令和6年能登半島地震三ヶ月報告会2024/04/09 11:10

 2024325日(月)午前9時00分から午後240分まで表記報告会が開かれました。会場での開催はなく、ZOOM webinarYouTubeでした。

 主催は日本学術会議・防災減災学術連携委員会と(一社)防災学術連携体です。

 

 プログラムは次のとおりです。セッション1から4まで分野別に分かれていて、学術連携体ならではの総合的な報告会でした。

 全体の量は膨大ですが、一つ一つの講演は10分程度なので興味のあるものだけを聞けば負担にはなりません。

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司会:米田雅子(防災学術連携体代表幹事、東京工業大学特任教授)

 永野正行(日本学術会議連携会員、東京理科大学教授)


開会挨拶 三枝信子(日本学術会議副会長、国立環境研究所地球システム領域長)

趣旨説明 竹内 徹(日本学術会議会員、防災減災学術連携委員会委員長)

来賓挨拶 高橋謙司(内閣府 政策統括官(防災担当))

 

【セッション1令和6年能登半島地震について】

■日本地震学会「令和6年能登半島地震とその災害について」吾妻崇(産業技術総合研究所主任研究員)

■日本第四紀学会「津波堆積物を用いた能登半島地震による浸水高の推定」北村晃寿(静岡大学教授)

■日本火災学会「能登半島地震に伴う地震火災・津波火災について」西野智研(京都大学准教授)

■日本リモートセンシング学会「令和6年能登半島地震におけるリモートセンシングが果たした役割・成果」伊東明彦(株式会社ツクリエ)

■廃棄物資源循環学会「令和6年能登半島地震における災害廃棄物処理への対応」佐伯孝(富山県立大学准教授)

 

【セッション2 地形変化と土砂災害について】

■日本地質学会「令和6年能登半島地震震源域の変動地形と海陸境界断層」石山達也(東京大学准教授)

日本応用地質学会「令和6年能登半島地震の土砂災害とその応用地質学的な特徴」塚脇真二(金沢大学教授)

■砂防学会「2024年1月「令和6年能登半島地震」による土砂災害 」堤大三(信州大学教授)

■地盤工学会「令和6年能登半島地震により発生した液状化・側方流動被害」豊田浩史(長岡技術科学大学教授)


【セッション3 被災状況と対策、復興について】

■日本地震工学会「志賀原子力発電所の地震被害に関する速報」高田毅士(東京大学名誉教授)

■土木学会「令和6年能登半島地震によるライフライン被害」小野祐輔(鳥取大学教授)

■日本免震構造協会「能登半島地震における免震建物の挙動について」久田嘉章(工学院大学教授)

■日本建築構造技術者協会「令和6年能登半島地震を踏まえて_建築構造設計者として何ができるか」小林秀雄(日本設計執行役員フェロー)

■日本都市計画学会「復興の論点」加藤孝明(東京大学 教授)

 

【セッション4避難・救援について】

■日本災害看護学会「能登半島地震における中長期看護活動」酒井明子(福井大学名誉教授)

■日本災害医学会「令和6年能登半島地震への災害医療対応」近藤久禎(国立病院機構DMAT事務局長)

■日本公衆衛生学会「令和6年能登半島地震における公衆衛生活動」奥田博子(国立保健医療科学院上席主任研究官)

■日本災害復興学会「能登半島地震でのボランティア活動」頼政良太(関西学院大学助教)
■日本社会学会「二次避難による被災者の無力化と地域コミュニティ離散」阿部晃成(宮城大学特任助教)

■地域安全学会「石川県庁の能登半島地震対応へのアクション・リサーチ」菅野拓(大阪公立大学准教授)


閉会挨拶 和田 章(防災学術連携体代表理事、東京工業大学名誉教授)

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 今回の報告会では、それぞれの学会が地震後どのような活動を行ってきたかも紹介されました。興味深かった幾つかの報告の概要を紹介します。

 なお、この報告会の様子は防災学術連携体のホームページからYouTubeで視聴できます(2024年4月9日確認)。

< https://janet-dr.com/index.html 

 

<吾妻 崇氏>

 地震調査研究本部(地震本部)では地震翌日の1月2日に臨時会を開き評価文書を公表しました。1月15日には定例会議を開き津波浸水域、海岸隆起、陸域の変状について報告しました。

