夏目漱石:私の個人主義2016/04/08 13:44


私の個人主義
夏目漱石,私の個人主義,1978年8月,講談社学術文庫。

 漱石と言えば,「吾輩は猫である」,「坊ちゃん」しか,私は読んだことがない。

 この本には,以下の講演が収録されている。

「道楽と職業」:明治44(1911)年8月,明石での講演
「現代日本の開花」:同じく和歌山での講演
「中味と形式」:同じく堺での講演
「文芸と道徳」:同じく大阪での公演
そして「私の個人主義」:大正3(1914)年11月25日,学習院の輔仁会(ほじんかい)での講演

 「私の個人主義」の講演を行った輔仁会というのは,学習院全体,つまり,幼稚園から大学さらに学校法人学習院の役員までが会員となる課外活動の中心機関で,現在も様々な活動を行っている。学習院は,1947年に仁孝天皇(こうにん・てんのう:明治天皇の2代前)が京都御所内に開設した学習所が始まりである。この前年に孝仁天皇は亡くなっている。

 この講演では,まず自分がどういう道を歩んできたのかを述べている。そして,イギリスに留学しているときに,西洋人が立派な詩であると言っても自分がそう思えなければ受け売りをすべきではないと考え,「自己本位」という四字を考えた。「その時私の不安は全く消えました。」という。
 「ああここにおれの進むべき道があった!ようやく掘り当てた!こういう間投詞を心の底から叫び出される時,あなたがたは始めて心を安んずる事が出来るのでしょう。」
 ここまでが,この講演の第一篇に相当する。

 自分の個性を発展させることができるようになったら,他人に対してもその個性を認めるのが当然である。自分が持っている権力を使おうとするのであれば,それに付随している義務についても心得ていなければならない。金力を示すのであればそれに伴う責任を重んじなければならない。
 この三つが大事である。

 「しかも個人主義なるものを蹂躙しなければ国家が亡びるような事を唱道するものも少なくはありません。けれどもそんな馬鹿気たはずはけっしてありようがないのです。事実私共は国家主義でもあり,世界主義でもあり,同時にまた個人主義でもあるのであります。」

 「国家的道徳というものは個人的道徳に比べると,ずっと段の低いもののように見える事です。元来国と国とは辞令はいくらやかましくっても徳義心はそんなにありゃしません。詐欺をやる,ごまかしをやる,ペテンにかける,めちゃくちゃなものであります。」

 こうしてみると,今の国の運営の仕方は,100年前と何ら変わっていないことに気がつく。漱石先生,恐るべしである。

 なお,「私の個人主義」は「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp)から無料でダウンロードできる。



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