東京大学大気海洋研究所共同利用研究集会「フィリピン海プレート北端部テクトニクスの再検討」2022/12/06 11:12

 表記集会が20221128日(月)と29日(火)に開かれました。会場とZoomの両方で聞くことができました。私はZoomでの視聴でした。

 

 西南日本に沈み込んでいるフィリピン海プレートは約5,200万年前(前期始新世)に誕生し、時計回りに回転しながら約1,500万年前(中期中新世)に現在の姿になったとされてきました。しかし、フィリピン海プレートが日本列島に衝突し始めたのはもっと遅いというモデルが提唱されているほか、嶺岡−平家プレートとよばれる第三のプレートが存在したとする仮説もあります。

 この10年ほどの間に様々なデータが蓄積されてきていますが、共通認識が形成されていないのが現状です。このシンポジウムでは色々な分野の研究成果を持ち寄って議論することを目的として開催されました(このシンポジウムの「開催趣旨」を要約)。

 

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フィリピン海プレート

1 フィリピン海プレート(沖野郷子、2015

 フィリピン海プレートの東の縁は、伊豆小笠原マリアナ海溝などが連なっていて太平洋プレートが沈み込んでいます。北から西の縁は、南海トラフ、南西諸島海溝、フィリピン海溝などがあってフィリピン海プレートがユーラシアプレートに沈み込んでいます。KPRは九州・パラオ海嶺で、これを境に東側は比較的的新しい海洋底、西側は古い海洋底です。CBFRは古い海底拡大軸です。枠線は磁気異常の観測を行った範囲です。

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プログラムは以下のとおりです。全部で14の講演がありました。

 

1128日(月)

13:00 趣旨説明

古地磁気・地球物理

13:10-13:30 海底コアの古地磁気からみたフィリピン海プレートの運動(山崎俊嗣)

13:30-13:50 伊豆衝突帯周辺の本州地殻の変形:陸上地質と古地磁気の証拠(星 博幸)

13:50-14:10 地震波探査から見た伊豆衝突帯の地殻構造とテクトニクス(新井隆太)

 

基盤地質

14:30-14:50 瀬戸川帯から伊豆衝突帯形成にかけて沈み込む海洋プレート変遷の復元にむけて(山口飛鳥・箱守 貴・谷 健一郎)

14:50-15:10 巨摩山地桃の木亜層群の地質から制約する伊豆弧衝突開始年代(箱守 貴・谷 健一郎・黒田潤一郎・山口飛鳥)

15:10-15:30 伊豆弧衝突で赤石山地基盤岩はめくれ上がったのか?砕屑性ジルコン年代と炭質物温度計からの考察(中村佳博・宮崎一博・高橋浩)

 

嶺岡帯

15:50-16:10 葉山−嶺岡帯の地質構造と構成要素の起源に関する考察(高橋直樹)

16:10-16:30 嶺岡帯玄武岩の年代測定と古地磁気観測によるテクトニクスの復元(平野直人)

 

16:50-17:30 総合討論

 

1129日(火)

活構造

9:30-9:50 相模湾プレート境界域の堆積・変形・冷湧水(芦 寿一郎・三澤文慶)

9:50-10:10 内陸活断層の運動像からみた応力場変遷と伊豆弧衝突(小林健太)

 

火成岩

10:30-10:50 西南日本海溝寄り地域の中新世火成岩の活動時期と西南日本回転直後のプレート配置の検討(新正裕尚・折橋裕二・安間了)

10:50-11:10 衝突火成活動から制約される伊豆衝突帯の形成過程とテクトニクス(谷 健一郎)

11:10-11:30 甲府花崗岩中ジルコンのU-Pb年代(澤木佑介・浅沼尚・平田岳史)

 

13:00-13:20 新生代西南日本テクトニクス議論へのコメント(木村学・橋本善孝・山口飛鳥)

 

13:20-14:00 総合討論

 

以下、簡単に発表内容を述べます。

 