 2月29日には地震予知連絡会を開きました。3月12日にはワークショップを開きました。

 震源断層は南東傾斜で20235月に起きた能登半島沖を震源とする地震より深いところで発生しています。破壊は東から西へ進みその後、再び東に進みました。海底活断層は4m隆起していました。地表変状は2mの上下変動が記録されています。

 地震動は最大2,828ガルが記録され、揺れは数十秒間続きました。

地震学会としてはオンライン談話会を2月に4回行いました。30分の講演のあと30分質疑を行うという形式で、各回2名の発表を行いました。

 

<北村晃寿(あきひさ)氏>

 今回の地震の被災状況は、伊豆半島で類似の被災状況となる可能性を示しています。

 津波堆積物調査は、箕浦ほか(2001)が仙台平野で行い、宍倉(2010)も行っています。これらの調査で869年の貞観津波以前に1枚の津波堆積物が見つかっています。800年~1000年の間隔で巨大津波が起きています。

 津波浸水予測では、珠洲市・野々江地区では8.5mでしたが実際は4.3mでした。能登半島西海岸の輪島市・黒島漁港では地盤隆起が3.2mで津波高は2.95mでした。

 浸水高34mの津波堆積物の再検討が必要と感じます。

 

<石山達也氏>

 能登半島では過去にもマグニチュード6以上の地震がたくさん起きています。

 地震による地盤の隆起で海成段丘が形成されています。12.5万年前は現在と海水準がほぼ同じでした。半島の北東部は12.5万年前以降100m以上隆起しています。半島の北岸に沿って隆起量分布図を作成しました。猿山岬で4.7mの隆起量です。

 完新世の海成段丘も形成されていて、L2面は標高4.5m、L3面は同じく2.3mです。

 国交省の日本海東縁海底活断層図のF43が今回の震源断層です。この断層と今回の地震の余震分布は一部合っていないところがありますが、ほぼ合っています。海陸統合探査によって陸域の断層と海域の断層を総合的に把握する必要があります。

 

<塚脇真二氏>

 地震が起きた時の感じは、ゆっくりした揺れが長く続いたということでした。

 応用地質学会としては、12日には災害本部を設置し、15日から7日にかけて情報収集を行いました。123日に災害調査団を結成しました。25日には奥能登へ調査範囲を広げました。

 金沢北稜高校の校庭の谷埋め盛土が崩壊しました。この付近は震度5程度でした。崩壊した土砂は、北陸自動車道の手前で止まりました。古い擁壁がそれなりの効果を発揮しました。崩壊土量は約5万立方メートルです。

 写真でいくつかの土砂災害を紹介します。

 内灘町の液状化、志賀町の盛土沈下、珠洲市・若山町の隆起などです。火砕岩分布域の崩壊が激しいです。景勝地での崩壊も袖ヶ浜、鴨ヶ浦、見附島、トトロ岩などで発生しました。

 今後、10月の日本応用地質学会・研究発表会で報告することを考えています。

 

<豊田浩史氏>

 地震による液状化について報告します。

 震源から160kmの所で液状化が起きています。新潟市の砂丘縁辺では海岸沿いの6.5㎞で液状化が起きています。砂丘の陸側の低地部です。旧河道部では側方流動が起きています。

 金沢市のすぐ北の内灘町では緩い砂層と浅い地下水が液状化の原因となっています。内灘町・室では側方流動が起きています。

 

<久田嘉章氏>

 地震による建物の揺れを軽減する方法としては耐震構造と免震構造があります。

 耐震構造では、ある程度建物を揺らして一部は壊れるけれど致命的な被害を受けません。これに対して免震構造では、地震動を吸収して建物の揺れを低減します。ですから、免震構造がより優れています。

 免震構造は、建物をゆっくり震動させるアイソレータ(支承)と揺れを抑えるダンパーからなります。配管が追随するようにし、ケガキ盤(ケガキ式地震変位記録装置)で地震動を記録します。

 今回の地震では、七尾市の恵寿総合病院の免震棟は無事でしたが耐震棟は被害を受けました。ただ、免震棟の周囲の地盤が沈下しました。

 特に公共施設は免震構造化が必須と考えます。建物が壊れないので瓦礫が出ません。建物が無事なので避難先にもなります。

 

