講演会:子どもたちのために、変えよう公教育のあり方〜先生たちの働き方から ― 2025/04/01 10:29
2025年3月22日(土)午前10時から12時頃まで、表記講演会が開かれました。主催は船橋市の保護者の方々です。会場は船橋市勤労市民センターで、同時にzoomで配信されました。
講演は下の二つでした。
・西村祐二氏(岐阜県立高校教諭)
:どうなる4月からの学校現場・・・先生の長時間労働で子どもたちが危機に 〜最新の国会審議を踏まえつつ〜
・公立中学校教諭:
船橋の中学校の現状
講演の概要を記します。
<西村祐二氏>
西村氏の略歴は次のようです(講演会のビラから)。
2016年に「斉藤ひでみ」名でSNS発信を開始。
以降、記者会見やオンライン署名、書籍等で働き方改革や校則の問題などを訴え続ける。2019年、変形労働時間制が国会にかけられたのを機に、匿名でなく実名で活動することに。異色の現役高校教師。
今回の講演内容は下の4つです。ここでは、❹については省略します。 図は、西村氏の当日配布の資料からです。
❶ 学校現場の現状
❷ これまでの活動
❸ 背景にある給特法の問題
❹ 政治状況と今後の見通し
まず、教員の状況です。
1ヶ月の平均残業時間は、
小学校で82時間
中学校で100時間
高校で81時間
です。
このなかには、持ち帰り仕事や休憩時間中の労働を含みます。一般的に過労死の可能性のある残業時間は、80時間とされています。
その結果、何が起きているかというと、全国で精神疾患による休職者が7,119人(2023年度)、教員採用倍率が小学校2.2倍、中学校4.0倍、高校4.3倍と過去最低となっています。教員が過去最多の4,739人不足しています(全日本教職員組合の調査。2024年10月1日時点)。
学校ではクラス担任が決まらないという事態になっています。
さらに、教員の約6割が授業の準備が十分できない、7割がいじめを早期発見できているか不安に感じる、と言っています。
教員の過労死認定件数は、2015年度から2023年度の9年間で62件です。平均すると年間7人弱です。在職中の教員は、年間約500人が亡くなっています。いろいろな統計を考慮すると、このうち1割、50人が過労死と考えられます。
次に給特法の問題点です。
給特法というのは、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」の略称です。基本的に公立の小学校、中学校の教員には残業代を出さない代わりに基本給の4%の特別手当(教職調整額)を出すと言うものです。
この制度ができた1971年当時、教員の残業は月平均で約8時間でした。これを根拠に4%の上乗せが決められました。2019年12月に給特法が改定され、変形労働時間制が導入されました。この制度は、繁忙期(年度初めなど)の所定労働時間を長くする代わりに、閑散期(夏休みなど)の所定労働時間を短くすることで、年間で見た労働時間を短くしようとするものです。
図1 教員の変形労働時間制が何をもたらすか
給特法は次のように定めています。
(1) 教育職員には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。
(2) 教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。
(3) 特地勤務手当、期末手当、勤勉手当、定時制通信教育手当、産業教育手当又は退職手当について給料をその算定の基礎とする場合、当該給料の額に教職調整額の額を加えた額を算定の基礎とすること。
(4) 教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする。
(5) そして、時間外手当は払わない、残業は命じないとなっています。
問題は下の図2のように整理できます。
図2 給特法の問題の要点と弊害
・自発的勤務は「やらなくてはならないもの」だけど命令ではない
・「勤務」だけど「労働」ではない
・残業は自己責任である
労働基準法では次のようになっています。
(1)第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間につい て四十時間を超えて、労働させてはならない。
○2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除 き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
