地層処分技術を考えるシンポジウム2025 ― 2025/09/30 13:58
2025年9月23日(火)、13時から16時まで、NUMO(Nuclear Waste Management Organization of Japan:原子力発電環境整備機構)主催の表記シンポジウムが、サッポロファクトリーのホールで行われました。
なお、NUMOを正確に訳せば、「核廃棄物管理機構」とでもなるでしょうか。
プログラムは次のようでした。
開会挨拶:山口 彰氏(原子力発電環境整備機構 理事長)
招待講演[1]:ステファン・マイヤー氏(国際原子力機関(IAEA) 原子力局 放射性廃棄物処分部門 チームリーダー):A global perspective on geological disposal;国際的な視点から見た地層処分
招待講演[2]:德永朋祥(ともちか)氏(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授):地層処分の観点からみた日本の地質環境特性
講演[3]:柴田雅博(原子力発電環境整備機構 理事);日本における地層処分技術の進展と現状
三氏の講演の後のパネルディスカッションでは、佐藤 努氏(北海道大学大学院 工学研究院 教授)がファシリテーターを務め、冒頭
千木良雅弘氏(京都大学名誉教授、公益財団法人 深田研究所 顧問)が「高レベル放射性廃棄物地層処分場の立地選定」と題して講演しました。
以下、講演内容の概要を記します。
<ステファン・マイヤー氏>
放射性廃棄物の処理は解決方法があり、社会的に重要な課題です。
フランス、日本はガラス固化による処分を選びました。
この10年、放射性廃棄物処分については、ポジティブな傾向が見られます。
ノルウェーでは政府が地層処分を許可しました。カナダは、オンタリオ州のイグナスに深地層処分場を建設することを決めました。アメリカのラスベガスの北西約160kmにあるユッカマウンテンは、計画が凍結されています。フィンランドは2026年に建設をはじめる計画で、スウェーデンは建設中です。フランスは可逆性のある、つまり後戻りのできる地層処分を行うことになっています。処分実施主体は放射性廃棄物管理機関(ANDRA)です。
これらの決定では、住民合意が重要です。
フィンランドではPosiva社が、オンカロで2024年にコールド試運転をはじめました。二つの破砕帯に挟まれた地下500mに1.2万トンの放射性廃棄物を埋めます。地質は約19億年前の結晶質片麻岩です。
フランスでは堆積岩の地域にトンネルを掘ってベントナイトでシールして埋設しています。
アルゼンチン、チリ、オランダ、韓国、ベルギーで許可が下りるのを待っています。
日本は、2023年に地層処分の方法が国際的な安全基準に合致していると判定されました。
重要なことは、利害関係者(ステークホルダー)との関わりと国際的な協力です。その土地の文化を理解し尊重することが重要です。
スイスでは、うまくいかない場合、地域レベルで解決する方法をとっています。計画を実行するプロセスでは、一緒に学び、時間をかけて方向性を明らかにすることです。
<德永朋祥氏>
地下水学、地質工学が専門です。
核廃棄物の地層処分に関する検討は、1976年以降核燃料サイクル開発機構を中心として検討されてきました。
1999年に「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性−地層処分研究開発第2次取りまとめ」が出されました。
2011年の東日本大震災の後、日本学術会議、原子力委員会の提言が出されました。ここでは、評価の重要性が指摘されました。
2014年から2017年に再評価が行われ、2017年に科学的特性マップが作成されました。
2022年から2024年にかけて放射性廃棄物処分の考え方の整理が行われました。
そこでは、1)無害化する、2)放出に当たっては希釈・分散し環境の自浄能力に期待する、3)濃縮・減容して隔離する、の三つの考えが示されました。その際、利用可能な最良の技術(Best Available Technology:BAT) を用いた処分を行うこととされました。