<小林秀雄氏>

 今回の地震動は、0.1秒~0.2秒と23秒の周期にピークがみられます。石川県では74,000棟が被害を受けました。新耐震基準の建物では被害家屋は8.7%、平成122000)年以降の耐震基準の建物では2.2%でした。

 BCP(事業継続計画)が浸透し、人の命を守ることと日常生活を維持することができるようになってきています。

 大正関東地震の破壊域は、東京から箱根までの距離に相当する長さです。

 全国の耐震化率は平均87%です。

 

<加藤孝明氏>

 復興の論点についてです。

 今回の地震でもタスクフォースの派遣はうまくいきました。被害調査を含めて復興ボードを立ち上げました。社会的役割を自覚し、円滑に速やかに適切に行動することが必要です。様々な分野の連携が大事です。

 人の顔が見えるスケールでの復興支援が必要です。そのために、総合的な地域づくりのための復興討論会を組織しました。様々な知見を集約し創発(個々の要素間の相互作用が全体に影響を与え新たな秩序が形成されること)を行い適時性のある提言を行いました。

 能登半島では2007年にも地震が起き被害が発生しています。人口減少、働き方改革、団塊世代の引退などが問題となっています。

 復興の目標をどこに置くか。

 今までは元に戻すことが復興の目標でした。今後は、二度と同じような被害は起こさないという視点での復興が必要です。

 関東大震災の復興では地域の持続可能性の回復を目指し、街の機能の復興にプラスして地域文化の継承が考慮されました。

 社会のレジリエンスを構築することによって早期復興が可能になります。復興には不連続性と連続性があります。これらを考慮したビジョン型の復興が必要です。

 

<感 想>

 防災学術連携体らしい総合的な報告会です。ここで紹介した以外にも興味深い報告が多くありました。

 東日本大震災の復興を経て、これまでの復興のあり方が問われているのを感じます。加藤氏が言う「人の顔が見えるスケールでの復興」が重要だと思います。

 建物の免震構造の重要性は、もっと知られてよい話です。今回の地震では古い建物の倒壊が多く発生しました。既存の住宅を地震の被害から守る工法としては、費用の面から耐震あるいは制震が現実的なようです。

 

 防災学術連携体では2024730日に「令和6年 能登半島沖地震・7か月報告会」を開きます。

 

 

 

 

シンポジウム 人口減少社会と防災減災2024/04/09 14:19

 2024325日午後3時半から午後650分まで、「第18回防災学術連携シンポジウム 人口減少社会と防災減災」が開かれました。ZOOM webinar YouTube で公開されました。

 

 プログラムは次のとおりです。

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司会:米田雅子(防災学術連携体代表幹事、東京工業大学特任教授)

田村和夫(日本学術会議連携会員、建築都市耐震研究所代表)

 

開会挨拶 竹内徹(日本学術会議 防災減災学術連携委員会委員長)

趣旨説明 森本章倫(あきのり:防災学術連携体代表幹事、日本都市計画学会会長)

 

【セッション 1 人口減少社会における原子力防災減災のあり方について-福島原発事故から 13 年後の福島の実態と課題】

■日本計画行政学会「人口減少社会における原子力防災減災のあり方について」

川﨑興太(福島大学)

日本地理学会「東日本大震災による不可逆な地域の変容と復興―福島の原子力災害を事例として」

瀬戸真之(福島大学)

日本災害医学会「人口減少社会における復興支援:福島医療復興支援の経験から」

小早川義貴(国立病院機構本部 DMAT 事務局)

■日本地域経済学会「そこに住み続けることの意味を問う~「複線型復興」と避難住民の「二重の地位」をめぐって」

山川充夫(福島大学)

 

【セッション 2 人口減少下の防災減災 】

■地域安全学会「人口減少社会における空き家と地域の建物倒壊リスク」

村尾修(東北大学)

■日本火災学会「超高齢・人口減少社会の火災安全」

鈴木恵子(消防庁消防研究センター)

■農業農村工学会「ため池デジタルプラットフォームを活用したため池の遠隔監視体制の整備」

泉明良(農研機構農村工学研究部門)

■日本災害看護学会「人口減少 X 危機多発時代の人々・コミュニティに求められる看護の現場と役割」

神原咲子(神戸市看護大学)

■日本緑化工学会「人口減少社会におけるグリーンインフラを使った防災・減災手法について」木田幸男(グリーンインフラ総研)

 

