北海道応用地質研究会 令和8年度研究発表会 ― 2026/07/16 17:52
2026年7月10日(金)午後2時45分から同4時まで、日本応用地質学会北海道支部・北海道応用地質研究会(共済物理探査学会)の研究発表会が開かれました。Zoomで視聴しました。プログラムを下に示します。
幾つかの発表を紹介します。
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<松井 昭氏>
北海道や東北地方の太平洋側には黒色の土壌が分布しています。その形成には、植生、火山灰の分布、燃焼活動などが関係しているとされています。
今回の研究対象とした苫小牧市の柏原の露頭では、上位からTa-b、第1黒ボク土、Ta-c、第2黒ボク土、Ta-d、第3黒ボク土、ローム層があります。この黒ボク土の微粒炭の分析を行いました。その際、大きさが0.1mm以上の微粒炭を粗粒としました。これは近傍で発生した火災に由来するものと考えられます。
黒ボク土に含まれる多環芳香族炭化水素(PAH)の分析を行うと有機物の由来が分かります。PAHは主に有機物の燃焼によって生じるからです。PAHの中で低分子のものの比率(LMW比)から燃焼の残りかすか、ススに由来したものかが判定出来ます。
これらのことを総合すると、この地域の黒ボク土は、異なる場所での燃焼履歴が重複して形成されたと推定されます。
<淺湫 檀(あさぬま・かおる)氏>
三浦半島の立石凝灰岩は、冷湧水や高アルカリ流体による変質を受けています。顕微鏡観察と定方位X線分析により実態を明らかにしました。
立石凝灰岩に含まれる鉱物は、単斜プチロル沸石*+石英+方解石、輝石+斜長石を含むガラス、スメクタイトです。沸石はカルシウムに富み、マンガンが濃集しています。
凝灰岩中のガラスは、温度が52℃になると単斜プチロル沸石になります。輝沸石は25℃で形成されます。火山ガラスは、50℃で溶解析出し単斜プチロル沸石が形成されます。80℃で単斜プチロル沸石が溶解し輝沸石が析出します。
蛇紋岩に由来する高アルカリ流体が、これらの過程に関与していると考えられます。
CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)への応用が期待できます。
*注)講演予稿集では斜プチロル沸石となっていますが、最新地学事典(2024)では「斜プチロル沸石⇒単斜プチロル沸石」となっているので、それに従いました。
<田近 淳氏>
高知県香美市の秩父帯で発生した繁藤(しげとう)崩壊、えりも町宇遠別(うえんべつ)のホルンフェルスでの崩壊、浜松市佐久間町の天竜川に架かる原田橋付近で発生した領家帯の崩壊について話します。
原田橋の崩壊は、前兆的な崩壊があり、救助・監視活動をしているときに最終的な崩壊が発生しました。3箇所のいずれの崩壊もトップリングによる岩盤の緩みとスライドという現象でした。
えりも町の崩壊は、2004年1月13日に発生し、崩壊の高さは120m、幅90mです。崩壊地の両側に湾曲した谷地形があります。2003年に台風が来ています。また、同じ年に十勝沖地震が発生しています。
地質的には、斜面に対して逆傾斜の割れ目でトップリングが起きていました。そのほかに流れ盤の割れ目もありました。トップリングにより表面が緩み、全体の崩壊へとつながったと考えられます。
原田橋の崩壊は、2015年1月31日に発生し、崩壊地の斜面長は70m、幅25m、深さ10mでした。地質は領家帯の花崗岩類です。
繁藤の崩壊は1972年の豪雨によるもので、7月4日に327mmの雨が降りました。7月5日には4回の崩壊があり5回目で大崩壊を起こしました。
この崩壊は、1978年に発行されたD.J.Varnesの“LANDSLIDES:Analysis and Control”で「1972年鉄道施設に被害、日本Shigeto地すべり」として紹介されています。
<感 想>
黒ボク土については、山野井 徹氏が「日本の表土の最上部にあるクロボク土は、火山灰ではなく堆積物中の微粒炭が腐食の保持に関与したもので、その微粒炭は縄文期の野焼き・山焼きで発生した」と述べています(山野井、2015)。現在、この説は、あまり受け入れられていないようです。
私が高校までいた横浜の下田町は、当時一面の麦畑で1kmちょっと先の川崎市の井田病院が見えました。間に小さな沢がありました。標高は40mほどで湧水が沢をつくり、その水を貯めて野菜や農機具を洗う洗い場がありました。ちょっとした崖には「関東ローム」が顔を出していて、冬には20cmほどの霜柱ができました。ローム層の上は黒土で、ふかふかの状態でした。3mくらいの高さの木から黒土に飛び降りても、なんともありませんでした。
黒ボク土に炭が含まれていることは確実なようなので、ローム層の変質のほかに草原的環境での火災の影響というのはあり得る話のように思います。
えりも町宇遠別の崩壊は、日高層群のホルンフェルスの分布地域で発生したもので、崩壊した岩塊の大きさが、同じ黄金道路の美幌覆道の崩壊に比べて大きいという特徴があります(川村、2016)。粘板岩系の崖ではトップリングがまず発生して、その緩み領域がつながって大きな崩壊が発生するということは、よく見られます。このような崖では、注意してみると尾根に段差が発生しています。注意すべき現象です。
なお、Varnesの“LANDSLIDES:Analysis and Control”は、(社)地すべり対策技術協会が「地すべり:その解析と防止工」(1985)として上下2巻の本を刊行しています。
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