地学団体研究会 第69回理論の学習会 ― 2023/11/28 14:27
2023年11月12日(日)午前10時から午後3時30分まで、1時間半の昼休みをとって表記学習会が開かれました。Zoomで視聴しました。
講演は2題でした。
永山茂樹氏(東海大学):岸田内閣のすすめる軍事化と改憲
高田兵衛氏(福島大学):福島第一原発の事故で海洋に放出された放射性物質の動きを探る
<永山氏の講演>
戦後の軍備に関する流れについて述べます。
1946年11月3日に日本国憲法が公布されます(吉田 茂首相)。
1950年には警察予備隊が発足し、日米安全保障条約(旧安保条約)が結ばれます(吉田 茂首相)。
1954年、自衛隊が発足します(吉田 茂首相)。
1956年、政府は「敵基地攻撃を法理上は容認、実際上は不保持」と答弁しています(鳩山一郎首相)。憲法の解釈としては法理上可能であるが、政策判断として敵基地攻撃能力は持たないという見解を示しました。
1959年には「攻撃的兵器の保有は、憲法の趣旨に反する」と答弁しています(岸 信介首相)。
1972年には、敵基地攻撃は「専守防衛」に反すると田中角栄首相が答弁しています。
1976年には、武器輸出三原則で共産圏や紛争当事国への武器輸出を禁じ、「軍事費」はGNPの1%以内という縛りを設けました(三木武夫首相)。
2017年には安倍晋三首相が「敵基地攻撃能力についてはアメリカに依存しており、敵基地攻撃を目的とした装備体系を保有する計画はない」と述べています。
2015年9月15日には安保関連法が成立します。そして、2022年12月に安保関連三文書が閣議決定されました。
安保関連三文書というのは、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画です。その内容は、敵基地攻撃能力を持つ、軍事費をGDPの2%とする、国産兵器を輸出する、というものです。
国家安全保障戦略では、軍事だけでなくエネルギーや食料の安全保障も確保するとしていますが、実際には軍事のみとなっています。防衛力整備計画は武器輸入のリストで、実践面においてこれまでの方針を大きく転換するものです。軍備を増強すれば相手の攻撃を防げるという抑止力信仰となっています。軍縮は、ほとんど考えていません。核についても核拡散防止のみです。
そして、最も重要なことは、憲法に依拠した議論や結論がほとんど欠けていて、憲法の国際協調主義、人権の尊重、自由の確保などは考慮されていません。住民や自治体の批判は押さえつけ、地方自治や民主主義に抵触する内容です。
この三文書は、「ひげの隊長」として人気のあった佐藤正久参議院議員が音頭を取って作成したものです。前例にも憲法にもこれまでの自民党の考えにも、とらわれないという姿勢でつくられました。
2022年10月12日にはアメリカの国家安全保障戦略が決定されていて、これに対応する内容となっています。「自由で開かれたインド太平洋」を集団的能力によって守るという発想です。
これらに対応して、財界は軍事需要に期待しています。情報管理を行い、兵器産業を支援し、国産兵器の購入と兵器の輸出に期待しています。
敵基地攻撃をいつ行うかは、個々の事態で対応する形となり一般的な基準は立てません。敵基地攻撃といいますが、市民の居住地域を含む周辺地域も攻撃します。当然、報復合戦になりますが、戦争をどう終わらせるかは考えていません。
2014年7月、政府は集団的自衛権行使を容認する閣議決定を行いました。集団的自衛権として敵地を攻撃できるとし、超射程ミサイル(射程2,000km程度)、トマホークの導入、国産ミサイルの生産を検討しています。自衛隊が鹿児島県から先島諸島までの防衛線で中国を軍事的に抑止します。
社会・経済の軍事化が進んでいます。2012年から微増だった防衛費は、2023年に5年間で43兆円、年平均8.6兆円としました。国民一人あたり40万円になります。
アメリカは単独では軍事的に中国などに対抗できません。NATOにGDP2%の軍事費を要求しています。
憲法改定(改憲)が議論されています。改憲には明文改憲と実質改憲があります。岸田首相は2024年10月までの自民党総裁の任期中に明文改憲を行うと表明しています。改憲には国民投票が必要ですが、改憲案が示されてから60日〜180日(2〜6ヶ月)が必要とされています。2024年11月に国民投票をするとして、2024年5月には改憲案を国会で決定しなければなりません。非常に余裕のない日程ですので、一気に進める可能性があります。
<高田兵衛氏の講演>
福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の動きを知るには、海洋の流れを知る必要があります。
1987年にW.S.ブロッカーが提唱した海洋大循環というのがあります。深度4000mほどの深層水と表層水が2000年ほどかけて世界の海洋を循環していることを突き止めました。大西洋の北部で冷やされた海水が沈んで深層を南化し、インド洋で一部が上昇し太平洋に入って北上し北太平洋で上昇して表層水として大西洋に戻るという循環です。この大循環は、氷期には止まったと考えられています。このような循環が起きていない場所として黒海があります。
