第43回札幌国際スキーマラソン大会 ― 2023/02/07 18:33
2023年2月5日(日)、札幌市の白旗山競技場を舞台に表記大会が開かれました。
私は10kmの歩くスキーに出ました。
長年使っていた靴の底が剥がれたので接着剤でくっつけて練習していたのですが、新しい靴に変えました。ビンディングも古くて靴に合わないので変えました。スキー板だけはスケーティング用、歩くスキー用ともそのままです。
スキーアスロンというクロスカントリースキーの競技があります。一人の選手が前半をクラシカル走法で、後半をスケーティング走法で走るもので、スキー靴はどちらのスキー板にも対応しているので、スキー板だけを交換します。
クラシカル・スケーティングともできるフィッシャーの靴
スキー板との接触面の形が変わったため、古いビンディングは使えません。

歩くスキーとスケーティングのスキー板
歩くスキーの板(左)はフィッシャー、ビンデクングはアトミックです。スケーティングの板(右)はロシノール、ビンディングはサロモンです。
この日は気温、雪温ともマイナス5度くらいで風邪はなく、絶好の気象条件でした。
写真1 スタート前
参加人数が少なく、一番前になってしまいました。すぐにスケーティングの人たちに抜かれました。
写真2 1km付近の緩い下り坂
コースは広くて、緩い下りとちょっとした登りが続きます。気持ちの良いコースです。
写真3 中間点
この手前で25kmのコースと分かれます。50kmは25kmを2周します。この先、トラックが三つもついているのは感激です。雪は締まっていてトラックは全く崩れていません。
6kmから8kmにかけて登りが続きます。その後は、ほとんど下る一方で気持ちよく滑れます。なので、写真を撮るために止まるのがもったいなくて写真はありません。
図1 10kmコースの図(TrailNoteで作成)
白旗山競技場から反時計回りに歩きました。青がほぼ下り、赤がほぼ登りです。高低図にあるように小さな上り下りがあります。南側の赤から青に変わる地点が7.3km付近で、ここからは気持ちの良い下りが約1.5km続きます。この図でのコースの距離は10.3kmとなっています。
最盛時は参加者が3千人を越えたことがありましたが、今年は4kmから50kmまで全てを入れて申込者は722人でした。2020年は雪不足で、2021年と2022年は新型コロナで中止になっています。今年は4年ぶりの開催でした。
来年も白旗山競技場で行われますが、ここは大人数の大会を開くには交通の便が悪いです。それなりの台数の駐車場(今回は300台分)を用意しているようですが、札幌ドームのように地下鉄駅から歩いて行けるのとは違います。今回ゴールしたのが14時35分で、地下鉄福住駅行きのシャトルバスが15時ちょうど出発だったので、靴だけ取り替えて大急ぎでバスに乗り込みました。これを逃すと16時までシャトルバスはありません。
札幌ドーム発着コースだと多少天気が荒れてもドームの中で過ごすことができるので安心ですが、白旗山競技場は、そういう造りにはなっていません。
図2 参加者数の推移(2023年は申込者数:大会プログラムから作成)
参加人数の推移を見ると、2000年2月6日の第20回大会の参加者数が谷をつくって、その後少し増えています。そして、2012年2月5日の第32回大会で参加者数がガクンと減って、その後緩やかに減少しています。2011年の東日本大震災が大きく影響していると考えられます。
今回は全体で722人の申込者がありました。いずれの種目も参加定員を下回っています。10kmは定員が250名でしたが、申込者はたった87名でした。すごく寂しい感じでした。
日本経済の長期的な不調が、こんな所にも表れているように思います。新型コロナの影響はありますが、それは不調を加速しただけで、基本的には経済の長期的不調をもたらした政治の責任が大きいと思っています。
高橋正樹氏 功労賞受賞記念講演 ― 2023/02/14 14:42
日本大学文理学部の高橋正樹氏が2022年度の日本地質学会功労賞を受賞しました。
その記念公演が2022年9月4日に早稲田大学での第129回学術大会で行われました。
タイトルは「日本の地質学革命期における花崗岩研究と私1974~1986年」です。
大学紛争をはじめとする波乱の時代の動向と地質学(地球科学)の革命期に遭遇した青年時代から話は始まります。
簡潔ですが花崗岩の成因論が、どのような変遷をしてきたのかが、まず述べられています。そして、プレートテクトニクスの中での花崗岩の問題が述べられています。
後半では自身の研究経過が述べられています。高橋氏は、1973年に東京大学地質鉱物学科の4年生になり、花崗岩に研究の的を絞った経緯とその後の花崗岩研究の様子が述べられています。
