インフラ分野におけるDX-現在地を探る2023- ― 2023/11/23 11:00
2023年11月15日(水)13時から17時10分まで、災害科学研究所の主催で表記講演会がオンラインで開かれました。
始めに災害科学研究所の松井 保理事長が「DX時代の課題と対応」と題して講演しました。国交省近畿地方整備局の小島 優氏が国交省における取組について講演し、測量分野、地質調査分野、設計分野、施工現場の講演がありました。
プログラムは以下のとおりです。
松井 保氏(災害科学研究所 理事長):はじめに—DX時代の課題と対応—
小島 優氏(国土交通省 近畿地方整備局企画部長):国土交通省におけるインフラDXの取り組みと今後の普及推進について
佐藤 渉氏(国際航業(株) LBSセンシング事業部モニタリング部長):測量分野におけるDXの課題と現状−3次元データによるモデリングとモニタリング−
尾高潤一郎(基礎地盤コンサルタンツ(株) 技術本部技術副本部長):地質調査分野におけるDXの課題と現状」
中上宗之氏((株)建設技術研究所 大阪本社上席技師長):設計分野における DX の現状と課題
元村亜紀氏((株)大林組 本社土木本部先端技術推進室技術開発部長):施工現場におけるDX推進の現状と課題
坂上敏彦氏(災害科学研究所 研究員):おわりに −今後の展望 −
<松井 保氏>
2017年、AI(Artificial Intelligence:人工知能 )が囲碁のトップ棋士に勝ちました。その2017年に災害科学研究所では「AIの土木分野への応用」という講演会を行いました。2019年にはテキストを用いたAIの講習会を行いました。2021年にはDX(Digital Transformation:デジタル・トランスフォーメーション)推進についての講演会を行いました。
DXによって情報の横のつながりを強めることができ、生産性・安全性の向上ができ、脱炭素も可能になります。
建設業界では、2020年の就業者数は492万人ですが、2030年には100万人規模の離職者が出ると予想されています。しかし、生産性は上がっておらず、製造業の半分程度です。脱炭素化を目指すGX(グリーン・トランスフォーメーション)の日本政府の基本方針は、原子力の最大活用、カーボン・プライシング(Carbon Pricing:炭素に価格をつける仕組み)の本格導入、脱炭素投資です。国交省も各分野でGXに取り組んでいます。
DXに関連してデジタル技術の導入が進んでいます。また、AIの適用事例が増えています。AIは、ほんとのブラックボックスで利用するには技術的判断が必要な場合が発生します。DXは、社会を「ごろっと」変えるものです。
世界での日本の立ち位置は、1995年〜2015年の失われた20年でGDPが中国に抜かれて世界3位になったように後退しています。最新の統計では、ドイツに抜かれて4位になっています。日本のデジタル競争力は、低下の一途です。1992年までは4年連続1位でしたが、2023年には34位となっています。
DXを進めるには経営層の意識改革が必要です。ボトムアップが最初と考えます。30才代までの人たちがデジタルリテラシーを向上させ、対応する必要があります。
技術革新(イノベーション)の目標達成の対応法としては、PDCAなどの方法がありますが、目標は変えずに2者択一で進んでいくデバッグ(debug)が有効です。
<小島 優氏>
建設投資は、1992(平成4)年度が84兆円でピークを示し、2009(平成21)年度は43兆円となっています。建設業就業者数は、1997(平成9)年度の685万人がピークで、2022(令和4)年度は479万人となっています。
建設業の課題は、人手不足、災害対応、インフラストラクチャの補修です。一品生産でICT化が難しいことも問題です。
2016年、未来投資会議でi-Constructionが唱えられ。現場の生産性向上、利用サービスの向上、多分野との共同が掲げられました。
インフラDXでは自動化、人流・物流の改善、くらし街づくり、海洋開発、建設現場の改善、サイバー空間の利用などが掲げられました。
2023年に出された「DXアクションプラン2」では、分野網羅的・組織横断的対応、インフラの造り方の変革、生産性・安全性の向上、インフラの使い方の変革、各種申請のオンライン化、データの生かし方の変革、プラットフォームの構築が提唱されています。
近畿インフラDX推進センターでは、体験、育成、広報といった活動を行っています。
<尾高潤一郎氏>
地質調査でDXが必要になる理由は、1)人手不足、2)災害の頻発とインフラ施設の老朽化、3)地質・地盤リスクの頻発が挙げられます。このうち、地質・地盤リスクが注目されるきっかけとなったのは、2016年11月に発生した博多駅前陥没事故です。2014年〜2019年の6年間で国交省の事業費の増加額は5兆円で、そのうちの2兆円(4割)が地質・地盤リスクに関するものでした。
全国地質調査業協会連合会が発行している雑誌「地質と調査」の2022年11月号(160号)は、DX小特集を組んでいます。地質調査分野でのDXの取り組みは、各種センサの開発・データのデジタル化・クラウドの活用、地盤データのデジタル化、LPデータ・衛星データの活用、地盤の3次元解析手法の開発、探査+AI+画像解析の活用などです。