<山崎俊嗣氏>

 無人探査機用の定方位コアリング装置でフィリピン海プレートの日向海山でコアを採取し古地磁気の検討を行いました。その結果、フィリピン海プレートは、偏角から30Ma以降に時計回りに約50度回転したこと、俯角から約500km北上したことが分かりました。

 

<星 博幸氏>

 伊豆衝突帯−ほぼ南部フォッサマグマに相当−に分布する中新世以降の広範囲な変形構造が西南日本のテクトニクスを明らかにするポイントと考えます。

 一つは、1,500万年頃に形成された関東山地の庭谷(にわや)不整合です。この不整合は中期中新世の庭谷層の基底にあり、下位の地層(原田篠層:はらたじの・そう)を傾斜不整合で覆うテクトニックな変形に起因する不整合と考えられています。この変形をもたらしたのがフィリピン海プレートの日本列島への衝突の可能性があります。

 もう一つは、高遠、富草、設楽(したら)などの火成岩類の年代をU-Pb法によって精密に決定して関東対曲(たいきょく)構造−中央構造線の屈曲−の西側がいつ形成されたのかを明らかにする必要があります。

 

<新井隆太氏>

 伊豆衝突帯の地殻構造を明らかにする目的で屈折法地震探査を行いました。小田原から甲府に到る測線で見ると南から次のようになります。

 伊豆半島の南半分で構成される伊豆地塊は、北に傾斜した神縄−国府津松田断層によって区切られています。その北の丹沢地塊は、北傾斜の藤野木(とうのき)−愛川構造線で区切られています。さらに北の御坂地塊と本州弧の境界は、南傾斜の曽根丘陵断層帯によって区切られます。

 

<宮崎一希氏>

 P波走時トモグラフィーと2次元の沈み込みシミュレーションを行い、中部日本深部のフィリピン海プレートの形状を明らかにしました。

 その結果、フィリピン海プレートの下に沈み込む太平洋プレートの上面にコブがあることが分かりました。これは、フィリピン海プレートのちぎれた部分が載っているものと考えられます。

 また、フィリピン海プレートの先端は北陸の下付近まで達していますが、東側は断裂しているためにフィリピン海プレートがありません。それに対して西側はつながっています。

 

<中村佳博氏>

 西南日本の基盤岩類(三波川帯、秩父帯、四万十帯など)の帯状構造は、南に八の字に開いた湾曲構造(関東対曲構造)をしています。この構造の形成過程を明らかにするためには、伊豆小笠原弧の衝突によって本州弧が湾曲する前の西南日本の基盤岩類の構造の解釈が不可欠と考えました。

 対象としたのは長野県大鹿村地域です。ここの地質は、七つの構造ユニットに分けられます。そのうちの釜沢ユニットで炭質物温度計を用いて温度勾配を検討しました。最大350℃の変成温度を示し、地温勾配は深さ1km当たり最大80℃となりました。この変成年代は58Ma示し、中央構造線でカタクレーサイトが形成された年代と一致します。

 

<箱守 貴氏>

 伊豆衝突帯において本州弧に対して最初に衝突したのが巨摩層群で、もっとも古いトラフ充填堆積物です。巨摩層群・桃の木亜層群の14岩石中のジルコンについてU-PB法で年代測定を行いました。最上部層の年代が12Maで、褶曲構造は堆積とほぼ同時に形成されたと考えられます。このことから、伊豆弧の衝突開始年代は12Maと推定されます。

 

<山口飛鳥氏>

 静岡県南部には糸魚川静岡構造線の延長と考えられる十枚山構造線(東側境界)と笹山構造線(西側境界)に挟まれて瀬戸川帯が南北に分布しています。このうち、瀬戸川層群(始新世〜前期中新世)、大井川層群(前期中新世から中期中新世)のジルコンによるU-Pb法年代測定を行いました。