(2)第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合において は少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時 間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
(3)第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休 日を与えなければならない。
(4)第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により 労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、通常の 労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上、五割以下の範 囲内で割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して 労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合において は、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増 賃金を支払わなければならない。
このように、給特法が労働基準法の割増賃金規定を適用除外としたことで労働基準法の重要規定がことごとく骨抜きになっています。
現在、教職調整額を10%とする案が出されていますが、現在の給特法を廃止して労働基準法を適用するしか、状況を変える方法はないと考えます。
図3 給特法改正を
<公立中学校教諭>
中学校で国語を担当しています。船橋市の中学校の現状と先生の働き方について話します。
教師の正規の勤務時間は1日当たり7時間45分、週に38時間45分、月に155時間です。しかし、実態は次のようです。
------------------------------------------------------------------------------------------
■一般的な通常の勤務(1日当たり11時間15分、週に56時間15分、月に22 5時間)
6時45分に出勤
午前中4時間授業、給食1時間、午後2時間授業
16時00分〜18時00分 部活
■2時間45分の時間外勤務(週13時間45分、月55時間)
不登校児への対応 不登校児は各クラス3〜4人
家庭訪問
授業準備 50分は必要
テスト作成 8時間
採点 10時間
生徒指導
親への連絡 1時間になることも
+その他に
指導案作成 20時間
学期末成績処理 10時間
通知票・内申書作成
総計 月75時間
+土曜・日曜の部活動=総計月95時間
+昼休みの勤務=総計月100時間
------------------------------------------------------------------------------------------
この結果、何が起きるか。
教師の休職・退職・過労死、教師希望者の減少、教師不足が起きます。
そして、2クラス同時授業を行ったり、体育の教師が社会科を教えたり、1クラス39人で5クラスとなったりします。教師が不足しているため、子ども一人一人に対応するための少人数指導員が担任になったりもしています。
被害は生徒に及びます。
学力の低下、授業中落ち着かない生徒、問題行動の発見の遅れなどが発生します。
教師としては「先生、分かったよ!」の笑顔が見たいです。
本:AI・機械の手足となる労働者 ― 2025/03/20 19:17

モーリッツ・アルテンリート、小林啓倫(あきひと)訳、AI・機械の手足となる労働者 デジタル資本主義がもたらす社会の歪み。白揚社、2024年12月。
グーグルのシリコンバレー本社「グーグルプレックス」。という文章で始まります。
グーグルプレックスに勤める社員のほかに、となりの建物で働く「黄色いバッジ」の人たちがいます。現存するすべての書籍をデジタル化するというプロジェクトのために手作業で書籍をスキャンするために働いていた人びとです。「デジタル工場」で働く人たちです。
この本のテーマは、デジタル資本主義のもとで労働がどうなっているかを明らかにすることです。
アマゾンにおけるラストワンマイル配送労働者、「1日12時間、1週間休みなしでモンスターを殺し続けている」ゲーム労働者、家事・育児の合間にクラウドワークで働く女性たち、ソーシャルメディアのコンテンツモデレーターなどの実態が詳しく述べられています。
これらの労働者は世界各地に散らばっていますが、デジタル技術によって結びつけられた工場としてのプラットフォームで、細分化された仕事を瞬間的に請け負うという形で働いています。
