飯田哲也氏の講演会2023/02/21 17:45

 2023216日(木)午後7時から午後10時まで飯田哲也(いいだ・てつなり)氏の講演会が開かれました。

 

飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所:ISEP 所長):オンライン被曝学習会 人類史的な大転換から取り残される日本〜再生可能エネルギー大転換とモビリティ大転換〜

 

 主催は「放射線被曝を学習する会」で、富山大学・コミュニケーション研究室が共催しています。

 

飯田氏の講演内容

 現在、世界的にエネルギーとモビリティの大転換が起きています。モビリティ大転換ではテスラショックが大きく、電気自動車の普及と同時に自動運転、カーシェアリングなどが進んでいます。

 日本のこの分野での政策は、共通理解が欠落している、政策がカオス状態である、官僚と審議会でことを進めているが機能不全に陥っている、世界の知のネットワークから隔離状態にある、組織的慣性力によって方向転換ができない、などによって大きく遅れています。官邸と経済産業省がことを進めているのも障害となっています。

 

 ドイツでは福島第一原子力発電所の事故のあと、原発の危険性を理由に再生エネルギーへ転換しました。さらに、コストが高い、核廃棄物の処理ができない、戦争の時に標的になるなどの欠点もあります。2035年までには再生エネルギー100%にしようとしていて、2050年までに再生エネルギー100%は世界的な常識となっています。その中心は太陽光と風力です。

 

 現在、原発は世界で411基が稼働していますが、平均寿命は27年で大量廃棄の時代に入っています。

 日本は小型革新炉の開発を行おうとしていますが、小型革新炉は費用がかかる、開発が遅い、危険である、タイプがいろいろあって大量生産ができない、大量に出る核廃棄物の問題が解決していないなどの問題があります。そして、結局は核分裂で発生した熱を使って蒸気を作り、発電するのです。

 

 石炭火力発電は2007年頃から減少していて、太陽光発電が急上昇しています。再生エネルギーの主力は太陽光発電と洋上を含めた風力発電です。常時流れとして地球上に注いでいる太陽光をエネルギーに変えるのが、この二つの発電方式です。技術学習効果で急速にコストが低下しています。これにリチウム電池による蓄電が加わります。

 

 EV(電気自動車)の台数は、2025年にはガソリン車を抜くと予想されています。ノルウェーは、ほぼ全車がEVになり、ドイツ、中国、EUがそれに続きます。新商品の伸びは普及率が0.2%から5.0%になるのと、5.0%から50%になるのがほぼ同じ時間だという法則があります。つまり、ある程度普及すると急速に増加するのです。

 

 EV化と同時に自動運転とライドシェアが進みます。そうなると現在20億台といわれる世界の車の数が2億台ですむようになります。

 

 デンマークではベースロード電源として風力発電を用いています。それに、地域熱供給+コジェネレーター発電+ヒートポンプ+貯湯タンクを組み合わせます。ドイツ、デンマーク、オランダ、ベルギーが参加して北海に風力発電ネットワーックを構築するという構想があります。

 

 再生エネルギーで得た電気を蓄える蓄電池(リチウムイオン電池)は、ゲームチェンジャーになりつつあります。30年間でコストが97%下落しました。南オーストラリア州では20169月に起きた暴風雨による全州ブラックアウトを機に、70億円を投じて巨大蓄電池を導入し、年間30億円の節約効果を生み出しています。

 

 石炭や石油といった化石燃料市場は数百兆円規模の崩落を起こします(ギガフォール)。2020年時点で再生エネルギーの比率は、デンマーク68%、ドイツ44%に対して日本は20%です。

 

 現在、日本の太陽光発電量は、中国、アメリカについで第3位ですが、2030年見通しではドイツに抜かれて第4位になります。

 2021年の陸上風力発電量は全世界で780GWです。中国が約40%、アメリカが約15%、ドイツが7%で日本は0.6%です。洋上風力発電では日本はラストランナーです。

 このように日本の再生エネルギーが立ち遅れているのは、重層的な問題があります。

 1)理念・思想が欠如している、2)政策がカオス状態で再生エネルギー市場が崩壊している、3)統合・有機的連携が不在である、などです。

 

 FIT制度(固定価格買取制度:Feed-in Tariff)は、認定時点で固定価格を決定するという方式をとりました。ところが技術の進歩が急速で価格の急激な低下が起こり、もうけを得ようと多くの事業者が参入しました。その結果、地上げラッシュと乱開発が発生しました。入札制度を導入したことによりFIT制度の利用が急減しました。

 

 再生エネルギーのための持続可能なサプライチェーンは大きな問題はありません。

 太陽電池に必要なポリシリコンは、新疆ウィグル自治区で4割を生産しています。太陽電池の廃棄物が40年後に多量に出ますが、回収して銀・シリコン・ガラス・アルミなどを再利用できます。リチウムは十分な量があります。

 太陽光・風力の土地利用についての規制が必要です。ゾーニングを行い適切な土地利用を行う必要があります。

 

 営農ソーラーは、牧場の柵などとして地面に垂直の太陽光パネルを設置したりするものです。地産地消の電力として有望です。

 

 核兵器による戦争、石油をめぐる戦争などの恐怖から、太陽エネルギーによる自立・平等・平和な社会へと、再生エネルギー100%を積み上げることによって実現できます。

 

<感 想>

 現在、世界でエネルギーとモビリティで大変革が起こっていることがよく分かる内容でした。

 エネルギーについては、木を材料に火を燃やすことから始まり、石炭・石油の利用へと進み、原子力による発電と「進歩」してきました。その流れの大逆転が起こっていて、世界的に太陽エネルギーの利用が中心の社会へと変わりつつあります。

 モビリティについては電気自動車(EV)と自動運転(AV:Automou-mas Vehicle、多分)、それにライドシェアによって大転換が急速に進行しています。

 このような世界の流れに取り残されているのが日本なのです。その原因についても飯田氏は述べています。

 EVで心配だったのが、豪雪によって車が立ち往生した場合のことです。しかし、EVは、むしろ寒冷地向きで北海道の陸別で実験したところ、マイナス30度の環境で40時間過ごすことができたそうです。排気ガスによる中毒の心配がないので十分な暖をとれるようです。

 

 ベースロード電源として原子力が必要だという考えがあります。しかし、太陽光や風力といった自然変動電源をベース電源として柔軟性を導入することが世界的流れになっているとのことです。

 九州電力の自然変動電源比率は15%ほどを占めているそうです。

 

 飯田氏は、100枚以上のスライドを作ってpdfで配布してくれました。貴重な情報が満載の資料です。感謝です。

 



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