紹介:「BORN TO RUN 走るために生まれた」2011/02/15 21:13


NHK出版.2010年2月刊

 狩猟採集時代の人間は,満足な道具も持たずにどうやって狩猟を行っていたのか.長い距離をしつこく獲物を追い続けて,獲物が熱中症になって倒れたところ捕まえていた.つまり,人間にとって長い距離を走ることは生きるための必須の技術であった.毛皮をまとった哺乳類は息をすることで体内の熱を発散させるしかないが,人間は汗で体内の熱を発散できる.これが,人間が長い距離を無理なく走れる秘密である.

 この本の縦糸はカバーヨ・ブランコという謎の人物である.それに,ウルトラ・トレイルマラソンの様々なレースとそこで活躍するランナーの話と人間の身体の謎,人類進化の中での走ることの役割といった内容が加わる.ウルトラ・トレイルマラソンの勝負の様子が述べられているので興味は尽きない.

 最後は,メキシコのウリケ(北緯27°12′38″,西経107°55′03″)を中心に行われたウルトラ・トレイルマラソンで終わる.

 長い距離を走ることが狩猟採集時代の人間の生活を向上させる武器になったという説明はそれなりに説得力がある.また,走ることによりストレスが解放されると言うことも実感を持って受け止めることが出来る.
 特に,朝の日を浴びて走ることはストレスの解消にはもってこいだと思う.24時間を周期とする生物の内因的なリズム(サーカディアン・リズム)を調整するという意味で朝日を浴びることは大切である.

 私自身はマラソンまでの距離しか走ったことがない.100kmやそれを大幅に超える距離を走れるとは今は思えないが,この本を読んでいると,いつかは挑戦してみたくなる.ましてや,山岳地帯を走ると言うことがどんなことか、一度は経験してみたいと思う.
 芦別岳に登った時に,トレイルマラソンの夫婦に下山中に追い越されたが,私が9時間かかったところを6時間で走破してきたという.その元気さにびっくりした.

 この本の中には,私が学生時代に知ったリディアードやセルッティというコーチ,ザトペックやショーター,クラークと言ったランナーの名前が出てくる.走ることに絞られてはいるがじつに幅広い内容である.

 走るのが好きな人も嫌いな人も読んでみる価値がある.


札幌国際スキーマラソン2011/02/15 22:01


2011札幌国際スキーマラソンコース

 今年第31回の大会が2月13日に行われた.札幌ドーム発着という豪華な大会である.
 コースは,基本的に支笏火砕流堆積物で構成される丘陵地帯である.札幌ドーム付近は北海道農業研究センターの試験用地で,西岡水源地の脇を通り滝野霊園の近くまで行き,25kmコースはそのまま戻ってくる.50kmコースは白旗山の周辺を回り白旗山競技場を経て戻ってくる.

 以前は,羊ヶ丘展望台が発着で白旗山競技場が30kmで,ここまで走れば記録を取ってくれた.しかし,札幌ドーム発着になってからは,50kmは完走しないと記録は取ってもらえない.

 今から15年以上前はクラシカルスキー,その前は裏にギザギザの付いた歩くスキーで50kmに挑戦していた.制限時間7時間を5分くらい超過して何とか完走していた.この頃は,羊ヶ丘展望台への最後の昇りがものすごく応えた.今は,最後は札幌ドームに向かって下っていくのでとても気持ちがよい.

 今年は吹雪の予想であったが,天気は良く夕張岳が白くくっきりと見えた.残念ながら,農地なので風をまともに受け涙がまつげで凍り視界が不良になる.それでも,ここまでくると本当にほっとして気持ちよく滑ることが出来る.

 去年までは前日に札幌ドームに行って、ちょっと試走してワックスを掛けてもらうためにスキーを預けていたが,今年は経費節約のために自分でワックスがけをした.その割に良くすべり,最後までワックスが持ったのがうれしかった.タイムは25kmで3時間00分2秒,490人中377人目.まあまあ満足のいく走りであった.

野外調査にはロマンがある2011/02/22 22:38



 「テーチス海に漂う青い雲ー若きフィールドワーカーたちの見聞録ー」(テーチス紀行集編集委員会編,2011年1月刊)という本が出版された.テチス海(Tethys sea)というのは,古生代末に超大陸パンゲアが分裂を始めた時にその裂け目にできた海である.この海には熱帯性から亜熱帯性の海生生物群を含む浅海性〜遠洋性の堆積物が堆積した.その後,南のゴンドワナ大陸から分離したインド大陸が北上してユーラシア大陸に衝突し,潜り込んでヒマラヤ山脈が形成された.このようなことから,ヒマラヤ山脈にテチス海の堆積物が残されている.
 
 1963年に北海道大学西ネパール遠征隊がチベット高原までの探検を行ったのを皮切りに,地質,氷河,生物などの学術調査が行われてきた.この野外調査の紀行文をまとめたのがこの本である.
 木崎甲子郎氏の「テーチス海断想」から始まり,木村恒美氏の「ネパール給水プロジェクト奮闘記」や石田隆雄氏の「ネパールでの起業」などまで,興味深い文章が連ねられている.

 ネパールでの調査はキャラバンを組んで移動しながら調査を行うという方法を取ることが多かったことが描かれている.このキャラバンのポーターをどうやって集めたのか,道中どのような悶着が発生したのか,途中の村の人々の民族性など興味の尽きない話題で一杯である.

 巻頭の「発刊について」では次のように述べられている.

「時代の社会的背景のもとに,一九六〇年代のテーチス地域自然史研究会に集まった<若者たちが,未知の世界で何を見聞きし,感じ,どう考えたか>と言うことを,当時の彼らと同年代の,今のあるいはさらに後生の,将来を模索する若者たちへのメッセージとすべく,紀行集の形としてここに残すこととした」
 
 この意図は十分に果たされていると思う.

 なお,本書は「紀伊国屋書店BookWeb]」などで5,000円(税込み)で手に入れることができる.