【セッション 3 中長期的に人口減少と防災減災を考える 】

■日本第四紀学会「歴史上の気候変動と人口変動の関係性から学ぶ」

中塚武(名古屋大学)

■日本自然災害学会「将来メッシュ人口の推計と洪水暴露評価」

吉田護(長崎大学)

■土木学会「人口減少下における流域治水と新たな地域創造の可能性」

谷口健司(金沢大学)

■日本都市計画学会「人口減少社会の都市計画と防災減災」

姥浦道生(東北大学)

 

閉会挨拶 目黒公郎(日本学術会議連携会員、東京大学教授)

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<森本章倫氏>

趣旨説明

 日本の人口は、2050年には今に比べて1,500万人減少します。減災防災の再構築が必要です。それには、東日本大震災の知見を活かすことが大事です。原発災害にどう対処するのか、医療支援をどうするか、人口減少にどう対応するのか、など中長期的対応が必要です。

 

<川崎興太氏>

 1961(昭和36)年に災害対策基本法ができました。この法律は一過性の災害に対応するもので、昭和時代の復興モデルが出来上がりました。

 東日本大震災では、福島の復興は集中復興期間を設け推進しましたが、避難指示解除準備区域が残っています。インフラの再生は進んでいません。避難指示解除地域では29%の人が帰還しています。

 福島では空間の復興は出来ましたが、原子力災害である故、人の復興は出来ていません。被災者一人一人の生活の再建が大事ですが、避難した人の7割が避難を継続しています。

 事後の対応では、30兆円を使っても人の死を止められませんし、心のケアが大事です。この状態は「復興ごっこ」とでもいうべきものです。一人一人の生活再建が必要です。

 

<山川充夫氏>

 福島では自殺者が増えています。学術会議では、住民に二重の地位を与える複線型復興を提唱しました。帰還、移住のほかに避難継続を選択肢とするもので、帰還しない場合、避難元、避難先のどちらの市民権も保障します。

 能登半島地震でも避難の広域化、長期化が進んでいます。2.6万人の避難者が避難先に住み続ける意味が何なのかが問われます。

 福島では16.5万人が避難し、1.5万人が国と東電に対し損害賠償を求めて集団訴訟を起こしました。日常生活が変容し、故郷の変容もとらえ直さなければなりません。

 帰還しない理由は放射線の影響が一番で、医療環境に対する不安もあります。住民基本台帳の人口と居住人口の乖離が進んでいます。

 

<中塚 武氏>

 農業生産力の変動を見ると飢饉や戦乱の影響で変動しています。人口の変動は100年以上のスケールで見ると出生率の抑制として現れます。

 近年、炭素同位体による年代測定の精度が上がり、年単位の乾暖・湿冷の変動が明らかになっています。2,600年間の変動から、400年に1度の周期の変動と数十年周期の変動が明らかになりました。紀元前1世紀ころ、卑弥呼の時代に人口減少が起きています。江戸時代は生産力が増大しましたが、18世紀は停滞しています。

 気候悪化によって、農業の生産力が低下し人口が減少した社会は崩壊したという歴史に学ぶ必要があります。

 

<吉田 護氏>

 緯度・経度に基づき格子状に分けた地域メッシュの区画に、国勢調査の人口・世帯数等を編成したものがメッシュ人口です。将来のメッシュ人口の推計を用いて治水の経済評価を行いました。洪水浸水想定区域の人口の将来推移を予測しました。

 

<目黒公郎氏>

 閉会の挨拶です。

 いま日本で起きているのは少子化の中での人口減少です。現在、1213人の働く人が1人の老人を支えていますが、将来は1.1人でサポートしなければなりません。

 どうするか。働ける人は分母(支える人)に入れることです。

 人口予測は的確にできます。明治維新の時の人口は3,300万人で、戦後急増しました。現在、人口は減少しています。国土つくりをどうするのか。

 明治初年の東京の人口は78万人でした。関東大震災(1923年)の時は400万人でした。震災からの帝都復興で人口増が加速しました。戦後、インフラ整備が進みましたが、現在これが一気に老朽化しています。

 東京に人を集中させすぎています。近視眼的です。地方に再分配しDXICTIT を活用する必要があります。

 子供の教育も重要で、大学は出口で管理するのがよいです。土地の地籍整備は、現在50%程度であまり進んでいません。


今回のシンポジウムでは貴重な話を聞くことができました。