「寒冷地における斜面変動– 氷河・周氷河作用にも注目して」 ― 2025/08/02 12:04
2025年日本地すべり学会シンポジウム 「寒冷地における斜面変動– 氷河・周氷河作用にも注目して」が6月13日(金)、午後1時から4時50分まで開かれました。
北海道立研究機構 エネルギー・環境・地質研究所の石丸 聡氏が総合司会を務めました。Zoomで視聴しました。
奈良間千之氏(新潟大学):飛騨山脈の氷河の特徴
天山山脈、キリマンジャロ、ヒマラヤなどで氷河の研究を行ってきました。
日本で2100年にどの程度、氷河が残っているかは、よく分かっていません。
飛騨山脈では、過去9年間で21個の氷河が残りました。剱岳、杓子沢、唐松沢などです。飛騨山脈の生き残り氷河を調べることによって環境条件の変化が分かります。これらの氷河は長期観測が可能で、自然環境の多様性を明らかにできます。
日本は雪渓王国で、100〜400箇所の雪渓が越年します。対馬暖流によって日本海から水蒸気が供給され、北西の季節風が列島の山脈にぶつかり雪を降らせます。雪が多く、風が強いのが特徴です。雪は8割が東斜面に溜まり、夏には融けます。急峻な地形であるため吹きだまりができ、雪崩によって雪が集積する雪崩涵養型の雪渓ができます。積雪深は20m程度が限界です。
2012年に飛騨山脈で氷河が発見されました。
地中レーダーで探査し、GPSで流動を観測しました。その結果、氷河が連続して流動していることが分かりました。11m以上の厚さの氷が流動しています。
氷河は、涵養域、消滅域があり、涵養と消滅が平衡条件となると氷河として残ります。氷河氷は多結晶氷で、結晶面で動き再結晶によって巨大化します。流動速度は、氷の結晶が変形する内部変形、氷河の底面すべり、基底物質の変形によって左右されます。
飛騨山脈の氷河は、雪崩発生場所に雪が溜まって形成されます。
唐松沢雪渓で地中レーダーを行い、GNSSを用いて流動測定を1ヶ月行いました。
杓子沢では43m厚さの氷があります。
唐松沢では月20cm流動していて、年4mの流動です。
白馬沢では移動量は年2mほどで、10個の雪渓が氷河と認定されました。
氷河の年間質量収支観測をセスナ機による空撮などを使って行いました。2015年〜2024年の間、4月〜9月に行いました。
飛騨山脈では10m積もって10m融けます。一般的な氷河と比べた場合、その特徴は、1)気温が高い、2)積雪が多い、3)年ごとの変動が大きいことです。
このような雪崩涵養型の氷河は将来生き残れるでしょうか。雪崩涵養型氷河では表面に岩くずがあるため断熱効果が発揮され、融解量が小さいのが特徴です。
剱岳では2016年以降、急激に氷河の面積が減少しています。年ごとの変動が大きく、夏の融解量が大きくなっています。
石川 守氏(北海道大学):凍土・永久凍土と周氷河プロセス
モンゴルの地下の永久凍土などの研究を行ってきました。地表現象や植生に注目しました。地下氷によって形成される地形とその変動、地形の変化と発達史などを研究課題としてきました。
地下には夏になると氷が融ける活動層と夏でも融けない永久凍土があります。活動層は顕在的で凍土層は不可逆的に変化します。
地形としてはピンゴ、淘汰型構造土、多角形土などがあります。斜面では礫の淘汰により下方へ移動します。霜柱ができ土壌がクリープします。地下のアイスレンズの融解で移動するジェリフラクションがあります。
大雪山の山頂部付近では深さ1.5m付近に永久凍土があります。
御鉢平の南東にある小泉岳周辺の地域(小泉エリア)は、淘汰構造土、多角形土(東斜面)、条線土(北西斜面の傾斜4度以上)があります。傾斜があると多角形土は小さくなり楕円形になります。西風で雪が溜まり、融けるときに湿潤な環境になり大きなポリゴンができます。
小泉岳の北西にある五色岳では東斜面に植被階状土が形成されています。
南の忠別岳では岩盤のクラックの動きと地中温度を測定しました。岩盤の崩落は温度差による熱応力によって発生します。
モンゴルで永久凍土プロセスの研究を行いました。ここでは、ピンゴは4.5千年前に形成されています。サーモカルスト地形やメタンの爆発による円形孔の形成などが起きています。
また、差分干渉合成開口レーダーによって地下氷の成長・衰退に伴う地形変動を解析しました。経年的に隆起する地域、経年的に隆起・沈下する地域があることが分かりました。
白雲岳山頂の南西下にある避難小屋の小さな丘にサーモカルストと考えられる陥没孔が現れました。気温の顕著な変化はありません。大規模陥没の前兆現象かもしれません。