NUMOが処理する高レベル放射性廃棄物は4万本です。国内にはすでに2.5千本のガラス固化体があります。さらに使用済み燃料は、ガラス固化体換算で約2.7万本相当がすでに存在しています。
高レベル放射性廃棄物は、地下深部へ埋設して処分しようと計画しています。
地下深部は、1)酸素が少なく化学反応が進行しにくく、ものが変化しにくい、2)地下水の流れが遅いのでものの動きが遅い、3)地上の影響を受けにくい、という特徴があり、工学的に適切な処理が行えます。
地質環境特性としては、熱環境、力学場、水理場、化学場があります。このうち、熱環境、力学場、化学場については十分なデータがすでにあります。水理場については不明な点が多いです。
地質的問題としては、火山、断層、隆起・侵食があります。複数の問題が生じることも考える必要があります。これについては、サイト決定後に検討します。さらに、計画進行の各段階で評価を行い、回避すべき対象を特定します。
2017年に作成した科学的特性マップは、日本全体を統一的な基準で評価することを優先しました。約4万本のガラス固化体を収める処分場は、3km✕3km程度の広さになります。
段階的な調査の進め方は、文献調査、概要調査、精密調査と進み、処分場の選定を行います。
文献調査では評価を行い修正します。処分場としての不適地は排除します。
スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)では、サイトごとの透水性を一目で比較できる図を用いています。大事なことは住民の理解の醸成です。地震は少ないですが、深さ300mの地質をどうやって知るかが問題です。処分場決定のプロセスには柔軟性が必要で、立ち止まって必要であれば戻ること(可逆性)が必要です。
<千木良雅弘氏>
処分場選定では地質的不確実性のある場所は避けることです。
新第三紀火山岩類の分布域である泊原発では、調査ボーリングが蜂の巣のように実施されています。ボーリング孔からの放射性物質の漏洩の可能性がありますので、処分場ではこのようなことはできません。
北海道・積丹半島の豊浜トンネルは、貫入岩とハイアロクラスタイトの分布域で、岩盤崩落が発生しました。
新第三紀堆積岩の分布域である東頸城(ひがしくびき)地方では、鍋立山トンネルで強大な土圧に遭遇しました。
千葉県の屏風ヶ浦は、成層した堆積岩が全面的に露出しています。しかし、この岩盤は透水性が高いという問題があります。
付加体堆積物分布域の十津川では破砕帯が頻繁に出現します。
花こう岩類は特定の場所に割れ目が集中的に分布しています。
この後、パネルディスカッションと会場からの質問に答える時間が設けられました。
ファシリテーター(司会)は、北海道大学の佐藤 努氏でした。
会場との質疑応答では、科学的特性マップは「非科学的特性マップ」だと思っているという意見が出ました。また、岡村 聡氏から、文献調査では最新の科学的知見を反映させるとしているが、我々が査読付きの雑誌(地質學雑誌)に掲載した文献を無視しているという指摘がされました。
<感 想>
閉会挨拶で、山口 彰原子力発電環境整備機構理事長は、「地域との共生」という言葉を使いました。しかし、寿都町では文献調査の受入について地元での議論が不十分なまま決定されました。地域の分断をもたらしているのです。
文献調査を行う2年間で、20億円の交付金を支給するというのも「地域との共生」とは真逆のやり方だと思います。
ファシリテーターを務めた佐藤 努氏は、最後に、ここでは結論は述べませんと言いました。司会としては上手に進行させたと思いますが、「会議やワークショップを円滑に進行し、参加者の意見を引き出して合意形成を図る」というファシリテーターとしての役割は果たしませんでした。
原発ルネッサンスとなどと言って原子力発電所を新たに建設する計画が持ち上がっています。しかし、この放射性廃棄物の処理方法が解決しないうちは、これ以上、核のゴミを出さないことが第一にすべきことです。そして、成功の見込みが無い六ヶ所村の再処理工場は中止するほかありません。
原発の廃棄物については、福島第一原発のデブリをどう処理するか、廃炉になる原発の放射性廃棄物をどう処理するかなど、未解決の問題が山積みです。