最後に、「頭とハンマーで」(mente et malleo)、その原点に立ち返ろうと述べています。
印象的な文章でした。
この文章は、「日本地質学会 News」の2023年1月号(8-11ページ)に載っています。日本地質学会ホームページ>出版物>News誌で、多分2月末には見ることができます。
千木良雅弘氏の講演 ― 2023/02/15 16:58
2023年2月10日(金)午後2時30分から16時30分まで、北海道地すべり学会・研究調査委員会が開かれました。寒地土木研究所でのオフラインとズームによるオンラインの二つの方法で行われました。私はオンラインで視聴しました。
ドーコンの山田 司氏が国道276号千歳市美笛峠付近での岩盤崩壊について講演し、深田地質研究所の千木良雅弘氏がテフラ層の地震時地すべりについて講演しました。
山田氏が講演した岩盤崩壊は、2023年3月15日に発生しました。支笏火砕流が厚く堆積している箇所での岩盤崩壊です。ここは溶結度が高い部分の下に溶結度の低い部分がありオーバーハングが形成されている崖面です。崩壊した岩塊や土砂が、国道まで到達しました。
この状況は札幌開発建設部のウェブサイトで見ることができます。
千木良雅弘氏(深田地質研究所):テフラ層地震時地すべりの発生場
地震時にテフラ層がすべりを起こします。その特徴は次の点にあります。
・1回の地震で広い範囲わたり膨大な数のすべりが発生します。
・流動性が高く移動土砂は高速移動します。
・不安定なテフラ層が斜面から無くなるまで発生の危険性があります。
2018年の胆振東部地震では樽前dテフラ(Ta-d:約9千年前)の下底付近ですべっています。すべり面付近には風化して粘土質となった軽石層があります。このような軽石層は、こね繰り返すと流動しやすくなります。軽石の構造は残ったままですが、粘土化しています。また、Ta-dの下底付近には不規則な波状の構造ができます。この構造は液状化ではなく、天水による風化と考えられます。
2016年の熊本地震では、一か所だけですが液状化による噴砂を示す縦の脈を見ることができました。
テフラ層が多くの場所で地震によって崩壊した事例として、1923年の関東地震、1949年の今市地震、1968年の十勝沖地震の例を示します。テフラ層のすべりでは不安定な地層がなくなるまで、リスクはなくなりません。
1923年の関東地震では、秦野市の南で地すべりが発生し川がせき止められて湖ができました。震生湖と呼ばれていますが、周辺には震生湖地すべりに似た地形がたくさん分布していて、将来すべる可能性があります。
このようなテフラ層のすべりに備えるためには、どこが、いつ、どのような地震で、どのようにすべるのかを明らかにする必要があります。現段階で地震予知はできませんので、いつすべるかは分かりません。
降下火災物が地震時に崩壊した事例を比較してみます。
1923年の関東地震、1949年の今市地震、1968年の十勝沖地震、1978年の伊豆大島近海地震、1984年の長野西部地震、2011年の東北日本地震、2016年の熊本地震、2018年の胆振東部地震です。
*この時示された表は、千木良雅弘、2018,災害地質学ノートの128ページの表に加筆したものです。
共通するのは次の2点です。
・すべり面は軽石とその直下の層にできている場合が多い。ハロイサイトが形成されている層である。
・すべり面が形成されているテフラ層の年代は、9千年前から10万年前(あるいは12万年前)である。
ハロイサイトの形成にはある程度の時間がかかること、あまり古くなると地形に沿って一面に覆っているテフラ層の層構造が失われることが年代を決める要因となっている。
そのほかの崩壊の要因としては、下部切断があります。斜面に並行にテフラが堆積している場合、斜面の下部が沢によって浸食されると斜面全体のテフラ層を受け止める力が弱くなりすべりやすくなります。
地震の前に降雨(先行降雨)があると崩壊しやすいという結果にはなっていません。
地震によるテフラ層すべりに備えるには、9千年前~12万年前の軽石層の分布を全国規模で拾い出す必要があります。東日本でいえば、樽前火山噴出物(Ta-d:約9千年前)、十和田カルデラ噴出物(十和田八戸テフラ:To-HP)、赤城火山噴出物(赤城鹿沼テフラ:Ag-KP) 、箱根火山噴出物(東京軽石:HK-Tp)などがあります。
「新編火山灰アトラス」(町田・新井、2003)より詳細なテフラの分布と厚さの調査を行って絞り込むことが必要です。
なお、この講演の主要な点を知りたい場合は、
「千木良雅弘・田近 淳・石丸 聡、2019、2018年胆振東部地震による降下火砕物の崩壊:特に火砕物の風化状況について。京都大学防災研究所年報 第62号 B、348-356」
を見るのが良いと思います。
飯田哲也氏の講演会 ― 2023/02/21 17:45
