本の紹介:ナチスは「良いこと」もしたのか?2023/08/16 11:51


たち州は「良いこと」もしたのか?

小野寺拓也・田野大輔、検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? 岩波ブックレット、20237月。

 

 表紙の帯に「歴史学からみてナチスに評価できる点はあるか?」とあるように、ドイツ現代史あるいは歴史社会学を専門とする著者がナチスの政策を歴史的に検証した書です。

 歴史的事実を検討する観点として、<事実><解釈><意見>に分けることを提案しています。

 

 ナチズムを日本語に訳すとすると「国民社会主義」とするのが良いと考えます。「国家社会主義」というのは、ソ連や東ドイツのような社会体制を言います。ナチズムは国民・民族を優先する思想です。「国家社会主義」という言葉は、ドイツ国民のナチ体制への協力を見ないようにしているのではないかという指摘があります。

 ナチスがドイツ人の支持を獲得していった時のスローガンが「民族共同体」です。第一次世界大戦のあと、内戦さながらの状況であったドイツで、全員が一致団結した状態を取り戻そうという「夢」を振りまいたのです。ただし、この民族共同体は、ユダヤ人、シンティ・ロマ(「ジプシー」)、共産主義者、社会主義者、同性愛者などは徹底的に排除されました。

 

 ナチ統治下でドイツの経済が回復したのはナチスのおかげなのか、ナチスは労働者の味方だったのか、手厚い家族支援は本当か、先進的環境保護政策とは、健康帝国ナチスとは、といった内容が順次述べられています。

 「おわりに」は、自らの体験を通して「ナチスは良いこともした」という意見についての見解を述べた非常に優れた内容となっています。

 

 「憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね」(2013729日、麻生太郎副首相の発言:辻元清美氏提出「麻生副首相のいわゆる「ナチス発言」「一部撤回発言」に関する質問主意書」より)

 

この発言から10年が過ぎました。自民党・公明党政権は、まさにこの道をひたすら進んでいます。ナチスが何をしたのか、その政策は国民のためになったのか、そして日本が進む道はどうあるべきかを考えてみる手助けとなる優れた内容の本です。



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