 大井川層群は桃の木亜層群と似た堆積盆で形成されたと考えられ、32-25Maのジルコンが含まれません。瀬戸川層群・砂岩のジルコンのU-Pb法による年代クラスターは3225Maで、伊豆弧的な後背地から供給されたように見えます。

 

<高橋直樹氏>

 相模湾を挟んで東側の房総半島と三浦半島に分布する葉山−嶺岡帯の話です。

 葉山−嶺岡帯の上総層群および三浦層群の砂岩中の粒子の検討を行いました。その結果、島弧型から背弧海盆型に変化していることが分かりました。堆積場はトラフ軸に近いと推定されます。中期中新世の天津(あまつ)層の最下部には、かなり厚いスコリア層があり13Maとされています。

 

<平野直人氏>

 嶺岡帯の玄武岩類はオフィオライト的岩石群で、海洋底型玄武岩、安山岩、島弧型玄武岩など様々な岩石が分布しています。鴨川漁港の西にある玄武岩体は85MaAr-Ar年代を示し、嶺岡浅間(みねおかあさま)の枕状溶岩は50Maを示します。古地磁気の測定を行った結果、海洋底型玄武岩は85Maには北緯16度にあり、45Maには北緯34度まで北上したことが分かりました。

 

<芦 寿一郎氏>

 相模湾の北西側には三浦海丘をはじめとして幾つかの海丘が北西−南東方向に並んでいます。三浦海丘の麓には北東傾斜の断層があるほか、北西−南東方向の高角の横ずれ断層もあります。この断層がM8クラスの地震の発生場となっています。サブボトムプロファイラーという機器を用いて三浦海丘で海底面に達する断層を検出し、ピストンコアラーで試料を採取しました。その結果、17,000年前頃の地層が15mほどずれていることが分かりました。採取した試料からは30枚以上のタービダイトが判定されました。これらのタービダイトは地震によって発生した可能性があります。これまでの研究で1,400年前〜2,200年前の期間はM8クラスの地震が確認されていません。その結果と一致します。

 

<小林健太氏>

 フィリピン海プレートが本州弧に沈み込んでいるので、本州弧の内陸の活断層を調べて応力場の変遷を明らかにすれば、プレートの動きを推定することができます。対象としたのは、能登半島の付け根の邑知潟(ゆうち・がた)断層帯、新潟・長野の活断層、糸魚川−静岡構造線、関東山地北縁の活断層などです。

 中央構造線は、白亜紀以降六つの時階に分けられます。そのうちの砥部時階は16-15Ma、石鎚時階は15-14Maとされています。砥部時階の運動は走向移動で、石鎚時階は正断層です。フィリピン海プレートの斜め沈み込みによって左横ずれ逆断層が形成されたと推定されます。

 

<千葉 響氏>

 糸魚川―静岡活構造帯は、最北端では横川断層と呼ばれています。この断層の東側には15.6Maの山本層が分布しています。山本層の安山岩の年代は、約16.5Maです。横川断層の破砕帯は13種類に分類されます。古応力解析を行った結果、Stage116.5-15.0Ma):左横ずれ正断層でリフトに伴う応力場、Stage215.0-6.0Ma):左横ずれ断層の応力場、Stage342Ma頃):右横ずれ正断層を示す応力が検出されました。このうち、Stage2がフィリピン海プレート沈み込みに伴う応力場で、Stage34は東西圧縮応力場でアムールプレートの東進に伴う応力場であると判断しました。

 

<新正(しんじょう)裕尚氏>

 九州東部から愛知県東部にかけて分布する前期~中期中新世の珪長質火山岩類と瀬戸内火山岩類の年代は、ほぼ14.5Maに収まり、東西、南北で年代差はありません。15.6Maより古いものはなく13.5Maで終わります。これらの火山活動は、九州から紀伊半島にかけての島弧沿いの火成活動で四国海盆の沈み込みによってもたらされたものと考えます。

 

