令和5年度 日本応用地質学会北海道支部・北海道応用地質研究会 研究発表会2023/11/14 13:27

 20231110日(金)1340から1700まで、表記研究発表会が開かれました。物理探査学会の共催です。寒地土木研究所の会場とオンラインでした。私は、オンラインで視聴しました。

 一般発表が4件、現場報告発表が5件でした。興味深かった発表の概要を記します。

 

池田光良氏(中央開発株式会社):支笏湖からの地下水の漏水について

 支笏湖からの地下水の漏水を最初に議論したのは、山口ほか(1963)です。千歳川の支流、ナイベツ川(地理院地図では内別川)は多くの湧水があり、千歳市の水源となっています。しかし、この湧水の年代は20年程度です。湧水の起源が支笏湖だとすると60年はかかる計算になります。ですから、ナイベツ川の湧水群は支笏湖からの漏水とは考えられません。

 広域的に支笏湖に由来する地下水について検討しました。支笏湖から美々川までの水理地質断面図を作成しました。

 ボーリングの温度検層結果からママチ川の支流・イケジリママチ川上流、勇払川支流の植苗川上流付近にある90m台地の支笏湖側で上昇流が認められます。この90m台地は地下水の分水界となっていると考えられます。

 水素と酸素の安定同位体比から、支笏湖からの地下水が混合している河川は、北の千歳川、ママチ川から南の苫小牧川までの範囲であることが分かりました。千歳川に北から流れ込んでいるナイベツ川や紋別川では支笏湖からの地下水が混合している割合は0%です。

 山口が予想したイケジリママチ川上流付近を通る旧河道が、古石狩川なのか古夕張川なのかについては解決していません。

 

宇佐見星弥氏・石丸 聡氏・川上源太郎氏(エネルギー・環境・地質研究所):国土地理院が公開した時系SAR干渉画像による北海道の活動的地すべり分布の可視化とその分布特性

 時系列SARでは雑音を除去できる、波長24㎝を使うと植生の影響を除去できるという利点があります。ただし、水蒸気による遅延は生じます。

 北海道地すべり地形分布図をもとに、時系列SARを使って活動的地すべりを抽出したところ345箇所になりました。活動的地すべりが多いのは、新第三紀の堆積岩類・火山岩類、空知―蝦夷帯の分布域です。空知層群は分布域の標高が高いので位置エネルギーが高く移動しやすいと考えられます。

 暑寒別岳周辺は、活動的地すべりがほとんどありません。この原因としては、中新世から鮮新世の火山岩類に覆われている下位の地層の性質が影響しているのかもしれません。SARのコヒーレンス(波動の位相の安定性)が低下する場合には、地すべりの活動性は検出できません。地すべりの動きが大きすぎるとコヒーレンスが悪くなります。

 

深田愛里氏(寒地土木研究所)・奈良町千之氏(新潟大学):北アルプス北部,白馬連山における周氷河砂礫斜面での礫の移動

 南北に延びる白馬連山は非対称山稜です。西側斜面は凍結融解作用により土砂が生産されるのに対し、東側斜面は雪崩などによる削剥作用が強いためです。

 凍結融解作用には、年周期のソリフラクション、日周期のソリフラクション、ジェリフラクションがあります。ジェリフラクションというのは融雪水により土砂が移動するものです。

 礫の移動の観測には、ペンキライン法が用いられてきました。この方法で水平方向の2050㎝の礫の移動、3050㎝の深さ方向の移動が分かっています。

 今回の調査では、積雪の少ない南の杓子岳、白馬岳、北の三国境の3箇所で観測を行いました。いずれの地点も平均傾斜30度程度です。観測項目は、地温と土壌水分で、タイムラプスカメラで礫の動きを見ました。礫が上下に変動する様子が捉えられました。特に秋に変動が顕著で、積雪により変動は抑制されます。

 

安元和己氏(株式会社ドーコン):高品質ボーリングコアの品質を考慮した取り扱いについての報告

 高品質ボーリングの技術が進歩し、固結の弱い砂礫やシルトが原位置の状態で採取されるようになりました。全地連の「ボーリング柱状図作成及びボーリングコア取扱い・保管要領(案)同解説」(2015)で、ボーリングのコアの取り扱いは詳しく述べられています。

 ここで述べるのは、ボーリングコアの洗浄方法、特にボーリングコアの周りにへばりついているマッドケーキの洗浄方法です。

 コアをビニールに包まれたままの状態でコア箱から取り出して、半割の塩ビパイプに移します。この半割塩ビパイプに乗せた状態でコアからビニールを取り除き洗浄します。マッドケーキの除去は霧吹きや刷毛で行い、マッドケーキが厚い場合は歯ブラシが有効です。切断された端面も洗ってコアの表面と比較することで、洗浄がうまくいったか確認できます。

 

富岡 敬氏(株式会社ジオテック):地理院地図陰影起伏図で見つけた興味深い地形

 地理院地図には陰影起伏図が表示できます。これを見ていて興味深い地形に気づきました。

一つは、十勝連峰南端の下ホロカメットク山の南の十勝川最上流の河川群の地形です。風紋のような地形が見えます。

 もう一つは、豊平川支流・簾舞川上流の尾根に見られる山向き小崖で、山体重力変形地形と判断できます。

 

<感 想>

 紹介した発表は、いずれも大変興味深い内容でした。

 特に時系列SAR干渉画像によって、植生の影響を除いた地すべりの活動度が分かるというのは重要と思います。

 3,000m近い山稜での土砂移動の観測は、かなりの労力が必要と思います。礫の上下動が画像で記録されましたが、斜面方向への礫移動の画像が得られれば面白いと思いました。スピッツベルゲン島での礫移動の超々スロー動画を見たことがありますが、礫層が斜面をローブをつくって移動していました。

 国土地理院の陰影起伏図は、確かにこれまで見えなかった地形が見えます。広域的な地形・地質を見るのに活用出来ると思います。