デジタル技術の発展は多くの便利さをもたらします。しかし、それを支える労働者は、何の権利もない状態で時間に追われ、厳しく評価され働いているという実態がよく分かります。マルクスが生きていた時代の炭鉱労働者、チャップリンのモダンタイムスに出てくる機械工場の労働者と違わない状況に置かれているのです。
デジタル時代に生きるものとして知っておくべき内容の詰まった本です。
2025年 北海道大学地震火山観測研究センターシンポジウム ― 2025/03/18 12:34
2025年3月15日(土)、午後1時から4時まで表記シンポジウムが行われました。テーマは「日本海沿岸の地震と津波 ~ 能登半島地震から学ぶ ~」でした。会場は北大学術交流会館でした。私はYouTubeで視聴しました。
プログラムは下のようで30分ずつの4件の講演がありました。
------------------------------------------------------------------------------------------------
プログラム
開会挨拶
能登半島地震から学ぶ日本海沿岸で発生する大地震の特徴(谷岡勇市郎)
海底地震観測から明らかになった能登半島地震の余震活動(村井芳夫)
能登半島地震による津波(山中悠資)
古文書と地質記録から探る北海道日本海沿岸の地震津波像(西村裕一)
質疑応答・閉会の挨拶
------------------------------------------------------------------------------------------------
<谷岡勇市郞氏>
日本海側の東北から北海道にかけて過去に大きな地震が起きています。
1833年 庄内地震
1940年 積丹半島沖地震
1964年 新潟地震
1972年 サハリン沖地震
1983年 日本海中部地震
1993年 北海道南西沖地震
2024年 能登半島地震
などです。
日本海側ではユーラシアプレート(アムールプレート)と北米プレートが年1cmの速度で短縮していますから、400年経てば4mのすべりを起こすひずみが溜まります。
海洋研究開発機構では秋田・山形沖に海底地震計を設置してエアガンとストリーマ観測装置で地震観測を行いました。その結果、日本海側のプレートが日本列島の下に沈み込んでいるということはなくて、海底活断層が多数分布していること、海のプレートと陸のプレートに間に遷移層があり、ここでひずみが解消されていることがわかりました。日本海側の大地震は海底活断層によって起きているのです。
2024年能登半島地震による海岸の隆起はALOS2(エイロス2)の観測で能登半島の北海岸が2〜4m隆起していることが分かりました。
宍倉ほかの現地調査では隆起テラスは、標高4mと7mの高さにあり、少なくとも2段、場所によっては3段の隆起テラスが確認されています。2段であれば900年〜1,400年間隔、3段であれば500年〜800年の間隔で地震が発生していることになります。地震の繰り返し間隔は500年〜数千年で、平均すると500年で5m隆起していることになります。
北海道の日本海側には20個の海底活断層があります。1993年の北海道南西沖地震では奥尻島は80cm沈降しました。このように沈降が起こると津波はより危険になります。今回の能登半島地震では海岸が隆起したため、半島の北海岸では津波の被害はほとんどありませんでした。
<村井芳夫氏>
能登半島付近では2007年、2023年、2024年に大きな地震が起きています。
2024年の地震は延長150kmの断層が動いたM7.6の地震でした。余震分布を明らかにすると大きな地震の破壊領域を推定できます。海底で起きた地震の余震分布を明らかにするためには海底での地震波の観測が必要です。陸の観測点だけでは地震波の屈折によって精度が落ちます。
今回の能登半島地震の余震観測を行いました。期間は2024年1月24日から2月24日までです。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の白鳳丸で深度6,000mまで耐える地震計を設置しました。その結果、気象庁が推定していた震源よりも全体に浅くなりました。震源の深さは約15kmまでで10km付近が多かったです。
海底活断層との対応を見ると、余震域の西側では南東傾斜で海底活断層と一致しています。東側では北西傾斜で、これも海底活断層の位置と一致しています。真ん中付近では両方の断層が見られました。今回の地震では富山湾内の活断層は動いていません。
<山中悠資氏>
2025年1月1日午後4時10分頃、能登半島地震が発生しました。午後4時12分には津波注意報が出され、その後、大津波警報に変更され、津波警報、津波注意報を経て1月2日には解除されました。観測情報としては最大1mの津波で、内陸で氾濫、浸水しました。