<澤木佑介氏>

 甲府盆地周辺にはトーナル岩、花崗閃緑岩、花崗岩の岩体があります。先行研究では、これらの花崗岩類の年代は、18Ma-4Maの値が得られています。今回これらの花崗岩類についてジルコンのU-Pb年代測定を行いました。

 その結果、1グループ:円井、昇仙峡、瑞牆(みずがき)岩体が約15.5 Ma、2グループ:甲斐駒ヶ岳、笹子、芦川・藤野木岩体が約13.0 Ma、3グループ:茅野、広瀬、三宝、塩平岩体が約10.5 Ma、4グループ:小烏岩体が約4 Ma の火成年代を持つことが明らかになりました。

 1グループの円井岩体は古伊豆小笠原マリアナ弧の断片である櫛形地塊に貫入し、昇仙峡、瑞牆岩体は本州弧に貫入しています。このことは条件付きですが伊豆小笠原マリアナ弧が15.5Maには現在の位置に到達していたと考えられます。

 2グループの芦川・藤野木岩体は、本州弧と古伊豆小笠原マリアナ弧の境界である藤野木愛川構造線に貫入しています。このことは、おそくとも13Maには古伊豆小笠原マリアナ弧が現在の位置に到達していたことを示しています。    

 

<木村 学氏>

 西南日本は、島弧体系の成立、四国海盆の衝突、イザナギ・太平洋海嶺の沈み込み、火山弧の成立など様々な現象が発生しています。瀬戸内海の沈降域と隆起域の雁行配列もフィリピン海プレートの動きに関連しています。

 フィリピン海プレートの沈み込みは、15Maに始まって12Maに一度止まり6Maに再開しています。この時に外帯が隆起し熊野酸性岩の上位に石炭が形成されました。

 沖野(2015)によるフィリピン海プレートの磁気異常のまとめでは、磁気異常の方向変化が明瞭に表れていてフィリピン海プレートの見直しが要請されています。参考になるのは、トンガ海溝の西にあるRau Basinの研究です。

 

<感 想>

 案内メールを受け取ったので視聴しましたが、研究集会なので前提になる知識がないと理解は難しいです。講演の概要を示しましたが、頓珍漢なことを言っているかもしれません。

 

 フィリピン海プレートは不思議なプレートで、東から太平洋プレートが沈み込み、北と西ではフィリピン海プレート自体がユーラシアプレートに沈み込んでいます。1CBFRと記されているのが海底拡大軸の痕跡だとされています(沖野、2015)。とすれば、ここを中心に北北東と南南西にプレートは移動することになります。九州パラオ海嶺の西側の磁気異常はそのような配列をしています。この拡大軸は九州パラオ海嶺の東には延びていませんし、磁気異常の縞模様も全く異なった方向を向いています。伊豆小笠原弧は、ほぼ直線ですがマリアナ弧は半円形となっていて、沈み込む角度が違っているように見えます。

 気になるのは、中部地方から関東地方にかけての構造運動を全てフィリピン海プレートの衝突で説明しようという傾向です。当然、衝突してから応力が地殻を伝わって、それぞれの地域で変動が始まるまで時間的な差が生じるはずです。この辺のことが、どの程度検討されているのか分かりません。露頭単位の変形構造が地球規模のプレートの運動によるという大前提があるように思います。

 プレート運動論も精緻になれなるほど分からないことが出てくるのでしょう。

 

 なお蛇足ですが、オンラインでの視聴ではマイクから直接伝わってくる音声は、はっきりと聞こえるのですが、会場のマイクで拾ったと思われる音声は、ほとんど聞き取れませんでした。オンライン参加者の質問は、はっきりと聞き取れますが。それで、討論では質問者が何を言っているのか分からず聞くのをあきらめました。これは、オンラインの致命的な欠陥のようで、ほかの講演会でも同様のことが起きています。

 

<引用した文献>

沖野郷子、2015,フィリピン海の磁気異常とテクトニクス。地学雑誌、1245)、729-747

 

 

 


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