探査+AI+画像解析では、深層学習で地形判読の精度を上げ、岩の評価・土砂の粒径計測、地中レーダなどの物理探査の解釈や地下水解析を行っています。
さらに、ホログラムによる3D解析・シミュレーション、コアの三次元表示などを行っています。
落石危険区域を特定する方法としてドライブレコーダの画像解析を行っています。時速10kmほどで走行しながら画像を得て位置を特定し4段階の判定を行います。これを繰り返すことにより時系列で危険箇所を判定します。
今後の課題としては、手順が決まっているルーチンワークをロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)で自動化、データ取得と同時に解析を行うリアルタイム化、3次元でのデータの可視化などがあります。
<中上宗之氏>
国交省は2016年からi-Constructionを本格化させました。2019年には新型コロナウイルス感染症対策として、人が接触しないで事業を進めることが重要になりました。BIM/SIMの普及が急がれています。
2000年頃までに2次元CADが普及し、2016年頃には3次元CADが導入され、i-ConstructionとBIM/SIMによって建設DXが進められています。 建設分野ではデータの3次元化、情報収集の多様化、設計時間の短縮による品質の向上などが取り組まれています。
BIM/SIMモデルではドローンなどによる広域地形の把握と点群データによる狭域地形の把握を組み合わせ、BIM/SIMモデルを作成します。これにより細部の3次元化が可能となりミスが減ります。建設時だけでなく維持管理モデルに活用することができます。深層学習したAIにより誤登録が指摘されるようになります。
今後は、測量・地質調査・設計・施工の相互チェックが行えるようになります。AIで人為ミスをチェックできるようになります。
<元村亜紀氏>
建設就労者の数が減り、高齢化しています。この課題を克服するためにDXが必要です。まず、データをデジタル化(デジタイゼーション)し、プロセスを自動化します。複数のアプリケーションやICT建設機械の間でのデータ連携を行い、データ主導の建設現場を実現(デジタライゼーション)します。そして、建設業のビジネスモデルの抜本的変革(建設DX)を実現します。
アプリケーションによるプロセスの自動化の例としては、ミキサー車からコンクリートがシューターを流れ下る画像を解析してスランプ値を推定する方法があります。精度は±2.5cmです。
3Dプリンターで複雑なコンクリート型枠を造り、スリムクリートを混ぜることによってプレキャストブロックをつくります。3Dプリンターでつくった建物で建築確認を取ることに成功しました。また、突堤先端の複雑な構造物を3Dプリンターでつくったプレキャストブロックで構築しました。
遠隔装填・結線システムでトンネル切羽での装薬を遠隔操作できるようになりました。モニターを見ながら装薬ロボットを操作します。
デジタルツインアプリを使って説明資料をつくったり、施工の事前検討を行ったり、地下埋設物の位置を推定したり、作業員の位置を把握したりできます。
ロボティクス・コンストラクションにより自律化した重機を集中管理することで大規模土工の無人化施工が行えます。
DXを実用化するまでの溝としては、開発に時間・費用・人手がかかること、従来のやり方から移行する期間は二重基準となること、新しい技能を習得する必要があること、管理基準を変更する必要があることなどが挙げられます。
そして、データ活用のためのルール作り、好事例を紹介(オープン化)することなどが重要です。
<坂上敏彦氏>
2021年はDX元年と言われていましたが、2022年はデジタル敗戦とされています。2023年にDX白書が出ました。そこで指摘されているのは、ビジネスモデルの変革ができていないので、デジタル・トランスフォーメーションになっていないことです。経営層がDXの必要性を感じている割合は、アメリカは61%に対して日本は28%です。先んじて失敗から学ぶことが必要です。
インフラストラクチャ+経済状況+政府の効率性+経営の効率性が求められ、機敏性、起業家精神、国際経験、開放的か、などが問われています。
ネットワーク型コラボレーションを進めるほか、デジタルプラットフォームの構築、BIM/SIMやデジタルツインなどを推進する必要があります。人材としては、デジタルエンジニア+データサイエンティストが必要で、共通のプラットフォームで機能と分野を横断した体制をつくることです。
リモート会議の推進、ルーチン作業の簡素化、経営指標の見える化なども必要です。
<感 想>
世界的に見ると日本の建設業のデジタル化は遅れているとされていますが、ここで紹介されている事例は非常に興味深いものです。AIを活用することによって暗黙知を形式知として継承できる形に整理することが可能だと感じます。
また、画像取得技術、処理技術の進歩は、今まで見えなかったものを見えるようにしています。ただ、やはり人間の身体的な感覚で得たものの重要性はしばらく残るのではないかと思います。
最後に、全国地質調査業協会連合会の雑誌「地質と調査」(2022年第2号、通巻160号)での大西有三氏の次の文章が印象的です。
< DX の元々の概念は,2004 年にスウェーデンのウメオ大学エリック・ストルターマン教授によって提唱された「デジタル技術の浸透によって,人々の生活のあらゆる面で起こる良い変化や影響」を指している。>