津波被害調査は、土木学会海岸工学委員会が1月4日に先遣隊を派遣し、1月5日〜7日に調査を行いました。北西海岸は海岸が隆起したため津波高は高くありませんでした。
今回の地震では、住民による津波の映像があり、これを解析することで津波の様子を再現できました。
津波は能登半島先端付近の富山湾側の飯田湾や上越市直江津、富山湾などで観測されました。この中で、飯田湾は被害が大きかったですが、津波観測点はありません。しかし、映像が多く残っていて津波襲来の様子が分かります。津波は飯田港から襲来し、第1波は比較的小さかったのですが第2波以降が大きな波であることが分かりました。
上越市直江津では観測データがあり、保倉川河口に固定カメラが設置されていました。解析結果を見ると、通常の防波堤でも津波を防ぐ効果があることが分かります。
富山湾では2〜3分で津波が到達しています。これは湾内の海底斜面が崩壊したためと考えられます(参照:Yanagisawa et al,2024)。
<西村裕一氏>
古文書と地質記録で津波の歴史などを明らかにしてきました。
1993年の北海道南西沖地震ではロシア・沿海州で3人の死者が出ています。奥尻島での津波遡上高は最大31,7mでした。これは津波が沢を遡ったためです。
1983年の日本海中部地震では最大波高14mで4人が亡くなっています。
1947年の留萌すぐ沖地震(留萌西方沖地震)はM6.7でした。
1940年の積丹半島沖地震(神威岬沖地震)はM7.5で死者10人が出ました。最大津波は利尻町で3mを記録しています。この地震ではロシアに6mの津波が襲来しました。
1834年にM≒6.4の石狩地震がありました。噴砂があり、アイヌの家が潰れたり会所が損壊したりしました。松前藩が5月18日に幕府に報告しています。この地震の震源は海上か陸上か不明です。
1792年にM≒7.1の後志地震がありました。忍路で岩壁が崩れ、船が流失し、漁に出ていたアイヌ5人が死亡しています。津波被害は忍路から古平まで及びました。「地震があったら沖に出よ」という52年前の教訓が伝わっていたと言います。
その52年前の津波が1741年に起きた渡島大島の山体崩壊による津波です。和人だけで1,500人が死亡しました。
古文書でも記録が残っていない古い時代の津波については、津波堆積物という津波の痕跡を調査します。津波堆積物は波高5m以上の津波で形成されるとされています。地震動による液状化でできる噴砂の跡(砂脈)や地割れなども地震発生の根拠となります。
北海道では、現在のエネルギー環境地質研究所(当時、道立総合研究機構地質研究所)が奥尻島のワサビヤチ川で津波堆積物のトレンチ調査を行い、12世紀、1,500〜1,600年前、2,500年前、3,000年前の4層の津波堆積物を見つけています(加瀬ほか、2016)。
ロシア・沿海州で4年間、津波堆積物調査を行いました。ヴァレンティン湾では1993年、1983年の津波堆積物のほかに、700年前〜800年前、2,000年前の津波堆積物がありました。
北海道日本海側の津波堆積物は、後志以北では見つかっていません。 奥尻島や渡島半島では瀬棚沖から松前沖に分布する海底断層F17(国交省ほか、2014)が12世紀に動いた可能性があります。
第5回JABEEオンラインシンポジウム ― 2025/03/16 09:02
2025年3月2日(日)午後1時半から5時20分まで、「高等学校での地学教育と大学での専門教育との連携~地球科学の中等教育から高等教育にどのように繋げるか~」と題して標記シンポジウムが開かれました。日本地質学会地質技術者教育委員会の主催です。
JABEE(ジャビー)というのは、日本技術者教育認定機構(Japan Accreditation Board for Engineering Education)のことで、「高い専門知識と応用能力を駆使して主体的に行動し、社会に対する責任を果たしながら新しい価値を創造できる技術者」を養成できる能力がある教育組織か、を認定する組織です。
( https://www.mse.ibaraki.ac.jp/jabee/about_jabee.html による)
印象的だった講演について述べます。メモをもとに書いているので、間違っているところがあるかもしれません。
今井康浩氏(高知県立室戸高等学校 校長):ジオパークを軸とした探究的な自然科学・防災リテラシー教育
室戸市は人口11,117人で全市が世界ジオパークになっています。
ジオパークと協力して教育に当たっています。課題解決能力を養うために、知る、気づく、探求する、発表するというサイクルを実践しています。ジオパーク学では、講演を聴く、実物を観察する、課題研究に取り組み発表することを行っています。
