組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案(いわゆる共謀罪法案)2017/04/08 14:29

 共謀罪法案が国会に提出されました。前にもこの法案の異常さについて述べましたが,再度考えてみました。

 この法案には立法の経過からして幾つかのウソがあります。1)オリンピックが開けない,2)国連の条約が結べない,3)一般人は対象外,の三つについて述べます。

<この法律が成立しないと東京オリンピックが開けない>
 安倍首相の発言です(2017年1月10日,共同通信との単独インタビュー)。オリンピック候補地として立候補したときは,当然ながらこの法律は出来ていません。ですから,世界に向かって公然と嘘をついてオリンピックを持ってきたことになります。

 安倍首相はオリンピック招致演説の冒頭でこう述べています。
 「東京で、この今も、そして2020年を迎えても世界有数の安全な都市、東京で大会を開けますならば、それは私どもにとってこのうえない名誉となるでありましょう。」
(The Huffington Post投稿日: 2013年09月08日 02時16分 JST 更新: 2013年12月19日 07時08分 JST)

 自分の言ったことを見事に忘れているのか,目的のためならその時に応じて何とでも言うという習性のためか。

<国連越境組織犯罪防止条約を批准できない>
 これについては,法律の専門家集団である日本弁護士連合会が,そんなことはないと言い,その理由も簡潔に述べています。
 「新たな共謀罪立法なしで国連越境組織犯罪防止条約を批准することはできます。」
(https://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/icc/kokusai_keiji_c.html)

 「国連越境組織犯罪防止条約」(国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約:
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty156_7a.pdf)とはどんなものでしょうか。

 この条約は,「第一条 目的 この条約の目的は,一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進することにある。」としています。そして,条約が適用されるのは「・・金銭的な利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため・・」の「組織的な犯罪集団」としています。
 これらは現在ある国内法で対応できるというのが日本弁護士連合会の見解です。
 
 さらに,上記条約では,「第四条 主権の保護 1 締約国は,国の主権平等及び領土保全の原則並びに国内問題への不干渉の原則に反しない方法で,この条約に基づく義務を履行する。」としています。
 つまり,この条約のために新しい法律を作ることは義務づけられていません。

<一般の人は対象にならない>
 これについては,2017年2月16日に法務省が,「正当に活動する団体が犯罪を行う団体に一変したと認められる場合は、処罰の対象になる」との見解を明らかにしました(朝日新聞デジタル,金子元希 2017年2月17日00時51分)。
 ここで言う「認められる場合」は,誰が判断するのでしょうか。取り締まり当局と考えるのが普通と思います。

 「改正」対象となっている「組織犯罪防止法」では,『「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織・・・により反復して行われるものをいう。』となっています。この文章は,衆議院のウェブサイトからとったものですが,居心地の悪い文章です。
 ここで言う組織(上の文章の・・・の部分)というのは「指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。」
 この定義は「改正」対象となっていないので,生きているのだと思います。これだけを見れば,一般の人はこの法律の対象にならないように思います。

 この法案の根幹は,
 「第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団・・・の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、 関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するために準備行為が行われたときは,当該各号に定める刑に処する。ただし,実行に着手する前に自首した者は,その刑を減軽し,又は免除する。」(「改正」法 第六条の二)
 です。
 つまり,準備行為が罰せられ,それを逃れるには自首(密告)するしかないのです。

 この法案の「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」は,「団体のうち,その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。」(「改正」法 第六条の二)とされています。
 つまり,別表第三の罪を計画した集団がテロリズム集団と言うことになるわけで,何も定義していないのと同じです。

 そして,実行される様々な罪(別表第三)にはテロと関係のないものが多く含まれていることが効いてきます。朝日新聞によれば,この法律の対象となる罪は,91の法律で277の罪としています。このうち「テロの実行」に関係するものは110だと言います(朝日新聞デジタル,同上)。

 強制執行に身体を張って反対しようと計画することは,立派な罪になります。
 強制労働,無資格競馬・自転車競走・モーターボート競争,補助金の不正受給,特許権・実用新案権・商標権の侵害,所得税を逃れることや納めないこと,偽って法人税を納めないこと,貸金業の無登録営業,著作権の侵害,無許可で廃棄物を処理すること,有害業務目的の労働者派遣,消費税を逃れること,希少野生動植物を取ること,営業秘密を不正に取得すること,無資格でのスポーツくじ,などなど。
 テロ組織に属していない一般の人が犯しそうな罪が並んでいます。これらを計画した段階で罪になるのです。

 恐らく一般人は対象にならないというのは通用しないでしょう。本当に恐ろしい法律だと思います。


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