廃炉に関しては、日本原子力研究開発機構のJPDR(Japan Power Demonstration Reactor)動力試験炉が14年かけて廃炉を完了しています。2019年時点で廃炉となる原子炉は24基あります。
さらに、日本では使用済み核燃料を再処理してウランやプルトニウムを回収し、原発の燃料をつくるさまざまな事業を行っています。この再処理で出る核のゴミが高レベル放射性廃棄物で、使用済み核燃料の再処理で溶解に使った硝酸を主とする廃液及びその固化体のことです。
そのほかに、ウランより重い核種を含むTRU(TRans-Uranic waste)廃棄物というものがあって、この一部も地層処分することになっています。核種としては、ネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)などです。
全体像が見えない状態にしたうえで、高レベル放射性廃棄物の地層処分地を決めようとしているのです。
NUMOの対応を見ていると、専門家以外からの横やりが入ることがあるようです。
例えば、今回のシンポジウムで「非科学的特製マップだ」という意見が出たように、科学的特性マップには、「標高が1,500m未満で海岸線から20km以内」を「輸送面でも好ましい」地域として濃い緑色で表示しています。そのほかの要件・基準は、基本的に自然現象を対象としているのですが、この項目だけ核廃棄物の輸送に有利という条件の地域が設定されています。
火山については、第四紀火山中心から15km以内は好ましくない範囲という要件・基準です。しかし、寿都町については、第四紀火山の可能性のある火山が15km以内にあっても、処分場を設置する市町村の境界外なので問題ないという見解を示しています。
これらは、どう見ても地球科学の専門家なら思いつかない「屁理屈」です。
紹介:土木學會誌 2025年8月号 ― 2025/08/06 21:48

この号の「【特集】新しい時代の建設材料 製作・施工技術」は興味深い記事が満載です。
表紙と裏表紙は、3Dプリンターによる部材製作場面です。
鼎談で、小林真貴子氏(大成建設)が述べている改良地盤の強度データ(換算一軸圧縮試験値)を取得するボーリング孔内での原位置多点針貫入試験は、素晴らしい計測手段だと思いました。ただし、改良地盤のような比較的均質な地盤でないとデータのバラツキが大きくなり適切な指標となるかは難しいところでしょう。
整備新幹線のロングレールのフラッシュバット溶接、高速道路橋での超高性能繊維補強セメント系複合材料による床板のリニューアルなど、興味深い技術が紹介されています。
それと、第113代会長に就任した池内幸司氏のインタビューも面白いです。
日本は課題先進国と言われた時代を超え、課題解決先進国として課題解決を乗り越え、持続可能な社会像を提示できるはずだと述べています。
このインタビューは土木学会のホームページで読むことができます。
( 土木学会ホームページの中段付近>土木学会誌>今月の土木学会誌>新会長インタビュー )
令和7(2025)年度 日本応用地質学会北海道支部・北海道応用地質研究会:物理探査学会共催 研究発表会 ― 2025/08/03 15:37
令和7(2025)年度 日本応用地質学会北海道支部・北海道応用地質研究会:物理探査学会共催 研究発表会が、2025年7月1日(火)、午後1時半から午後5時過ぎまで開かれました。Zoomで視聴しました。
幾つかの発表を紹介します。
岡﨑健治・川又基人・吉野恒平(寒地土木研究所):
湿雪雪崩を伴う土砂流出を生じた地区の斜面での融雪期における融雪水等の地盤浸透過程の観測
2018年3月9日に国道236号の野塚トンネル付近で、雪崩に伴って土砂流出が発生しました。2021年6月には同じ国道の広尾町側の林内覆道付近で斜面崩壊が発生しました。
野塚トンネル付近での土砂流出では、土砂流出までの累積降水量が280mmで、積雪深が一気に30cm低下しました。国道は厚さ2mの土砂で埋まりました。付近に幾つかの沢がありますが、4沢では崩壊が発生し3沢では発生しませんでした。