北半球の太平洋では反時計回りの亜寒帯循環と時計回りの亜熱帯循環があります。日本付近では、前者が親潮、後者が黒潮です。北太平洋では、アラスカからシベリアに向かう極偏東風、中国から日本上空を通ってカリフォルニア付近に向かう偏西風、赤道付近を東から西に向かう貿易風があります。
このような風によって海水が運ばれる現象をエクマン輸送(風成循環)といいます。地球上では地衡力が働くので、北半球では風の方向に直角に近い力が働いて右へ逸れていきます。亜寒帯循環では中心部の海面が低く、亜熱帯循環では逆に中心部の海面は2mほど高くなっています。
福島第一原発の事故が起きた3月は亜寒帯循環の影響が強く出ます。
海の成分を調べるために深度ごとに採水して分析しました。Na、Caは深度方向での変化はありません。Feは深度700mで極大を示します。Kは400~420mg/Lで、放射性物質である40Kは0.012mg/Lほどです。海水には核実験の名残でプルトニウムが含まれています。137Csは福島第一原発由来です。
宇宙線生成核種というのがあります。40K、87Rb、3H、7Be、14C、129Iです。
海洋の物質循環のトレーサーとなるのは、ウラン系列とトリウム系列です。
14Cを用いて深度3,000mの海水の年齢を調べると、北太平洋の海水が1,500年ほどで一番古いことが分かっています。
福島第一原発からの放射性物質の海への移行経路は、1)原発から直接流入、2)大気経由で拡散、3)陸域に沈着したセシウムが河川経由で海へ移行、の三つがあります。海に直接流入したセシウム137は1年後に日付変更線付近で濃度が高く、3年後にはアメリカ西海岸付近に達しました。その後、北上して西に向かい、2020年にはベーリング海から北極海へと入っています。亜寒帯循環(親潮)に乗って日本に戻ってくるかどうか注目しています。
全国の海水中のセシウム137の濃度を見ると、1984年以降減少していたのが福島第一原発の事故後、東日本の太平洋側のほか日本海側、西日本でも増加しています。
陸域に沈着した放射性物質は、2019年10月の台風19号による洪水で土砂に付着して海に流れ出しています。このセシウムは海水中で溶脱し海水中の濃度を上昇させていると推定されます。阿武隈川河口付近で採水した水のセシウム137の濃度は、台風前は10Bq/m3であったものが台風後は1,700Bq/m3に急増しています。
<感 想>
永山氏の講演について
2023年11月28日の北海道新聞朝刊で東京工業大学の中島岳志氏が岸田文雄氏について、2019年に「ブレることだけはブレない」と評していたと書いています。まさに、恐ろしい時代になったと感じます。
2022年の年末に徹子の部屋でタモリが「来年はどんな年になりますかね?」と尋ねられ、「誰も予測できないですよね。これはね。でもなんて言うかな。新しい戦前になるんじゃないですかね」(ウィキペディア、2023年11月28日閲覧)と答えて話題になりました。
岸田政権によって戦前の体制は整ったと言えるでしょう。
高田氏の講演について
福島第一原発の「処理水」の放出が行われた後の2023年8月末に福島を訪れた西村産業経済相は、ヒラメとホッキ貝の刺身を食べて、地元水産物のおいしさや安全性をアピールしたと報道されました。ほとんど科学的な裏付けのない態度と言わざるを得ないと感じます。30年の長期にわたって融解した原発燃料デブリに触れた{処理水}を流し続けてどんな事態になるのか、科学的には予想出来ないでしょう。
高田氏らの調査・研究によれば、表層の海流の動きでは説明できない放射性物質の動きがあり、九州の西方や北陸・東北・北海道の日本海側でも福島第一原発由来のセシウム137 (137Cs) が検出されています。
息の長い観測を続ける体制と金を確保するのが経産大臣の役割でしょう。
お寺シネマ「はじめてのおもてなし」 ― 2023/11/28 17:16

お寺シネマ「はじめてのおもてなし」のチラシ
2023年11月26日(日)、札幌にある映画の自主上映グループ<キノマド>が札幌市北区の麻生 覚王子で開いた映画会に行ってきました。
上映された映画「はじめてのおもてなし」は、ナイジェリアからの難民を自宅に引き取ったミュンヘンのハートマン家のお話です。
上映後に覚王寺の内平住職の法話がありました。
映画は、笑わせながらも、かなり深刻な内容を含んだもので面白かったです。
住職の法話は、上映された映画に沿って仏教ではどう考えるかについて話をされました。私は、親族の葬式で色々法話を聴きましたが、今回の法話は一番納得できる内容でした。
なかなか楽しい日曜日の夕方でした。
なお、キノマドのホームペジは< https://kinomado.com >です。
覚王寺のホームページは< https://www.kakuouji.com >です。「お知らせ」のページに覚王寺住職ブログがあって、今回の映画会の案内も載っていました。