技術講習会:見えない地下を診る ― 2022/01/30 08:32

物理探査学会、見えない地下を診る−驚異の物理探査。幻冬舎ルネッサンス新書、2022年1月26日。
2022年1月28日(金)午後1時半から、ほぼ17時まで表記講習会がリモートで開かれました。主催は、北海道地質調査業協会、日本応用地質学会 北海道支部、北海道応用地質研究会、物理探査学会で、参加者は48名でした。
講演者とタイトルは下のとおりで、それぞれ約1時間でした。
茂木 透 氏(北海道大学名誉教授):地球の診断
鈴木敬一 氏(川崎地質株式会社):社会に貢献する物理探査
志賀信彦 氏(三井金属資源開発株式会社):地下を診る方法
講演した三人の方は、上に示した本の執筆者です。講演の内容は「見えない地下を診る」を買って読んでもらうことにして、印象に残ったことを列記します。
1) 物理探査には受動的方法と能動的方法があります。建設工事でよく使われる屈折法弾性波探査は、発破などで地面に振動を与えてそれを観測するので能動的方法です。これに対して、磁気探査や重力探査は、自然が発する信号を捉えて開析するので受動的方法になります。
2) 物理探査で得られる物性は、地山を構成する鉱物粒子とその間隙を満たす水や空気の物性を合算したものとなります。鉱物粒子の弾性波速度は、4〜6km/secであるのに対し、間隙流体では1.5km/secほど、空気であれば0.3km/sec程度になります。
3) 電気比抵抗は、1m当たりの抵抗値で、電気の流れにくさを表します。地下水では5〜1,000Ωm、海水は0.3Ωmほどです。粘土が多いと、電流が粘土粒子表面のイオンを伝わって流れるので比抵抗は小さくなります。
4) 富士山は、868年の貞観噴火、1707年の宝永噴火があります。富士山周辺40kmと深さ40kmの比抵抗構造が求められています。熱水の流路やマグマ溜まりなどが推定されています。
5) 淀川堤防のS波速度分布と比抵抗分布を組み合わせて安全性評価が行われています。S波速度が遅く(締まりが悪い)、比抵抗が高い(砂っぽい)ところが危険領域と判定出来ます。歴史的構造物なので、秀吉の時代から次第に嵩上げされてきた様子も診ることができます。
6) 沖縄の歴史は、弥生時代から平安時代にかけての遺跡が少ないです。沖縄の普天間基地が返還された場合、この空白が埋められる可能性があります。その場合、物理探査が有用です。また、不発弾処理や土壌汚染調査にも物理探査を使うことが考えられます。
7) 物理探査は逆問題の答えを得ることです(逆解析)。地下の弾性波速度分布が分かっている場合、弾性波の伝播時間を求めることができます。これが順解析です。しかし、弾性波探査では弾性波の伝播時間から地下の弾性波速度分布を求めることになります。つまり、逆解析を行っているのです。
8) 月の内部で起こっている月震をつかってS波トモグラフィー解析を行っています。それによると、深度250〜400kmの所にトリウム崩壊熱により温度が高いと推定される低速度域があることが分かっています。
物理探査学会のホームページの左上に「図解 物理探査 電子ブック」があります。HTMLなのでブラウザで見ることになりますが、非常に参考になる図書です。上に示した本と一緒に読むと理解が深まると思います。
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