千木良雅弘著「深層崩壊」の紹介 ― 2014/07/10 10:49

深層崩壊.千木良雅弘,2013年10月,近未来社.
千木良雅弘氏の崩壊に関する4冊目の本です。前著,「崩壊の場所」では,長期的な地形形成過程の中で,どのような場所で大規模崩壊(深層崩壊を含む)が発生するのかを明らかにしていました。いわば,その続編とも言うべき内容です。
深層崩壊が発生する場所を,ある程度特定できるとしています。扱われているのは2009年の台湾小村林のでの深層崩壊,2011年紀伊山地の深層崩壊,2008年中国汶川地震での深層崩壊,2011年東日本大震災による降下火砕物の崩壊などです。
そして,第7章で深層崩壊発生場所の予測をどのようにして行うかを述べています。地質によって異なりますが,ポイントの一つは重力変形斜面を見分けることです。
これは,非常に実際的な話で,現地踏査の時に,どこに着目すれば良いかを教えてくれます。
テクトニック断層(地質断層)とノンテクトニック断層(地すべりのすべり面など)が,どのように異なるかをコア写真などを示して説明しているのも,実際の地質調査で参考になります。
調査手法として,航空レーザー計測による地形図,高品質コアボーリング,ボアホールカメラが大いに役立つと述べています。
航空レーザー計測による地形図は,重力変形斜面に特徴的な微地形を識別するのに非常に役に立ちます。
高品質コアボーリングは,旧来のコアでは土砂と判断するかコア判定ができなかった地盤でも,観察に耐えるコアを採取することができます。
深層崩壊による災害は色々とあります。
1)崩壊土砂そのものによる被害
2)崩壊土砂が沢や川に突っ込むことによって発生する土石流
3)崩壊土砂による天然ダムの形成(ダム上流の浸水被害)
4)天然ダムの崩壊による洪水
5)天然ダム上流での崩壊による津波
特に,土石流や天然ダム崩壊による洪水は,下流の都市部や住宅地に影響を及ぼします。深層崩壊の場所を精度良く抽出することが重要になります。
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以下,実務的な補足です。深層崩壊の特徴は,「表土層の下の地盤も崩壊する,高速移動する,崩壊土塊がバラバラになる」ということです。
2010(平成22)年時点で,深層崩壊と認定されたのは全国で188個所です。
土木研究所で「過去の深層崩壊事例について(〜平成22年度)」(2012年1月)および
「深層崩壊発生の恐れのある渓流抽出マニュアル(案)」(2008年11月:以下,マニュアル(案)と呼ぶ)を作成しています。
また,国交省で深層崩壊マップを公開しています。(http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/deep_landslide.html 参照)
上記マニュアル(案)では,「改訂 砂防用語集」を採用して,深層崩壊を次のように決めています。
「本マニュアルで対象とする深層崩壊は、「山崩れ・崖崩れなどの斜面崩壊のうちすべり面が表層崩壊よりも深部で発生し、表土層だけでなく深層の地盤までもが崩壊土塊となる比較的規模の大きな崩壊現象」(「改訂 砂防用語集」((社)砂防学会 編,2004))とする。
なお、表層崩壊の崩壊深は表層土と基盤層の境界部までの0.5〜2.0m程度であると言われている。
深層崩壊の特徴は
1) 崩壊土塊(土砂)は、高速で移動する.
2) 崩壊土塊(土砂)の大部分は、崩壊範囲の外へ移動する場合が多い.
3) 斜面を構成する土塊は、崩壊と同時にバラバラになって移動するか、あるいは原形を
留めてすべり始めた後にバラバラになる場合が多い.
という点である」(マニュアル(案),1p)
崩壊面積については,1ha程度以上のものとしています。
(「深層崩壊発生の恐れのある渓流抽出マニュアル(案)」に関するよくある質問と答え.土木研究所,2009年8月 参照)
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