2023年2月16日(木)午後7時から午後10時まで飯田哲也(いいだ・てつなり)氏の講演会が開かれました。
飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所:ISEP 所長):オンライン被曝学習会 人類史的な大転換から取り残される日本〜再生可能エネルギー大転換とモビリティ大転換〜
主催は「放射線被曝を学習する会」で、富山大学・コミュニケーション研究室が共催しています。
飯田氏の講演内容
現在、世界的にエネルギーとモビリティの大転換が起きています。モビリティ大転換ではテスラショックが大きく、電気自動車の普及と同時に自動運転、カーシェアリングなどが進んでいます。
日本のこの分野での政策は、共通理解が欠落している、政策がカオス状態である、官僚と審議会でことを進めているが機能不全に陥っている、世界の知のネットワークから隔離状態にある、組織的慣性力によって方向転換ができない、などによって大きく遅れています。官邸と経済産業省がことを進めているのも障害となっています。
ドイツでは福島第一原子力発電所の事故のあと、原発の危険性を理由に再生エネルギーへ転換しました。さらに、コストが高い、核廃棄物の処理ができない、戦争の時に標的になるなどの欠点もあります。2035年までには再生エネルギー100%にしようとしていて、2050年までに再生エネルギー100%は世界的な常識となっています。その中心は太陽光と風力です。
現在、原発は世界で411基が稼働していますが、平均寿命は27年で大量廃棄の時代に入っています。
日本は小型革新炉の開発を行おうとしていますが、小型革新炉は費用がかかる、開発が遅い、危険である、タイプがいろいろあって大量生産ができない、大量に出る核廃棄物の問題が解決していないなどの問題があります。そして、結局は核分裂で発生した熱を使って蒸気を作り、発電するのです。
石炭火力発電は2007年頃から減少していて、太陽光発電が急上昇しています。再生エネルギーの主力は太陽光発電と洋上を含めた風力発電です。常時流れとして地球上に注いでいる太陽光をエネルギーに変えるのが、この二つの発電方式です。技術学習効果で急速にコストが低下しています。これにリチウム電池による蓄電が加わります。
EV(電気自動車)の台数は、2025年にはガソリン車を抜くと予想されています。ノルウェーは、ほぼ全車がEVになり、ドイツ、中国、EUがそれに続きます。新商品の伸びは普及率が0.2%から5.0%になるのと、5.0%から50%になるのがほぼ同じ時間だという法則があります。つまり、ある程度普及すると急速に増加するのです。
EV化と同時に自動運転とライドシェアが進みます。そうなると現在20億台といわれる世界の車の数が2億台ですむようになります。
デンマークではベースロード電源として風力発電を用いています。それに、地域熱供給+コジェネレーター発電+ヒートポンプ+貯湯タンクを組み合わせます。ドイツ、デンマーク、オランダ、ベルギーが参加して北海に風力発電ネットワーックを構築するという構想があります。
再生エネルギーで得た電気を蓄える蓄電池(リチウムイオン電池)は、ゲームチェンジャーになりつつあります。30年間でコストが97%下落しました。南オーストラリア州では2016年9月に起きた暴風雨による全州ブラックアウトを機に、70億円を投じて巨大蓄電池を導入し、年間30億円の節約効果を生み出しています。
石炭や石油といった化石燃料市場は数百兆円規模の崩落を起こします(ギガフォール)。2020年時点で再生エネルギーの比率は、デンマーク68%、ドイツ44%に対して日本は20%です。
現在、日本の太陽光発電量は、中国、アメリカについで第3位ですが、2030年見通しではドイツに抜かれて第4位になります。
2021年の陸上風力発電量は全世界で780GWです。中国が約40%、アメリカが約15%、ドイツが7%で日本は0.6%です。洋上風力発電では日本はラストランナーです。
このように日本の再生エネルギーが立ち遅れているのは、重層的な問題があります。
1)理念・思想が欠如している、2)政策がカオス状態で再生エネルギー市場が崩壊している、3)統合・有機的連携が不在である、などです。
FIT制度(固定価格買取制度:Feed-in Tariff)は、認定時点で固定価格を決定するという方式をとりました。ところが技術の進歩が急速で価格の急激な低下が起こり、もうけを得ようと多くの事業者が参入しました。その結果、地上げラッシュと乱開発が発生しました。入札制度を導入したことによりFIT制度の利用が急減しました。
再生エネルギーのための持続可能なサプライチェーンは大きな問題はありません。