崩壊が発生しなかった3沢の2地点で、深度30cmと80cmの土壌水分と地温の測定を行ったところ、初冬期に深度30cmでマイナスの地温となっていました。地中に氷ができることによって降雨の地下浸透が疎外されると考えられます。
髙橋直希・西塚大(株式会社ドーコン):
複雑な岩相変化を示す新第三紀溶岩・火砕岩類の連続性検討−ダム調査における20 m 間隔でのボーリング調査事例−
旭川市南東のぺーパン川でダム調査を行っています。
地質は中新世の火砕岩類で、河床部の地質が複雑でうまく繋がらないため20m間隔でボーリングを行い、3条の高角断層が想定されていました。
そこで、火砕岩類の礫種や組織に着目して岩相区分を行いました。その結果、安山岩質火砕岩類の自破砕溶岩の再堆積物や火砕流の混合物などの分布が明らかになりました。
田近 淳(ジオテック):
泥火山と破砕泥岩:応用地質学的意義と課題
新冠町の泥火山については、千木良・田中(1996)が泥火山とマッドダイアピルとして報告しています。背斜軸上に泥火山が並んでいます。 上幌延や歌志内にも泥火山があります。
泥火山というのは、水と泥が噴出してできた高まりで、異常高圧の地下水の存在が原因と考えられています。
ジャワ島のルーシー泥火山は、火山活動が関係しているのではないかと言われています。ルーシー泥火山については、ナショナル・ジェオグラフィックに記事があります。
2003年の十勝沖地震では新冠町の泥火山のうち、第八丘で亀裂に沿って粘性土が押し出され泥水も噴出しました。
新冠の泥火山の課題は、第二から第五噴出口からガスは出ていますが泥火山が消滅していること、レーザープロファイラーでの連続観測が必要なこと、地下構造の解明をすることなどがあります。
泥火山の災害要因としては、岩盤の劣化、バットランドであることなどがあります。典型的なのは、北越急行ほくほく線の鍋立山トンネルです。
北海道では上部蝦夷層群を掘削した まきばトンネルや夕張トンネル、フラヌイ層やワッカウェンベツ層(マッドブレッチャー)、滝下導水トンネル、道道平取静内線などで鱗片状泥岩が出現し、難工事となっています。鱗片状泥岩に注意が必要です。
宇佐見星弥(北海道立総合研究機構、北海道大学情報科学院)・田殿武雄(北海道大学情報科学院、宇宙航空研究開発機構)・石丸 聡(北海道立総合研究機構):
地すべり変位検出に向けたInSAR処理フローの提案
人工衛星に搭載した合成開口レーダ(SAR)の差分干渉解析(InSAR)は、地表面変位を広域的に把握できます。この場合、マイクロ波が電離圏伝播遅延や対流圏伝播遅延を起こし補正が必要となります。
地すべり変位検出には短波長が有効で、ノイズとして残る長波長を補正する必要があります。
壮瞥町の幸内地すべりでは、地すべり適応型のフィルタを用いて誤差±1mmの精度で地表面変位を捉えることができました。
活動性地すべりが密集している日高地方で同様の手法を用いて画像処理を行ったところ、新たな地すべりを30箇所抽出できました。
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最先端の研究成果からほんわかとした話題まで、いろいろな話が聞けました。Zoomでの視聴は、パソコンでメモが取れるのがありがたいです。
「寒冷地における斜面変動– 氷河・周氷河作用にも注目して」 ― 2025/08/02 12:04
2025年日本地すべり学会シンポジウム 「寒冷地における斜面変動– 氷河・周氷河作用にも注目して」が6月13日(金)、午後1時から4時50分まで開かれました。
北海道立研究機構 エネルギー・環境・地質研究所の石丸 聡氏が総合司会を務めました。Zoomで視聴しました。
奈良間千之氏(新潟大学):飛騨山脈の氷河の特徴
天山山脈、キリマンジャロ、ヒマラヤなどで氷河の研究を行ってきました。
日本で2100年にどの程度、氷河が残っているかは、よく分かっていません。
飛騨山脈では、過去9年間で21個の氷河が残りました。剱岳、杓子沢、唐松沢などです。飛騨山脈の生き残り氷河を調べることによって環境条件の変化が分かります。これらの氷河は長期観測が可能で、自然環境の多様性を明らかにできます。
