令和6年度 研究調査委員会2025/04/07 11:22

  日本地すべり学会北海道支部及び北海道地すべり学会の研究調査委員会が202536日(木)午後3時から午後515分まで寒地土木研究所で開かれました。私はzoomで視聴しました。

 

二つの講演がありました。

1)話題提供:「平成30年北海道胆振東部地震によって発生した降下火砕堆積物からなる自然斜面の崩壊とその工学的考察」 川村 志麻氏(室蘭工業大学)

2)話題提供:「風化によるカーテン状ハロイサイトバンドの形成機構:水文過程と鉄の挙動に着目して」 福井 宏和氏(北海道大学)

3)討論; 「テフラ層すべりのメカニズムについて」

 

<川村志麻氏>

 

 地盤工学会北海道支部では2004年に「実務者のための火山灰土」、2011(平成23)年に「実務家のための火山灰質土」を出版しました。

 2016年〜2025年にかけて北海道土木技術会・土質基礎研究委員会で川村が中心となって火山灰質土の研究を進めてきました。2017年〜2021年にかけて地盤災害を研究する石川(達也)委員会が活動しました。

 

 火山灰質土は、力学的特異性を持ち、実務の設計や施工で困難な土質で、泥炭とともに特殊土とされています。浸透現象に関わる工学的評価が難しく、地盤材料としては破砕性が問題となります。工学的には長期的な変状が発生します。

 

 地震による火山灰質土地盤の斜面崩壊が多く起きています。

 全国的には2008年岩手宮城内陸地震での荒砥沢地すべり、2011年東北地方太平洋沖地震での斜面崩壊、2016年の熊本地震での阿蘇周辺での斜面崩壊などがあります。

 北海道では、1968年の十勝沖地震、1993年の釧路沖地震、同じ年の北海道南西沖地震、1994年の北海道東方沖地震、2003年の十勝沖地震、そして2018年の胆振東部地震などで火山灰質土での斜面崩壊が発生しています。

 

 火山灰質土は、粗粒度と粘性土があります。破砕性があり粘着力が弱く危険側になります。セメンテーションの効果は期待できません。風化程度の評価としては、N値やQc値、せん断強度が使えます。地域性の解明は本質的な問題です。

 

 胆振東部地震で発生した斜面崩壊の一つの事例を紹介します。厚真町の日高幌内川の岩盤地すべりの下流で発生した表層すべりです。

 厚さ3mほどのすべりで、樽前dテフラが赤褐色で著しく発泡した軽石を含むPR層、粘土化して含水比がほぼ200%を示すVY層、灰色のPG層が認められます。強熱減量はVY層>PR層>PG層の順で、VY層にはハロイサイトが含まれ、PG層にはやや含まれています。PR層はハロイサイトを含んでいません。

 現地でテンシオメーター(土壌水分計)による測定を行いました。含水比はVY層が最も大きな値を示しました。

 一面せん断試験では、テフラの粒子が破砕され水が排出されて、せん断強度が大幅に低下することが分かりました。

 盛土の模型をつくって振動によってどのような変形が起こるか、間隙水圧がどうなるかを測定しました。600ガルで細粒土分が4%増加し、φが8°低下しました。初期含水比が高いほど粒子が破砕しやすいことも分かりました。

 

<福井宏和氏>

 

 胆振東部地震で崩壊した樽前d2テフラ(Ta-d2)には、カーテン状のハロイサイトバンドが形成されています。このバンドは化学的な過程で形成され、地下水の供給量が異なったために液相中の二価の鉄の濃度が異なり形成されたと考えました。

 

 樽前d2テフラは三層に分けられます。上から

  BP:鉄酸化物によって赤色を呈する層

  WP:ハロイサイトを含む層 三次元的に波打った火炎状構造塑示す

  GP:未風化の軽石からなる灰色の層

 ケイ素の溶脱が少ない深度の直下にハロイサイト層が存在しています。透水性はWP層が低く、保水性はGP層が低くなっています。

 

 浸透流解析を行いました。層の境界に凹凸があるモデルと無いモデルで行いました。

 当初から層の境界がへこんだ部分では、地下水の浸透が大きく、火山ガラスからのシリカの溶脱が進み、鉄水酸化物が形成されやすくなります。へこんでいない部分では、水の浸透が少なく滞留時間が長くなり、溶存酸素濃度が低くなって液層中の鉄は酸化されずに二価のままで残ります。その結果、ハロイサイトが形成されます。

 

<感 想>

 福井氏の話は、粘土化学と水岩石反応の知識が無いと十分理解できません。現地での観測、各種機器を使っての分析、浸透流解析によって円錐状あるいは斑点状のハロイサイトバンドの形成過程を明らかにしています。

 福井氏の博士論文の要約は、「京都大学学術情報レポジトリ」で見ることができます。

 化学的風化については、千木良、災害地質学ノート(20185月:近未来社)の86-106頁に詳しい説明が載っています。