太陽電池に必要なポリシリコンは、新疆ウィグル自治区で4割を生産しています。太陽電池の廃棄物が40年後に多量に出ますが、回収して銀・シリコン・ガラス・アルミなどを再利用できます。リチウムは十分な量があります。
太陽光・風力の土地利用についての規制が必要です。ゾーニングを行い適切な土地利用を行う必要があります。
営農ソーラーは、牧場の柵などとして地面に垂直の太陽光パネルを設置したりするものです。地産地消の電力として有望です。
核兵器による戦争、石油をめぐる戦争などの恐怖から、太陽エネルギーによる自立・平等・平和な社会へと、再生エネルギー100%を積み上げることによって実現できます。
<感 想>
現在、世界でエネルギーとモビリティで大変革が起こっていることがよく分かる内容でした。
エネルギーについては、木を材料に火を燃やすことから始まり、石炭・石油の利用へと進み、原子力による発電と「進歩」してきました。その流れの大逆転が起こっていて、世界的に太陽エネルギーの利用が中心の社会へと変わりつつあります。
モビリティについては電気自動車(EV)と自動運転(AV:Automou-mas Vehicle、多分)、それにライドシェアによって大転換が急速に進行しています。
このような世界の流れに取り残されているのが日本なのです。その原因についても飯田氏は述べています。
EVで心配だったのが、豪雪によって車が立ち往生した場合のことです。しかし、EVは、むしろ寒冷地向きで北海道の陸別で実験したところ、マイナス30度の環境で40時間過ごすことができたそうです。排気ガスによる中毒の心配がないので十分な暖をとれるようです。
ベースロード電源として原子力が必要だという考えがあります。しかし、太陽光や風力といった自然変動電源をベース電源として柔軟性を導入することが世界的流れになっているとのことです。
九州電力の自然変動電源比率は15%ほどを占めているそうです。
飯田氏は、100枚以上のスライドを作ってpdfで配布してくれました。貴重な情報が満載の資料です。感謝です。
令和4年度 巨大地震対策オンライン講演会 ― 2023/02/21 20:19
2023年2月18日(土)午後1時30分から午後4時30分まで「巨大地震に関する地震津波情報を最大限に活用するために~巨大地震・津波のサイエンスと防災対応~」と題して表記講演会が開かれました。Zoomで視聴しました。
講演者と講演内容は以下のとおりです。
朝田 将氏(内閣府):切迫する巨大地震による被害想定と防災・減災に向けた取組
古村孝志氏(東京大学):海溝型巨大地震による強い揺れと津波
谷岡勇市郎氏(北海道大学):日本海溝・千島海溝で発生する巨大地震と津波のメカニズム
鎌谷紀子氏(気象庁):地震・津波の情報とその利活用
矢守克也氏(京都大学):巨大地震・津波から命を守るための備えと行動
以下、印象に残った点を列記します。
古村氏
巨大地震が発生した場合、通常の地震波に遅れてやってくる長周期地震動があり10分くらい地震動が続きます。特に、高層建物の上の方の階では揺れが大きくなります。通常の地震動の深度階とは別に4段階の長周期地震動階級が決められています。長周期地震動階級4では人が立っていることができず、這わないと動くことができないほどの揺れです。
谷岡氏
日本海溝・千島海溝で超巨大地震が冬に起きた場合、特別の困難が発生します。
津波に対して非難しなければなりませんが、冬は路面が凍結している、雪で道幅が狭くなっていることから避難速度が低下します。無事避難できたとしても暖をとれずに凍死したり、低体温症になったりします。 東日本大震災では0.2%の人が低温のために亡くなっています。
地震の揺れによって家の中で怪我などをしないために、家具の固定などの対策が必要です。さらに、家具などを置かない避難用の部屋を作っておいて、地震が来たらその部屋に家族が避難するということも考える必要があります。
鎌谷氏
地震が発生すると緊急地震速報が出されます。
地震発生から3分後に津波警報、5分で震源震度情報、10分で長周期地震動、15分で推計震度分布を発表します。
津波は警報が間に合わない場合があります。逆に、予想時間より遅れて津波が到着することもあります。津波の高さも局所的に高くなる場合があります。
海岸などでは赤白格子模様の津波フラッグを振ったり、高いところに掲げたりして避難を促します。音が聞こえない場合に有効です。
矢守氏
津波の避難訓練がマンネリ化している可能性があります。スマートフォンで見ることのできる「逃げトレ」というソフトを開発しました。
これによって避難訓練がどうだったのか診断・判定を行えます。いつ・どこへ・どこを通って・誰と逃げるのかを自分で判断できるようになることが大事です。さらに、条件を変えていろいろなシナリオで訓練することができます。条件としては、自然の条件と人間の行動の条件があります。逃げトレのデータを集積して参考にします。