日本は雪渓王国で、100〜400箇所の雪渓が越年します。対馬暖流によって日本海から水蒸気が供給され、北西の季節風が列島の山脈にぶつかり雪を降らせます。雪が多く、風が強いのが特徴です。雪は8割が東斜面に溜まり、夏には融けます。急峻な地形であるため吹きだまりができ、雪崩によって雪が集積する雪崩涵養型の雪渓ができます。積雪深は20m程度が限界です。
2012年に飛騨山脈で氷河が発見されました。
地中レーダーで探査し、GPSで流動を観測しました。その結果、氷河が連続して流動していることが分かりました。11m以上の厚さの氷が流動しています。
氷河は、涵養域、消滅域があり、涵養と消滅が平衡条件となると氷河として残ります。氷河氷は多結晶氷で、結晶面で動き再結晶によって巨大化します。流動速度は、氷の結晶が変形する内部変形、氷河の底面すべり、基底物質の変形によって左右されます。
飛騨山脈の氷河は、雪崩発生場所に雪が溜まって形成されます。
唐松沢雪渓で地中レーダーを行い、GNSSを用いて流動測定を1ヶ月行いました。
杓子沢では43m厚さの氷があります。
唐松沢では月20cm流動していて、年4mの流動です。
白馬沢では移動量は年2mほどで、10個の雪渓が氷河と認定されました。
氷河の年間質量収支観測をセスナ機による空撮などを使って行いました。2015年〜2024年の間、4月〜9月に行いました。
飛騨山脈では10m積もって10m融けます。一般的な氷河と比べた場合、その特徴は、1)気温が高い、2)積雪が多い、3)年ごとの変動が大きいことです。
このような雪崩涵養型の氷河は将来生き残れるでしょうか。雪崩涵養型氷河では表面に岩くずがあるため断熱効果が発揮され、融解量が小さいのが特徴です。
剱岳では2016年以降、急激に氷河の面積が減少しています。年ごとの変動が大きく、夏の融解量が大きくなっています。
石川 守氏(北海道大学):凍土・永久凍土と周氷河プロセス
モンゴルの地下の永久凍土などの研究を行ってきました。地表現象や植生に注目しました。地下氷によって形成される地形とその変動、地形の変化と発達史などを研究課題としてきました。
地下には夏になると氷が融ける活動層と夏でも融けない永久凍土があります。活動層は顕在的で凍土層は不可逆的に変化します。
地形としてはピンゴ、淘汰型構造土、多角形土などがあります。斜面では礫の淘汰により下方へ移動します。霜柱ができ土壌がクリープします。地下のアイスレンズの融解で移動するジェリフラクションがあります。
大雪山の山頂部付近では深さ1.5m付近に永久凍土があります。
御鉢平の南東にある小泉岳周辺の地域(小泉エリア)は、淘汰構造土、多角形土(東斜面)、条線土(北西斜面の傾斜4度以上)があります。傾斜があると多角形土は小さくなり楕円形になります。西風で雪が溜まり、融けるときに湿潤な環境になり大きなポリゴンができます。
小泉岳の北西にある五色岳では東斜面に植被階状土が形成されています。
南の忠別岳では岩盤のクラックの動きと地中温度を測定しました。岩盤の崩落は温度差による熱応力によって発生します。
モンゴルで永久凍土プロセスの研究を行いました。ここでは、ピンゴは4.5千年前に形成されています。サーモカルスト地形やメタンの爆発による円形孔の形成などが起きています。
また、差分干渉合成開口レーダーによって地下氷の成長・衰退に伴う地形変動を解析しました。経年的に隆起する地域、経年的に隆起・沈下する地域があることが分かりました。
白雲岳山頂の南西下にある避難小屋の小さな丘にサーモカルストと考えられる陥没孔が現れました。気温の顕著な変化はありません。大規模陥没の前兆現象かもしれません。
岡本 隆氏(森林総合研究所):積雪地域における地すべり研究はどこまで進んだのか?~過去の知見と残された課題~
日本列島は対馬海流による水蒸気の供給とシベリア寒気団による気温の低下、脊梁山脈の存在によって列島の半分が豪雪地帯です。豪雪地帯と地すべり地帯とが一致します。
1970年代から雪と地すべりの関係が研究されてきました。1980〜1990年代にかけて融雪による地下水位の上昇で地すべりが発生すると考えられました。
