野外調査にはロマンがある2011/02/22 22:38



 「テーチス海に漂う青い雲ー若きフィールドワーカーたちの見聞録ー」(テーチス紀行集編集委員会編,2011年1月刊)という本が出版された.テチス海(Tethys sea)というのは,古生代末に超大陸パンゲアが分裂を始めた時にその裂け目にできた海である.この海には熱帯性から亜熱帯性の海生生物群を含む浅海性〜遠洋性の堆積物が堆積した.その後,南のゴンドワナ大陸から分離したインド大陸が北上してユーラシア大陸に衝突し,潜り込んでヒマラヤ山脈が形成された.このようなことから,ヒマラヤ山脈にテチス海の堆積物が残されている.
 
 1963年に北海道大学西ネパール遠征隊がチベット高原までの探検を行ったのを皮切りに,地質,氷河,生物などの学術調査が行われてきた.この野外調査の紀行文をまとめたのがこの本である.
 木崎甲子郎氏の「テーチス海断想」から始まり,木村恒美氏の「ネパール給水プロジェクト奮闘記」や石田隆雄氏の「ネパールでの起業」などまで,興味深い文章が連ねられている.

 ネパールでの調査はキャラバンを組んで移動しながら調査を行うという方法を取ることが多かったことが描かれている.このキャラバンのポーターをどうやって集めたのか,道中どのような悶着が発生したのか,途中の村の人々の民族性など興味の尽きない話題で一杯である.

 巻頭の「発刊について」では次のように述べられている.

「時代の社会的背景のもとに,一九六〇年代のテーチス地域自然史研究会に集まった<若者たちが,未知の世界で何を見聞きし,感じ,どう考えたか>と言うことを,当時の彼らと同年代の,今のあるいはさらに後生の,将来を模索する若者たちへのメッセージとすべく,紀行集の形としてここに残すこととした」
 
 この意図は十分に果たされていると思う.

 なお,本書は「紀伊国屋書店BookWeb]」などで5,000円(税込み)で手に入れることができる.