グローカルプレイヤーとなるため、オーストラリアのポートリンカーン高や韓国のヨチョン高校と交流しています。また、ベトナムで開かれた世界ジオパーク大会に出席したり、インドネシアのジオパークを訪問したりしています。これらの交流は高知大学の協力を得て行っています。インドネシアと室戸の気候が似ているのは、なぜなのかと言ったことを考えたりします。
防災リテラシーの向上にも努めています。災害避難の支援をしたり、数学I で災害データを活用したり、被災者の炊き出し訓練を行ったりしています。
世界的な地質遺産を持つ自治体としてボトムアップでジオパーク活動を支援し持続的な活動を行っています。
堀 利栄氏(愛媛大学教授):高等教育におけるいわゆる『高大接続』の実態~大学入試における地学受験制度と地学教育 促進への取組み~」
日本学術会議は地球惑星科学についての提言を行っています。
2020年6月に地球教育の重要性についての提言、同じく8月に地理教育の充実についての提言を行っています。
2014年には地球惑星科学分野の大学教育の参照基準を発表しています。そこでは、地学は基礎的素養として重視すべきとされ、身につけるべき素養と実地教育、地学と地理学の共同が述べられています。
大学受験に地学受験コースがあれば受験したい生徒はいます。それによって、高校の地学教育が変化する可能性があります。
愛媛大学では,理学部理学科で地学受験コースを設けていて、前期(共通テスト)8名、学校推薦12名の定員となっています。入学者の半分は大学院に進学しています。地学受験コースの定員を設けているのが重要で、ゲームチェンジャーになり得ると考えています。
ただし、大学教員が高校地学は不要と考えています。高校地学に興味を持つことが大事で、地学を学ぶ意義を考えると同時にキャリアパスの多様性も生まれます。
向吉(むこうよし)秀樹氏(島根大学准教授):島根大学における高大連携の試み
島根県には46の高校があります。そのうち地学基礎を開講しているのは8校、地学を開講している高校はありません。島根大学の地球科学科は1学年50名で、県内からは5名程度が入学してきています。
高校と大学の連携として、高校の生徒や教員に対する地学の講義や野外実習を行っています。2024年度は高校生の大学訪問、科学の甲子園などを行いました。
県立松江南高校ではジオパークを生かした授業、同松江東高校では日本海拡大と海底火山をテーマに巡検を行いました。
科学技術振興機構(JST)のグローバルサイエンスとして南極の地質調査について室内での研究と発表を行いました。
県内の測量設計業協会や地質調査業協会と連携して現地実習を行っています。松江北高校のPTA研修会で向吉が「山陰地方の地震活動」と題して講演しました。35名の参加がありました。
向山 栄氏( 国際航業株式会社):いわゆる『高大接続』における地学教育への産業界からの期待
地質学は「インフラのインフラ」です。岩石と水を含む地圏環境の成り立ちを明らかにし、地域づくりに貢献してきました。
地質学は土木工事などに必要ですが、工学系の技術者が後から地質学を学ぶのは非常に難しいです。地質技術者の数は5万人に及ばないと言われていて、土木技術者や測量技術者の10万人に比べて少ないです。
高校教育で社会インフラストラクチャに関わる教科は地理総合があります。そこでは、国際協力や発展途上国の生活圏の調査が紹介されています。
国会会議録で地質学という用語を調べてみると、理科に関連して出てくる箇所数は第4位です。学校教育の第1期として1870年から1910年を考えると、ここでは物理、化学、動物学、工学が科目としてあります。1945年からの第3期は数学、物理学、生物学、地学の4科目が教科となりました。
地学は社会インフラを支える知識体系・技術体系です。地学の専門技術者として特有の論理・思考方法があります。それは、長期にわたる形状・物性の変化を把握することです。
企業としては、インフラ整備の実例を示すことや地域づくりへの参加などを通しての職業紹介が必要です。
<総合討論>
総合討論ではいろいろな問題が出されました。列挙します。
・教室での授業と実験・実習、巡検が必要です。教育現場で使える地学教育の教材が必要ですが、地学を教える専門の教員が高校にいません。
・地学教育に関しての地域差が大きいです。自治体の総合教育センターに地学関連の主事がいません。
・地学関連学会の連携が必要で、地学教育をやってみたいという教員を増やす必要があります。
・地学の開講数や教員を増やすには、理科の他分野の教員への働きかけが必要です。
・いろいろな分野から地学にアプローチする探求活動が必要です。ジオパーク協議会との連携は一つの方法です。