積雪期の変動パターンとして、1)積雪期一定速度型、2)積雪期加速型、3)積雪初期活動型、4)融雪期活動型、5)積雪期2段階型(佐藤ほか、2004)があります。
地すべりが変動する融雪以外の因子としては、間隙水圧の上昇、荷重の変化、有効応力の増加、せん断応力の増加、せん断強度の低下などが考えられます。
4mの積雪深の場合、積雪荷重は2,000kgf/m2です。地すべり土塊の厚さが6.25m、積雪が0〜5mの場合、勾配が緩く内部摩擦角が大きいと積雪荷重は斜面を判定させます。
新潟県の伏野(ぶすの)地すべりでは、積雪で安定しました。浅いすべり面で内部摩擦角は8度でした。
積雪期に応答が鈍る地すべりがあります。厚い表層土が圧密沈下を起こすこと、地表面の透水性が低下するためと考えられます。
難透水性地盤の地すべりでは、積雪によって過剰間隙水圧が上昇します。
積雪があると雪の側面のせん断抵抗が効いて安全率が上昇します。8kN/m2のせん断抵抗で1.000の安全率が1.135となった小規模な地すべりの事例があります。
気候変動により降雪、積雪が減少するため、積雪地すべりの変動リスクは減ると考えられますが、豪雪によるリスクは減っていません。
また、融雪期の地すべりは減ると予想しますが、厳冬期の異常高温、積雪時に雨が降る影響、極端な豪雪などによる地すべり変動が発生しやすくなります。
柴崎達也氏(国土防災技術株式会社):雪氷圏地すべり研究に関する最新の知見~地温と水平土圧に着目して~
地すべりの活動度に影響する因子として、地温は地すべりの規模によって影響が異なります。土圧は荷重のほかに地すべり側部の土圧を考慮することが必要です。
すべり面の強度は温度が下がると低下します。伏野地すべりのすべり面粘土で実験したところ、地温低下で地すべりは起きやすくなり、低速の動きでは強度が低下し、急速な動きでは強度が増大しました。地温の低下は緩慢な地すべりを増加させると予想されます。
伏野地すべりでは地温が上昇すると熱膨張で抵抗力が増加しました。
秋田県の澄川地すべりは、晩秋と融雪期に変動します。
深い地すべりは融雪期に動く傾向があり、冷夏であると早く動き出します。
カリフォルニアの事例では、乾期に地すべりが動く場合があります。乾燥収縮が原因で活動するのではと考えられます。
カルシウムベントナイトでは急激な温度上昇で強度が低下します。
今後、温度効果の研究、実務で温度に着目する、側壁土圧の影響を考慮するなどが必要です。
佐藤壽則氏(株式会社日さく):現場の視点による積雪期の地すべり観測の課題~新潟県を中心に~
新潟県の松之山地すべりや山形県の七五三掛(しめかけ)地すべりなどに関わってきました。再活動型の地すべりです。
降雨と地下水位と地すべり運動では臨界水位があります。ただし当時は、地下水位は手計り、パイプ歪計で変動を観測していました。観測間隔は1週間あるいは10日に1回でした。人が現地へ行って測定するので積雪時のデータはありませんでした。
その後、自動観測が取り入れられ地すべり変動や地下水位変動のパターンが明らかになってきました。初冬に動き始める、毎年同じ時期に動くなどの事例が出てきました。地すべり変動の原因は、地下水位の上昇だけではないことが分かってきました。
自動観測データの解析と活用、大規模データ集団の解析、データの集約などが行われました。
地すべり地内でのボーリングの配置、地中変位観測場所をどこにするかなどの問題、オールコアの掘削孔とは別に標準貫入試験孔を掘り部分ストレーナーを設置して地下水位を観測することも行われました。
多点温度計による観測、水質の変化の把握なども行われています。その結果、化石海水が上昇していることや浅い地下水が循環している様子が明らかになりました。塩淡(淡塩)境界の問題もあります。
この後、石丸氏の司会で総合討論が行われました。
シンポジウム:戒厳令の現場を語る 韓国の大統領選と望むべき日韓関係 ― 2025/08/01 13:10
新外交イニシアティブ(ND:New Diplomacy Initiative)が開催したシンポジウムが、2025年5月8日(木)午後7時から9時まで開かれました。Zoomで視聴しました。
だいぶ時間が経ってからの記事になりますが,概要を記します.
