上も土砂災害で悩まされたという.巨大地震による山地崩壊とその崩壊土砂がさらに土砂災害を起こす可能性がある.
 現在,諏訪,伊那谷,鹿児島で土石流が発生し犠牲者が出ている.巨大地震と土砂災害についても,十分な警戒が必要であろう.

【END】

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://geocivil.asablo.jp/blog/2006/07/27/463572/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。