・高校教員は手一杯で十分対応できていません。学会の役割については期待が大きいです。
<感 想>
地震・津波による大災害、豪雨による洪水と土砂災害、火山災害など、地学教育の重要性は非常に高まっています。それに比べて、「インフラのインフラ」である地学教育が不十分です。
高校での地理総合が高い評価を受けています。そこでは、地形と生活の関係、気候の変化と暮らし、地球の環境と持続可能な社会、エネルギー・食料・人口問題、都市の問題、自然災害と防災などが取り上げられています。地質学と重なる部分があり、資源問題のように触れられていない問題もあります。共同で対応できる問題があると思います。
地質コンサルタント業に従事していた立場からは、大学での地質学では地質踏査を行って地質図をまとめ、地質の成り立ちを考慮して地質分布を三次元的に把握する能力を身に付けてほしいと思ってきました。しかし、大学教員からは「今はそんなことは無理だ」と言われました。
戦後すぐに発足した地学団体研究会(地団研)は、団体研究法で地域の地質を明らかにしてきました。このような場で鍛えられた学生は、地質調査業に従事した場合、大きな力を発揮します。さらに、地団研は発足当初から普及活動を重視してきました。今、どの学会も行っているアウトリーチ活動です。市民の中に地学を広めることを地道に行うことで、地学の魅力、重要性を知ってもらうことが今、強く求められていると感じます。
北海道の山岳研究 -日本国内の極域環境変化- ― 2025/03/04 17:52
北海道大学・極域研究センターほかの主催で表記ミーティングが開かれました。開催場所は、北大地球環境科学研究院で、私はzoomで視聴しました。
午前中は8件の一般研究発表で、午後は4件の特別講演がありました。いくつか紹介します。
猪又雅史氏:都市近郊山地における登山道地形の特徴と利用の分析 -札幌市藻岩山を例に-
トレッキングやトレイルランニングでの都市近郊山地の利用が増加しています。その弊害としては、1)登山道の荒廃、2)登山道の土壌侵食・堆積、3)登山道の泥ねい化、4)登山道の拡幅・複線化などがあります。これらの原因としては環境要因と人為的要因があります。
そこで地形計測によるモニタリングとアンケート調査を行いました。
藻岩山の登山道は、北北東に延びる尾根を登る慈恵会ルート、南東に延びる尾根を登るスキー場ルート、北ノ沢ルート、小林峠ルート、北西に延びる尾根を登る旭山ルートの5つがあります。山頂直下の馬の背と言われる鞍部が最も多くの人が利用する場所です。
この場所で地形計測を行いました。ライダー測量で5cm解像度のオルソ画像を作成しました。
慈恵会ルートは9割が北向き斜面で、泥ねい化が長く続きます。降雨・積雪・融雪によって登山道の拡幅が進んでいます。旭山ルートも同じような状況です。木製階段は登山者に嫌われているようです。小林峠ルートと北ノ沢ルートは利用レベルが低いです。
藻岩山は大雪山などに比べて人的要因によって登山道が荒れています。登山者とトレイルランナーの問題もあります。
継続的なモニタリングでは、定量的であること、迅速であることが重要です。
亀田貴雄氏:大雪山系雪壁雪渓の1964年以降の52年間の質量収支変動,気候感度および将来予測
大雪山系には雪壁雪渓があります。
雪壁雪渓の観測は1964年〜1979年まで北大低温研究所が行い、中断を挟んで1989年〜2024年は北見工業大学で行っています。
*観測している雪壁雪渓は、平ヶ岳(ひらが・だけ)の南南東約1.2kmにある南東向きの斜面です。凡忠別岳溶岩(ぽんちゅうべつだけ・ようがん)の東の縁で、急崖が連続しています。防災科研の地すべり分布図では地すべりにしています。
この雪壁雪渓が2023年と2024年の9月中旬に完全に消失しました。平ヶ岳の北にある高根ヶ原の積雪量は、最大20〜30mに達します。しかし、温暖化が続くと2050年〜2100年には50%の確率で消滅すると予想されます。
図1 高根ヶ原の雪壁雪渓
この雪壁雪渓が2023年と2024年には消失しました。
(高橋修平・亀田貴雄・・榎本浩之、2009、大雪山「雪壁雪渓」の変動とその要因。雪氷研究大会要旨、日本雪氷学会)
高橋伸幸氏:アポイ岳における気温特性
アポイ岳は、かんらん岩で構成されている山です。現在、ハイマツ群落が拡大しお花畑が縮小しています。2016年12月から山頂を含む5地点で気象観測を行っています。今回は気温特性について話します。
2022年〜2023年にかけて気温が上昇しています。標高ごとに見ると標高370m地点の観測点から上で気温が急激に低下しています。標高370m枯らしたでは5月に気温の逆転現象が起きています。地面に接している下層の気温が低くなる接地逆転層ができていると考えられます。