除 台教氏の「激動の韓国政治と次期政権下での日韓外交」が分かりやすくて興味深かったです。
非常戒厳が発令された時に、ND代表の猿田氏が撮影した国会前のホテル周辺の動画が最初に流されました。猿田氏が泊まっていたホテルの前です。
軍隊が出動しているにも関わらず、多くの市民が素手で国会前に集まり、戒厳解除を要求していました。そのほとんどが若い人たちであることに大きな感動を覚えました。韓国の民主主義が生活の中に生きていることを感じました。
この映像を見ることができただけで、このシンポジウムに参加した意義がありました。
最初に猿田氏が話しました。
<猿田佐世氏>
戒厳令の現場の状況 今後の日韓関係
2024年12月3日のユン・ソンニョル大統領による非常戒厳宣告から国会議員が190人の賛成で解除要求を可決するまでの経過を紹介しました。
日本では、反日・親北の進歩派によるデモという言説が流れましたが、実際は韓国の民主主義社会が戒厳令を阻止したのです。また、日韓関係が悪化するという話も流れましたが、韓国の保守的な人びとも日本政府の対応には不満を持っていて、韓国の民主主義の勝利だと考えています。
韓国国民は、軍事政権を倒して民主化を勝ち取ったという歴史から学んでいますし、親の背中を見て子供たちが育っています。自ら民主主義を守るという気概があります。
日本では、憲法に緊急事態宣言を導入するという議論が高まっています。これを国民が止められるかが問われています。
<徐 台教(そう・ていぎょ)氏>
激動の韓国政治と次期政権下での日韓外交
非常戒厳が解除された後、12月14日に尹大統領の弾劾訴追が行われ、大統領職務は停止されました。軍は大統領の命令には従わないと声明を出しました。
2025年1月5日に尹大統領は内乱首魁の嫌疑で逮捕され、1月26日には起訴されました。拘束時間を時間で計るということで3月7日に尹大統領は釈放され、4月4日に罷免されました。
韓国の現状は、保守が弱体化しているため今回の憲法無視の大統領の行動を止めることができませんでした。保守の基本姿勢は、反共のみであることが明らかになりました。
50年間保守政権が続き、人びとは疲労しています。韓国の社会問題としては、自殺率の高さ、極端な競争社会、出生率が0.7と低下していることなどです。
新大統領となったイ・ジェミョン氏には、イ・ジョンソク氏という外交のキーマンがいます。南北関係に強く、北朝鮮の核問題解決のための六者協議を推進した人で、国家情報委員長に就任しました。また、国家安全保障室長には、ウィ・ソンラク氏が就任しました。
対日外交の基調は変わらないと考えます。日本とぶつかるときが必ず来ます。南北関係を動かすときに日本がどう対応するかが問題で、安倍政権との違いを示すことが大事です。
韓国では2016年以降、進歩派が多数を占めています。特に、30才〜50才代に民主派が多いです。イ・ジョンミョン氏は党内では9割の支持を得ています。
そのほか、島村海利氏、三宅千晶氏、元山仁士郎氏の講演があり、パネルディスカッションが行われました。