本の紹介:気候変動と「日本人」20万年史2022/12/15 16:07

 

日本人20万年史

 川幡穂高(かわはた・ほだか)、気候変動と「日本人」20万年史。岩波書店、20224月。

 

 20万年史というタイトルに「おや?」と思う人がいると思います。日本人を含む現生人類(ヒト)、ホモ・サピエンスは約20万年前にアフリカで誕生しました。そして37千年前頃に日本列島に最初のヒトがやってきました。ヒトが日本列島にやってきた過程やその後の日本での社会発展の過程に気候変動や環境変動がどのような影響を与えたかについて明らかにするために、地質学的証拠から日本列島の「温度」の復元を行ってきました。

 その結果、約2万年前から紀元2000年まで10回の寒冷期があったことが分かりました。それぞれの寒冷期には歴史的な事変が生じています。

 例えば、三内丸山の縄文集落は、約5900年前に成立し約4200年前に放棄されました。5900年前頃から陸奥湾の水温が2度ほど高くなり、4200年前以降急激に水温が低下したことが明らかになりました。気温の低下とともに、クリなどの生産量が落ちたため、大きな集団での生活を放棄して分散したと考えられます。この寒冷期は2万年前以降、4回目の寒冷期に相当します。

 10回目の寒冷期は、江戸小氷期と言われる世界的な寒冷気候の時代です。

 これらの寒冷期はアジアモンスーンが夏に弱まることによって起こるほか、大規模な火山噴火、エルニーニョ現象など幾つかの原因があります。

 

<感 想>

 藻類や植物性プランクトンに含まれるアルケノンという生合成化合物の不飽和度を用いて過去の表層海水温を精度良く定量的に復元することができます。この海水温の復元による気候変動、特に寒冷化が歴史を動かした大きな要因になっているというのがこの本の主張です。

 アルケノン水温計については、川幡、海洋地球環境学2008、東京大学出版会)の81ページから85ページに述べられているほか、様々な論文が出されています。

 

 川幡氏は日本地球惑星科学連合の会長を務めました。この時、メールニュースの巻頭言は非常に読み応えのある内容でした。

 この本も、海水温の変化にともなって人間社会に変動が起きたことが時代を追って述べられていて、読み物としても非常に面白い内容です。

 



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