岡本 隆氏(森林総合研究所):積雪地域における地すべり研究はどこまで進んだのか?~過去の知見と残された課題~
日本列島は対馬海流による水蒸気の供給とシベリア寒気団による気温の低下、脊梁山脈の存在によって列島の半分が豪雪地帯です。豪雪地帯と地すべり地帯とが一致します。
1970年代から雪と地すべりの関係が研究されてきました。1980〜1990年代にかけて融雪による地下水位の上昇で地すべりが発生すると考えられました。
積雪期の変動パターンとして、1)積雪期一定速度型、2)積雪期加速型、3)積雪初期活動型、4)融雪期活動型、5)積雪期2段階型(佐藤ほか、2004)があります。
地すべりが変動する融雪以外の因子としては、間隙水圧の上昇、荷重の変化、有効応力の増加、せん断応力の増加、せん断強度の低下などが考えられます。
4mの積雪深の場合、積雪荷重は2,000kgf/m2です。地すべり土塊の厚さが6.25m、積雪が0〜5mの場合、勾配が緩く内部摩擦角が大きいと積雪荷重は斜面を判定させます。
新潟県の伏野(ぶすの)地すべりでは、積雪で安定しました。浅いすべり面で内部摩擦角は8度でした。
積雪期に応答が鈍る地すべりがあります。厚い表層土が圧密沈下を起こすこと、地表面の透水性が低下するためと考えられます。
難透水性地盤の地すべりでは、積雪によって過剰間隙水圧が上昇します。
積雪があると雪の側面のせん断抵抗が効いて安全率が上昇します。8kN/m2のせん断抵抗で1.000の安全率が1.135となった小規模な地すべりの事例があります。
気候変動により降雪、積雪が減少するため、積雪地すべりの変動リスクは減ると考えられますが、豪雪によるリスクは減っていません。
また、融雪期の地すべりは減ると予想しますが、厳冬期の異常高温、積雪時に雨が降る影響、極端な豪雪などによる地すべり変動が発生しやすくなります。
柴崎達也氏(国土防災技術株式会社):雪氷圏地すべり研究に関する最新の知見~地温と水平土圧に着目して~
地すべりの活動度に影響する因子として、地温は地すべりの規模によって影響が異なります。土圧は荷重のほかに地すべり側部の土圧を考慮することが必要です。
すべり面の強度は温度が下がると低下します。伏野地すべりのすべり面粘土で実験したところ、地温低下で地すべりは起きやすくなり、低速の動きでは強度が低下し、急速な動きでは強度が増大しました。地温の低下は緩慢な地すべりを増加させると予想されます。
伏野地すべりでは地温が上昇すると熱膨張で抵抗力が増加しました。
秋田県の澄川地すべりは、晩秋と融雪期に変動します。
深い地すべりは融雪期に動く傾向があり、冷夏であると早く動き出します。
カリフォルニアの事例では、乾期に地すべりが動く場合があります。乾燥収縮が原因で活動するのではと考えられます。
カルシウムベントナイトでは急激な温度上昇で強度が低下します。
今後、温度効果の研究、実務で温度に着目する、側壁土圧の影響を考慮するなどが必要です。
佐藤壽則氏(株式会社日さく):現場の視点による積雪期の地すべり観測の課題~新潟県を中心に~
新潟県の松之山地すべりや山形県の七五三掛(しめかけ)地すべりなどに関わってきました。再活動型の地すべりです。
降雨と地下水位と地すべり運動では臨界水位があります。ただし当時は、地下水位は手計り、パイプ歪計で変動を観測していました。観測間隔は1週間あるいは10日に1回でした。人が現地へ行って測定するので積雪時のデータはありませんでした。
その後、自動観測が取り入れられ地すべり変動や地下水位変動のパターンが明らかになってきました。初冬に動き始める、毎年同じ時期に動くなどの事例が出てきました。地すべり変動の原因は、地下水位の上昇だけではないことが分かってきました。
自動観測データの解析と活用、大規模データ集団の解析、データの集約などが行われました。
地すべり地内でのボーリングの配置、地中変位観測場所をどこにするかなどの問題、オールコアの掘削孔とは別に標準貫入試験孔を掘り部分ストレーナーを設置して地下水位を観測することも行われました。
多点温度計による観測、水質の変化の把握なども行われています。その結果、化石海水が上昇していることや浅い地下水が循環している様子が明らかになりました。塩淡(淡塩)境界の問題もあります。
この後、石丸氏の司会で総合討論が行われました。
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