本の紹介:核の戦後史2023/08/09 14:43

核の戦後史

木村 朗・高橋博子、核の戦後史 Q&Aで学ぶ原爆・原発・被ばくの真実。創元社、20163月。

 

 福島第一原子力発電所の炉心に触れた地下水(汚染水)を多核種除去設備(ALPSAdvanced Liquid Processing System;経済産業省)で処理して薄めて海に放出する日が迫っています。202374日に国際原子力機関(IAEA)が総括報告書を発表しました。その結論は次のようなものです。

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1)包括的な評価に基づき、IAEAは、ALPS処理水の海洋放出へのアプローチ、並びに東電、原子力規 制委員会及び日本政府による関係する活動は関連する国際的な安全基準に整合的であると結論付けた。 

2)包括的な評価に基づき、IAEAは、東電が現在計画しているALPS処理水の海洋放出が人及び環境に与える放射線の影響は無視できるものと結論付けた。(経済産業省ウェブサイトより)

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 なお、”ALPS”Deeplで翻訳すると「高度液体処理システム」と出てきました。これが本来の意味で「多核種除去」などという意味は全くありません。また、「システム」は、装置というのが本来の意味でしょう。全体にかっこよく見せようと装置の日本語名称を変えている印象です。

 

 本書の内容の一部を紹介します。

 IAEAの任務は、「全世界における平和的利用のための原子力の研究、開発および実用化を奨励し援助」することと「核兵器の拡散防止」です(本書140ページ)。つまり、IAEAは、原子力発電を推進する機関なのです。天野之弥氏がIAEAの事務局長に就任する直前に「幹部の人事案件からイランの核兵器開発疑惑への対応まで全ての重要な戦略的決定で米側に立つ」と述べたそうです(同140141ページ)。

 

 195431日にビキニ環礁でアメリカが行った水爆実験で、第五福竜丸をはじめ約1,000隻の日本漁船が「死の灰」を浴びました。この被害については、アメリカが200万ドルの「見舞金」を出すことで「完全に」解決しました。

 195412月に駐日アメリカ大使ジョン・M・アリソンから国務長官のジョン・フォスター・ダレスに送られた書簡には、重光外相がアリソンに渡したメモが紹介されています。そこには、「大規模な戦犯の釈放と仮出所。それによって、日本人はアメリカ政府に対して好意的な態度を取るようになるだろう」と記されていました。日本は、水爆被害の補償を求めると同時にA級戦犯の釈放・仮出所も求めていたのです。

 

 これらの事実は、全てアメリカの公文書に依っています。

 以上の内容は、本書の第二部です。

 

 第一部にはアメリカが原爆を日本に投下した目的は、ソ連への牽制であったことが証拠とともに述べられています。アメリカは、原爆を使うまでは日本の降伏を認めないと決めていたのです。ポツダム宣言は、正式に外交チャネルを通じてではなく、短波放送で日本に伝達されました。また、ポツダム宣言として発表された共同声明の参加国にソ連は含まれていませんでした。これらによって、日本は降伏の時期を先延ばししたのです。その詳細な事情が、この本に書かれています。

 

 広島、長崎への原爆投下やその後の原水爆実験による残留放射能で生じた健康被害が正当に扱われてこなかった歴史は、福島第一原発事故後の対応に「確実に」引き継がれ、多くの苦しみを住民に与えています。まさに、今現在の問題なのです。

 

 7年以上前に出版された本ですが、原子爆弾、原子力発電所が生活に脅威を与えている今、多くの人に読んで欲しい本です。



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