アポイ岳周辺では4月〜8月は気温が海水温より高くなり、5月に逆転層の発生が多くなっています。逆転層ができる時期には、内陸から吹く北東の風が優勢になります。アポイ岳周辺の川は北北東-南南西の方向で、この谷に沿って冷たい風が吹いてくると推定されます。
曽根敏一氏:衰退する大雪山の永久凍土
大雪山の永久凍土の温度が上昇し、パルサ(凍土丘)が減少しています。
大雪山では2018年以降、気温が上昇していて、雪壁雪渓が消滅しています。標高1755mの風衝砂礫地で地温観測を行いました。永久凍土層のうち夏に融解する活動層の深度が4mから5mと深くなっていました。地温は-0.1度でパルサの面積が縮小しています。
渡辺悌二氏:登山道研究の過去・現在・未来
大雪山の登山道は、もともとはアイヌの道でした。現在、登山道が周氷河地形を破壊していたり、湿地の中央を通っていたりします。
登山道の研究は、登山道の配置の研究と登山者による混雑や自然体験の研究に分かれます。
登山道の侵食調査では、なぜ侵食するのか、調査で何が言えるのかが課題で、調査によるデータ収集は将来どうなるのかも問題です。日本では登山と言っていますが、登山道を登る登山はトレッキングあるいはハイキングに相当します。登山道はハイキングトレイルと呼ぶものです。
大雪山の登山道は、北海道庁、林野庁、環境省が分担して管理しています。登山道の調査は侵食状況の調査で登山道の拡幅、複線化など実態を調査します。登山道の両側にアルミの柱を立てて水糸を張り10cm間隔で深さを測って侵食断面を作成し、面積で侵食の進行具合を測ります。大雪山の黒岳では1989年から黒岳ヒュッテ周辺の登山道13箇所で観測を行っています。
図2 侵食断面の例(渡辺悌二・太田健一・後藤忠志、2004、大雪山国立公園,裾合平周辺における登山道侵食の長期モニタリング。季刊地理学、56巻、254-264。257pp)
登山道の両側にアルミニウムの支柱を建て、水糸を張り10cmごとに登山道までの深さを測って断面図を作成して面積を算出し、土壌量の代替指標とします。
裾合平分岐から中岳分岐に登っていく中岳温泉付近の観測点です。
2003年頃からはデジタルカメラによる画像やドローンで撮影した画像を用いてSfM で三次元図化を行い、登山道の侵食状況の調査を行っています。そのほかに、4mくらいのポールにカメラをつけて撮影した画像を用いることもやっています。ドローンを飛ばさないのでより手軽にデータが得られます。
旭岳周辺は火砕流堆積物が主体の地質であるため、土壌浸食が進行しやすい状況にあります。姿見の池のアメダスでは、6月から9月に850mmの降雨があります。積雪深は最大5mですが、年により2mくらいの違いがあります。融雪期間が長いので気温変化で霜柱ができ、登山道の側方侵食が進行します。春と秋の凍結融解による侵食、大量の雨による侵食、雪解け水による侵食などのほかに、登山者の踏みつけによって削り取られます。特に、トレールランニングの靴が侵食を早めるようです。
登山道の侵食調査は研究の価値が認められにくいですが、公園管理には必要で精度より簡便さが求められます。
大雪山の登山道は300kmあります。ドローンと360度カメラを使って300kmの登山道の台帳を作りました。修復が必要な地点や区間に優先順位を付けることができます。しかし、人材、予算が不足しています。
登山道の侵食が進み修理をしても3年くらいで侵食が進行します。修復作業を見えるようにする、修復作業に参加する人たちのやる気を保つ、公共事業とボランティアの連携を行うことが必要です。自然を保護するという観点からは中長期的視点が必要で、登山道を閉鎖することも選択肢の一つです。
また、比抵抗電気探査などを用いて、登山道を岩盤が露出している場所に移すということも考えられます。残雪の分布域と登山道の関係も検討が必要です。
大雪山は2,800件近い研究論文があります。市民科学の視点を導入することも考えられます。iPhone に搭載されているLiDARで登山者にデータを取得してもらい、登山道の侵食データと実態を公表することも考えられます。
<感 想>
登山道の侵食、高山植物の状況、蝶の生息環境、周氷河地形や雪壁雪渓の消滅など、様々な問題についての話がありました。
紹介しませんでしたが、佐藤 謙さんのアポイ岳でのハイマツの伐採の話は、いろいろ考えさせられました。
登山というと頂上を目指すのが当たり前という考えを捨て、山麓のトレイル環境を整えることが大事でないかという意見が出されていました。地元ガイドが活躍でき、地域おこしにもつながるということです。
登山者の増加にどう対処するかも大きな課題だと感じました。グレード分けして、それに見合った設備を整備するという意見が出されました。