橋本鋼太郞土木学会会長の「福島県双葉郡5町を訪ねて」2014/06/03 21:42

 橋本氏は,「福島県双葉郡管内の復興が計画どおり進まない中で,学会として福島の復興に資するための観点を把握することを目的として」,浪江町,双葉町,富岡町,楢葉町,広野町を訪れ,土木技術者の課題を中心に町長,職員と意見交換を行いました。訪問の時期は,2014年2月18日と26日です。

 この5町のうち,一番南に位置する広野町を除いて4町で役場機能を福島県内の他市へ移しています。
 除染については,除染と補償について住民に同意を得るのに時間を費やしていること,汚染土の中間貯蔵施設の実現性が見えないため仮置き場の確保ができない状況になっていることが大きな障害となっています。
 復興計画の実現については,どの程度の人が元の住み処に戻るかの見通しが立たない状況で,現実的な復興計画を描くことが難しくなっています。
 また,町の技術系職員が絶対的に不足しています。

 土木技術者に求められているのは,次のようなことです。
1)除染作業をどのように進めるか,汚染物質の仮置き場・中間貯蔵施設の整備について,住民の理解を得ること。
2)除染とインフラの整備・復旧を総合的に捉え進めること。
3)人口減少や少子高齢化など福島県が抱えている課題を含めて,復興を契機に解決する必要があること。

 最後に,橋本氏は「福島の復興に関する課題に関しては,土木学会の産官学の専門家の積極的な取り組みにより,早期の解決を図りたい。」としています。

 非常に地味な記事ですが,好感の持てる内容です。

■橋本鋼太郞,2014,福島県双葉郡5町を訪ねて。土木学会誌,99巻,6号,42−45.

本の紹介:巨大津波 地層からの警告2014/06/11 12:35


後藤和久,巨大津波 地層からの警告。日経プレミアシリーズ。2014年5月。日本経済新聞社。

 2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震以後,『「想定外」の巨大災害による被害をなくすために,あらゆる可能性を考慮することが求められるようになった。』というのが著者の基本的立場です。そのためには,できる限り長期の津波の履歴や規模を津波堆積物という地層から明らかにする必要があるとしています。
 その理由は,過去に繰り返し起きていたことは,将来も同じように発生する可能性があるというのが,地質学の原理の一つだからです。
 同時に,地質的証拠だけでは十分な分解能が得られないという問題もあることを指摘しています。

 津波という現象は,多くは地震によって起きるのですが山体崩壊や海底地すべりなどで起こる場合もあり,原因が不明な巨大津波の痕跡もあります。このような津波があることも,防災上は考慮する必要があり,一層の研究が必要だと言います。

 目次は次のとおりです。

はじめに
第1章 巨大津波は繰り返す
第2章 地層は知っている 過去の巨大津波
第3章 東日本大震災から学び続ける
第4章 地層が描き出す日本の津波災害地図
第5章 石垣島を襲った大津波を読み解く
第6章 世界中に残る巨大津波の爪痕
第7章 「地層からの警告」を見逃すな
おわりに

 第5章の,石垣島周辺で1771年4月に発生した明和津波(あるいは八重山地震津波)の話は興味深いものです。記録にも残っているほど大きな津波であったのに被害が局所的であったこと,巨大な津波石が海岸に打ち上げられ,2013年に国の天然記念物に指定されたことなどが述べられています。

 南海トラフ沿いの巨大地震津波と北海道東部太平洋岸の500年間隔の巨大津波は,近い将来発生する可能性が高いと言うことも納得できます。
 まだまだ分からないことの多い津波ですので,地道に調査・研究を進める必要があることが良く分かります。


土木コレクション全国巡回展と図録2014/06/19 14:13




 今年は土木学会創立100周年です。その記念事業として「土木コレクション HANDS+EYES 全国巡回展」が開かれています。
 2014年6月19日現在,仙台(1回目),前橋,平塚,松江,松山,福岡が,すでに終了しています。

 札幌では,7月3日(木)〜6日(日)の4日間,駅前通地下歩行空間で開かれます。
 この巡回展の図録が,ここに紹介する冊子です。冊子と言っても,A4版156ページ,オールカラーの本です。

 そのタイトル通り,過去に建設された構造物などの図面と建設当時の写真と現在の様子の写真,それに説明文から構成されているのが,HAMNDS−土木遺産−の部分です。全国89個所が掲載されています。
 EYESと言うのは,未来を指向したコンセプトのプロジェクト作品で,モエレ沼公園を始めとして首里城城郭の復元まで12個所が掲載されています。

 北海道では,稚内港北防波堤ドームから始まって青函トンネルまで12個所が掲載されています。その項目の最初のページの左肩に,「JR宗谷本線「稚内駅」から徒歩10分」(稚内港北防波堤ドームの場合)という風に,行き方が書いてあります。

 土木学会のHPの写真のすぐ上の「刊行物」を開くと,この本が出てきます。一般の人は702円(税込み)+470円(送料)です。


HOKKAIDOママチャリ耐久リレー大会2014/06/22 18:09

 今日は天気が素晴らしく良いので,自転車で石狩浜へでも行こうと家をでました。途中,モエレ沼公園に寄ったらママチャリレースをやっていて,そこで引っかかってしまいました。


写真1 スタート前
 先導の車の後をついてコースを1周してからスタートになります。天気は最高です。

 札幌市の北東にあるモエレ沼公園で,開かれているママチャリの4時間耐久リレーです。
 6月初旬の長雨が上がり,気持ちの良い気候になりました。緑の芝生に囲まれたコースで熱戦が繰り広げられました。
 風は強かったですが,さわやかな気候でみんな楽しそうでした。


写真2 いよいよスタート
 バイクが先導します。


写真3 力走する選手たち
 早くも1周抜かれます。周回遅れの人がいるので,接触事故を起こさないようにマナーが大事です。


写真4 リレーゾーン
 左から走ってきて,直角に曲がります。ここで交代します。左の山はプレイマウンテン,右のカラマツの林の中に「海の噴水」があります。

 いつも感心するのですが,トップの人の速いこと。今回の優勝は,去年に続いてチーム サッポロスキッドだったようです。平均時速は34kmくらいです。乗り継ぎの時間を含めての速度ですから,レース中のスピードは,40kmは楽に出ているようです。
 楽しみながら走っているチームや仮装して走っているチームなど見ていて飽きません。


アポイ岳2014/06/26 17:53

 6月23日(月),アポイ岳の9合目まで登ってきました。今回で3回目のアポイ岳で,初めて馬の背から海を見ることができました。

 この山の登山道は,5合目までは林の中を歩くので,遠くの景色を見ることはできません。季節にはハクサンシャクナゲの淡いピンクに花が至る所に咲いています。今回は,ほとんど見ることができませんでした。
 地形的には,登山道の標高220m付近までは,段丘と山麓緩斜面です。この緩斜面は,山の西側のポンサヌシベツ川に面した斜面に広がっていますが,東側の幌満川に面した斜面には見られません。避難小屋(5合目)手前の急な登り付近からは,かんらん岩の分布域になります。


アポイ岳西麓段丘面
写真1 アポイ岳西麓の段丘面
 この辺りは,5万分の1図幅では高位段丘になっています。河成段丘にしては広です。


山麓緩斜面
写真2 山麓緩斜面とおぼしき斜面
 段丘面に比べると傾斜がややきつくなります。このような斜面では,沢が突然始まるのが特徴です。


 5合目から9合目付近までは登山道に,かんらん岩がほぼ連続で現れています。
 6合目から7合目にかけては,マグネシウムに富むかんらん岩が登山道で階段を作っています。また,登山道脇に層状の岩塊が見えますが,これは,かんらん岩とはんれい岩質岩が互層しているもので,はんれい岩質岩の方が硬いために出っ張っています。


5合目
写真3 5合目から先の尾根道
 ここからの登山道は,かんらん岩の露頭の上を歩くことになります。植生も大きく変わります。


層状かんらん岩
写真4 層状のかんらん岩
 突出した部分と凹んだ部分が層状になっています。それにしても,こんな所の蛇は何を食べているのだろうか。マムシは性格は温厚なのだそうです。私は,本州の杉林でマムシを踏んづけたことがありますが,足の下でヌルーと動いてどこかへ行ってしまいました。見晴らしの良い岩に登ったら,マムシがとぐろを巻いていたこともありました。子育ての時期は危険でしょうが普段は割合紳士的です。


層状かんらん岩
写真5 七合目手前の層状岩
 

 馬の背から9合目にかけても,ほぼ連続露頭です。ここでは,蛇紋岩化したかんらん岩も見ることができます。また,白色の脈(多分,ロジン岩)が含まれている露頭もあります。9合目付近にはかなり新鮮なかんらん岩があります。
 これより上は,植生に覆われて露頭が少なくなることと,すでに午後3時になっていたので引き返しました。


層状かんらん岩
写真6 馬の背にかかる雲
 この日は尾根の両側から雲が登ってきて,尾根付近で戯れているかのようでした。


ジャクナゲ
写真7 ハイマツの中のシャクナゲ
 今回見た唯一のシャクナゲです。ハイマツの中に隠れているようです。


破砕かんらん岩
写真8 破砕されたかんらん岩
 破砕されて白い鉱物脈が網状に入っています。白いのはロジン岩と思いますが,確かではありません。


緩んだかんらん岩露頭
写真9 八合目手前の露頭
 右(西)に緩く傾斜する層状構造があり,それにほぼ直行する割れ目が発達しています。トップリングを起こしているようにも見えます。尾根に露出している岩は非常に緩んでいます。


ピンネシリへの尾根
写真10 ピンネシリに続く尾根
 左(西)に緩く傾斜する層状構造が見えます。こんな岩場でも植生が張り付いているのは,湿潤気候の日本ならではでしょう。


8合目
写真11 八合目手前から馬の背を見る
 ほぼ真西に延びる尾根で,右はポンサヌシベツ川の支沢,左はコトニ川の上流です。左の海岸に冬島漁港,手前の木のすぐ上に,五合目避難小屋の銀色の屋根が見えます。
 この付近から,白い木肌をしたダケカンバの灌木が見られるようになります。


 今回は,馬の背から海を見ることができたので大満足です。9合目まで写真を撮りながら,石を見ながらで2時間半かかりました。帰りは1時間45分で降りてきましたが,今シーズン初めての登山と言うこともあり,途中で足がつって往生しました。ストレッチをして何とかだましだまし降りてきました。


9合目
写真12 九合目で
 左の岩に赤ペンキで「九合目」と書いてあります。九しか見えませんが。この辺りの石は非常に硬くて新鮮です。


 アポイ山荘で風呂に浸かり汗と疲れを取って,様似町の図書館に向かいました。6時半から荒井章司氏と青木正博氏の講演会があります。

 講演会の様子は,次回にします。

*ロジン岩(ロジンジャイト:rodingite)というのは,カルシウムに富んだ中粒から粗粒のはんれい岩質の岩石で,灰ばんざくろ石(グロシュラー:grossular)や異はく石(単斜輝石の一種:diallage)を主要鉱物として含むものです(
Dictionary of Geology & Mineralogyによる)。かんらん岩が蛇紋岩化するときに余ったカルシウムが濃集してできるとされています。